身の上話
補足 シエルがいる部屋は半地下なので、壁の上部に窓があります。
貴族家の乗っ取りなど、良くある話だ。
「まだ若い後妻は僕との再婚を望んだのだけど、僕は父の死に疑問を持ってね、断ってしまう。そうしたら今度は家令が倒れた」
シエルは継いだばかりの家で一人仕事に忙殺される。その間に重な家来は次々と入れ替わっていき、気がついた時には後妻が屋敷を支配していたのだ。
「それでもまだ自室にいられた時はマシだったけど、軟禁状態に気がついて逃げ出そうとした。でもそこを捕まってね、この結果さ」
「ひどいな」
メイドがつぶやく。
「ちなみにそこの窓から助けは呼んだからね。誰にも気がつかない内にふさがれただけで」
真っ暗なのって嫌なんだよね~と、シエルはわざと明るく茶化す。
「まああきらめて叫ばなくなったら明るくなったし、今は書類仕事を任されているから食事は運ばれているけれど。最近はちょっと扱いが悪いかな」
臭いがひどいだろう、すまないねとシエルは頭を下げる。
(今夜は口がすべる。僕は会話に飢えていたのか)シエルは自分がめずらしく饒舌なことに驚いた。
あの女が口説いてくる以外は誰もリアンと話そうとしないからか。
「ここ一月はろくに体をふいてもいない。さすがに諦められたらしいね」
「奥様には最近、恋人ができたとうわさが」
「ああ、だからか」
自分はお払い箱になったらしいとシエルは自虐する。
「僕はここまでのようだ。今夜の夕食は運ばれてくるかな? もし来たら君はその時出ればいい」
「私が外に状況を伝えれば」
メイドが手をにぎってくるのを振り払う。
「無駄だよ。契約の時に魔法でこの家のことは外部にもらせないよう縛られている。使用人が話せないよう解雇された後にも有効な呪いがね」
「あなたはそれで良いのですか、座して死を待つのが」
メイドの視線がシエルの瞳をつらぬいた。
シエルは目をつむる。
(そんな訳ないだろう、悔しい悔しい死にたくない。生きて奴に復習したい。領民を奴の食いものにさせはしない。何があったって生きのびたい!)
顔をゆがませるシエルにメイドはたたみかけた。
「もし私にあなたを助ける力があったら。仮にですが、どうします?」
「僕を‥タスケロ」
かすれ声のシエルにメイドはほがらかに笑った。
「分かった。私があなたを助けます」
メイドと言うより、白馬の騎士の言葉だった。
「僕はシエル、君は?」
「私はステラ」
シエルの心臓はギュっと痛む。
「じゃあステラ、僕のことは忘れて」
目を丸くするステラをシエルは突き飛ばす。
「何をしているの!」
部屋中に金切声が響いた。
トイレ問題
あえて本文には書きませんでしたが、トイレは本館にはありますが
地下にはありません。
シエルは中世と同じ状態と書けば事情を分かっていただけるかと‥
とりあえず朝晩二回は世話をされています。