第11話 黒主正平の悪夢
黒主来斗は同級生4人にいじめ殺された。
だが時が戻り、蘇った来斗はその4人を殺害する。
来斗の父母は、その事実をまだ知らない・・
2回目の5月28日の朝、来斗に恐ろしい夢の事を語った後、私は泥のように眠ってしまった。ようやく目を覚ましたのは、昼も過ぎた頃だ。
なぜこんなに眠ってしまったのか、息子を殺された悪夢のせいか、それとも息子が生きていると安堵したせいか。
「しかし、あれは長い夢だった」
夜になっても帰ってこない来斗を心配して、警察に捜索を依頼したこと。
翌日の夕方、警察から連絡が入って職場である病院を早退し、聡子とふたりで来斗の遺体を確認したこと。
すぐに容疑者が特定されたこと。
来斗の友達と思っていたあの子たち。
いじめのことは薄々分かっていた。金をせびられていることにも気付いていた。それなのに息子を守ってやれなかった自分が情けない。それにも増して、自分の子供が誰かをいじめていると気づかない、あの親たちが憎い。
私は担当の刑事に頼み込んで、親たちの事情聴取を見せてもらった。マジックミラー越しに。
来斗に落ち度はない。悪いのは加害者だ。
しかしマスコミってやつは、なんで被害者に好奇の目を向ける?
容疑者の少年たちが特定されてすぐ、あいつらは私ら夫婦の周りに群がって、取材だと言いながら無礼な言葉を投げ付けてきた。
「お子さんがあんなことになって、どうお感じですか?」
「お子さんになにか変わった様子はなかったのですか?」
「お子さんの変化に気づかれないほど、お仕事が忙しかったと言うことですか?」
「親として何か出来ることがあったと、思われませんか?」
「お子さんを殺害した犯人に、なにか言いたいことは!」
私が医者だからか?
世間で言うところの「勝ち組」のようだからか?
マスコミの張り込みや取材と称する訪問は、夜も続いた。
被害者とその家族に人権はない、そう思えるほど無礼で無神経な質問攻め。
無性に腹が立った。犯人たちにも、その親にも、マスコミにも、そして無力な自分にも。
覚えているのはそこまで。そんなことを3日間、丸々経験したような夢。
だからこんなに疲れているのか。
隣のベッドで聡子も眠っている。もう昼過ぎだというのに、私と同じ様に心底疲れているんだ。きっと来斗もまだ、寝ているんだろう。
今日の朝、全身にびっしょり汗をかいて目覚めた。6時頃だった。聡子は少し前に目覚めて朝食の準備を始めていたが、やはり顔色が悪かった。
どうしたのか聞くと、恐ろしくリアルで、恐ろしく長い夢を見たと言う。
私たちはその夢の話をした。長い長い夢の話。息子が殺害され、犯人を知り、マスコミに追われる話。細部までぴったり同じだった。
私たちは来斗の部屋に走った。ベッドに来斗はいた。
来斗は生きていた。
生きている来斗の顔を見て、私たちはこれまで感じたことのない安堵感に包まれた。信じられなかったが、あの夢は現実にあったことだと思えた。
3人でリビングに降りると、あっと声を上げた聡子が慌ててキッチンに走り、煙を上げるフライパンの火を消した。
そしてその夢の話を来斗に教えて・・
そこまでが今日の朝のこと。
もう昼過ぎだ。さぁ、そろそろ起きだして、来斗と3人で何か食べよう、朝も食べ損ねたんだから。
そう思った時だった。けたたましい音が家中に響いた。玄関のチャイムが何度も押され、ドアが激しく叩かれているのだ。
「黒主さん、開けてくださいっ!!」
「警察です!!黒主さんっ!」
何人かがドアを叩きながら叫んでいる。玄関の外からなのに、寝室にまで聞こえる。
-警察?なんで警察が?
私はあわてて聡子を起こし、ベッドから降りた。
「聡子、警察が来た。来斗を起こしてきなさい」
そう言って玄関に向かった。聡子は目をこすりながらうなずいた。玄関では相変わらずチャイムが押され、ドアが叩かれている。
「ちょっと待ってください」
私はそう言ってモニターを確認した。
モニターには3人の警察官が映っている。ひとりは私服、ふたりは制服だ。その私服警官を見て、私は仰天した。
「知ってる。この人は、安藤さんだ」
安藤は夢に出てきた刑事だった。来斗が殺害されたことを伝えてくれた刑事。犯人の親たちの事情聴取も見せてくれた。マスコミ対策もだ。
安藤さん、信頼できる警察官だった。
しかしそれはすべて夢の中のことだ、実際に知ってるはずがない。それが、なぜ今ここにいる?
私はすぐに玄関を開けた。安藤は私の顔を見るなりギョッとしている。
「まさかそんな、やっぱり黒主さんですね!」
そう言う安藤に私も同じ思いだった。
「安藤さん。いや、私たちはこれが初対面のはずですが、あなたは間違いなく安藤さん」
「そうです、安藤です。まさかこれも夢なのか、いやいや!その話は後で、とにかく黒主さんっ!来斗君が!!」
「来斗ですか?」
私はいぶかしげに応える。
「来斗なら部屋で休んでいますが」
そのとき、聡子が青ざめた顔で2階から降りてきた。
「あなた」
悪い予感がした。
「来斗がいないの」
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つづく
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