類は友を呼ぶ
『すみません、激辛ゲバブサンドくださいー。』
『僕は甘口で…。』
サーティ達がヒグルマを追いかけたその後で2人の少年がゲバブサンドの店を訪ねてきた。
1人は炎のように赤くツンツンとした髪に松明のような瞳をしており強気そうな少年で、もう1人は水のような青い髪に雫のような瞳をしておりギザギザとした歯を持った気弱そうな少年だった。
「ごめんね…もう今日は店じまいなんだ…。」
『え…何でだよ!』
「変な奴が炎を奪ったからもうゲバブサンドを作れないんだ…。」
ところがこの店の炎は既にヒグルマが奪ってしまい、もはやゲバブサンドどころか他の料理すら作れない有様で泣く泣く店じまいするしかなかったのだ。
『そいつは何処にいる!とっちめてやる!』
『僕が魚を獲ってくるから止めようよ…。』
強気な少年はヒグルマを倒そうとしており、それに対して弱気な少年は妥協案を提案する。
『俺は激辛ゲバブサンドを食べるのを楽しみにしてたんだ!それなのにそんなことをした奴をぶっ飛ばさなきゃ気が済まない!』
『あっ!待って!?』
しかし食べ物の恨みは果たしてみせると強気な少年は駆け出し、弱気な少年も慌てて後を追いかける。
「はあ…ん!?」
走り去る少年達をふと見た瞬間に、少年達は背中からコウモリのような翼を生やして飛んでいくのが見えた。
『スゴい炎と熱エネルギーだ!これだけあればもっと燃えられるぜ!メインディッシュにはピッタリだ!』
アーティガルのヒグルマがいるのはハルパニア王国火炎エネルギープラント。ここでは火属性のエネルギーや魔術など、炎に由来する物質を用いてエネルギーを精製したり、その研究を行う施設である。
炎による熱エネルギーを国に巡らせたり、料理などに使う炎を特殊な鉱石に込めて送ったりするなどこの国のあらゆる炎を管理している場所でもあるため、プラントの外からでも伝わる炎のエネルギーにヒグルマは興奮していた。
「ブルルル!」
「急いでくれ!」
ホレスの掛け声で流線型のカーブルルが速度を上げて道路を走っていく。ヒグルマがプラントに向かったと知り、ホレスは王国所有のスピードタイプのカーブルルを寄越したのだ。
「間に合うのかな…。」
「間に合わせてみせる!さもなくば王国のライフラインが止まる!つまりはヒグルマを逃がしたであろう、大元の原因である私達に責任追求されるのは確かだ!」
不安そうにするサーティに更に不穏なことを言ってのけるホレス。正直言って全然フォローになっていなかった。
「匂いが近くなってきたぞ!」
「ん!?おい、何だよあれ!?」
『ウオオオ!美味い!美味いぞおおぉぉぉ!』
目指していたプラントが見え、ジャオもヒグルマの匂いを捉えるが、そのヒグルマには大きな異変…と言うよりも見たままにサイズが3倍と大きく変わっていたのだ。
「何であんなに大きくなってるの!?」
「もしかすると火を吸収すると大きくなるのかも。」
「呑気なことを言ってる場合か!今すぐに何とかしなければもっと厄介なことになるぞ!」
このまま火を吸収して大きくなり続ければ手に負えないし、プラントも停止する危険性もあるため一刻も早く対処する必要があった。
「チェインタクト、アイラ!もう一度あの炎を固めてよじ登って!」
『うん!チェインタクト、キーロック!』
『アイヨ〜!』
炎を固めて登ったようにアイラはキーロックとチェインタクトをして南京錠の手甲と鍵のような刃を装備する。
『ムーブロック【動作封印】!』
『おい!食事中だぞ!』
吸収している炎を止めるとヒグルマは怒り出して火の玉を飛ばしてくる。
『ロックガード【施錠防御】!』
南京錠の手甲が大きく盾のようになって火の玉を防ぐ。
『ここで止める!ムーブロック【動作封印】!』
『ちっ!』
防いでから一気に距離を詰めて鍵の刃をヒグルマへと向ける。しかしヒグルマは食べ足りないとは言え、触れられてはマズいと考えて後退する。
『…!届かない!?』
『それはヤバそうだからな…離れさせて貰うぜ。』
「ダメだ!やっぱり空中にいる相手を何とか引き寄せねぇとダメだ!?」
ヒグルマは鍵の刃が触れる前に届かない距離まで後退してしまう。アイラも無情に届かない刃を振るうしかなかった。
「パスナ!何とかあいつを近づける方法とかねぇのか?!」
「そうですね…確か近くに川がありましたよね?」
「ええ、自然の川から引いてるはずだけどそこに誘き寄せるの?」
やはり今のままではヒグルマに太刀打ち出来ないため、何か打開策を求めるとパスナは川に着眼点を付ける。
「私の特製ハイパーポンプを使えば強力な高圧水流を撃ち出せるはずです。それを浴びせ川に落とせば…問題として組み立てるのに10分ほど掛かります。」
川にポンプを設置してヒグルマを水で落とそうと言う作戦だったのだ。気になる点は組み立てに時間が掛かることぐらいだ。
「では早速取り掛かるのだ!」
「ミイスさんも来てください。ドレインホースを水中の深い所に入れないといけないので!」
「オッケー、任せてよ。泳ぐの大好き!」
ミイスも誘うと彼女は喜んで返事し、制服のカーディガンを脱ぎ去り、スカートのファスナーを下ろして…。
「ミイスちゃん!?」
「バカ者!?ここで脱ぐな!?往来があるのだぞ!?」
「気が早いよ、ミイスくん。」
服を脱ぎ始めたミイスをロゼが慌てて止め、ホレスとパスナは視線を逸らす。
「とにかく行くぞ!」
「ブルルル!」
しかし時間が惜しいため、全裸にするのを止めた後にカーブルルに乗ってホレス、パスナ、ミイスが川に向かう。
「問題はどうやってあいつを引きつけるかだ…生半可な火じゃ食いつかないだろうな…。」
「松明に火を付けて誘い出すも効かないでしょうね。」
「何かヒグルマが喜ぶような物があれば…。」
残された5人は何とかしてヒグルマを川に誘う方法を考えるも、プラントの炎を既に吸収した以上はそこら辺の炎では満足に誘えるような物になるとは思えなかった。
「ねぇ、僕に考えがあるんだけど。」
「何か思いついたの?」
すると何か考えがあるのかサーティは名乗り出る。現時点に置いては藁にも縋る思いで訊ねる。
「これはジャンヌ・ダイアにお願いしたいんだけど…。」
『私か?』
「まさかサーティちゃん…ダメよ!?そんなの危ないわ!?」
ジャンヌ・ダイアに何かを頼もうとしているようだが、それを見たロゼは悪い予感を覚え慌てて止めようとする。
「でもロゼお姉ちゃん…これしか方法がないんだよ。」
「それでもあなたとジャンヌ・ダイアが危険だわ!?」
『…どうすれば良い?』
「あのね…。」
焦り方からして相当危険なことをしようとしているようだった。それでも推し進めようとし、サーティは自身の考えを全員にも話す。
「確かにそれなら奴は引き寄せられるかもしれないが下手したら…。」
「うん。かなり危険だよ。」
『……。』
話を聞いたがその内容は確かにヒグルマを誘い込めるも、サーティとジャンヌ・ダイアが危険に晒されてしまうだろう。それを聞いて要であるジャンヌ・ダイアも黙ってしまう。
「やっぱりこの作戦は危ないわよ!他の方法を…。」
『サーティ殿!私はあなたに忠誠を誓いました!私はあなたが何処へ行こうと付き添います!例え火の中だろうと!』
危険なことはさせたくないと保護者であるロゼは断固反対するが、それに対抗するかのようにジャンヌ・ダイアは危険を承知で付き合うと告げる。
「このままだとヒグルマがもっと大きくなって被害が増えるかもしれない。その前に僕らがヒグルマを川に誘導しないと!」
ヒグルマがプラントの炎を吸収し続ければもっと大きくなり手が付けられなくなる。その前に何とかするために川に誘導しなければならない。
「でも…。」
『ロゼ殿!サーティ殿は私が命に代えても守ります!』
「…分かったわ。でもやるなら私達もやるわ!」
「おう!」
「うん!」
サーティの言うようにこれ以上は時間がない上に、同じく危険に晒されるジャンヌ・ダイアの覚悟を見てロゼは折れる。
しかしサーティとジャンヌ・ダイアだけに危険な橋は渡せないとロゼ、サルサ、ビートも参加に加わる。
「おーい!ヒグルマー!」
『何だ?食事中だぞ!』
「この子を見ろ!」
火を吸収するヒグルマに呼びかけ、ジャンヌ・ダイアを見せるように抱えるサーティ。
『そいつがどうした?』
「この子はダイアモンドを作り出せる!ダイアモンドは炭素の塊だ!スゴくよく燃えるぞ!」
『何だと?』
よく燃えると聞いてヒグルマはマジマジとジャンヌ・ダイアを見つめる。
「煌びやかで高級なダイアモンド!石炭とはまた異なる上品な味わいの炎なんて食べたことないでしょ!」
『じゅるり…!』
ビートが食レポをするような台詞で語りかけ、それを聞いてヒグルマは舌舐めずりをする。
『そいつを俺に寄越せ〜!』
「来た!?」
「走って!?」
食べたことがない炎を食べようとヒグルマはジャンヌ・ダイアを奪おうと接近してくる。それに合わせて一同は走り出す。
『サテライトフレイム!』
「うおおっ!?食い付きようがスゴいな!?」
「ちょっと盛り過ぎたかも!?このままだと僕らがミディアムになっちゃうよ!?」
飛んでくる火の玉を避けながら川を目指して走る。火の玉が当たった箇所は黒焦げになるか、高温のあまり溶けてしまっていた。
「ジャンヌは僕らが守るからね。」
『本来ならば私の役目なのに…面目ありません!?』
ジャンヌ・ダイアはサーティが大切に抱えており、狙われている以上は絶対に渡さないと抱き締める力も強まる。
『逃がすか!ウォールボム!』
「何処を狙ってんだ!?」
このまま逃がすかとヒグルマは火の玉の1つを放つが、サルサ達には当たらないどころか頭上を弧を描くように飛んでいく。
『お前らの逃げ道にだよ!』
「あっ!?道が火の壁で…!?」
外したかと思われた火の玉はサーティ達の行く先に落ちると、一気に火の壁となって目の前で燃え広がる。
『これでもう逃げられないぞ!さあ、そいつを渡して貰おうか!』
「絶対にイヤだ!」
『だったら力づくで…!』
抱き締めているジャンヌ・ダイアは渡さないと絶対阻止の意思を見せるサーティにヒグルマは近寄る。しかしそんなサーティの想いが届いたのか、火の壁から赤い何かがヒグルマに向かって飛びつく。
『見つけたぞこの野郎ー!』
『な…何だお前は!?』
「何なのあの子は!?」
飛びついたのはゲバブサンドの店で激辛ゲバブサンドを買いそびれた強気な少年だったのだ。
「危ないぞ!」
「待って、あの子の身体をよく見て。ドラゴンみたいな見た目してるけど…。」
サーティに言われて見てみると、確かにその少年の腕と足はドラゴンのようで、更に尻尾に角に翼など随所にドラゴンの特徴が見られた。
「もしかしてあの子はドラギアスなんじゃ…。」
「逃げ出した子の1人かしら…。」
『よくも俺の激辛ゲバブサンドを台無しにしたな!』
『ぐあっ!?』
脱走したドラギアスと出会ったのはこれが初めてであり、そのドラギアスの少年はヒグルマに対して怒りを込めて攻撃していた。
『ゲバブサンド!?何のことだ!』
『お前、ゲバブサンドの店から炎を奪っただろ!そのせいで自由の身となった記念に食べるつもりだった激辛ゲバブサンドを食べ損ねたんだぞ!』
『俺は炎が好きなんだ!火を吸収してゲバブサンドがダメになったなんて単なる偶然だろうが!退け!俺はあいつに用があるんだ!』
ヒグルマと少年は言い争いをしていたが、ジャンヌ・ダイアを手に入れたいためヒグルマは問答無用と言わんばかりに少年を振り落とす。
『いってぇ〜!?やりやがったな!?』
『邪魔だから振り払っただけだ!』
『言ったな!これはゲバブサンドを台無しにしたお返しだ!』
言い争いから喧嘩に発展し、少年は口から炎を吹いて反撃する。それは太古から恐れられるドラゴンの代名詞と呼ばれる攻撃の1つである炎のブレスだ。
『おおっ!?何だこの炎は…ワイルドな味わいだ!美味い!美味いぞおおぉぉ!!』
『っ!?』
「おい!そこのお前!奴に炎は逆効果だ!もっと強くなるぞ!?」
しかしその反撃は相性が悪過ぎた。炎を吸収するヒグルマにはドラゴンの炎は最高のご馳走でしかなかった。
『〜!?』
「どうしたの!?攻撃を止めて!?」
『もっとだ!もっとその炎を寄越せ〜!!』
強気なドラギアスだって炎はこれ以上は吐きたくなかったが、吸われる炎の勢いが強くて口が閉じれなかったのだ。次第に体力まで減少し身体がプルプルと震え始める。
「どうしよう!?このままだとあの子の炎が全部吸い取られちゃうよ!?」
「自分じゃ火を止められないのか!?でも止められない訳じゃないはず…アイラがキーロックの能力で止めたみたいに…!?」
このままだと彼の炎が枯れるまで吸い取られてしまう。それを防ぐためには火を止めるしかないが、今はアイラとキーロックはプラントに置き去りにしてしまっていた。
「何か方法は…あ!すみません、このバケツ貰いますね!?」
何かないと探してると花屋があって、水を入れたバケツが数個ありサルサそれを手に取って駆け出す。
「これでどうだ!?」
『むぐっ!?』
『何!?』
そのバケツの水を少年の口に目掛けて水をかける。すると炎が消火されたことで炎の吸収を断ち切るのだった。
「良かった…消火でも奴の火の吸収を止められるみたいだな。」
『あ…ありがとう…。』
何とか少年を助けるもののかなり炎を奪われたのかすぐに立ち直れそうになかった。
『ふん!まあいい、次はそのダイアモンドだ!』
「…!」
炎が途切れて食事を妨害されるも満足したらしく、ヒグルマは再び狙いをジャンヌ・ダイアに見定める。
「サーティ!ジャンヌ!俺に任せろ!」
するとサルサはバケツの水を頭に被ってサーティに濡れた上着を被せ、ジャンヌ・ダイアには濡れたバケツを被せる。
「サーティちゃん!」
「2人は俺に任せろ!あいつのことは頼んだぞ。」
「…!無理しないでね、それとサーティちゃんをお願いね!」
サルサは炎の少年をロゼとビートに託し、サーティとジャンヌ・ダイアを連れて炎の壁の先へと向かうつもりだった。
「サーティ!ジャンヌ!行くぜ!」
「うん!」
頭から水を被ったサルサと濡れた上着とバケツを被ったジャンヌ・ダイアとサーティは炎の壁に焼き尽くされる前に通り抜ける。
「よし!このまま川まで行くぞ!」
『何て奴らだ…俺の炎の壁を突破するとはな!』
炎の壁を抜けたサルサ達は当初の目的地であった川を目指す。ヒグルマもその後を追いかける。
「あなた大丈夫?」
『ああ…何とか…。』
「名前は?」
『アルフ…それよりもあいつは?俺を助けてくれた…。』
「あの人はサルサくんって言うの。」
『サルサ…。』
残されたロゼとビートはドラギアスの少年のアルフを看病していた。対するアルフはサルサに何かしらの興味を覚えていた。
「川だよ!」
「よし!ここまで来れば…!」
「ありゃ、もう来ちゃったの?」
「あ?もう来たって…。」
何とか川まで走り抜けたサルサ達は川の側にある見たことない機械を弄っているパスナ達を見つけるも、何やらタイミングが悪いような素振りを見せる。
「機械は準備したんじゃないのか?」
「それがドレインホースの様子がおかしくてミイスくんが潜って調べているんだけど…。」
そう言うパスナの側にはミイスが着ていた服が脱ぎ散らかされており、川でもプクプクと気泡が出ていて彼女が水中にいることを証明していた。
「しかし潜ってかなり時間が経つ…どうしたと言うのだ。」
「まさかとは思うが…。」
しかしホレスとパスナはミイスが水中に潜ってからだいぶ時間が経過していることに心配していた。
「俺が見てくる!」
「サルサ兄ちゃん!?」
いても立ってもいられずサルサも服を脱いで水の中へと飛び込む。
(何処だ…何処にいる…っ!)
「〜〜!」
潜ってみるとミイスがドレインホースの前で四苦八苦しており、よく見ると何かを引っ張っていた。
(何してる?)
(これ!)
『〜〜!?』
側に寄ってみるとサルサに気が付いたミイスはドレインホースの中に吸い込まれている物を指差す。なんと子供がドレインホースに頭から吸い込まれていたのだ。
(マジかよ!?)
(あと少しで抜けそうなんだけども…!?)
2人がかりで足を掴んで引っ張るも、中々抜けそうになかった。すると遠くで水音が聞こえてくる。
『〜〜!』
(お前は…!)
飛び込んで来たのはドラギアスの少年のアルフだった。彼はドレインホースに吸い込まれている子供を見て血相を変えていた。
『〜〜!』
(うわっ!?ホースを切断した!?)
(けど抜けたぞ!?)
アルフはドレインホースの子供が達してない部分をドラゴンの爪で切り裂く。それによって切断された部分は吸引力が失われ、子供を助け出すことに成功する。
「よし!動くぞ!」
それと同時にポンプが正常に動き出し、水を汲み上げ始める。
「ぷはっ!?大変だ!?」
「サルサくん!何があったの!?」
「この子がドレインホースに吸い込まれてたの!」
水面にミイス達が浮上し、何があったのかと合流したロゼとビートが見たのはぐったりした様子の少年だった。
「バカな!?ドレインホースには吸い込まれ防止用の金網あったはず!?」
「どっちにしてもやべぇ!?何とか出来るか!?」
「私の発明品で人は死なせん!?診せてくれ!?」
安全対策はされていたのに子供が吸い込まれたことにパスナは見たことがないほどに動揺する。しかし自分のせいで誰かが死ぬのだけは許されないとパスナはその少年を診る。
「呼吸は安定している…意識は混濁状態…問題は飲んでしまった水が肺に入ったことか…!?」
「大丈夫…だよね?」
「緊急手術をすれば大丈夫だ!」
不安になるサーティを励ますようにパスナは何処から出したのか医療機器を取り出す。
『見つけたぞー!』
「こんな時に…!」
「と言うか何か見ない間に大盛りサイズになってる!?」
ところがタイミング悪くヒグルマが姿を現す。更に悪いことにアルフの炎を吸収したことと、道すがらで他の炎を吸収したためか、半径だけでも川を凌駕するほどのサイズまでに大きくなっていたのだ。
「さすがに想定外の大きさだ…ポンプの水だけではどうにもならんかもしれない…。」
ことごとく最悪の状況に見舞われ、絶体絶命の危機に瀕する。
『サーティ!』
「アイラ!お願い、皆を守って!?」
『分かっている!だあ!!』
その時、プラントに置いていかれたアイラが屋根伝いで追いかけてきたのだ。そして彼女はサーティの言葉に迷わずヒグルマに飛び移る。幸い大きくなっていたために飛び移るのは簡単だった。
『またお前か!』
『今度こそ封印する!?』
アイラの存在に気が付いたヒグルマは振り落とそうと火柱を円盤の上に発生させたり、火の玉を縦横無尽に飛ばしてくる。
「くそ…俺も戦えれば…!」
『…なあ、お前は俺だけでなく俺の友達も助けてくれたよな。』
戦うアイラとサーティを見て、サルサは歯がゆい気持ちでいっぱいになっているとアルフが自身と溺れていた友達を助けてくれたことを話し始める。
『でも今は俺の友達は…まだ助けられるのか?』
「ああ、出来るとも!俺の友達はお前の友達を助けられる!けど、あいつを足止めしないとどうにもならねぇ!?もっと俺に力があれば…!?」
アルフに話しかけられサルサは助けられると豪語するが、もっと力があればと無力感に打ちひしがれていた。
『だったら…俺と契約しろ!』
「!」
『俺だって助けたい!お前は何度も俺と友達を助けてくれたのにまた助けられようとしている!無力だと思っているのは俺もだ!だからこそ俺と契約し皆を助けるんだ!』
アルフはサルサの思いを聞き入れ、自分も同じだと気持ちを露わにして契約しろと告げる。
「感謝するぜ!お前の名前は!?」
『アルフ!』
「アルフ!俺と契約してくれ!チェインタクト!!」
サルサはアルフの名前を聞き、力強く彼の手を繋いで契約のキーワードを唱える。するとサルサの手首とアルフの首の赤い鱗から血のような赤い鎖が飛び出して強く絡みついて鎖となる。
アルフやアイラの首にある赤い鱗。これはドラゴン族の力の源であり、その証の特殊な鱗『逆鱗』である。かつては力の源故に触れられるとドラゴン族は嵐のように憤怒するとされている。
しかしドラギアスへと進化し始まりの契約によって逆鱗は力を制御する枷となり、今では契約する際にトライブレイトとドラギアスを繋ぎ止める鎖を形勢する重要な部分となっている。
『契約したぜ!お前の熱い気持ちがそのまま力になる!』
「燃えている…これが俺の能力!うおおおっ!!」
『っ!何だこの炎は!?』
契約したことでサルサは身体の中で血潮が炎よりも熱くなることを感じ取っていた。その途端に彼が立っていた所に巨大な火柱が上がるのだった。
「見ろヒグルマ!お前の大好物の炎がここにあるぞ!」
『お…おおっ…!』
「せいぜい俺で火傷しないようにしな!」
サルサは全身に炎を纏っているのだが、周りの草木は燃えることはなく、ましてやサルサ自信が焼け死ぬなんてことはなかった。
サルサは自らの炎でヒグルマの注目を集め、不敵な笑みを浮かべながら挑発する。