不穏な序曲
ハルパニア王国宮殿にてホレスの計らいにより、入浴したサーティ達はそのまま宿泊することとなった。
「うわー!スゴい料理ー!」
「また何か場違いじゃね?」
「高級食材がチラホラ見える…。」
そして今は食堂に案内されたのだが、入浴場はテルマエのようだったが食堂はミシュランガイドに掲載されてそうな五つ星レストランのような食堂だった。
「中華料理と言う物なのだが、口に合うだろうか?」
「ホレスくんが妙に柔和になったのも驚いたけど、目の前のこの料理の量と場所にも驚かされるわ…。」
と言うのも中華料理が出されたのだが、雰囲気のためか中国の皇帝の間を彷彿させるようで無駄に緊張してしまう。
「スゴいや!満漢全席だよ!」
「何それ?」
「二日から三日かけて食べる食べ放題メニューのことだよ!」
「食べる規模が一日単位かよ!」
料理に関してはうるさそうだったが、テンションが上がった状態で目の前のテーブルに所狭しと置かれた料理を説明するビート。
「口に合わないか?」
「俺らこんなの初めて見たから驚いただけだって!ありがたくいただくよ!」
「そうね、冷めちゃわないうちに食べましょう。」
「いただきまーす!」
多少、対応を間違ってしまったのではと思いションボリしてしまうホレスだったが、せっかく美味しい料理を用意して貰ったためありがたくいただくことにする。
「このマルエビのマヨネーズ和え美味しい〜。」
『それ美味しいの?』
「サーティちゃんの好物よ。この春雨も美味しいわよ。」
『この白くて丸くてホカホカしたのは何?』
「肉まんだよ。別の地域だとパオズって呼ばれてるけど。あ、それは麻婆豆腐だよ。」
「麻婆豆腐って料理か!辛くて美味いな!」
どれもこれも見たことがない料理ではあったものの、食べるとジューシーで濃密な味が楽しめ全員が幸せそうな表情を浮かべる。
「そう言えばアーティガルは食べなくても良いって言ってたけど食べられないことはないんだよね?」
『食べることは可能ですが…。』
「それなら一緒に食べよう!」
『良いのか?』
「ヒグルマももう燃やさなきゃ食べても良いよ〜。」
『お…おう…。』
アーティガルは基本的に何も食べなくともエネルギーは補給されるが、やはり皆で食べた方が良いとサーティとミイスは外に出すことにする。
アンナから後で聞いた話だが、プレパカードから一時的に出すだけの場合なら封印に関与した人間の許可があれば手のひらサイズで出せると言う。
その場合は能力は限定され、ヒグルマのように暴走したりすることもないと言う。
『これは…硬いとは異なる独特の感触、それであって甘いですね。』
「それはごま団子って言うんだよ。」
『この不思議な形の食べ物は何だ?』
「それはギョウザって料理だよ。」
『このピリッとするマルエビは何だ?』
「それはエビチリだよ。」
ジャンヌ・ダイアもキーロックもヒグルマも食べ物を食べる機会が滅多になかったために、未知の食感や味に興味津々だった。
「今日だけで三人は見つけたけど、他は何処に行ったんだろうな。」
「まだこの国にはかなりの数がいるはずだ。明日また探すとしよう。その時はお主の嗅覚が頼りだ。」
今思えば管理されていた部屋の匂いを覚えていたジャオがいたから特定に至った。そのことを称賛し明日に備えるように言うホレス。
「もうお腹いっぱいー。」
「僕はよく食べるタイプだけど、かなり余ったね〜。大丈夫かな?」
料理を堪能した一同はイスにもたれかかってお腹を抱えていた。テーブルには手を付けられなかった料理が皿に載ったままだった。
「案ずるな、また明日食べれば良い。食べ物を粗末にするような贅沢なことはせん。」
正直、食べ物には困らないため残したら処分するかと思ってたが割と食べ物を大切にすることに驚かされる。
「寝泊まりする部屋もスゴいね〜、教科書とかで見た王宮の部屋みたい!」
「空いてる客間はこれくらいしかなくてな。」
「これくらい…ホテルでもこんなのロイヤルスイートとか付きそうな感じなのにか。」
極めつけに案内された客間は高級ホテルにでもいるかのような豪華な部屋で、ホレスいわく最低限な部屋だと聞いて顔を引きつらせる。
「サーティのことだが、やはり部屋に連れて行くなら止めはしないぞ。」
「もちろんよ。バッチリ見ておくから安心して。ふふっ。」
もう慣れたのか、入浴で心を開いたかは不明だがサーティのことはロゼに任せる口振りをするホレス。それを見てホレスもウィンクしながら微笑むのだった。
「はー、こんなことがあって良いのかねー。」
「我らは逃げ出したアーティガルと…ドラギアスの捕獲の任務があるんだ。今回はたまたまこうしただけだ。」
部屋には正しくキングサイズのベッドがあって、眠る前から夢心地であった。そんな平和的で極楽な環境を満喫してて良いのかとサルサは満更でもない様子で話しかける。
「それにしてもアーティガルやドラギアスの皆はどうしてるんだろうね?」
『俺達は解放されてから暫くはブラついてたけど、今はこれでも満足だぞ。』
「そりゃ良かったな…。」
逃げ出したドラギアスの一人であるアルフも満足そうなのを見て一同は眠りにつく。
「かー…こー…。」
「ん…サーティちゃん?あら、アイラちゃん?」
女子部屋では暫くベッドの柔らかさに慣れないでいたジャオが落ち着かずに暴れていたが、ようやく寝静まり返ってロゼ達も眠っていたのだがふと目を覚ますと側で寝ていたサーティとアイラがいなかった。
「あら、扉は開いていたかしら?」
辺りを探すも見当たらず、代わりに部屋の扉が開いているのに気が付いた。外に出て見回すも誰もいなかった。
「サルサくん!ホレスくん!」
ただならぬ予感がしてロゼは部屋着にガウンを重ね着して、男子部屋の前のインターホンを鳴らして中にいるサルサ達を呼ぶも返事がない。
「どうしよう、ミイスちゃん達を起こして…。」
「どうしたロゼ?」
「まだ眠いよ〜…。」
女子部屋に戻ろうとするが、遅れてサルサ達が寝ぼけ眼で出てくる。
「それが…側で寝ていたサーティちゃんとアイラちゃんが何処かに行っちゃったのよ。」
「トイレとかじゃないのか?」
「部屋のお手洗いや廊下のお手洗いを探したけど見つからなかったわ。」
「皆を起こせ。特にジャオは匂いを覚えているはずだから奴の力は必要だ。」
普通に考えるならトイレに行ったのだろうが、思い当たる所は既に探したものの見つからなかったと言う。それを聞いてホレスは全員で探すように呼び掛けるのだった。
『サーティくんとアイラちゃんがいつの間にかいなくなるなんて…。』
「トイレとかじゃないなら何処だろうね。」
「匂いを辿れるお前がいれば探せるはずだ。どうだ?」
「ジャオちゃん、二人を探して!」
「任せろ!」
女子部屋へと一度集まって女子達とギザを起こして合流し、ジャオは四つん這いになってサーティとアイラの匂いを辿り始める。
「一体何があったのかしら…黙って外出するような悪い子じゃないのに…。」
「彼にだって一人になりたい時もあるだろう…けど、アイラくんまでいなくなるのはどうしたことか。」
「やはり何か不測の事態があったのか?」
サーティとアイラがいなくなったことに疑問を覚えるものの、あの二人に限ってよほどのことはないだろうと考える。
「匂いが近くなってきた!」
「外へと出たのか?」
扉が開け放たれていて、二人は外に出てしまったようだ。一行も外に出てみるとサーティとアイラがフラフラした様子で歩いていたのだ。
「いた!」
「もう、サーティちゃん!アイラちゃん!勝手に出歩いちゃダメよ!」
「えへへ…夢みたい…。」
『ふふっ…気持ちいい…。』
「え…二人とも寝たままなの?」
「寝ぼけてるのかな?」
駆け寄ってみると二人はまだ夢心地のような幸せそうな表情をしていた。しかしながら瞼は閉じていて、様子からしてまだ眠っているようだった。
「サーティくんは夢遊病なのかい?」
「いいえ…聞いたことないわ。」
状況からして夢遊病なのではと考えるも、赤ちゃんの頃からお世話してるロゼでもこんなことは初めてだった。
「ちょ…ちょっと皆…周り見て…。」
初めてのことで戸惑うロゼだったが、ビートも何やら怯えた様子で周りを見ていた。
「お菓子の…家…。」
「面白そう…。」
「遊園地…。」
「うわっ!な…何だよこれ!?」
いつの間にか自分達の周りには小さな子供達が、サーティやアイラと同じく夢遊病になったかのように眠りながら出歩いていたのだ。
国中の子供が集まっているのではないかと言う人数で、しかも眠りながら出歩く光景は一種の怪奇現象ようだった。
「皆寝ぼけてるのかな?」
「どう見ても寝ぼけるとかの範疇じゃないような…。」
「何か怪しいぞ…。」
寝ぼけるにしてもそう言う枠組みから逸脱していて、仮に夢遊病だったにしてもこんなに大勢の子供が一斉になるのかどうか怪しかった。
「親は何で起きて来ないんだ?」
「そう言えばサーティちゃんもだったけど、私達も大人に出会うことはなかったわよね?」
これだけの人数が出歩いているのなら、否応なしに親や夜中に活動している大人に気づかれるはずなのに、今思えば誰とも出会ってないのだ。
「これは何か裏があるぞ。」
「アーティガルの仕業?」
「とにかく二人を起こさないと!起きて、サーティちゃん!アイラちゃん!」
サルサとミイスがアーティガルの仕業ではと勘ぐるが、まずはサーティとアイラを起こさなければならないのだが二人はまだ夢心地のようだ。
『起きないよ。どうするの?』
「ロゼちゃんは何か起こす方法知ってる?」
「そうね…くすぐりとか風船を破裂させるとかホットケーキの匂いを嗅がせるとか…。」
揺すっても起きないため、長い間お世話していたロゼに起こす方法を思案して貰う。
「他に効果的なのは…あ、ビートくんってあれは持ってる?」
「あれって?」
何か効果的な方法を思いついてビートにある物を貰う。
「サーティちゃん、アイラちゃん!目を覚まして!」
「えへへ…美味しそうなイチゴ…むぐ……っ!?わぎゃああああ!?」
『あむ……っ!?ひぎゃああああ!?』
ビートから貰った物を二人の口に入れ、タイミング良く食べ物の夢を見ていたため口に入れられた物を咀嚼した瞬間、二人は口から火を噴くのではないかと言うほどの断末魔を挙げる。
「辛い辛い辛い辛いー!?」
『〜〜〜!?』
涙目で顔を真っ赤にして走り回る様はドタリチキンも顔負けなほどの狂乱っぷりで見てて飽きなかったほどだった。
「一体何をしたんだ?何か食わしたみたいだけど…。」
「ニトロハバネロだよ。」
「ニト…!?」
ニトロハバネロとは一口齧るだけで、その果汁は口の中で爆発するかのような辛さを秘めており、食べる分には問題ないが調合次第では本当に爆発する香辛料の一つだ。
「辛いのが苦手って言ったでしょ?前にケーキを盗み食いして寝ているサーティちゃんに、お仕置きとしてトウガラシを食べさせたことがあるの。」
「お主でもちゃんと躾はするのだな。てっきり甘々なのかと思ってたが…。」
あの様子からして甘やかしてばかりかと思ってたが怒るところはしっかりしてるのだと感心するホレス。
「甘やかすのも良いけど、お仕置きで見せるあの時の表情は堪らないわぁ〜…!?」
「今の感心は前言撤回させて貰う。」
と思っていたのに下心が見え見えだったために呆れ返るのだった。
「ひい…ひい…あれ…皆、どうしているの?」
『それにここは…外?』
辛さが落ち着いた二人は自分達が外にいるのだと理解した。
「よく分からない事態が起きてるんだ?それよりもお前らは大丈夫か?」
「何か口の中が辛くてヒリヒリするよぉ…。」
「人によっては辛さで一日起きていられるほどの刺激だからね。」
あまりの辛さでまた眠って夢遊病のような状態にならなくなったが、中々えげつない代物を与えたなとドン引いていた。
『けどこの子達はどうしたの?』
『それが俺らにもさっぱりだ。しかしながら妙な感覚がする。』
「実は私も気のせいかと思いましたが、妙な周波数をキャッチしているんです。」
この異常事態の根源が何なのかは分からなかったが、僅かな異変をアルフとパスナは感じ取っていた。
「周波数ってなに?」
「目に見えない振動の波のことだよ。少し難しいけど拍手とかの衝撃で空気が震えることで音として伝わるんだ。」
「音か何かが鳴ってるの?何も聞こえないけど…。」
「周波数が高ければ高いほど人間には聞こえなくなるんだ。これは超音波と呼ばれるんだが、どうやら国の外から発せられているようだ。」
パスナは超音波らしき物を掴んでおり、それが国の外壁から伝わってくると示した。
「そう言えばこの先は外へ通じる門よ、眠ってる子達もそこに向かってるわ。」
「しかしそこには守衛がいるはずだ。それに跳ね橋や障壁もあって、よほどのことがない限りは降ろされないためそもそも渡ることは不可能だ。」
先進国では国の城壁もハイテク仕様となっており、上空を結界や障壁で覆っておりワイルズビーストや敵対組織の侵入を防いでいる。ローテクな物でも堀や跳ね橋があり、許可がない者は出入りが出来ないようにされている。
そのためこんな不可解な状況で眠っているがために許可を得たかどうか怪しい子供達を通すとは思えない。
『跳ね橋って…あれ?』
「なんだと!?跳ね橋が降りてる…!?」
嫌な予感はしていたが、跳ね橋が降りていて子供達は続々と外へと向かっていた。
「おい、守衛ってあいつらか?眠りこけてるぞ。」
「何をしている!起きんか!」
「起きてー!」
通用門などの無期限に守りが硬くない場所には決まって守衛やガードマンがいるのだが、彼らは大切な責務と見過ごせない状況を前にして眠り続けていた。
「変よ、起きないわ。」
「水をかけても起きないよ。」
『どうなってるの?』
守衛はプレートアーマーで身を固めた屈強な男達だったが、彼らは外傷や争った形跡もなく眠り続けており、揺すったり蹴ったり水をかけても起きるどころか寝返りをする様子もなかった。
「これは強制的に眠らされてる…恐らく催眠術か何かを使っているのでしょう。」
「催眠術って振り子とかを見せて操るあれ?」
「その類いでしょう。恐らく例の超音波が原因でしょう。」
単なる睡眠ではなく、超音波による催眠術ではと考える。
「子供達の保護者が起きて来ないのもそれが原因でしょうね。サーティくんとアイラくんが簡単に宮殿から出られたのも、催眠術で中にいた使用人の方々を眠らせたのでしょう。」
「まさかこの国中の人達が眠らされてるの?」
これだけの規模で催眠術が行なわれているのなら、この国の人々が眠らされていることになる。
「でもあたし達は何で平気なの?」
「そう言えば俺らは普通に起きれたな。」
「もしかすると催眠術の超音波が流れる前に眠っていた人には通用しないのかもしれません。」
最初から眠っていた人間達には通用しないのか、サルサ達は普通に起きれていた。
「じゃあ何で僕とアイラは最初は起きれずに出歩いていたの?」
「夢遊病になって出歩いてるのは幼い子達ばかり。眠らせた後で幼い子供が出歩く催眠術をかけたのでしょうね。」
催眠術で眠らせた後に出歩く催眠術をかけたことで、この国の子供達はもちろん一同の中では幼いサーティや彼と同い年のアイラも影響を受けて出歩くこととなったのだ。
「いずれにしても何者かが国外から催眠術を使って、子供を国の外へ出そうとしている。これは最悪誘拐事件に発展するぞ。」
「皆が眠っている間に、とんでもないことをする人がいるのね。」
よく分からないが誰かが国中の子供を攫おうとしているらしく、その上で催眠術で自分達以外の人々が眠っているのなら加勢は望めないため全員が固唾を呑んでいた。
「周波数がどんどん強くなってる。音源もかなり近くなってるよ。」
「おい、誰かいた。」
姿勢を低くし子供達に紛れて犯人の元へと向かう。催眠術の根源にまで近付くと、この事件を起こした犯人達がいた。
「だいぶ集まったじゃないか。」
一部を除いて国中の人々が眠る中で、唯一起きている者達がいた。集まった子供達の中に長身に腰まで届くような深緑色のポニーテールの三十代の女性がいたのだ。
長身で成熟した見た目をしているため、子供が大勢いる中ではかなり目立っていた。
「姉御、かなり集まりましたよ。」
「それで例の子は見つかったのかい?まあ、収穫は上々だけどね。」
「それがまだ…こんなに大勢いては誰が誰やら…。」
周りには彼女を姉御と慕う盗賊のような格好をした男が数人いて、探している子供がいるのか一人一人顔を確認していた。
「あいつら何者だ?」
「犯人じゃない?いかにも悪そうな感じだし…。」
何者かは不明だが柄が悪そうな所と、操られている子供達を見ても平然としている辺り彼らが犯人で間違いなさそうだった。
「妙だな…音を出す装置や機械とかが見当たらないぞ。」
「音を使って僕とアイラを操ったんだよね?ってことは笛とかの楽器とかは?」
「だとしたら誰かが所持してるはずだけど、そこまでかさばらないし厄介ね。」
操った方法として音を出す機械を想定したがそれらしい物は見当たらず、目立たないとすれば楽器ではと考えるがそれだと発見が困難になるだろう。
「だったらあいつら纏めてやっつけて催眠術を解かせるしかねぇな!」
「数は9人…これなら私達だけでも何とかなるかもしれませんね。」
「ふふっ…ねぇ、良い方法を思いつたんだけど。」
「どうするの?」
相手は自分達と同じ人数であり、探し出すよりも倒した方が早いと考える。それを聞いたサーティはイタズラっぽく笑う。
「僕とキーロックがあの人達の動きを封じるんだよ。そしたら大きな音で脅かして転ばせるんだよ!」
「へぇー、面白そうじゃんか。あたしも混ぜろよ。」
『俺も大きな火を出してあいつらをビビらせてやるぜ…!』
動けなくさせてから彼らを脅かして転ばす作戦…と言うよりもイタズラを思いつくサーティ。それを聞いたジャオとヒグルマも同じくイタズラっぽく笑う。
「でも危ないわよ。武器使用免許もない上に肝心の武器すらないのに…。」
この世界に置いて武器の使用には緊急時以外だと免許が必要になる。学生になれば武器の使用免許は貰えるが、入学前にあんな騒動を起こしたためそれどころではなかった。
「…ひょっとしてパスナよ、お主は武器とか持っているのか?」
「こんな物しかないですね。」
出してきたのは工具ぐらいでおおよそ武器としては使えそうになかった。
「ここは俺らでやる。ホレス達は子供達の避難を頼む。」
「悔しいがそうだな。頼むぞ。」
子供の避難をホレス達に任せてサルサ達は近くの茂みなどに隠れて回り込む。
「チェインタクト!アイラ、キーロック、力を貸して!」
「チェインタクト、ギザ!あたしの水の力を強くして!」
回り込んだサーティはアイラを介してキーロックをプレパカードから召喚し、ミイスはギザと契約して水の力を強化して貰う。
「それじゃあ行くよ…まずはギザ、水を流してくれる?」
『うん…頑張る。』
水の力を使えるとは言え操る水がなければどうにもならないため、ギザに頼んで水をブレスとして辺りに撒いて貰い水溜りを作らせる。
「それじゃあキーロック、お願いね。」
『任せてよ。』
「何だかあたしもドキドキするよ…。」
ミイスは水溜まりの水に意思を送り、腕の形へと変えてからキーロックを掴む。そのまま見張りをしている盗賊達の足元に蛇のようににじり寄る。
『ムーブロック【動作封印】。よし、このまま全員ロックするぞ。』
「うん。」
彼らは見張りをしていたが、国中の人々を眠らせたこともあってそこまで動かずにキョロキョロと見渡すだけで済ませていた。
その上、目的をほぼ達成してることもあって油断しているためか、足元はお留守らしく気付かれずに足の動きを封じることに成功する。
「この子は違う…この子も違う…。」
「まだまだいますぜ…もうこの際全員攫ったらどうです?」
「バカを言うんじゃないよ。目的の子供がいなきゃ話にならないだろ。」
ボスである女盗賊と子分の二人は目当ての子供を探しているようだが、あまりの人数のために中々見つけれないでいた。
「よし、いよいよ最後…。」
「あ、おい!ちょっと来てくれないか?」
「分かった!……おわっ!?」
残り三人も動きを封じようとしたが、子供を移動させていた子分の一人が見張りをしていた子分を呼び寄せるが、足は既に封印されていたために何かに躓いたかのように盛大に倒れてしまう。
「どうし……ぬお!?」
「うへっ!?」
「な…何だぁ!?足が…!?」
他の子分達も何事かと動こうとしたために盛大にコケてしまう。
「っ!敵襲だよ!」
さすがにリーダー格であるためか、周囲の異変とミイスの操る水の腕の存在に気が付き、水の腕を踏んで水しぶきに変えてしまう。
「はうあっ!?」
『うわっ!?』
水と感覚を共有するミイスからすれば、腕を踏まれたのと同じなため痛みまではないとは言え衝撃で飛び上がる。
「キーロック、危ない!?」
『ありがとう…。』
その際にキーロックが宙を舞ってしまうが、同じく茂みから飛び出したサーティかキャッチした。
「!こりゃ…ついてるね、まさか獲物から来てくれるとはね!」
「え?」
「まさか…サーティちゃんが狙い!?」
「あっ!?ロゼちゃんちょっと…!?」
茂みから飛び出したサーティを見た女ボスはこれは幸いと言う様子であり、まさか狙いがサーティだとは思わずロゼは子供の中から飛び出してしまう。
「他にも仲間がいたのか!?」
「しかし俺達以外は眠っているはずだぞ…。」
「狼狽えんじゃないわよ!もう一度眠らせればいいだけの話じゃないか!」
「やっぱり僕ら以外の人を眠らせたのはお前らの仕業だったのか!でもどうやって…。」
他に容疑者がいなかったが、向こうから犯人だと自供してくれた。しかしどうやったかは謎であった。
「タネ明かしついでにもう一度お眠にしてやるわよ!」
「え、あの鎖は…まさかドラギアスを連れてるの!?」
何をするかと思えば血のような赤い鎖を手首から出現させて、上空へとそれを飛ばすと何かに絡みつく。
「チェインタクト!フエフク!」
『フエッ!?』
「えっ!?ドラギアスじゃ…ない!?」
サーティもだがここにいる全員が最初はドラギアスを出すかと思ったら、上から鎖に連なって現れたのは角の生えたパーカーでドラギアスとは到底思えない姿だった。
しかもそのパーカーはフードの中は闇に包まれていて、二つの眼光だけが光っていて、しかも自らの意思を持って浮いておりオバケのようだった。
『手荒いなぁ…今度は何を吹けば良いの?』
「今度はこのお邪魔虫とそこのボウヤを眠らせてちょうだい。」
『分かったよ…それじゃあ…!』
するとパーカーはファスナーを開けて広がり、そのまま女性に着用される。
「あたしはラプラン!そしてこいつはアーティガルの『フエフク』!安心しな、皆纏めて良い夢見せてやるよ!」
ラプランはフエフクのフードに付いてる角取り外して咥える。そして息を吹くとラッパのような音色を奏で始める。
「ん…ふぁ〜…眠い…。」
「こ…この音は…。」
「皆…これで…。」
甲高い音色だが聴いていると不思議と睡魔が襲い、一人、また一人と眠りに落ちていく。
「ふふっ…おやすみなさい。さて、任務もこれで達成だな…!」
全員が眠ったのを確認してからラプランは眠ってしまったサーティに手を伸ばす。




