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ドラギアス  作者: オリテアント
第3章 ノアズガーデン【ノアの匣庭】
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沼の暴れ者

「ふわぁ〜…朝?」


「あんまり眠れなかったな…。」


昨夜、ギリーリッグが後を追いかけて来たため警戒心が強まってしまい、その結果中々寝付けなかったミイス達。


『俺もだ。』


『僕も…。』


ドラギアスのアルフとギザも眠そうにあくびしたり伸びをしていた。


「念交代で為見張りをしていましたが、来ていたのはあのギリーリッグだけですね。」


「でもよかったのかな…ぼくがみはりをしなくて…。」


「サーティちゃんは狙われてるのよ。見張りをしていたらそれこそ恰好の的じゃないの!」


呪いで幼くなったこともだが、狙われているのならば見張りの最中に攫われても自分達が気付けないためサーティには見張りをさせていなかった。


「慣れればきっとぐっすり眠れるようになりますよ。」


「それよりもお腹空いたね。」


ストレッチしながらアドバイスをするパスナ。その傍らではテントを片付けていたビートが空腹を訴えていた。


『しかし事あるごとに食糧調達するのも面倒だね。』


「確かに。食料も効率良く採取し、保存していくしかあるまい。」


朝ご飯となる木の実を採取するも、食事の度に調達していては効率が悪いため保存食の提案が挙がる。


「そういえばロゼおねえちゃんは、しょくぶつをあやつれるんだよね?だったら…。」


「そうは言っても体力を消耗しちゃうからプラマイゼロなのよねぇ。」


植物の能力を使えば木の実などを実らせることは出来るも、それは自分の汗で自分の喉を潤すのと同じであまり意味がなかった。


『先はまだまだ長いけど、色々気を使うわね…。』


「ごめんね、ぼくのせいで…。」


「だからもう気にしないで…。」


集めた木の実を皆で囲って食べる様は休み時間のおやつタイムのようだった。


「ビートよ、ここから先はどこを通るのだ?」


「この先には沼地があるからそこを通り抜けて行くんだ。」


木の実片手に地図を広げて何処を進むのか確認していく。この先からは沼地らしく一応は水の補給も可能だろう。


「沼ってまさか底なし沼じゃないだろうな。」


「どうかな…一応僕も慎重に渡ったけど、もしもそうなら…。」


「渡る時は注意した方が良いわね。」


沼は基本的に濁っており、陸地と見分けがつかないため気付かずに踏み入れる危険性がある。気が付いた時には抜け出せず徐々に全身が沈んでしまうだろう。


「…取り敢えず怪しい気配はないな。ギリーリッグの奴らもいい加減諦めてくれたみたいだ。」


「そうか。それでも警戒は続けてくれジャオ。」


一通り木の上やら匂いを嗅ぐやらで偵察を終えたジャオが怪しい者はいないと報告する。ギリーリッグの追跡は彼らに警戒心を抱かせるには充分な起爆剤だった。


「ねぇ、ミイスさんなら、ぬまのみずをあやつれないの?」


「泥とか入り過ぎてると重くて操作出来ないみたい。まあ、溺れることはないだろうけど…。」


沼の水は泥を始め多くの不純物を含んでおり、幾ら水の力を持っていても多少勝手が違うようだ。


『ちょっと、こっから先は沼の匂いがするわよ。あんたらを助けるのは面倒だから気を付けなさいよね。』


キャズが沼の匂いを嗅ぎ取り遠回しに警戒するように告げる。そのすぐ後で見たことがない植物が群生し鬱蒼とした場所に出る。昼間なのに妙に薄暗く、不快な臭いも僅かにしてくる。


『薄気味悪い場所だな。足元に気を付けろ。』


ほぼ全員が思っていることをファートが口にする。視界が悪いため、これは下手すると本当に底なし沼に嵌りそうな雰囲気だった。


「おかしいな…。」


『どうしたの〜?』


「ここら辺には沼地を生息地としている生き物がいっぱいいるんだけど、鳴き声や動く音がしない…。」


『そもそも気配がないよ。』


沼地でも多くの生き物が生息しているはずなのに、ビートとホウルは気配がまるでないことに戸惑っていた。


「ぼくたちがここへきたから?」


『ううん、何か異様だわ。私達が原因じゃないかも。』


嵐の前の静けさのように、ワイルズビーストや小さな虫まで何か恐ろしい物を警戒するかのように息を潜めていた。


「早く抜けましょう…不気味だわ。」


「なんだよ怖いのか?」


「じ…自慢じゃないけど私はオバケとかダメなのよ…!?」


その中でも足早にここから立ち去りたいと言い出したのは意外にもロゼだった。彼女はオバケがダメらしく顔つきも青ざめていた。


「そんなこと言ってもここは二日掛けて抜ける沼地なんだよ。そう簡単には…。」


「そ…そんなぁ〜…。」


『まあまあ、皆がいるからね…。』


「ぼくも…。」


この道を抜けて来たビートは躊躇いながらも、ロゼに取っては残酷な事を告げる。最低でも二日はここにいないと聞いて膝から崩れ、ベルナとサーティが彼女を励ますのだった。


「ひっ!?な…何!?わひゃ!?」


「どうした!?」


へこたれたロゼが不気味な感触に飛び上がり、そのまま前のめりに倒れてしまう。だが一瞬、目の錯覚だろうか?彼女のお尻に黒く太い尻尾のような物が見えた。


「ひいっ!?何これ!?」


「うわっ!?何だこれは!?」


太い尻尾はロゼの意思に反してビチビチと動いており、長い体躯をくねらせて、ヌルヌルとした粘液がその生き物の表面を黒光りさせていた。


「これはヒルチュじゃない?」


「ヒルチュだと?」


「うん、つちのしたにいてね、ほかのワイルズビーストのちをすうんだよ。」


その生き物を見たサーティはヒルチュと言うワイルズビーストだと言い当てる。


「取って取って!?何かチュウチュウしてる!?」


「本当に血を吸ってやがるのか!」


湾曲刀を握り締めてヒルチュを斬ろうとするが、ビートに止められる。


「待って!身体を斬り落としても口が食い込んだままになっちゃうよ。」


「じゃあどうすんだよ?」


確かに胴体を斬り落としても、口は食い込んだままになるだろう。しかし助けないと血を吸われ続けてしまう。するとビートはある物を取り出した。


「これを振りかければ…!」


『ピィ!?』


「あ、剥がれたよ!」


白い粉末を振りかけるとヒルチュは慌てて口をロゼの尻から離れてのたうち回る。


『今のは何なの?』


「塩だよ。ああ言う生き物は体表がヌルヌルしているんだけど、塩揉みにするとヌメリが取れるんだ。それを嫌がったんだよ。」


料理をしていることもあって、下拵(したごしら)えをするかのようにヒルチュを対応したビート。


「それと…チェインタクト、ラルト。そのヒルチュは逃さないで!僕がそれで料理を作ってあげる!」


『分かった!』


『ピギャ!?』


いつもはのんびりしているラルトだが、料理となれば電光石火のスピードでヒルチュに飛びかかる。


『ピギャ!ピギャ〜!?』


『あひゃひゃ!?くすぐったいよ〜…!?』


食われてたまるかと身体をくねらせて、ラルトの魅惑的な身体を弄ぶかのように暴れたり服の中へと侵入したりする。


『もう〜…大人しくして!』


『ピギ!?』


必死の抵抗もドラギアスの前では(まさぐ)りと同じであり、ラルトはヒルチュの頭を掴んでドラゴンの爪を力一杯食い込ませる。骨がないため頭部を容易く貫通し、暫く痙攣しのたうち回りながらヒルチュは絶命する。


『捕まえたよ〜!』


「ありがとうね〜!ここら辺には生き物がいないからどうしようかと思ってたけど、良い食糧が手に入ったよ!」


実際、捕まえて欲しいと言ったのは生き物の気配がないため食糧が手に入らないことを懸念したからだったがひとまずは安心だ。


「ねぇ…サルサくん、ビートくん。」


「はい?」


「何だ?」


すると先程まで酷い目にあっていたロゼが改まった様子で近寄って来た。


「見た…その…パンツ…。」


ヒルチュが食いついた時にズボンが破けており、そこから下着が見えてしまったのではと問い詰めてくる。


「え…僕はそんなのは…。」


「そう…で、サルサくんは?」


「…あー…眼福でした。」


サーティとビートはともかく、サルサは照れくさそうにそっぽ向く。その途端にロゼは無言で拳を振り上げるのだった。


「いってぇ〜…女子にグーで殴られたぞ…。」


「安心しろ。そんなこと滅多にないぞ。」


「一ミリも安心出来ねぇよ!てか、あってたまるか!」


その夜、顔が腫れた状態のサルサが頬を擦りながらボヤいていた。ホレスは気配りと言うよりも皮肉な台詞をサルサに掛けるのだった。


「さあ、調理を始めるよ!」


『待ってました〜!早くして〜!』


焚き火を前にビートがヒルチュを捌く用意をしており、いよいよ調理開始であった。


「まずヒルチュは血に毒があるから血抜きして…皮を剥いでいくと…。」


慣れた手付きで血を抜いて、予め塩漬けしてヌメリを取った皮を包丁で削いでいく。


「内臓とかも毒があるから処分して、身を串で刺していく…。」


腹を切り開き、内臓を取り除いた後に長い串を数本身に刺していく。


「そしてこれを火で炙って味付けをすれば…特製ヒルチュの蒲焼きだよ!」


「「「おおっ〜…!」」」


流れるような調理技術は目を張る物があり、あのヒルチュを美味しそうな蒲焼きにするなんて魔法のようだった。


「あの憎たらしいヒルチュがこんなに美味しそうになるなんて…。」


『じゃあロゼちゃんのはあたしが食べようか〜?』


「食べるわよ、食べる…わあ、美味しい…!」


あんなに酷い目に遭ったとは言え、美味しくいただければ充分に報復となるだろう。それを差し引いても中々の味わいだった。


「ホクホクだね。」


『付けてるタレも甘辛くて美味しいわ。』


サーティもアイラもニコニコしながら蒲焼きを食べていた。出来立てホヤホヤの肉厚な身に甘辛く煮たタレは一同を満足させるには充分だった。


「それにしても…昨日に続いて今日も何やら不穏な雰囲気ですね。」


「ああ、スゴい見られてる。」


美味しい御馳走を堪能するも周囲にはそうも言ってられないような不穏な光が灯っていた。空に燦々(さんさん)と輝く星空なら綺麗だと思うが、周囲を取り囲む爛々(らんらん)とした飢えた眼光となれば話は別だ。


『匂いからしてここに住む生き物達みたいだね。』


「あいつら何だってあたしらを見てるんだ?襲いに来たのなら気配でバレバレだ。縄張りって訳でもないだろうし…。」


「恐らく私達の食べ残しを狙っているのでしょう。見た所、多くのワイルズビースト達がかなり飢えているようですね。」


暗がりで見えないがそこにいる生き物達の多くは何日も食事をしてないかのように痩せ細っていて、気配を隠せないほどにヨダレを垂らしながらこちらを見ていた。


「やっぱり変だよ。ここら辺は食糧が豊富なはずなのにこんなにも飢えているなんて…。」


「ひるのときはしずかだったけど、それとかんけいがあるのかな。」


「異常事態と言うことか。」


昼の時もそうだが、夜になっても異変は続いていた。明らかにこれは何かあったとしか言えない。


『…皆、静かに…。」 


「頭領…!」


『うん…何か変だ…。』


ただでさえ異常事態なのにホウルとジャオは更なる異変を警告する。途端に先程の眼光も唸り声もピタッと途絶えてしまう。


「しずかになった…?」


『いや、静か過ぎる…。』


虫までもが鳴き声を止め、昼間のように嵐の前の静けさを彷彿とさせる不気味な静寂が沼地を支配した。


『ブルアアァ!?』


「何だ!?」


側の沼地で朽木の塊が動いたと思ったら、甲羅に朽木や苔などをビッシリと付着させた蟹が現れたのだ。


「ジャンクラブだよ!まわりのものをあつめてくっつけて、ぎたいするワイルズビーストだよ!」


『こいつが現れたから皆警戒したのかしら。』


「とにかくおかわりで蟹料理にでもしようかな?」


突然の襲撃に驚くも全員が武器を取り陣形を整える。ビートは仕留めた後のことを考えて献立を考えていたが少なくとも仕留める必要はなかった。


『ブ…ルア…!?』


「あれ?何もしてないよね?」


『どう言うこと?』


ところがジャンクラブは沼から出て数歩のところでハサミと脚を広げる形で力尽きた。何が起こったか分からず警戒しながら近付いてみる。


「見てください。これが原因のようです。」


『何よこれ…噛み跡?』


「随分とデカいな…。」


そのジャンクラブは身体の大半が噛み砕かれ、甲羅と中の肉が失くなっていた。これが致命傷となり死んだようだが、その傷は巨大で人を三人丸ごと呑み込めるほどに大きかった。


「おい、この噛み跡の持ち主がここら辺の生態系を狂わしたんじゃないのか?」


「考えられますね…。」


この沼地の異様な光景はこの噛み跡を作った生き物が原因ではないかとサルサが憂いていた。これだけ大きな生き物を仕留められるなら、ここの生態系を狂わせるだけの力はあるはずだ。


「どうする?」


「提案として木の上で寝泊まりしましょう。それなら少なくとも襲撃には備えられるはずです。」


まだ見ぬ得体の知れない相手と不気味な沼地の静寂の中でおいそれと寝泊まりすることなんて出来そうにない。せめて木の上に登って安全地帯を確保したいところだった。


『簡易的な足場を作っておけば皆で纏まって寝られるはずだよ。』


「チェインタクト!一気に片付けようぜ!」


ここは分身の能力が使えるジャオの出番だった。彼女は分身達と共に木片を集めて、樹上に足場を作って簡易拠点を製作する。


「交代で仮眠を取りながら見張りをするぞ。朝になったら一気に沼地を抜けるぞ。」


『うむ、その方が良かろう。』


こんな恐ろしい所は早々に立ち去りたいが、せめて明るくなってから移動を開始することにする。


「さあ、明日も早いし寝ましょう。」


「でもぼくもみはりくらいは…。」


幼くなったサーティを先に寝かしつけようとするが、彼は元々十歳であるためか役に立ちたいと動こうとする。


「私ね…まだちょっとオバケが怖いから一緒に寝てくれない?」


「うん…。」


オバケが怖いこともだが無理をしようとするサーティを大人しく寝かしつけようとするために優しく抱擁をするロゼ。サーティも了承すると同時に次第に彼女の温もりを受けて眠りに就いていく。


「灯りは最小限に…勘付かれると逆に私達が危険になります。これを使ってください、篝火(かがりび)と言い必要な時に蓋を開けると前方を照らしてくれます。」


「よし。」


渡されたのは蓋をした筒の中に蝋燭を入れた物で、これに火を点けて蓋を開けると前方を照らす仕掛けになっている。


「むにゃ…交代するよ。」


「ん、おー、悪いな。」


『暫く眠らせて貰うぜギザ。』


『任せてよ。』


見張りをしていたサルサとアルフに代わり、ミイスとギザが交代で篝火を受け取って見張りに立つ。ところがその途端に周囲の音が消えて静寂が訪れる。


「…!」


「ね…ねぇ…。」


「皆を起こせ…。」


何度も見聞きした前触れにミイスは固唾を呑んでおり、サルサは静かに仲間達を起こすように示唆する。


「皆、起きて。何か来たよ…。」


「何がいる…。」


ミイスが静かに仲間達を起こし、それを聞いて一同は武器を手に取り辺りを警戒する。周りは暗くて何も見えず、闇夜の海を航行しているようだった。


『音がする…水音も…。』


「それに何か引きずっているような音がする…。」


沼から何かが出てきて、ズルズルと何かを引きずりながら動いているような音がしてくる。


「何がいる……うわっ!?」


「「「わああ!?」」」


突然、大きな鈍い音がしたと思えば足場が大きく揺れて一同はバランスを崩して木の上から滑り落ちてしまう。


『くっ…マズいわ!見つかったのかしら!?』


「ちっ!?」


キャズが辺りを唸りながら見回し、サルサは篝火の光で周囲を照らす。


「なにもいないね…。」


「でも何かが通った跡があるわ。側を通り抜けたけど、過ぎ去り際に木に体当たりしたのかしら。」


周囲を見ても何もいないが周りの泥が押し退けられて平らな通り道が出来ていた。木の側にも通り道があることから、通った際に身体が木にぶつかったようだ。


「でも、見て!朝ご飯のジャンクラブがなくなってる!何処に持ち去ったみたいだよ!」


「あの大きさならジャンクラブを持ち去ってもおかしくないですが…。」


しかも目の前で力尽きてそのままにしていたジャンクラブが消えていた。あの噛み跡を付けられるのなら、持ち去るくらいの芸当は出来るだろう。


「これは最悪事構える必要があるかもしれん…。」


「対策を練った方が良いと思いますが相手が分かりませんね。」


相手がどんな奴かは分からないが最悪の場合を考えれば対策を考えておかねばならない。問題は相手がどんなのかが気になることだ。


「誰だ!」


「ひっ!?」


気配を感じ取ったジャオは武器のサイを木に向けて投げると三十代ほどの男性が尻もちをつく。


「貴様は何者だ。何処の回し者だ。」


「ま…回し者って…。」


「質問を質問で返すでない!貴様は何者だ!」


ただでさえ得体の知れない相手が多いのに、更に得体が知れない人間ともなればいよいよ持って、グリムバハムート【御伽の竜王】かサイクロプスアイズ【偉大なる隻眼】の追跡者かと思い尋問するホレス。


「お…俺はしがない釣り人だ…獲物を捕ろうとしてたんだが…。」


「獲物だと…ジャンクラブか?」


獲物となると考えられるのは倒されたジャンクラブだ。その肉をくすねようとしていたのかと首を傾げながら質問する。


「ち…違う…スネークバス…だ。」


「スネークバス!?まさかあの噛み跡はスネークバスの仕業なの!?」


だが、釣り人が告げた獲物の名前はスネークバスと言い、それを聞いたビートは思わず聞き返す。


「何だ、そのスネークバスとは?」


「スゴく食欲旺盛なワイルズビーストだよ。貪欲で目に付く物を丸呑みにして食べ尽くすんだ。下手をするとそこにいる生き物を全て平らげ、挙げ句には共喰いまでするんだ。」


話を聞く限りスネークバスと言うワイルズビーストは共喰いをするほどのとてつもない食欲を誇っているようだ。


「そんなのがいるんだ…でもビートくんは何でそこまで知ってるの?」


「料理すると美味しいんだけど、養殖してたのが逃げ出して近くの池の生態系を狂わせたことがあるんだ。今では特定の生息域から出すのを禁じるほどなんだよ。」


料理をする関係で家畜や養殖されているワイルズビーストを扱うためか、そう言う諸事情には詳しいようだった。


「特定の生息域…まさかここはスネークバスの生息域では…。」


「うん。全然違うよ。僕が通ってきた時にはそんなのはいなかったよ。ってことは…。」


『こいつがそのスネークバスを持ち込んだのね!』


「す…すみません…!?」


ビートが確信して頷くと、パスナとキャズが結論付けて釣り人を睨みつける。彼が特定の生息域からスネークバスを連れ出しこの沼地に逃がしたのだ。


「なんでそんなことを…せいたいけいがめちゃくちゃになるのに…。」


「スネークバスを仕留めることは釣り人に取っては最高の名誉なんだ。きっとそのためにここへと連れて来たんだろう。」


「見栄と自尊心が生んだ結果か。しかし相手は分かったな…。」


こんな事になったのも釣り人の自己中な思想が原因だった。何はともあれ自分達の敵が何なのかは分かった。


『……グルル!』


沼地の奥ではヘビのような長い体躯をくねらせながら、ジャンクラブの肉を甲羅ごと噛み砕きながら次の獲物を探している巨大な生き物がいたのだった。

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