謎の追跡者
「さて、ここへ来たと言うことは出発の準備が整ったと言うことだな?」
「「「はい!」」」
休養と準備期間は一週間で終わり、全員が王宮にいるレスディンの前に集合していた。
「父上、国の防衛の方は?」
「そちらは問題ない。遠征に行っていたジェンドを始め、他国のトライブレイト達が我が国へと来てくれた。」
残った目的には準備はもちろんだが、国の防衛力が戻るかどうかであった。それに伴って防壁などの復興作業も順調であった。
「では、我々は予定通りイリュガルへと向かうことになります。」
「うむ。しかしその前に行って貰うところがある。」
後腐れない今なら出発するにはうってつけであったが、レスディンは何か付け加えてくる。
「行くって、何処にですか?」
「通り道にもなっているから、道すがら寄ってくれればよい。その場所はダンジョンの一つであるノアズガーデン【ノアの匣庭】、そこへ行ってもらう。」
「ノアズガーデン…ノアがつくったワイルズビーストのほうこ!」
その場所はノアズガーデン【ノアの匣庭】と呼ばれるダンジョンであり、そこはたくさんのワイルズビーストが生息していると言う。
「確かにあそこは通り道ですし、ほぼ攻略は済んでいるはずのダンジョンですが…そこには何が?」
この世界に置けるダンジョンとは洞窟はもちろんのこと、ジャングルや雪山などの自然環境が作り出した場所をそう呼んでいる。しかし既にある程度の調査が済んでいるダンジョンに今更、何の用があるか分からなかった。
「そこにはジョブズジャッジがいる、そいつとまず出会って欲しいのだ。」
「ジョブズジャッジ?」
「確か人の役職や能力を見出すことが出来る人のことね。職業安定人とか職業鑑定師とか呼ばれているわ。」
ノアズガーデンにはジョブズジャッジと言う、職業適性を見ることが出来る人がいるらしくその人と出会って来いと言うことだ。
「お前達が開花させた能力が何なのかをハッキリさせることはもちろん、もしかするとサーティの呪いのことも何か分かるかもしれん。」
「じゃあ、あたしらの最初の目的地はそのノアズガーデンか?」
「そうなるな。まあ、その者が休暇で寄るほどだからさほど危険はないとは思うがな。」
最初の目的地は少しズレたがノアズガーデンとなり、そこでジョブズジャッジに能力の詳細を訊ねることとなった。
「ジョブズジャッジに会い、ノアズガーデンを抜ければその先には同盟国のソードルドがある。テレポータルを再起動させれば暫くは良い拠点となるはずだ。」
「なるほど…同盟国のテレポータルが再起動すれば、この国へ定時報告はもちろん拠点としても手堅いですね。」
ノアズガーデンの先には同盟国が存在しており、テレポータルを再起動させた後は拠点として使わせて貰うことにすれば、暫くは安定した旅が出来るはずだ。
「それではこれを支給しよう。」
「防具とプロテクターだ!それにアイテムボックスも!」
レスディンの声で衛兵達が人数分の胸当てや肩パッドなどの防具と腰に巻いて使う小箱のような物を渡してくる。
「ミミッコーンと言うワイルズビーストの箱から出来ている。ある程度の質量と数量を仕舞える仕組みだ。」
ミミッコーンとは宝箱や財布など人の目を引くような見た目に擬態し、近寄って来た相手を捕食するワイルズビーストだ。擬態はするが時折、本当にゴールドを蓄えていることがある不思議な生態がある。
「それとこいつらも連れて行くのだ。」
『『『チェ〜!チェ〜!』』』
「うわっ、何だこの本!?」
鍵付きの本が渡されるのだが、その本は自ら意思を持っているらしく鍵が不意に外れると、ページが飢えた獣のような口になって暴れ始める。
「バックブックってワイルズビーストだよ。にんげんのちしきがすきなんだよ!」
「知識?」
この過激な生きた本はバックブックと言うらしく、彼らの好物は人間の知識や知恵だった。
「バックブックは本来は本への記述を簡易化するための魔術が、そのまま本に命を与えたことが始まりとされています。その結果、バックブック達は自身のページを記載するために知識に飢えています。」
「父上、これは…。」
「報告書を作るためだ。そやつらがおれば簡単であろう。」
こんな危険な生きた本を渡してきたのは旅の記録のために必要だと考えてだった。
「さて、準備は整ったようだな。」
「何だか様になるわね。」
『ノアズガーデン…どんな所かしら…。』
装備を身に纏い、一端の冒険者のようになり何処となくシャンとなってくる。
『不安はあるが…。』
「ああ、楽しみでもあるな。」
「…ふっ、ホレスよ。お主は見ない間に成長しているな。ホレス!そして者共よ!この旅を経て更に偉大な存在になって来るのだ!」
自分の息子がファートと契約して旅に出ることもだが、何処か立派になったホレスを見て微笑みながら息子と仲間達を送り出す。
「「「はい!」」」
それに全員が力強く応えるのだった。そして今を持ってサーティ達はハルパニア王国を出て、外の世界へと旅立つのだった。
「頑張れよー!」
「ありがとうー!国を救ってくれてー!」
城の外に出ると出発したばかりなのに凱旋パーティをするかのような賑わいを見せていた。
「皆、サーティちゃんをお願いね。」
「お母さん!」
「ロゼ〜!?身体に気を付けるんだぞ〜!?」
「もうお父さんったら…。」
中にはサーティやロゼの家族もいて笑顔、或いは泣きながら送り出しており、照れ臭いような寂しいような気持ちでいっぱいになる。
「そんじゃ…一斉に行くか?」
「うん!せ〜…の!」
目の前には国境があり、ここを越えれば外の世界だ。サルサの呼びかけで全員が足並みをそろえ、ミイスの合図で一斉に足を出した。
「「「いってきま〜す!」」」
国の人達に見送られながら手を振って外の世界へと旅立つ一行。目指すはノアズガーデンだ。
「ぼうけんって、やまみちをいくのかとおもってたけど…。」
「まあ、整備された道を行けば早く辿り着けるしな。」
冒険と聞けば道なき道を行くかとサーティは想像していたが、彼の予想とは違い途中までは整備された道を歩いて行くこととなった。
『……。』
「どうしたんですか?」
『いや、何でないし。』
途中でキャズが何やら気にしているが、気の所為だと判断してそっぽ向く。
「暫く行くとキャンプが出来そうな場所があるよ。夕暮れになる前に用意しないとね。」
「まだ明るい内にキャンプの準備をするの?」
「意外とキャンプ設営には時間が掛かるんだよ。だから夕暮れより少し前に設営した方が効率が良いんだよ。」
遠くから来ていたビートは野営のイロハを熟知しており、設営には夕暮れの少し前にやるのが良いと説明する。
「と、その前にお昼にしよう。」
『お腹空いたねぇ〜。』
ここで昼休みとなり出発前に国の人から餞別で貰ったサンドイッチを食べることにする。
「結構、歩いたのにまだそんなに遠くには来てないわね…。」
「昼まで歩いたとは言え、進める距離はそんな物ですよ。」
かなり歩いたのだがさほど距離が離れてないことに疑問に思うが、徒歩だとそれくらいが限界だと知り改めて果てしない旅路だと遠い目になる。
『ノアズガーデンまではここからどれ程の距離にあるんだい?』
「そうですね…おおよそ二日でしょう。」
ホウルがノアズガーデンまでの距離はどれ程かパスナに聞くと二日は掛かると告げる。
「ただしこれは何かしらトラブルが起きない場合ですがね。」
「何だよそれは…これから何か起こりそうで不安になるな…。」
何か含みのある台詞を言うためサルサは何か確証でもあるのかと訊ねる。
「実際、キャズが何かに気が付いて警戒しているようなんです。」
『別に教えた訳じゃないわよ!』
パートナーであるためか相棒の異変には気が付いて何かあると警告するパスナ。
『キャズ、何に気が付いたの?』
『さっきから誰かに監視されているような気がするの…。』
「やっぱりそう思うか?あたしも匂いは感じないけど、何か視線を感じるんだ。」
何者かの視線にキャズとジャオは警戒しており、気が気でない様子だった。
『まさか私達をドラゴンに戻した連中か?』
「可能性はあるな…しかしこんなに早いタイミングでか?」
最初はグリムバハムート【御伽の竜王】かサイクロプスアイズ【偉大なる隻眼】の監視かと思われたが、もう傷を癒してここへ来たのかと怪訝な顔を浮かべるホレス。
「念の為、出発の際はサーティを中央にして進もう。」
「そうね。念には念を押して武器も持っておきましょう。」
昼休みを終えたらサーティのことを考えて武器を構えて陣形を取ることにする。
「どうですか?まだ何か感じますか?」
「あたしらが存在に気が付いたことで、向こうも付かず離れずで尾行して来てるぞ。」
陣形を組んで警戒しながら歩いていると、向こうも気付かれたと感づいて一定の距離を保ちながら後を追ってくるようだった。
「得体が知れないな…こっちから攻撃してみるか?」
「相手が分からない内に攻撃するのは好ましいとは言えん。囮かもしれないぞ。」
まどろっこしいためにサルサは先制攻撃をしようとするが、相手の力量を測るか或いは疲弊させるための囮かもしれないとホレスに止められる。
「じゃあどうする?」
「油断してると見せかけてこちらから反撃しましょう。」
相手の正体が分からないなら、油断させて近寄って来たところを逆に襲う作戦を立案する。
『だいぶ日が傾いて来たけど、あいつらはまだ私達の後を尾行してるみたい。』
「そろそろ寝泊まりの準備をしないといけないよ。暗くなったら準備すらも危うくなるし…。」
そろそろ夕暮れ時となり、今日の所はここら辺で野営をすることにする。しかし謎の追跡者達は相変わらず自分達のことを監視しており気が気でなかった。
「二人一組でバラバラにならないよう動くべきだ。サーティはここにいて身を守るんだ。」
相手の得体が知れない以上は単独行動は命取りであるため、数人一組で行動するように心がける。それと同時に狙われているサーティにはここに残るように注意しておく。
「ぼくもなにかてつだいたい…。」
『サーティ、今は我慢してて。それにその身体で歩き続けたからかなり疲れてるはずよ。』
仲間の一員だからこそ守られてばかりではなく、何か手伝いたいと懇願するが、呪いで五歳まで若返り長い道のりを歩いて来たのだからかなり疲労が溜まっているはずだ。
『私も一緒に待つから…ね?』
「うう…うん…。」
無力さに情けなくて泣き出しそうになるが、アイラの言葉を聞き我慢してその場に座り込むサーティ。
「美味しそうなキノコだよ!」
「待って、それは毒キノコだから食べられないよ。あ、ホレスさんはそこの木の実を…そうそうその熟した奴をね。」
「これか?」
「食材に関してはやっぱりビートくんが頼りになるわね。」
一人で長い間旅をしてきたこともあって、ビートはどれが食べれて、どれが食べれないかを的確に見分けていく。
「サーティちゃん、大丈夫かしら?」
「うん、だいじょうぶ。」
「問題はありませんでしたよ。」
暗くなる前に食材を集め終えた一同はサーティと遊んでいたドラギアス達と、同じく留守番で読書をしていたパスナが待つキャンプへと帰ってきた。
「このテントはカモフラージュ機能に加えて、外からの衝撃にも強い作りですし、正しく最高品質ですね。」
「料理は任せてよ。ふふん♪ふ〜ん♪」
慣れた手付きで調理道具を手にし、採取したキノコやドングリのような木の実などの食材を切って味付けをしていく。
『火の準備は出来たぞ。』
「ありがとう。」
アルフは円状に並べた石の中に火を起こし、その上にフライパンを置いて調理をするビート。
「お待たせ、ビート特製のキノコと木の実のソテー!」
キノコとドングリのような木の実が材料として使われているが、中には肉のような脂の乗った種類も含まれており素材の割にはかなりジューシーな仕上がりになっていた。
「おいしい!このドングリはなんなの?」
「フィレングリって言って、栄養をかなり吸った実は肉みたいな味わいになるんだよ。」
「ふむ…専属のシェフにも負けないほどだな。」
現地調達した食材で調理したが、小さくなったサーティから王族なために舌が肥えたホレスも絶賛する辺りさすがはと言うべきだろう。
『やっぱりあなたをパートナーにして良かった〜!美味しい〜♡』
「良かった良かった!…それでまだいる?」
『うん、いるね…まだ視線を感じる。』
美味しい料理で旅の初日を締めくくりたいが、姿を見せない何者かの監視の目があっては手放しでは喜べなかった。
「良いか、では作戦通りに…。」
「うん。おやすみなさいね。」
明日も早いため、もう寝ようと男女別のテントに入っていく中で、自分達に聞こえる声量で何か言葉を交わすのだった。
『『『……。』』』
相手が寝静まり返ったのを確認して、追跡者達は音を立てずに次々と姿を現す。大きさは人間の膝小僧より低く、見た目も人間からかけ離れた姿をしていた。
彼らはビートが調理していた場所の匂いを嗅いだり、枝のような腕を使って手探りで探ったり、お溢れにありつこうとしていた。
『ギャワ!?』
するとその内の一体が木の根を踏んだ瞬間に、ツルが絡みついて空中に吊るされてしまう。
『『『ギャギャ!?』』』
「誰だ!姿を現せ!」
仲間が吊るされる突然の出来事に混乱していると、ホレス達が声を荒げてテントから出てきたため彼らは慌ててその場を立ち去る。
「あいつら…逃げ足が早いな。」
「もう姿が見えませんね。」
音を聞きつけてすぐに飛び起きたのだが、相手はそれよりも早く動いて姿を晦ますほどの素早さを持ち合わせているようだ。
「でも私がベルナちゃんとチェインタクトして、周りの植物を使って罠を張ってたから何か引っ掛かったはずよ。」
『うん、手応えがあったわ。』
チェインタクトでロゼは周りの植物を操り、罠を張っていたがその甲斐あって謎の追跡者の一体を捕らえたのだ。
「って、何だ?葉っぱと枝しか入ってないぞ。」
ところがツルを網状にして何か捕らえたかと思えば、中には木の葉と枝しか入ってなかった。
『ギャギャ…!?』
「うおっ!?」
ところがその木の葉の中から爛々とした目を光らせながら暴れ始める。枝のようなか細い腕、更に水鳥のような扇状の足を持っていて何かの生き物のようだった。
「これ、ギリーリッグってワイルズビーストだよ。」
「ギリーリッグ?」
「私も聞いたことがあります。隠れるのと悪戯が好きな性格で、姿を見られると一目散に逃げるそうです。」
このワイルズビーストはギリーリッグと言い、見た目は茂みから手足が生えて動いているようだった。
『見て、あそこ。』
『『『……。』』』
アイラが何かに気が付いて指差すと、捕らわれたギリーリッグの仲間達が心配そうにこちらを見ていた。
「ねぇ、みんな…。」
「そうね。悪い子達じゃなさそうだし…。」
敵意がないと分かり、ロゼはツルを操ってギリーリッグを降ろす。
『ギャギャ!』
『『『ギャギャ!』』』
解放された個体と共にギリーリッグ達は茂みの中へと消えていく。
『もう視線は感じないわ。私達のことが気になってただけみたいね。』
「人騒がせな…しかし一安心だな。」
どうやら今まで監視していたのは何者か知りたかったようだが、こんな目に遭えばもう二度と出会わないだろう。
「でもこれから先、こう言うことがないわけよね…サーティちゃんを狙う奴らもいる訳だし。」
「出発前にビートに任務を忘れてないかどうかと問うたが…余も緊張が足らんかったようだな。」
今回はギリーリッグの仕業であったがもしも追手だったらこれだけでは済まないはずだ。一同は一安心するもののこれから先の旅路は生半可な物ではないと覚悟するのだった。
「…ぜったいにノアズガーデンにいこうね!」
「…そうね、弱気になってられないわね。」
「おうよ、絶対に行こうぜ!」
緊張し多少不安な気持ちになる一同を励ますようにサーティが呼びかけ、それに全員が力強く頷くのだった。




