思いやりと優しさが自慢です
「ほう、さっそく2体のアーティガルを捕獲したとな?」
「はい。その通りです。」
サーティの思いがけない方法によって2体のアーティガルを捕獲することに成功し、彼らは今城へ戻って国王レスディンと話をしていた。
『くっ…殺せ…!?』
「何で捕獲したかと思えば、虫を捕まえるために使う粘着シートではないか。」
捕獲したジャンヌ・ダイアと、彼女と契約して一体化したキーロックは粘着シートの上で身動きが取れなくなっていた。
厳つい見た目から違わず武闘派のレスディン国王も、やるならば武器を使ったと思っていたようだが、まさかの虫を捕まえる道具で捕獲したとあれば思わず笑ってしまうのも当然だ。
「なるほど大義であった。」
「ありがとうございます!」
「しかし、この国はもちろん外の世界にもたくさんのアーティガルやドラギアスが逃げている。それらを捕獲しなければ貴様らは罪に問われるだろう。何故こんなにもすぐに戻って来たのだ。」
ひとしきり笑ったレスディンはそれはさておきと言わんばかりに、たった2体捕まえただけで許して貰えるのかと言う様子でサーティ達に目をやる。
「その…聞き忘れたことと、お願いがあって来ました。」
「申してみよ。」
アーティガルの捕獲で自信がついたか、或いは二度目だからか慣れたからなのは不明だが、レスディンを前にしてもサーティは先程よりもハッキリとした様子で発言をしてくる。
「聞き忘れたことは、アーティガルを捕獲したまでは良かったんですが…この後はどうすれば良いのでしょうか?」
「この後とは?」
「こうやって捕獲した後に何処に保管すれば良いのかと言うことです。」
捕獲したのに何が分からないのか分からず聞き返すレスディンに、パスナがサーティに変わって捕獲した後、アーティガルの管理などをどうするか進言する。
「そうであったな。アンナ。」
「はっ、アーティガルはこのプレパカードに入れるのですよ。」
そう言うことかと気が付いたレスディンは研究者であるアンナを呼び寄せる。彼女はカードケースのような物を2つ持っていた。
「これにどうやって入れんだ?手品みたいに入る訳でもないだろうに…。」
サルサが言うようにアーティガルの大きさは手のひらサイズとは言え、カードケースのような物にどうやって入れれば良いか分からなかった。
「そこはサーティくんの出番です。アーティガルはドラギアスと契約した人であれば、これに封じ込めることができるのです。」
「封じ込めるって…私が知ってる限りでは契約して得られる能力は一括りに1つだけのはず。サーティちゃんがどんな能力を授かったかは分からないけどそれに封印する力なの?」
トライブレイトはドラギアスと契約すると何かしらの能力を1つだけ授かるが、その能力がアーティガルを封じ込める力なのかとロゼは訊ねる。
「いいえ、彼の能力はそんな物じゃないはずですよ。キチンとした検査をしないと分かりませんし。」
「じゃあ、何でなおさらサーティじゃないとダメなんだ?」
話からするにサーティとアイラにはアーティガルを封じ込める力があるかどうかハッキリしないらしく、それならば何故サーティを選んだのか訊ねるサルサ。
「ドラギアスには生物を進化させ、新たなる力を与えるのはご存知ですね?」
「それによってアーティガルが誕生したのですからね。」
「ですが、生物を進化させることができる強力なエネルギーならば、その逆に奪ったりコントロールすることも出来るのですよ。」
今日に置ける生き物達や異種族、更にアーティガル達はドラゴン族とギガント族が流した血によって様々な進化系統を辿り特異的な力を得た。
生物を進化させるだけの力があるのならば、その逆に力をコントロールすることも出来ると述べるアンナ。
「このプレパカードはドラギアスの角や鱗で作られており、アーティガルの力を制御するようになっています!」
プレパカードはドラギアスから取れる鱗や角などから精製されており、これならば幾らアーティガルでも中から破壊して脱走することはできないと述べる。
「そしてこれを扱えるのは元となっているドラギアスと、契約を果たしたトライブレイトだけになるんですねこれが!」
角や鱗が使われたドラギアスかドラギアス契約したトライブレイトであればプレパカードを扱えると結論づける。
長くはなったが、アーティガルを封じ込めることが出来るのはサーティだけだと言ったのはこれが要因だった。
「でも封印するにはどうすれば良いんですか?」
「サーティくんはアイラちゃんにアーティガルを封じ込めるように命令するんです。必ず『チェインタクト』と唱え、その後に『アーティガルをプレパカードに封じ込めよ』とね。」
理屈を教え、そして封じ込めるための方法を将来的にサーティ以外のメンバーにも行って貰う必要があるため全員に分かるように説明するアンナ。
「さあ、やってみて。」
「…チェインタクト、アイラ!」
『…!』
教えて貰ったようにキーワードを唱えると、アイラは背筋を伸ばしてサーティの側に寄り添う。
「お願い…ジャンヌ・ダイアとキーロックをプレパカードに封印して!」
『…分かったわ。』
しかし唯一違ったのは命令するのではなく、アイラに頼み込むように封印を命じたことだ。それを見たアイラは戸惑うも嫌な顔せずに命令に従い、プレパカードをアンナから受け取る。
『キーロック!ジャンヌ・ダイア!チェインタクト!』
『おおっ!?』
『分離された!?』
受け取ったプレパカードをジャンヌ・ダイアと一体化したキーロックに向けると、開いて鎖のような物が飛び出して巻き付き、ジャンヌ・ダイアと一体化していたキーロックを分離させる。
「後はこのままプレパカードの中に入れるだけだな。」
「いや、実はここから先が問題なんですねこれが。」
『捕まってたまるか…!?』
流れからしてこのままプレパカードに封印すればおしまいとサルサは考えるも、抵抗の意思を露わにするジャンヌ・ダイアのことを見抜いていたのか、アンナはゲンナリした様子を見せていた。
『ふんぬぬぬ…!?』
『ブリリアントカリバー…!?』
『ムーブロック【動作封印】…!?』
アイラは顔を強張らせると鎖がプレパカードの中へと戻っていくが、ジャンヌ・ダイアはブリリアントカリバーを地面に刺し、キーロックは自身の動きを止めて踏ん張っていた。
「いっつも抵抗するから戻すのが手間なんですねこれが…。」
「そう言えばあいつらのこもを研究してたもんな…。」
これまでアーティガルを研究していたのなら、プレパカードから出したり、封じ込めたりしていたはずだ。そのため手間がどれほど掛かるのかよく知っているためにゲンナリした様子を見せていたのだろう。
『うっ…思ったより強い…!?』
『このまま振り払ってくれる!?』
思ったよりも苦戦してしまい、その間にジャンヌ・ダイアは鎖を掴んで力任せに引きちぎろうとする。硬い物同士が触れ合うことで生じるギリギリとした嫌な音が鎖からしてくる。
『このままだと…!?』
「アイラ?!」
『…!サーティ…どうして…。』
苦戦するアイラを見たサーティは鎖を掴んで力一杯に引き始める。
「君が頑張ってるの見たら…僕もやらなきゃって思って…!」
『…ありがとう!』
『おおっ!?』
『何!?』
これまでにも命令されて来たが常に一人きりで行っていた。だが、今回は自分のことを思って手を貸してくれるサーティがいてくれることに強い高揚感を覚え、サーティに微笑みながら鎖を引く力を強くする。
『あと少しだよ…だから…!』
「うん!一緒に…頑張ろう!」
『ぐっ…うわああ!?』
『おおおっ!?』
力を合わせて一緒に鎖を引っ張るアイラとサーティ。そして遂にジャンヌ・ダイアとキーロックはプレパカードの中へと引き込まれ、中に入った途端に蓋が閉じるのだった。
「上手く行ったの?」
『くっ…まさかまたここに戻されるとは…。』
『オイラが逆に封印されるなんて〜!?』
「そのようですねこれは!」
せめぎ合いが終わってどうなったか見てみると、キーロックとジャンヌ・ダイアはプレパカードの中で悲観に暮れていた。
「これで捕獲した後の封印は分かったな?」
「はい!ありがとうございます!」
「それで先程申した願いとは何だ?」
一部始終を見ていたレスディンはサーティの聞きたかったことを消化したと判断し、次に彼が頼みたかったことを訊ねる。
「はい…その…申し上げにくいんですが…。」
「言うてみ。」
話しにくい内容らしく先程と比べると歯切れが悪くなる。先程はアイラと共にアーティガルと力比べしていたとは思えない様子に、レスディンも多少面白みを覚えながら訊ねる。
「…アーティガル達を…これから全て捕獲するまでは僕達が管理し連れ歩いても良いですか!?」
「……確かに言いにくい内容だな。」
サーティは思い切って自分の意見として、アーティガル達を連れ歩くことを懇願した。
「貴様、何を考えてをいる!そもそもこれは逃げ出したアーティガルとドラギアスの捕獲が目的であろう!それを連れ歩くとは本末転倒であろう!」
国が管理していた生命体の捕獲が目的なのにそれをまだ幼い、或いは若い自分達が連れ歩くなんて、これでは野放しにするのと同じであるとホレスは猛反発する。
「何故そうしようとするのだ。」
「アーティガルやドラギアスは皆、遊んだり動けなかったりしたから自由になりたかったんだと思います…確かに僕が自由になって欲しいって願ったからだけど…。」
「だけど?」
内容が内容なだけにホレスのように二つ返事でオーケーをする訳にはいかず、その理由をレスディンでなくとも聞こうとする。
「だけど…だけどアーティガルとドラギアスの皆があんな狭苦しい思いをしてたからこそ、僕達と一緒にこの広い世界を見せてあげたいんです!そうすればきっと…。」
「もう脱走なんぞしないと言いたいのか?」
「それもですけど…一緒にいればきっと楽しいですし、仲良くなれるんじゃないかと思います!」
サーティはドラギアスとアーティガル達の境遇と、契約して使役される立場を考えるからこそ共に自由を謳歌し仲良くなりたいと述べた。
『サーティ…。』
「良い子じゃないか。サーティは。」
「そりゃそうよ!自慢のサーティちゃんですから!」
そんな言葉を聞いたアイラは手を貸してくれたことにそんな思いが込められていたことで胸に強い高鳴りを覚える。その間にサーティを称賛するサルサにロゼは胸を張って自慢するのだった。
「確かにお前の言いたいことは分かった。しかしホレスの言うように貴様に全てを一任するのは本末転倒だな。」
「あ…やっぱりそうですか…。」
結末は分かってはいたが、ダメ元で奇跡よ起これと思っていたが、やはり奇跡は滅多に起きる物ではないためサーティの意見は却下されてしまい落ち込むサーティ。
「時にホレスよ、お主は捕獲に何か尽力を果たしたか?」
「…お恥ずかしながら今の私に出来たことは…。」
唐突に話題を振られるホレスだが、しっかりと受け止めているためにレスディンに対して正直に自身の成果を話す。
「だが、今からでも遅くはない。お前にはそやつを見張って貰う。」
「「「!?」」」
レスディンがホレスに対して申し立てた内容は、ホレスだけでなく間接的にサーティの申し立てにも関係する物であった。
「父上!見張れとは…!?」
「そのままの意味だ。その者がアーティガルとドラギアスを持ち逃げしないようにしっかりと見張れ。」
「まさか管理を彼に任せるのですか!?」
「よくよく思えば管理がしっかりしていればこうはならんかった。それに一般人に王族の我らが遅れを取ったとなれば…この意味が分かるな。」
「は…ははっ…。」
管理をサーティに任せることに不安視するホレスだが、レスディンの言うように元を正せば国の管理体制に問題があり、その上でその王家が一般人のサーティに捕獲任務で遅れを取ったなら恥としか言いようがないだろう。
その言葉の意味を理解してさすがのホレスもそれ以上の追求はせずにその場に膝をつき頭を垂れる。
「良いかサーティ、他の者達も。アーティガルとドラギアスは国の外にも逃げ出し、それを捕獲していちいちこの国に戻るのも面倒だろう。それにそやつらの力があればこの先どんな困難があろうとも乗り越えられるだろう。」
確かにこれからサーティ以外の面々もいずれはドラギアスと契約していくのはもちろんだが、アーティガルの力もいずれは必要になってくるはずだ。
「と言うことは…。」
「うむ、それに貴様の言うようにお前の考え方には一理ある。そしてお前には何かしらの可能性があるようだ。それに賭けてみるのも一興だろう。」
「…!ありがとうございます!」
「しかしながら持ち逃げしたり、亡命するようなことがあれば…貴様らは国家反逆罪となり、特に進言をした貴様は一番の恥辱を与えられながら極刑とされるだろう。心して置くが良い、必ず見つけるからな。」
「は…はい…。」
レスディンはサーティの意見を聞き入れ、その上で彼の可能性を垣間見てアーティガルとドラギアスのことを託し、もしも期待を裏切れば当然罪に問われると釘を刺すのだった。
「何にしても…ジャンヌ・ダイア、キーロック。これからよろしくね。」
『…!主君よ、私は貴方様に忠誠を誓います。』
『オイラも最高にハッピー!』
釘を刺されて戸惑うも、これから共に過ごすジャンヌ・ダイアとキーロックに微笑むサーティに、ジャンヌ・ダイアは膝をつき頭を垂れて忠誠を誓い、キーロックもプレパカードの中で跳ね回る。
「以上だな?それならば再び捕獲へと当たるが良い。」
「「「はい!」」」
全ての話が終わりサーティ達は王室を後にするのだった。
「……。」
「あの…ホレスさん…何でそんなに見つめてるんですか?」
「お前らを見張れと言われているんだ。当たり前であろう。」
その帰り道でホレスはサーティを穴が開くほどに睨みつけており、これにはサーティも耐えられずに耐えられずに訊ねるも分かりきった返答であった。
「これからどうするよ?」
「この国を見回りながら情報を集めない?僕はこの国に来たばっかりだからよく知らないんだ。お腹も空いたし。」
「あ、良いねそれ!」
助け舟としてサルサが今後の方針を訊ね、ビートがこの国のことをよく知らないから観光がてら情報収集を提案し、ミイスはそれに快く賛成するのだった。
「まずは何か食べようよ。美味しいお店とか知ってる?」
「そうね…ドタリチキンのゲバブサンドは?スパイシーと肉汁がたっぷりで病みつきになるわよ。カロリーが気になるけどね。」
「うわ…美味しそう!一度食べれば味を再現できるよ!」
ロゼはこの国の美味しいグルメとしてゲバブサンドを提案してくる。それを聞いてビートはヨダレを垂らしながら料理道具でアピールする。
「サーティちゃんはいつもの甘口で良いわよね?」
「僕はもう辛い味でも食べられるんだよ!」
「もう無理しちゃって〜。」
昔からの付き合いなのかサーティとサルサはそんなやり取りをしていた。
「……。」
「って、ホレスさん。何なの?」
「余はそやつを見張っているのだ。当然だろう。」
ところがホレスの視線が気になって2人の世界に入れないことに多少不満を覚えるロゼ。
「ホレスさんに見張って貰わなくとも、保護者である私が付いてれば問題ありません!」
「いや、それは認めん!こいつは余が見張る!」
「あ…あの…。」
互いの意見をぶつけ合い一歩も譲らない2人に挟まれるサーティら縮こまる。
「とにかくサーティちゃんは私といるの!」
「あ!?」
「いいや、サーティは余といるのだ!」
「ちょ…ええっ〜!?」
挟まれて縮こまるサーティを両脇から抱える形で互いに譲らないロゼとホレスはそのままゲバブサンドを食べに行くのだった。