グリムバハムート【御伽の竜王】
かつて太古の昔…まだギガント族とドラゴン族とが争いを続けていた頃、戦争の中で名を挙げる者達が現れた。
ドラゴン族からはその強さと恐ろしさから同族からも恐れられ、人々は口に出すことも恐ろしいとされ伝説や御伽話としてその名を残すこととなった…。
「今こそドラゴン族の復興のために…かつての伝説のドラゴン達を呼び覚ます!」
『『『グオオオオオ!』』』
そしてドラゴン族は種として滅んだとされる現代に、グリムバハムート【御伽の竜王】と呼ばれる組織が何らかの方法で、三人のドラギアスを三体のドラゴンへと変えてしまったのだ。
「伝説のドラゴンって何?」
「僕も本で読んだことがあるよ。ドラゴンにはとても強くて、伝説やお話になったって言われる最強のドラゴンがいるって…。」
グリムバハムート【御伽の竜王】の一人であるカロイが伝説のドラゴンを呼び覚まそうとしているのを聞き、サーティはそれが御伽話に登場するドラゴンではと考える。
「例えばどんなのだい?」
「僕も知ってる限りだと敵を燃やした灰を被ったドラゴンの『シンデレラ』や、音を奏でて人を魅力したり爆音で吹き飛ばしたりする『ブレーメン』とか…。」
ドラギアスが好きなサーティはドラゴン族の御伽話もよく読むため、知っている限りの名前を挙げてみる。
「よく学んでいるなと思っていたが、君は解放の救世主じゃないか。」
「え?僕が?」
「君は多くのドラギアスを解放し一応は自由にした唯一無二の存在だ。」
ドラゴン族の伝説を知っていて心を良くしたと思ったら、目当ての人物が向こうから来てくれたことに上機嫌になるカロイ。
「…!内情を知ってるってことは…あなたがあの盗賊達をけしかけたのね!」
「ラプランのことか。やっぱりとは思ったが失敗したようだな。だが、こちらもこちらで好都合だ。」
盗賊達の騒動はやはりカロイの仕業ではあったが、それならそれで良いと話を続ける。
「サーティくん、取引をしようじゃないか。俺達と来てくれないか?」
「な…何を言い出すと思えば…!」
「俺達に取って君は解放の救世主なんだ。」
「どう言うこと?」
何を言い出すかと思えばカロイはサーティをグリムバハムート【御伽の竜王】へと誘おうとしてきたのだ。その理由としてカロイはサーティを解放の救世主だと讃えていた。
「君の潜在能力は君が考えているよりも強大だ。ドラギアスと接触しただけで、ドラギアスとアーティガルを全て解放したんだ…王も君の潜在能力に興味を示していたじゃないか?」
「確かに父上はそんなことを言っていたが…。」
やはり今考えてもサーティの持つ潜在能力は何ら普通ではないらしく、ドラギアスをドラゴンへと変えられる力を持つ組織が欲しがる程だった。
「でも僕はアイラや皆が自由になれば良いって言っただけだよ!?それだけで皆が解放されたとは言え、欲しがるようなことなんて…。」
「では質問を変えよう。君はジャンヌ・ダイアとキーロックを捕獲する際に何か望まなかったか?」
「え?」
カロイから言われて思い返すと、ジャンヌ・ダイアの突進を止める際に粘着シートを使った。しかしあの時は誰もそんなのは持っておらず、ましてやサーティだって所持はしてなかった。
「粘着シートがあればって…望んだけど…。」
だが、サーティはそれがあればと望んだ結果、突進を受け止めた際に粘着シートで捕獲出来たのだ。
「やはりそうか。君の能力の詳細は分からないが、自身の願望を叶える力のようだな!」
「ね…願いを…?」
「『あれをしたい、これをしたい、ああなりたい』と言う願望を叶える力だ。」
カロイは矢継ぎ早だが、サーティの持つ能力が願いを叶える力であると指摘する。
「で…でも僕はそんな力は…。」
「君自身はまだ自覚がないから分からないだろう。しかしこの力は使い方次第で世界の均衡を変えてしまうほどの代物だ。」
買い被りを受けているかのようで否定するサーティだが、カロイは引き下がる様子を見せなかった。
「君が望めばオモチャもお菓子も独占出来るし、楽しいことも面白いこともやりたい放題だ!我々に力を貸してくれればそれで良いのだ!さあ、我らと共に…!」
それどころか誘惑するような台詞を述べて引き入れようと手を伸ばしてくる。
「なんか…イヤ!あなたがやろうとしていることは、皆を苦しめるような気がして…イヤだ!?」
しかしサーティはカロイの得体が知れないこともだが、手を取れば周りにいる大切な人達を傷つけるかもしれない、そしてこの先一生後悔するかもしれないと直感で理解して拒絶する。
「偉いわよサーティちゃん!」
「ふむ…やはりそう来るか。それならば力付くで来て貰うまでだ!そこのお前達もケガをしたくなければ彼を譲って貰おうか!」
「「「断る!」」」
誘惑を断ったサーティと同じく、ロゼ達も彼を譲れと言うカロイに断固として反論した。
「ならば彼以外は食い尽くせ!」
『ギエエエエ!』
カロイももはや話し合いは不可と判断して、岩の鱗を持つドラゴンのストーンドラゴンを仕向ける。
『サーティを守るために…ぬううりゃああ!』
アイラは壊されて小さくなったとは言え、自身の何倍もの重さがある岩の塊を持ち上げてストーンドラゴンに投げつける。
『…!グルルル!』
「あらら、せんべいみたいに噛み潰したよ…。」
岩の塊は口に入るもそのまま噛み砕いて更に細かくしてしまうのだった。
『グオオオオオ…!』
「雷を落とす気ですね。あんなの食らえば一溜りもありませんよ。」
捻れた角から火花がバチバチと弾け、スパークドラゴンは雷のブレスで攻撃しようとする。
「そんなのダメー!」
『ブギャア!?』
ミイスは水の力で噴水の水を操ってスパークドラゴンにぶつけてよろめかせる。それだけでなく身体に纏った電気が水を浴びた途端に流れ出てしまう。
『グルルル…!?』
「あれ?あたし何かした?」
「これは…君の水が偶然にも体内に蓄積した電気を流れ出すキッカケになった…いわゆる漏電して雷を撃てなくなったようですね。」
止めるためにほとんど闇雲にやっただけだが、偶然にもそれが攻撃を中断させる方法だったのだ。
「余は父上を起こしに事の成り行きを話に行く!パスナ、お主は放送局に行って催眠術を解くのだ!」
「仰せのままに。」
相手にするつもりではあったが加勢は必要なためホレスとパスナはそれぞれの役目を果たそうとする。しかし最後のドラゴンが大きく息を吸い込んでイたのには気が付かなかった。
『グオオオオオ!』
「ぬお!?何だこれは!?」
「あれはネイチャードラゴンだよ!」
「姉ちゃんドラゴン…?」
「『自然』って意味だよ!」
残っていた草木を彷彿とさせるドラゴンはネイチャードラゴンと言い、この種族は自然…つまり草木や樹木を操ることが出来るのだ。
「でもあのドラゴンは基本的には攻撃的じゃないはずだよ。」
ネイチャードラゴンは他のドラゴンと比べると博愛主義であり、戦争で荒地になった大地に草木を生やして森林を蘇らせる程だ。
「チェインタクト!だとしてもここは突破するしかねぇ!ヒートパンチャー!」
アルフ『おう!』
アルフと共に炎で木々を焼き払い道を切り開いていく。
「ホレス!パスナ!ここは俺達が何とかするから急いでくれ!」
「済まない!」
「急ぎます!」
ホレスは宮殿、パスナは放送局へと開かれた道を通り抜け役目を果たすために走り出す。
「やれやれ、そう来たか。」
「サーティちゃんは渡さないわ!」
「なら、これならどうかな?」
思ったよりも長引きそうになり、カロイはめんどくさいと言う感じではあった。それでも引き下がる気はないとある物を懐から出した。
『リー、リー!』
『チータ!』
「アーティガル!まだ持っていたのか!?」
出されたのはアーティガルを封じ込めたプレパカードだった。ラプランに与えていたとは言え、他の個体を所有していたとは思わなかった。
「ドラゴンの血肉によって生まれたアーティガルよ…チェインタクト!バッテ・リー、チータテン!その力を持ってしてドラゴンに力を与えよ!」
プレパカードに赤い鎖が巻き付き、その後でストーンドラゴンとスパークドラゴンの首へと伸びて巻き付く。
『バッテ・リー!』
『ギエエエエ!』
乾電池のようなアーティガルのプレパカードが鎖と共にスパークドラゴンに巻き付くと、身体に乾電池の黒い模様と電気で形成されたドラゴンの翼が一対生えてくる。
『チータテン!』
『グオオオオオ!』
チーターのようなアーティガルのプレパカードが鎖と共にストーンドラゴンに巻き付くと先程よりも華奢な体つきへと変わっていく。
「ドラゴンにアーティガルの力を…そうか、アイラも同じことをしていたな。」
「でもドラゴンの状態でも出来るなんて…。」
アイラにもキーロックの力を纏わせていたが、まさかドラゴンになったままでも可能とは夢にも思わなかった。
『ギエエエエ…!』
「もう一度水をかけて…!」
スパークドラゴンが再び蓄電を始めたのを見て、ミイスはもう一度水を操って阻止しようとする。
『ギエエエエ!』
「えっ、早い!?」
『危ない!?』
ところが先程よりも蓄電が早く終わり、そのまま雷を口から放つスパークドラゴン。それを見たギザはミイスを突き飛ばし、その直後に雷光と雷鳴が彼女が立っていた場所に放たれた。
「ギザくん!?」
『うっ…ぐっ…大丈夫…でも、足が…!?』
ミイスは雷に打たれなかったが、ギザは足に雷を受けてしまい、竜の鱗で守れているとは言え火傷を負っていた。
「どうだい?『バッテ・リー』は蓄電能力と放電能力に優れている。スパークドラゴンには相性の良い組み合わせだろ?」
「相性の良さなら俺とアルフだってそうだ!」
『フレイムガン!』
熱血コンビは得意気になるカロイに向かって炎を放つが城壁のような鱗に阻まれてしまった。
『グルルル…。』
「よくやった。」
『バカな、ストーンドラゴンがあんなに速く動けるはずがない!?』
城壁を彷彿とさせるのはストーンドラゴンしかいないが、ストーンドラゴンとカロイとはサルサ達を挟んだ位置にいたはずなのにいつの間にか周り込まれていたのだ。
ヘビー級な見た目ゆえに動きは鈍重なはずだが、こうもあっさりと防げるように立ち回れるとは思えなかった。
「これもさっきのアーティガルの仕業か…!」
「ご明答、先程のは『チータテン』。走行速度を上げることを得意とするアーティガルだ。動きが鈍重なストーンドラゴンには持って来いだ。」
取り込ませたアーティガルは走行速度を上げるのを得意としているのなら、サルサ達の炎よりも速く動けるはずだった。
『グオオオオオ!』
「わひゃっ!?木が巻き付いてきた!?」
「こんなにあったら…焼き払ってもこれじゃキリがねぇ!?」
呆気に取られているとネイチャードラゴンが樹木を操って触手のように巻き付かせてくる。水や炎で振り払っても木々が成長するかのように次々と新しい樹木が巻き付いてきた。
「さあ、これでもまだ戦うのかな?」
「うっ…。」
『サーティ!降参しちゃダメ!こんなことをする奴らは大抵ロクな奴らじゃないわ!』
仲間達の危機にサーティも戦意喪失しかけるもアイラが叱咤激励して戦おうとする。
「かわいそうに…今だに汚れたギガント族の血で本来の姿を取り戻せてないのか。」
『何のこと?それによっぽどかわいそうなのはそのドラゴン達よ。』
哀れみの視線を向けるカロイだったが、アイラはドラゴン達に対してへの哀れみを向けていた。
『解放?自由?彼らを見てもそうは思えないわ。ドラゴンの姿になれたのはあなたのお陰かもしれない。』
ドラギアスは始まりの契約によってギガント族の血によって進化させられたドラゴン族の成れの果てだ。全てではないにせよ、ドラゴンになりたいと憧れる者は少なくはない。
『けど、今だにあなたに囚われてアーティガルの力を無理やり与えられるなんて…そんなの見せかけでしかないわ!言ってみればあなたの幸福を押し付けてるだけじゃない!これの何処が自由だと言うの!』
それでも哀れみを向けていたのはドラゴンに戻っても契約の鎖に縛られ、アーティガルの力を与えられ、カロイの言う自由や解放と言うエゴに振り回されるのがどうしても我慢ならなかったのだ。
「ならばお前は何故契約を続けている?確かに彼は解放の救世主だが、契約をしている君とこのドラゴン達は何が違うのだ?」
『私は研究のためにずっと不自由な生活を送ってた…けど、サーティが解放して色々な物を見せてくれた!私や他の皆のことを思う気持ちが鎖を伝わってきた…最初は初めてのこの気持ちが何なのか分からなかったけど…。』
アイラだって自由になりたいと思っていた。しかしサーティと偶然にも契約を果たし、その上で様々な物を見たり聞いたり体感したりしていた。
何よりも契約の鎖を通してサーティの思いを伝えたこともあり、アイラ自身にもとある感情が芽生えていた。
『私はサーティが大好き!だからサーティとサーティの大事のものは守ってみせる!それが私の思いだ!』
「アイラ…。」
それはアイラがサーティを好きだと言う感情だった。そのためならば彼と契約して大切な物を守るのだと力強く言い放つ。
「ならば君もドラゴンになればいい…そうすれば大好きなサーティとは常に一緒になれるぞ?」
『それでもあなたに囚われることには変わらないわ!』
「そもそもサーティの意見はどうなるかな?このままだと大事な仲間が大変なことになるぞ。」
アイラがダメでもサーティを精神的に追い詰めるために、言う通りにしなければ人質の身の安全は保証しないと脅すカロイ。
「おい!なんてこむぐっ!?」
『止め…ぐっ!?』
もちろんサルサ達は反論、或いはサーティを激励しようとするも蔓が口に巻き付いて声が出せなくなる。これにはドラギアスの面々もブレスを吹けなくなりどうしようもなくなる。
「僕は…。」
『サーティ…私は…。』
追い詰められたサーティはわずか十歳にして人質の命を左右するような局面に葛藤を覚えていた。そのため返答することが出来ずに立ち尽くす。
「…!僕は…あなたの言う通りにする!?だからもうこんなこと止めて!?」
『サーティ…私はあなたに従う…大切な物を守るためにあなたが悩んで決断したことだから…私も!』
「良いだろう。」
サーティとアイラは拘束されている自分達を助けるためにその身を投げ売ってしまったことに絶句すると同時に己の無力さを呪う。
「ならばこちらへ来るがよい。」
「皆…ごめんね…。」
「んー!んー!?」
縛られながらも身体をよじって何かを訴えるロゼだがサーティはカロイの手を取りそうになる。
『ギエエエエ!?』
しかし降伏するによって静寂が訪れていたが、ストーンドラゴンの悲鳴が聞こえてきたことでサーティもサルサ達も、そしてカロイですら何事かと見てみると信じられない光景が目に映った。
『はぐ…むぐっ…!』
『ギエエエエ!?』
「バカな…あれは…!?」
なんと巨大な人影がストーンドラゴンの城壁のような鱗を噛み砕いて身体に食いついていたのだ。その人影を見たカロイは我が目を疑うのだった。
それもそのはずだ、見た目は人ではあるが何故ならば家をも簡単に潰せるほどのドラゴンに組み付くほどに大きいことだった。そう、目の前にいるのはドラゴン族と双璧をなした太古の最強種族のギガント族だった。
『んぐぐ〜!硬いなぁ〜!』
『グギギギギ…!?』
腰まで届くウェーブロングヘアーに大きさも相まって小山を彷彿とさせる二つの魅惑な果実となだらかな丘を思わせる桃、そしてポヤッとした感じではあるが飢えた獣のようにドラゴンに食らいつく様は圧巻であった。
「油断しましたね。彼は我々が貰い受けます。」
「わっ!?あなたは誰!?」
一瞬の隙をつかれてサーティは黒髪に褐色肌の女性にお姫様抱っこされる形で攫われていた。
「私はマシュラ。そして彼女は…!」
『暴れるなぁ〜!ご馳走〜!!』
『グオオオオオ!?』
その人影は家をも簡単に潰せそうな巨体に膝蹴りを食らわせて城壁のような鱗にヒビを入れる。それでも暴れるストーンドラゴンを一本背負いで遠くへと投げ飛ばしたのだった。
『うおおおっ!お腹空いたぞー!タイラント様のお腹を満たす物を持って来ーいー!!』
「彼女こそが我々サイクロプスアイズ【偉大なる隻眼】が崇拝する、『ギガルティズ』の暴食を司る『タイラント』様だ!」
新たなる謎の組織サイクロプスアイズ【偉大なる隻眼】と彼らが崇拝すると言う、さぞ名のあるギガント族のタイラントが現れたのだ。
かつて君臨し戦い続けたドラゴン族とギガント族は何世紀かの時を越えて二つの謎の組織により蘇り、かつての決着を果たすために再び戦おうとしていたのだった。




