運命の夜明け
「僕は僕の大切な人達を守る…その願いだけは負けない!」
竜騎士のようになったサーティとアイラは、サイクロプスアイズとグリムバハムートを前にしてももはや恐れる様子は微塵もなく、寧ろ正面から堂々と挑もうとしていた。
「サーティちゃんとアイラちゃんが…一つになった!?」
『スゴい…あんなのドラギアスの中でも見られないよ!?』
ドラギアスと人間との一体化はこれまでに前例がなく、この二人の変わりようは定説を覆すかのような衝撃だった。
「やはり…やはり君はスゴい可能性を持っているよ!ドラギアスと一つになるなんて!」
予想以上のサーティの可能性にカロイも驚くと同時に喜びが込み上げていた。
「是が非でも我がグリムバハムート【御伽の竜王】に来るんだ!」
「いいえ!サイクロプスアイズ【偉大なる隻眼】に!」
カロイとマシュラはそれぞれの組織にサーティとアイラを勧誘する台詞を言いつつも、力づくで連れて行こうとしているのか武器を構えていた。
「どっちも…どっちも皆を傷つけるからイヤだ!」
完全否定したと思えばサーティは背中のドラゴンの翼を広げ羽ばたいた瞬間にスパークドラゴンの所へと移動していた。
「はあっ!」
『ギエエエ!?』
鳩尾に空気が震えるような重い拳を叩き込み、これにはスパークドラゴンは堪らず叫びながら後ろへと飛ばされる。
『ハイサ!』
「だあ!」
『ギエ!?』
飛ばされまいと踏ん張ろうとしたがジャオとホウルの打撃が膝裏に当たって足払いされ、スパークドラゴンは盛大にひっくり返ってしまう。
『どうしたんだろう…身体の奥底から力が漲ってくるようだ!』
「ああっ!まだまだ…!」
「「「やれるぜ!」」」
既に体力が底を尽きかけていたのに、サーティとアイラが一体化してから身体が雲のように軽くなり、マグマのように力が溢れてくるのだ。ジャオも不敵な笑みを浮かべて分身を作り出す。
『行くよ!』
「「「よ〜し!」」」
分身達はホウルの尻尾にしがみつき、振り回される勢いで遠くにいるタイラントの方まで飛んでいく。
「ビート!大丈夫か!?」
「何処に行ったんだ!?」
分身のジャオ達は大砲の火薬の爆発に巻き込まれたビートを助けようと探し始める。すると足元の瓦礫が僅かに動いて砂利を落としていく。
「ぬ…うおおおっ…!」
「いっ!?ビート…!?」
「無事だったのか!?」
その瓦礫を下から動かしたのはビートだった。ジャオが上に乗っていたのを差し引いてもかなり重そうな瓦礫を押し退けて自力で脱出する。
「爆発に巻き込まれて傷だらけになった痛みで気絶してたけど…何だか力が溢れてくるんだ!」
『グオオオン!?』
同じ頃、ストーンドラゴンが火山のように吹き上がる火柱に悲鳴を挙げなから後退りしていた。
「ぬおおおっ!燃えるぜ!!」
それは岩石によって生き埋めにされたと思っていたアルフとサルサだった。二人は全身に炎を纏っていたが、これまでの物とは異なりかなり巨大でその熱で周囲の岩やストーンドラゴンの鱗が溶け出すほどだった。
『ギャアアアア!?』
炎に耐えられるとは言え、岩の鱗が溶けては堪らずストーンドラゴンはその場を動き出そうとアーティガルのチータテンの力で脱しようとする。
『サーティ、まずはストーンドラゴンとチータテンを!』
「分かった!」
一体化したアイラがサーティにアドバイスし、スパークドラゴンとは対角線上にいるはずのストーンドラゴンの元へと一気に飛んでいく。
「『キーロック』!『ジャンヌ・ダイア』!」
「チェインタクトの詠唱も無しにアーティガルの力を!?」
本来ならば『チェインタクト』の詠唱を唱えねばアーティガルやドラギアスの力を扱うどころか、契約して意思疎通すら出来ないのにサーティはそれを省略する形で二人のアーティガルの力を使用したのだ。
「キーソード!ブリリアントカリバー!」
右手の甲に鍵のような剣と錠前のような籠手が出現し、左手にはブリリアントカットされた聖剣を握っていた。
「はあああっ!」
『ギャアアアア!?』
まずはブリリアントカリバーで背中の鱗を逆撫でするように一気に削り落とす。人間で言うなら皮膚を剥がされるのと同じ痛みで、これにはさしものドラゴンと言えどものたうち回る。
『あそこ!』
「ホレスさん!パスナさん!お願い…死なないで…!」
アイラの指摘でストーンドラゴンが尻尾を置いていた場所に着陸したサーティは、強く願いながら手の平から光球を出してその場に拡散させる。
「むっ…?どうしたんだ?」
「確かストーンドラゴンの尻尾の下敷きになったのでは?それに私のこの腕は…。」
光が消える代わりにホレスが無傷の状態で訳が分からないと言う様子で唖然としており、パスナもこれまでの傷がなくなるどころか失ったはずの腕までもが元通りになっていたことにメガネをかけ直して戸惑っていた。
「良かった…本当に…!?」
「…!?サーティなのか…?しかしその姿は…?」
近くに見たことがない竜騎士がいると思えば、サーティだったことに処理が追いつかず頭を抱えて混乱するホレス。
「僕にも何が何だか…。」
『グオオオン!』
ホッとしていたサーティの背後から鱗を削り落とされた仕返しにとストーンドラゴンが襲いかかろうとしていた。
『サーティ!』
「うわっと!?」
この状況で最年少のサーティは吹き飛ばされていてもおかしくない。しかしその予想を裏切るかのようにストーンドラゴンの前脚は彼の手によって止められたのだった。
「あ…あれ?」
「お主…いつの間にそんな力を…。」
幾ら姿が変わったとは言え、これだけの体格差の相手の動きを止めるとは思いも寄らなかった。
『チャンスだ、サーティ!オイラの能力を使え!』
「そっか!ムーブロック【動作封印】!」
『カッ…!?』
キーロックの声を聞いたサーティは左手の鍵の剣を当てて右に捻ると、ストーンドラゴンの動きが時を止めたかのように動かなくなる。
「これでチータテンのスピードは使えないよ!」
最初にストーンドラゴンの相手をしたのはチータテンのスピードが厄介だったため、サーティとアイラはまずキーロックの力でストーンドラゴンの動きを止めることに専念したのだ。
「お主まさか…その姿でキーロックの力を使っているのか?しかもよくよく考えればアイラもいないが…。」
「今は僕と一体化してるんだよ!」
事情をよく知らない二人にそう話すサーティだが、国のことをよく知るからこそドラギアスと一体化したトライブレイトなんていないためにわかに信じられなかった。
「しかしキーロックにこんな大きな生き物の身体を止めるほどの力があるとは夢にも思いませんでしたよ。こんなの私達だったら終わっていたかもしれません。」
最初にキーロックと会った時は自分達も身体の動きを止められた。ドラゴンですらこの有様なら自分達もあの時だけで終わっていた可能性がある。
『いいや、オイラの能力は動く物体をその場で固定してたり動かせるように解除することだけど、質量のあり過ぎる物はロックしてられる時間と範囲が狭まるんだ…あんな大きな生き物は止めたことがないんだ。』
しかしながらキーロックはドラゴンやギガントなどの余りにも大きな相手を止めることは出来ないと告げる。扉を施錠しても開ける力が大きれば大きいほど扉そのものが壊れるのと同じでキーロックの施錠の力も万能と言う訳じゃないのだ。
「ではどうやって…。」
『よく分からないが…サーティと一緒にいると何でも出来るって気がするんだ。二人も何となくそんな気はしてたんだろ?』
実際に目の前のストーンドラゴンを止めた方法や理屈は不明だが、少なくともやはりサーティが鍵であり、側にいると自身の可能性が広がるのだと断言する。
「まさかこれは君が…?」
「可能性を広げる…もしかするとそれがサーティの力の一つなのか?だとしたら奴らが欲しがるのも納得だ!」
そう言ってホレスはソードを抜いてカロイと刃を交え、パスナは兵士が落としたと思われるシールドを掴んでマシュラの投げたダガーを弾く。
「やはりあなたはどうあっても欲しいです…!」
「我らと共に…!」
「渡すと思ったかこの不届き者めが!我らを見ていろ!!」
戦っている相手を差し置いてサーティを手に入れようとする二人にホレスは大声でまくし立てる。
「サーティ!お主はあのドラゴンとギガントはどうにか出来るか?」
「う…うん!皆と一緒なら…!」
「そうか…皆と一緒ならか…。」
多少自信が無さそうにするも自分達と一緒なら大丈夫だと言い、自分達を頼りにしてくれることにホレスは台詞を反芻する。
「ならば王位継承者として命ずる!この不届き者は我とパスナで相手する!お主は仲間達と共にドラゴンとギガントを撃破せよ!」
「うん!」
敢えて王族の命令としてサーティとそして仲間達に聞こえるように大声で命ずるホレス。それを聞いたサーティと仲間達も力強く頷く。
『まずはストーンドラゴンのチータテンを…!』
「分かった!」
まずは目の前のストーンドラゴンからチータテンを取り除くために背中へと飛び立つ。
「お願い…チータテン…ストーンドラゴンから出ておいで…。」
ストーンドラゴンの背中に手を置いてチータテンを解放しようとする。しかしうんともすんとも言わず何も起こらない。
「あれ?何で出来ないんだろう…。」
何も起こらないことに首を傾げるサーティに、襲いかかろうとする一つの影があった。
『グオオオ!』
「ネイチャードラゴン!?」
前脚でネイチャードラゴンに鷲掴みにされてしまったサーティ。更にダメ出しでツルが身体に巻き付いて身動きが取れなくなってしまう。
「動けない…これじゃキーロックの鍵も使えない…!?」
「やあ、いらっしゃい。」
「あ。」
対策されているのか鍵の剣も使えなくなるほどにツルでガチガチに固められると言う危機的な状況で同じく捕まっていたミイスと鉢合わせる。
『今行くぞ!』
「おりゃああ!」
『ゴガアア!?』
そこへアルフに身体を掴んで貰ったサルサが共に空へと舞い上がり、サーティとミイスとギザを拘束しているツルを焼き切った。
「無事かお前ら!」
「うん、あたし達は大丈夫!」
ギザに身体を掴んで貰って空を飛ぶミイスはサムズアップして無事をアピールした。
「何でさっきは上手くいかなかったんだろう…。」
『何をしようとしたの?』
「僕はストーンドラゴンからチータテンを解放しようとしたけど何も起きなかったんだ…。」
ドラゴン達のことは任されたのに何も出来なかったことにサーティはションボリしていた。
「何かコツがあるのかな。」
「コツって?」
「あたしも水の力を使うには水を自分の身体の一部みたいに考えたけど。サーティくんの場合はどうしたら良いのかな?」
『質問を質問で返すの…?』
コツがあるのではと言った割に、逆に質問でサーティに返すミイスにギザは疑問視する。
「水の力はそれで良かったけど、サーティくんの場合は多分それとは違うと思うんだよね。きっとその姿になったのにも何かあるはずだよ。」
的を得たミイスの返答にサーティは考え込む。一体化する際のことを思い返せば、ロゼやサルサが自分のことを大切に思って戦ってくれていたことが思い起こされる。
「皆が僕のことを思って戦ってくれた…皆のためにも守りたいって思った…あ、もしかして!」
何か思い付いたのか先程のションボリした顔から一気に希望の光が見えて明るくなるサーティ。
「ねぇ!皆にお願いがあるんだけど…。」
「どうしたんだ、改まって…。」
「何か分かったの?」
表情からして打開策でも思い付いたらしく、サーティはあることをミイス達に頼むのだった。
「え、そんなんで良いの?」
「それで上手く行くのか?」
頼まれたことは至ってシンプルであったが、それゆえに本当にこの状況を打開出来るのか不明だった。
「もしかするとそれならきっとあの人達を退けることが出来るんだと思う。これまでのことを考えればきっとそれが僕の力のコツだと思う。」
「これまたにわかに信じられないが…辻褄は合っているな。」
『それどころかもしもそれが本当なら…奴らを追い払えるかもしれない。』
あり得ない話にも聞こえたがこれまでの出来事とも結びつくし、本当ならばグリムバハムートとサイクロプスアイズを国から追い出せるはずだ。
『じゃあ僕達は…。』
「うん!行こう!サーティくんも気を付けてね!」
サーティに頼まれたことを実践するためにサルサ達はそれぞれ別行動を始める。
「邪魔を…しないでください!」
「出来ない相談ですね!」
四本の腕に握られたダガーと足技で白兵戦を仕掛けるマシュラに対してパスナは盾のみでそれを防いで防御に徹していた。
「戦う気がないのなら…はあっ!」
このままでは埒が明かないと思ったマシュラはダガーを盾に投げつけ、パスナの視界が遮られたと同時に高くジャンプする。
「おっと!」
「ぐっ…!邪魔ですねやはり…!?」
しかしパスナは戦う気はなくとも、先には行かせないとワイヤーを投げて足を絡め取る。
「タイラント様!あなた様の力でその子供を捕らえてください!貢ぎ物の食材をたんまり用意致します!」
『良いよぉ〜!』
「うわっ!?」
動けないマシュラの代わりに涎を垂れ流しながらタイラントはサーティを鷲掴みにする。
『スゴい力…私の力でも振りほどけない…!?』
『ダイアモンドの身体ですが…これでは手出してが出来ません!?』
握り潰されることはないとは言え、両手を挟まれる形で握られたために振り解くことは出来ず、このままだと倒されることはないとは言えそのまま連れ去られてしまう。
「大丈夫…皆がきっと…。」
『グオオオン!』
『わっと!?』
アイラとジャンヌ・ダイアが悲観的になる中でもサーティは希望を捨てないでいた。しかし追い打ちをかけるようにストーンドラゴンが、タイラントの拳に飛びついて来たのだ。
「貴様ら邪教徒には彼を渡す訳にはいかん!」
「それはこっちの台詞だ!とっとと不届き者達を連れてこの国から出ていけ!」
「彼を寄越せばね!」
カロイが負けじとストーンドラゴンを仕向けたのだ。ホレスは『防ぎきれず不甲斐ない』と言う顔でカロイと再び刃を交える。
「サーティちゃん達が頑張ってるのに…私は何も出来ないの!?」
家族以上に身の回りのお世話をして来たロゼはサーティのピンチを目の当たりにしてもどうにもならないのかと悲観に暮れていた。
「いや!出来ることはある!」
話を聞いていたのかアルフに抱えられて飛んでいたサルサが慌てた様子でロゼに駆け寄る。
「出来ることって…?」
「ロゼ!大好きなサーティに勝って欲しいんだよな!」
「そ…そうよ!でも、あの子が無事に帰って来て欲しいのが一番の本音よ!」
何を言うかと思えばサーティが勝って欲しいのかと問われる。それはロゼはもちろん、他の皆が思っていることだし今更何を言うのかと顔をしかめる。
「なら強く思え!そうすればきっとあいつはお前の…いや、俺達の思いに応えてくれるはずだ!」
「強く思え…?分からないけど、そうするわ!」
何の意味があるかは分からないが、デタラメを言ってるようには思えないし、正直なところ無事に帰って来ることを祈っていたがサルサから言われて今まで以上に強く祈る。
「皆!サーティが勝つって強く願え!」
「そうすれば勝てるんだ!」
「サーティに勝ってくれって!」
分身したジャオは避難していた国民に呼び掛けをして周っていた。
「サーティって…誰?」
「さあ…?」
ところが避難していた人々は『サーティ』が何者か分からなかったため互いに首を傾げるばかりだった。
「サーティはサーティだって!」
『ここは私が…今ドラゴンとギガントと戦っている人がいます。彼が勝つように…或いはあなた達の生活を脅かそうとする人達を追い返すことを願ってください。』
ジャオは自分達に分かるようにしか言わないため、代わってホウルが詳しく説明するのだった。
「それでどうなるんだ?勝てるのか?」
「祈ってろってのか…それじゃあ世も末じゃ…。」
悲観的に暮れて捻くれた返答をする人々。夜寝ていたら子供を攫われ、その上で何者かの侵略を受けていたと知り精神的にも参ってるため無理もなかった。
「おい!あいつが何を思って戦ってると…!」
『ジャオ…彼なら勝てるかもしれないんです。ただ、彼一人の力だけでは勝てないんです。』
「言ってることが矛盾してるぞ…どう言うことだよ?勝てるのに一人じゃ勝てないってのは…。」
激昂するジャオを諌めるホウルはサーティなら勝てるが、彼一人では勝てないと支離滅裂なことを言うため余計に困惑する。
『彼の真の力は…皆さんが強く思い、強く願うことで発揮されるのです。どうか…お願いします…。』
「頭領!?」
するとホウルは心から念願するように人々の前で土下座したのだ。
「勝てるのか…そいつなら…?」
『勝てると…信じてあげれば、きっと勝てるんです。』
土下座までされてしない訳にもいかないが、勝てると言う根拠を訊ねる人々。それに対してホウルは土下座をしながらサーティの可能性に強い信頼を置くような毅然とした目付きで見ていた。
『グルルル…!』
『この子は渡さないよ〜!』
ストーンドラゴンとタイラントはサーティを巡って互いに譲らない様子で組み付いていた。
「ぐぬぬ…!?」
そのサーティはタイラントの拳の中にいるのだが、タイラントが渡さないと握る力を強めるため身体とアイラのドラギアスの鎧からミシミシと軋む音がしてくる。
「サーティ!?衛兵!ギガントに砲撃用意!」
「し…しかし…うわっ!?」
『『『ギギギギ!』』』
何とか助けたいが今近くでギガントの拘束を解けるのは大砲くらいだ。しかしながらアリ型のワイルズビーストのアリカポネやギャングトルーパーがいては自分の身を守るだけで精一杯だった。
『グルアアアア!!』
『いたっ!?渡さないんだからー!』
「うああああ!?」
「サーティちゃん!?」
ストーンドラゴンがタイラントの拳に噛み付き、痛みから負けじと拳を強く握り締める。ちょっと力むだけだが、小柄なサーティからすればまるでプレス機のような圧力が掛かるため痛みから悲鳴を挙げるためロゼは思わず泣き出してしまう。
『グアアアア!……グル?』
『何これ?』
「光…?」
互いにいがみ合っていると、淡い白い光が蛍のように次々と空へと浮かび上がってくる。
『綺麗…あら?』
「光があのギガントの手の中に…?」
幻想的で思わず見惚れていると、光は全てタイラントの拳に当たったかと思えば雪のように浸透していき集まっていく。
「うおおおっ…!」
『え…何…?』
「まさかサーティちゃん…!?」
光が集まっていくとタイラントの拳の中で強い光が溢れていき、圧倒的な体格と怪力を誇るはずのギガントの閉ざされた拳が、彼女の意思に反して徐々に開かれていくのだ。
「うううっ…!だああああ!!」
『わひゃっ!?』
ドラゴンにもそしてギガントでも開くことがなかったその拳は白い光を纏ったサーティがこじ開けたのだ。
『綺麗だね…君…。』
「これは…これは皆の思いや願いの力だ!」
「思いや願いの力…?」
白く輝くサーティに何が起こったかは分からなかったが、それには周囲の願いや思いが関係していた。
アーティガルとドラギアスが解放された際にサーティは彼らの自由を望み、シンクロコネクトの際は仲間達をサーティが守りたいと望んだからこそ果たされた。
「なんとなくだけど分かったんだ、僕の能力は…『願い』の力だったんだ…!」
そう…アイラと契約した際にサーティが目覚めさせた能力は『願い』の力だったのだ。
「願いの力…だからアーティガルやドラギアスの皆が…。」
「それって願っただけで何でも願いが叶うってこと?!」
ビートが言うようにそう考えればサーティには自身が望むだけで何でも叶う能力があると思うだろう。
「ううん、それでもサーティくんはそれを上手くコントロール出来ないの…だからスパークドラゴンの時に失敗したの。」
確かにサーティにはその力が備わっているが強力過ぎる余り本人はその力を上手くコントロール出来ないのだ。そのためバッテ・リーとスパークドラゴンを分離させるのに失敗したのだ。
「けど、願いの力は何も独りよがりじゃ果たされないってあいつ自身が気が付いたんだ。」
「だからあたし達が飛び回ってお願いしたの!」
しかしコントロールは出来ないものの、願いの力は何もサーティ自身に適応される訳じゃない。だからこそサーティは先程サルサとミイスにあることを頼んだのだ。
「『サーティくんに勝って欲しい』、『グリムバハムートとサイクロプスアイズを退けて欲しい』ってね!」
「さっきのはそう言う意味だったのね!」
これで納得が言った。先程サーティに勝って欲しいと願ったのは、人々が願うことで彼の願いの力を増幅させるためだったのだ。気が付くと兵士も避難していた人々もサーティに強く願っていた。
『綺麗だけど、捕まえちゃうよ!』
「はあっ!」
蛍でも捕まえるようにタイラントは両手で包み込もうとするが、ブリリアントカリバーの一振りで巨大な両手を払い除ける。
『えっ?えっ?』
「やあっ!」
「なっ!?タイラント様!?」
払い除けられただけでも信じられないのに、今度はサーティが目の前からいなくなったと思ったら、タイラントの巨体はひっくり返って地面に倒れていたのだ。
「だああ!」
『グオオオン!?』
『ぎゃは!?』
タイラントを倒したと思えば今度はストーンドラゴンを墜落させ、それと同時にチータテンも分離するのだった。
「まさか…これがサーティの本当の力!?自分はおろか人々の願いを叶える力なのか!?」
「そうだ!これは僕と…皆の願いの力だ!お前達を倒して皆を守って!僕に勝ってって!願ってるんだ!だから僕はお前達には負けないんだー!」
願いを受けたサーティは白く輝きながら倒すべき相手目掛けて一気に駆け抜けていく。その際に軌跡を残していくのだが…。
「サーティちゃん…まるで流れ星みたい…。」
「シューティングスターロード【願いの軌跡】!」
ロゼの言うとおり、サーティはまるで夜空を駆ける流星のようだった。その軌跡の後にはドラゴンもギガントもアーティガルも、そしてマシュラもカロイもワイルズビーストも立っていなかった。
「…!うああああ!皆は…僕が守るんだぁ!!」
駆け抜けたサーティは空中で止まり、身体の白い光が無数の光の玉となって弾けて雪のように降り注ぐ。
「はあ…はあ…皆…。」
『サーティ…終わったよ…。』
「良かった…。」
「サーティちゃんー!?よく頑張ったわね!?」
アイラは元の姿に戻って側で体力切れになってへこたれるサーティを励ましていると、ロゼが感極まってサーティに抱き着く。
「サーティ!」
「サーティくん!偉かったね!」
『僕、感動しちゃったよ!?』
「お主はよくやったぞ!」
仲間達も遅れて集まってサーティを賞賛するのだった。白い光の球が降り注ぐ中で眩しい朝日が差し込んで幻想的な光景を作り出す。まるで国を守ったサーティ達を祝福しているようだった。
「サーティ…お主はもう既にこの国を救った英雄となっただろう。」
「待てよ、今は治療しねぇと…。」
「そ…そうだな。後の話は父上がするだろう。今は…。」
賞賛と賛美を贈ろうとするが今はケガ人の治療が優先されるため、気を取り直して兵士達にケガ人の治療を命令しようとする。
「は…はははっ!さすがだよサーティ!」
なんとサーティの一撃を受けて倒されたと思っていたカロイは瓦礫を押し退けて姿を現す。
「お前、生きていたのか!」
「さすがにあれくらいでは死なないさ…しかしあの一撃はさすがに効いたよ…もう既にギリギリって感じさ…。」
何とかあの一撃は堪えたようだが、腕や頭から流血しており息もゼエゼエと荒く既に限界は越えているようだ。
「この不届き者め!今すぐひっ捕らえてくれるわ!」
「ここで終わる訳にはいかないが、このままにして彼を置いていくのは癪だ…だから…チェインタクト!」
「まさか彼はまだアーティガルを…。」
サーティは欲しいが身体がボロボロな上にライバルがまだ狙ってるのならこのままではマズいと考えたカロイはまだ所持していたアーティガルを呼び起こす。
「魔剣カースセイバー!」
『セイ…!』
現れたのはささくれた刃を持つ黒い魔剣のアーティガルだった。そのアーティガルは地面に突き刺さり、禍々しいオーラを放っていた。
「ぐう…!?ぬおおおっ!!」
地面から引き抜き、ただでさえ傷だらけのカロイは痛みに耐えながら暗闇のような真っ黒な斬撃を放った。
「危ない!?」
「サーティちゃん!?」
それに気が付いたサーティが前に飛び出してしまい、その斬撃を身体で受け止めてしまった。その斬撃はサーティに当たると彼の身体の中に浸透していく。
「仲間か彼に当たればと思ってたが…成功のようだな。」
「貴様!手に入らないのならいっそ殺すつもりで…!?」
敵の手に渡るのなら破壊するのも一つの手だが、こんな幼いサーティまで始末したことに憎悪の視線を向ける。
「いいや、死にはしない。だが、いずれ俺達の元へ来ることになるだろう。」
「待て…!?」
追いかけようとするが煙玉のような物で煙幕を拡散させ、視界が遮られた隙に逃げられてしまう。
「ああ…!?ああああっ!?い…痛い…!?身体が痛いよぉ!?」
「サーティちゃん!?」
逃がした悔しさがこみ上げるも、まるで骨と肉が焼けるような激痛に苛まされるサーティの悲鳴によって掻き消される。必死の思いで国や大切な人達を守ったサーティ達に過酷な結末が襲いかかるのだった。




