トラックに轢かれて異世界へ行ったら、謙遜すればするするほどウハウハが止まらない。 ~~ 異世界と言ったらこれだね!!
アスファルトの匂いと、けたたましいクラクションの音。俺、田中悟の三十七年の人生は、信号無視のトラックによって呆気なく幕を閉じた。
次に目覚めたのは、光を纏う女神の目の前だった。「お詫び」として望みをかなえる。
俺の唯一の願いは、「目立たない程度の能力」だった。
そして俺は異世界へ転生した。
(内心:よっしゃ! 俺は正解を選んだはず、これで平和な異世界スローライフが確定だ!可愛い女の子と出会って、こっそり無双するんだ!)
ーー ギルド
初めて街の冒険者ギルドにやってきた俺は、最下級のGランクで登録を済ませた。依頼を終え、ギルドに戻った直後、早速トラブルが起きた。
「おい、新入り。その報酬は俺たちが手こずった分の迷惑料だ」
いかついベテラン、ガルドが俺の胸ぐらを掴んだ。俺は目立たないようにと力を抑えた。
だが、ガルドの腕が俺の胸に触れた瞬間――。
「――グ、グアッ!?」
ガルドは、まるで見えない巨大なハンマーで殴り飛ばされたかのように、派手に吹き飛び、ギルドの壁に「ドゴォッ!」と激突して動かなくなった。壁にはっきりひびが入ったのを見た気がした。
ギルド内は一瞬で静寂に包まれる。周囲の冒険者たちが隣同士耳打ちするようにひそひそと囁き合い始める中、ガルドの仲間たちは大げさに口をあんぐり開けて愕然としていた。
(内心:しまった、派手にやりすぎた! 俺はただの反射と微々たる身体強化を使っただけなのに!頼む、どうかただの「運」だと思ってくれ!)
そんな混乱の中、一人の可愛らしい少女が一切の躊躇なく、俺の前に進み出てきた。治癒師見習いのマリーだ。
「あ、あの!私、マリーって言います!サトルさん、すごーい! あなたみたいに強い人、初めて見た! よければ、私とパーティーを組んでくれませんか?」
マリーは生まれて初めてのベタベタ体験となるほど、その柔らかい体を俺に密着させてきた。
(内心:マ、マリーちゃんがめちゃくちゃ近い! こんな、こんなご褒美が! 俺、何でこんなに可愛い女の子に慣れ慣れしくされるんだ!?ああ、そうか、俺はなんて主人公思いの優しい神様に転生してもらったんだ! イヤホーイ!)
ーー 異世界の食堂
ギルドでの騒動を切り抜け、マリーの誘いに乗った俺たちは、ひとまず最寄りの食堂に入った。まだGランクの報酬しかない俺は、一番安い「トカゲ鳥の炙り焼き」と「硬質パン」を注文した。
マリーが目を輝かせる。「トカゲ鳥の炙り焼きだね!ちょっと硬いけど、初めての異世界ご飯をサトルさんと一緒なんて、すごく嬉しい!」
(内心:トカゲ鳥って名前は厨二心をくすぐるが、味はパサパサの鶏むね肉だなぁ。硬質パンは顎が疲れる。でも、マリーちゃんの笑顔が最高のスパイス!俺は優しくて控えめな男を演じきるぞ!)
そんな時、店内の一角でクールなエルフの弓使い・リーファが静かに一人で食事をしているのを見かけた。そして、その視線の先には、一匹の獣人の少女が目を皿のようにして見つめているものがあった。
それは、店の奥にある貴族のテーブルに運ばれてきた、大人の頭ほどの分厚い肉の塊。湯気が立ち上るその肉は、この街でも最も高価な「グリムボアの特級ロイン」だという。
食いしん坊の獣人の少女、タオは、その肉から目を離せない。腹の虫が「グゥゥ…」と鳴り、恥ずかしそうに顔を赤くする。
貴族:「ふん、この特級ロインは、並の冒険者が数ヶ月かけても食べられぬ代物だ。庶民には一生縁がないだろうな!」
タオの顔がさらに俯くのを見て、俺の「前世の正義感」が疼いた。
俺は財布を叩き、マリーとタオに笑顔を向けた。
「あの肉、そんなに美味そうか?タオ。…よし。いつか必ず、俺があの肉をお前たち全員に腹いっぱい食わせてやるよ!」
タオは一気に顔を上げ、涙ぐんだ。「サトル…さん…!」
マリー:「ずるーい!タオだけじゃなくて、私にも?」
リーファ(遠くから聞こえるように):「フン、大言壮語ね」
「もちろん!みんなにだ!だから、まずはパーティーになってくれるか?」
こうして、俺のクールなエルフの弓使い・リーファ(無言でテーブルに合流)、食いしん坊な獣人の盾役・タオが正式に加わり、4人パーティーは最高の食の約束と共に完成した。
ーー 知識チートと億万長者の誕生
パーティー連携の初仕事として、俺たちは「街の貯水槽の濁り解消」という地味な依頼を受けた。
俺は貯水槽の濁りを見て、「(どうせ濾過の仕組みが詰まってるんだろ。これは魔法より知識チートの出番だな)」と確信した。
現場に着くと、水はひどく澱んでいた。
マリーは顔を曇らせた。「これ...ひどい濁りだよ、サトルさん。治癒魔法じゃ時間がかかりすぎるし、普通の水魔法じゃダメ。これまでは熟練の土魔法使いが数日かけて濾過層を組み直す、本当に大変な依頼なんだよ...」
リーファも珍しく表情が険しい。「この街の技術では、一時的な解決にしかならないわ。Gランクの仕事の範疇を超えている」
俺は「大したことない」と笑い、持っていた布の切れ端と、炭、砂利などを使い、前世で習った濾過の仕組みを急造の装置で再現した。
「ほら、見て。こうすれば、水は上から下へ流れるときに不純物だけが取り除かれるんだ。これは魔法じゃなくて科学だよ、科学!」
タオは首を傾げた。「カガク? それって、美味しいの?」
マリーは目を丸くした。「魔法じゃないのに、水がこんなに透き通るなんて...しんじられなーい! サトルさん、科学ってなあに?」
俺はドヤ顔を隠しつつ、極めて簡単な言葉で仕組みを教える。
「えーっと、科学っていうのはね、この世界にある『法則』を、誰でも再現できるようにする知識のことだよ。ほら、簡単だろ?」
「さすがー! サトルは法則を知っているんだね!」マリーは瞳を輝かせた。
リーファは深く息を吐き、静かに言った。「...その知識、まさしくこの世界には存在しない叡智だわ。あなた、本当にGランクなの?」
(内心:キタァアアア!法則を知る男!この 謙遜と無知のコントラスト が最高の接待なんだよなぁ!ありがとう、可愛いヒロインたち!)
その時、貯水槽の修理を依頼した村の長老が、その様子を偶然見ていた。長老は震える声で俺に膝をついた。
長老:「おお、まさか。この濁りを一瞬で清めた上、その仕組みを子供に説くとは……あなたは、伝説に聞く賢者様じゃなかろうか!?」
「いやいやいや!ただのGランク冒険者だって!誰でも思いつくレベルだって!」俺は過剰に謙遜して、村人を置いて逃げるようにその場を離れた。
この功績で村人から「古の賢者」だと大げさに感謝された直後、俺たちは大商人ロベルトに遭遇。俺が着ていたジャージを「東方の魔法の布」として破格の値段で売却し、その場でなろう特有の黒いコートと装備一式を買い揃え、一瞬で億万長者となった。
ーー 旅支度
大商人ロベルトから受け取った金貨の山を前にして、俺たちは本格的な旅支度に取り掛かった。俺のチートで稼いだ金だ。苦労せず得た金は湯水のように使っていい。
「さあ、みんな!遠慮はなしだ。欲しいものを全部買うぞ!」
俺の号令に、三人のヒロインは目を輝かせた。
マリーは街一番の仕立て屋で、最高級の素材で作られた可愛らしい魔法使いのローブを手に入れた。「わあ、こんなの夢みたい!サトルさん、ありがとー!」と、何度も俺に抱きつき、顔を擦り寄せてくる。
(内心:くうう、マリーちゃんの感謝の抱擁!これこそが金貨三百枚分の価値があるんだよ!)
リーファは最初は「フン、どうでもいいわ」とツンツンしていたが、高性能な魔力増幅石が埋め込まれた特注の弓と、エルフ向けの高級装備を与えると、流石に目を潤ませた。「……感謝する。これで、あなたの隣で戦える」と、ポーカーフェイスを崩し、そっと俺の手に触れてきた。
タオは新しい全身鎧と、その分厚さに似合わぬ軽量な特注の盾、そして何より街中の美味しい肉料理のデリバリーを要求した。「わーい!サトルは最高の旦那様! この盾、みんなを守るからね!」
俺は金貨の束を気前よく支払いながら、ヒロインたちの喜ぶ姿を見る。
(内心: うへへ、これでいいんだ。苦労知らずの金は、可愛い女の子の笑顔のために使う! 貴族との泥仕合なんてやってる暇はない! 俺は今、世界から最高のキャバクラ接待を受けているんだ! )
最高の装備と満面の笑顔を手に入れた俺たちは、旅立ちを目前にしたギルドの扉の前へ向かう。
そこで最後の邪魔が入る。以前俺に不意打ちでやられたベテランのガルドが、仲間を連れて最後の挑発を仕掛けてきた。
主人公:「もう関わりたくないんですが……仕方ないですね」
俺が動いたのは一瞬。風が通り過ぎたように見えた直後、ガルドたちは呻き声すら上げられず、その場に意識を失って崩れ落ちた。誰も何が起きたか理解できないはずだ。
(内心:うおおお、大勝利だ!最高の気分!マリーちゃんの抱擁、リーファのデレ、タオの愛の告白……これぞ最高のキャバクラ接待だ!)
「すごーい」と声を上げるマリーに、リーファとタオも加わって、三人のヒロインが主人公の腕にしがみつくように絡んでくる。
「サトルさん、すごーい! 何が起きたの? また運が良かっただけなんて言わせないよ!」
「フン、この変態...また私たちを驚かせたわね」
「わーい、サトルすごい!大好きー!」
三人の柔らかい体と甘い香りに包まれ、俺の意識は完全に有頂天になる。
(内心:ここが天国か? いや、違う。こここそが俺の現実だ! 理性よ、今こそ働く時だ!これ以上浮かれてはならない!毅然とした態度を取るべきだ!...いや、でもこのままでいいか! 世界のキャバクラ攻撃が俺を襲う!!)
俺がデレデレし始めたその時、背後から声が聞こえた。
「――ふう。もう十分だろう?」
浮かれながら「へ?」と目をやった俺の視界に映ったのは、倒したはずのガルドたちが、何事もなかったかのように体を向け立っている姿だった。
「え...?何で...立っているんだ?やっつけた...はずだろ?」
俺の混乱は一瞬でパニックに変わる。すぐに神様から授かったチート能力を解放する。しかし出たのは水がちょろちょろとだけ。
「ちょ、ちょっと離れてくれ!やばいんだ!」
「どうしたのサトルさん?また冗談?」
「離れないわよ、またどこかで不意打ちでもする気でしょう」
「肉肉!」
ベテランたちがゆっくりと、しかし着実に近づいてくる。俺は必死に訴える。
「頼む、本当に離れてくれ! このままじゃ...やられる!」
俺の懇願もむなしく、ガルドの一撃が俺の急所を正確に捉えた。
全身を焼くような激痛と、急速に遠のいていく意識。
朦朧とする意識の中で、甘く、そして冷たい会話が聞こえてくる。
ガルド:「ふう、やったか。これで大丈夫だ」
ベテラン:「やたらちょろい奴だったな。お前たちもご苦労さん。しかしなんだぁ、あのハエの止まる鈍い動きは」
マリー:「もー、おそいわよー。私たちがどんだけ我慢していたと思ってるのよ」
リーファ:「フン。二度も床に吹っ飛ぶのは正直辛かったわ」
ガルド:「すまんすまん。こいつの力を図るのに手間取ってな。ギルドでの一撃があまりにも弱かったから、本当にすごい力を隠しているんじゃないかって慎重になっちまったんだよ。あんまり弱くて自分から吹っ飛ばなくちゃならんくてよ、吹っ飛びすぎて腰痛めちまったぜ、がはは!」
タオ:「んーもー、でもいいわ!これで肉が食べられる!」
奥から、長老の声が響く。
長老:「やったか。ご苦労じゃった。定期的に沸く転生者をのさばらせておくと厄介じゃからな。水路も薄ら知識の真似事しおって、後始末が大変じゃったわい」
ガルド:「ああ、じゃあ報酬をもらうぜ。最後にきたのは10年前くらいか? しかし何でこいつらはこの世界にくるんだ? 間抜けの振りもつかれるぜ」
長老:「さあな、神の気まぐれなっじゃろう。いつも苦労掛ける。しかし実に面倒じゃ、こやつの買った品も店に戻さんとな、あんな金の使い方するとは呆れるわい」
キン、キンと、金貨の当たる音。
リーファ:「私たちは、こいつの肉ね」
長老:「それはむつかしいのう。転生者の肉は貴重なグリムボアの特級ロイン、貴族様くらいにしか卸せぬのじゃが...」
マリー:「私たちはこいつと契約していたんだから、いただく権利があるよ」
タオ:「そうだそうだ!肉!肉!」
長老:「うむー。なるほど、契約していたんなら仕方がないの」
タオ:「やったー!にーく!にーく!」
俺の意識は、甘い裏切りの声と共に、完全に消えてゆく。




