解放の言霊
「皆さん、今宵シルド学園への入学を誠に…。」
「サーティは何処に行ったんだよ。」
「分からないわ…どうしたのかしら…。」
待ちに待った入学式が長いヒゲと髪を持った何処かの長老のような校長によって取り仕切られているが、サルサとロゼはサーティが行方不明になったことでそれどころではなかった。
そのため入学早々、不参加と言う何とも後ろめたい状況でサーティを探していた。
「あれ、君達どうしたの。」
「あ、ビートくん!サーティちゃんを知らないかしら?」
「あの子?ううん、見てないけど迷子?良かったら探すよ。」
恐らく遅れて来たであろうビートとも合流してサーティを探すことにする。
『貴君は何者ダルク。』
「このワイルズビーストは宝石みたい。でも喋ってるし、人みたい…。」
『ケルルル…!』
「ここにいるのは何だろう?」
『ふふっ、このナゾメンソウとお会い出来て光栄でございます…ナゾ。』
「非常に興味深い!これまでに見たことがないワイルズビースト…いや、意思や知性を頼る辺り知的生命体であることは確かだろう!」
そのサーティは個性豊かな生徒達と共に厳重に封鎖されていた不思議な部屋を訪れ、その中で管理されている不思議な生き物や人物らしき者達と出会っていた。
ダイアモンドのような女騎士、『?』マークが刻まれた不敵な笑みの面をした怪盗や、破られた檻が兜のようになったケルベロスなどどれもこれも見たことがない見た目をしていた。
「確かに面白そうだけど、何でこんな所に閉じ込められているんだろう…。」
『そうなの〜!?ここから出してシム〜!?』
『バンバン!』
興味深く見ていたサーティだが、彼らが何故この部屋に隔離するように閉じ込められているのか分からないでいた。
その言葉に泣き虫な少女は自分が溺れるほどに涙を流し、下半身が剣で上半身が銃となっている生命体が発砲して同意する。
『自由に…なりたい…。』
「!」
その時、この部屋に来る切っ掛けとなったあの声が聞こえてきて奥へ進むと水槽の液に浸かった結晶体を見つける。
「今のは…君?」
『あなたは…私が分かるの?』
水槽のガラスに触れると会話と声がハッキリと聞き取れるようになる。声からして同年代の少女であり、結晶体にはその少女の輪郭が朧げに映っていた。
「僕はサーティ。君は?」
『私はアイラ。』
「アイラって言うんだね。ここで何してるの?さっきの自由になりたいって…。」
その結晶体の中の少女はアイラと言い、サーティはここで何をしていて先程の台詞は何なのかと問いかける。
『私や皆はずっとここにいるの。産まれてからずっとね。』
「え…どうして?」
『私達は人とは違う…だから周りの人達は私達のことを恐れてここに入れているの。』
人間は昔から異形を意味もなく拒絶する。それは少しの違いであろうと時としては何処までも残酷になれる時がある。それを見透かしたかのようにアイラは辛そうに呟いていた。
「人と違うなんて…僕もロゼお姉ちゃんやサルサ兄ちゃんとは全然違うのに…それだけでここに入れられるの?」
『あなたは色々なことを知っているのね。羨ましいわ…。』
「そうか…アイラやここにいる皆はずっとここにいるもんね。僕は今日だって入学式だったけど、僕の知らない人や建物もいっぱいでスゴいって思ってたのに…。」
今日だってサルサのような知らない人間との出会いやシルド学園のような知らない建物を見て興奮の連続だったのにそれすらないことに気の毒に思う。
「僕だってまだまだ知らないこともあるし、面白いことや楽しいこともあるのに…君や皆はずっとここにいて…。」
『あなたは他の人達と違う…それだけは分かるわ…。』
サーティはアイラの自由になりたいってと言う台詞の意味と重さに辛くなり、結晶体の中からアイラは朧げな手を伸ばしてサーティの手と重ねるように触れる。
「君も皆も…自由になれたら良いのに…。」
『……!!』
何気なくではあるがサーティの持つ優しい心から呟いたその台詞。その台詞がサーティと彼らの運命を大きく変えようとは夢にも思わなかった。
「それではこの学園長の挨拶として…っ!」
「「「っ!」」」
その頃、入学式では学園長が挨拶を終えようとしたがとてつもない異変を感じ取り威厳ある顔つきがより険しくなり教員達も真剣な面持ちになる。
「おい!何だあれは!」
「光の柱…まさかサーティちゃん!?」
「急げ!?」
校舎内ではサーティを探していたロゼ達は光の柱が立ち上っていることに気が付き確証はないがサーティが何かに巻き込まれたのではと考え急いでその場へと向かう。
「うわっ!?これは何!?」
『サーティ…!』
「あ…アイラ!?」
サーティは光の柱に呑まれ、さながら急流を流れる木の葉のように振り回されていた。その上流からアイラの声と姿と伸ばされた手が見え咄嗟にサーティも手を伸ばして掴んだ。
「これは何なの!?」
「見ろ!他にも人が…!?」
「貴様ら!ここで何をしている!」
光の柱の根本ではロゼ達とミイスと言い争いをしていた青年が駆け付けていた。しかし見計らったかのように光の柱は変容をしていく。
『グオオオオオオォォォォ!!』
光の柱は空へと昇るドラゴンのようになり、より一層輝き辺りを包んでいく。そして幾つもの光の玉となって弾けて四方八方へと散らばっていく。
「おい!起きろ貴様ら!」
「う…ん…。」
「おや…。」
「あれ…何であたしら眠ってたんだっけ…ふぁ〜…。」
「僕達は…うっ…鎖?」
誰かに乱暴に起こされ、いつの間にか眠っていたサーティ達はフラフラと起き上がる。ところがサーティは手首に何か重みを感じ何かと見てみると赤い鎖のような物が巻き付いていた。
『ううん…ここは…。』
「あれ…君は?」
鎖の先には腕と脚がドラゴンのようで、頭とお尻からはドラゴンの角と尻尾が生えていて、雪のような白い短髪のドラギアスの少女がいた。
『え?……!サーティ…!?』
「その声は…もしかしてアイラ?あれ、何で僕の手首の鎖が君の首に?」
声からして結晶体の中に閉じ込められていたサーティだと分かった。しかし唯一分からなかったのはサーティの手首の赤い鎖は、アイラの首に浮かんだ首輪状の赤い鱗と繋がっていたからだ。
「サーティちゃん!?大丈夫!?何があったの!?」
「ロゼお姉ちゃん!」
「貴様ら!これはどう言うことだ!?」
訳が分からず呆然としているとロゼとサルサ、更にはビートに噴水でミイスと言い争いをしていた青年が中に入ってきた。
「おや、あなたは確かハルパニア王国第二王位継承者のホレス様?」
「…えっ!?ホレス様!?」
「あー、どっかで見たことあると思ってたら。」
パスナの指摘に全員がよく見てみると、その青年の正体はこの国で3番目に位が高いホレスだった。途中で顔を合わせたロゼ達は驚き、怒られていたミイスはあっけからんとしていた。
「ロゼお姉ちゃん!?この鎖何なの!?気が付いたらこれが巻き付いてて、それにこの子の首に繋がってて…!?」
「え…まさかサーティちゃん、そのドラギアスの子と『契約』したの!?」
「契約って…。」
サーティはロゼ達に何故自分自身とアイラとが鎖で繋がったのか訊ねると、サーティはアイラととある契約をしたと聞かされる。
「トライブレイトになるにはドラギアスと契約し相互関係を気付く必要があるのよ!サーティちゃんはその子と契約して、今この時にトライブレイトになったのよ!」
「僕が…トライブレイトに?」
憧れていたトライブレイトにサーティは得てせずアイラと契約したことで成就したのだ。そのことに唖然となるサーティだったが…。
「貴様ら!国家反逆罪で全員逮捕する!」
「「「えっ!?」」」
喜びの余韻に浸る前に唖然としていたが、サーティ達は国家反逆罪で逮捕されることに更に唖然となるのだった…。