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ドラギアス  作者: オリテアント
第1章 いきなり国家レベルの問題児になった件
11/21

裸の付き合いで腹を割る

ヒグルマを無事に封印し、ずぶ濡れになった身体を温めるためにホレスの案内を受け、一行はハルパニア王国の宮殿内に訪れてたが…。


「おい…ここが風呂か?」


「ちょっと…場違いじゃないかな…。」


「神殿じゃないわよね?」


中に公共の入浴場みたいなのがあると思ったら、大理石などを使用した古代ローマのテルマエのような荘厳さと神々しさを併せ持つ入浴場のエントランスに顔を引きつらせていた。


「何を言う。ここが宮殿の入浴場だ。」


「スゴーく!大きいねー!」


「僕もスゴ過ぎて感想としてそれしか思いつかないよ…。」


確かに率直に言って広くて大きいが、それ以外にも目に付く所はたくさんあるものの圧倒されて簡潔かつ分かりやすい感想しか出てこなかった。


『ねぇ、僕達もここに入って良いの?』


「問題ない。ドラギアスとは友好関係を結ぶのがトライブレイトの必須条件。共に湯を浴びるのは当然だ。」


ドラギアスとトライブレイトは国の主要戦力の1つであり、お互いの友好関係が重要である以上はパートナを組んだ時点で契約主のトライブレイトと生活を共にすることは必然なのだ。


しかし逆にパートナーを組んでない場合は管理下に置かれ、ドラギアス専用の公共施設を使うこととなっている。


「くしゅん!?寒い…。」


「とにかくこのままだと風邪引いちゃうわ…早く入りましょう。」


「待て。貴様は連れて何処へ行く気だ。」


くしゃみをするサーティの背中を押して入浴場へ行こうとするロゼを冷静に止めるホレス。


「お風呂よ?風邪を引いちゃうでしょ。」


「そうだが余が言いたいのはお主は男…?のサーティを女専用の入浴場に連れて行こうとしていることだ。」


中性的な見た目のサーティに思わず男かどうか躊躇うも、一応は男として扱うとして女湯に連れ込むのはどうかと至極もっともみたいな雰囲気のロゼに問いかけるホレス。


「別に良いじゃない。サーティちゃんは子供だし、ずっと入ってたから。」


「だとしても他の女と一緒に入れる気か?」


確かにロゼはサーティが赤ちゃんの頃からの付き合いだからまだ分からなくもない。それでも他の女性と一緒に入浴させていいのか心配になる。


「男の人と一緒に入っちゃダメなの?」


「は?」


性格上と恥じらいがないことからしてミイスは平気だと言うと思ってたが、男と普通に入浴してると中々聞き捨てならないことを言ってのけた。


「ちょっとミイスちゃん!?君はまさか男の人とと一緒に!?」


「何言ってるの?それだとギザくんと入れないじゃん。」


「そうだけど普通は異性である場合は別々で入浴するんじゃないの!?」


「お風呂って海底火山で温まった水みたいな物でしょ?あたしらは水中では男も女も普通に裸になって入ることもあるんだけど。」


「君達は水中なら性別は関係ないの!?最も重要だよ!?お風呂もだけどトイレとか…!?」


年頃の女の子が男と一緒に入るなんて、羞恥心がないにも程があると思ってたが水中なら性別なんて関係ないとミイスは平然としていた。


「そう言えばマリーイド族は服は着るけど、同種だと裸か或いは肌着のような鱗や皮膚に覆われると聞いたことがありますね。」


「だからあたしは服を脱がないと泳ぎづらいの。」


「そう言うことか…しかしあれはビックリするぞ。」


出会った時から噴水で裸同然で水浴びしたり、人前で服を平気で脱いだりと羞恥心がないと思ってたが、種族由来の概念なため案外あり得る話かもしれない。それでも思春期男子には刺激が強過ぎる。


「因みにマリーイド族の鱗や皮膚作られた衣服とかがあるとか。」


「そんなのがあるのか?」


「何でも泳ぐための衣服…ダイビングウェアや水着とか呼ばれるそうです。」


「どんな衣服なの?」


この国は内陸にあり海などはよく知られているが、海水浴は知らないため水着がどう言うのか分からない。そこは年頃の女の子ならば衣服には興味があるらしくロゼは水着のことを訊ねる。


「ロゼちゃんだって身に着けてるでしょ?」


「え?身に着けてるって?」


「ほら、この赤色の奴とかさ。」


「ひゃああ!?何をするの!?」


水着なら身に着けているとおかしなことを言うミイスは、突然ロゼの制服を捲って赤色の下着を晒す。しかも捲れた際に豊満な2つの果実がダユンと揺れてしまうためロゼは赤くなって縮こまる。


「貴様!?不埒にも程があるぞ!?」


「水着みたいなのを着けてるのに何で恥ずかしがるの?それ着けて泳ぐのに?」


どうやらミイスは下着を水着と同じだと考えており、露出させたことに怒られても逆に疑問を抱かれてしまう。


「これは下着!?服の下から着る物なの!?」


「水着と下着は似ているようだが構造やニュアンスが違うから似て非なるものだよ。」


「そうなの?」


『私達で言う鱗みたいな物なのかしら…。』


「…ところで…見た?」


ミイスに大事なことを教えた後にロゼはジロリとサーティとドラギアス以外の男子達を睨む。


「えっと…。」


「余は見とらん!?」


「随分と派手でしたね。」


「バ…それじゃ見ちまったことが…あっ…。」


思春期男子達には正直嬉しいような出来事だったが、この後のことを考えると何とか誤魔化そうとする。しかしパスナが空気の読めない発言をし、その上で慌てたサルサが口を滑らせる。


「エッチーーー!!」


ミイスのせいだがバッチリ見た男子達に平手打ちするロゼ。サーティになら幾ら見られても問題ないが、それ以外の男子に対しては年頃の女の子らしい反応をするのだった。


「いたた…。」


「パスナとミイスのせいだぞ!」


「ふん!さあ、サーティちゃん。あんな人達は放って置いてお風呂に行きましょう。」


膨れてそっぽ向くロゼはサーティを連れて、頬を赤く染めた男子達を余所に女湯へ行こうとする。


「待て!サーティは余が監視する義務がある!だから…!」


「だから女湯に行くって?幾ら王位継承者様でもそんなの許されると思って?」


「違う!サーティは男湯に…!」


「ふん。」


すっかり機嫌を損ねたロゼの前ではホレスの権限も虚勢に過ぎず、そっぽ向いて女湯に行くのだった。


「諦めろ。今の俺達ではあいつに逆らえない。」


「事故とは言え見ちゃったからね…。」


残された男子達は気まずい雰囲気で満たされていたが、サルサとビートの言葉で仕方ないと折り合いをつける。


「それでは余は何のために…。」


「?」


その中でサルサはホレスが何処か思い詰めたようなことを呟いているのを耳にする。


「もう、ミイスちゃんは…あんなことはしないでね。」


「はーい。」


脱衣場にてロゼはミイスに服を脱がされたことを厳重に注意していた。


「ほら、ジャオちゃんも服を脱いで。」


「いい、このままで入る。」


「ダメよその格好じゃ。」


「なんでだよ!ミイスが水浴びする時は色々言ってたろ!」


「お風呂なら良いのよ!お風呂なら!それもちゃんと自分の性別に合ったお風呂でね!」


ここでなら服を脱いでも構わない、と言うか服を脱がなきゃ入れないのがマナーだ。そして混浴でもない限りは性別に合った入浴場に入れとミイスに釘を刺すような言い方をする。


『じゃあ僕達はここには入れなかったんじゃ…。』


「僕も…。」


「別に気にならないよ!ドラギアスのパートナーなんだし!」


「そうよ!サーティちゃんは私と一緒なら入って良いの!」


しかしながら幼いながら異性であるサーティとドラギアスながら同じく異性であるギザはここにいて良いのかと迷うが、ミイスはパートナーとしてロゼは保護者として同行を認めてしまう。


「そもそもあたしは水浴びなんて嫌だからな!今日だってたっぷり水を被ったんだからな!?」


「そんなの許しません!」


どっちにしても服を脱ぐどころか風呂を嫌がるジャオは逃げ始め、それをロゼが追いかけ始める。


「こら!?この!?」


「へっへーん!脂肪の果実を無駄に実らせてる奴なんかに捕まるかよー!」


脱衣場の収納スペースを駆け上ったり、テーブルの下をスライディングしたり、小柄ゆえの小回りを活かして逃げ回るジャオ。


「んー。」


「おわっ!?何だよこれ!?」


「暴れちゃダメだよ。」


見ていたミイスは蛇口を捻って水を出し、その水を操ってジャオを鷲掴みにした。突然のことで避けきれず、拘束しているのが水なため手足をバタつかせるぐらいしか出来なかった。


「ありがとう、ミイスちゃん。さあ、観念しなさい!」


「や、止めろー!?」


こうなったら逃げたくても逃げれないため、ロゼに服を徹底的に脱がされることとなった。


「何だよこの小さい浴槽は…。」


「何か見掛け倒しって感じ。」


その頃、男湯では脱衣場から浴場へ向かおうとしたが目の前には小さなプールのような浴槽しかなく、期待していた物とは大幅に違うため肩を落としていた。


「これは浴場に入る前に足を洗うための場所だ。本来の浴場はこの奥だ。」


「え、これって足を洗うためだけの浴槽なの!?」


知らないためホレスが手本で浴槽に足を浸けて洗ってみせる。しかしながら一般の家庭ではそんな物がないため、王族の浴場の事情を知らないために驚くのも無理もない話だった。


「ここが浴場だ。」


「うおっ!?広いな…!?」


「奥が湯気のこともあって全然見えないんだけど…。」


足を洗って浴場に入ると、イメージ通り広いことは広いのだが、広過ぎて壁の四隅が見えないほどに広く大きいために正しく想像を絶する浴場に圧倒されてしまう。


「いつまで呆けている。入らんと風邪を引くぞ。」


「そうだね…じゃあ僕はこれに…ふぁ〜…。」


ビートはホレスに促されるままに手近な浴槽に入るとリラックスしたような声を漏らしてしまう。


『俺は熱い湯に入りたいぜ!』


「あるか?それって。」


「その湯に入れ。ドラギアスの炎で温まる仕組みだ。」


熱血コンビはやはりと言うべきか熱い風呂を所望し、ホレスは鉄棒のような物が浴槽から生えた風呂を指差す。


『これが…熱いのか?』


「そこの鉄棒に火を当てるか熱してみろ。そいつは熱伝導とか言う物質で出来ているそうだ。」


「興味深い…そんな物があるのですか。」


『どれ…ふん!』


浸かってみるもそこまで熱くはなく、ホレスのアドバイスで鉄棒に炎を吹き付けると湯が沸騰し始める。


「お、こりゃ良いな。」


『極楽、極楽!』


湯が温かくなり2人は浴槽にもたれかかって風呂を堪能していた。


「僕は1人で洗うから良いよー!?」


「あたしもだ!?離せ〜!?」


「ダーメ!」


サーティとジャオは泡だらけになりながら抵抗するも、そうはさせるかとロゼは2人の身体やら頭をシャンプーで洗っていた。


「何かロゼちゃんは2人のママみたいだね。」


「そりゃあ赤ちゃんの頃からサーティちゃんをお世話してるんですもの!」


エッヘンと胸を張ると魅惑の果実も誇示するかのように揺れていた。


「じゃあ、ジャオちゃんはそうじゃないの?」


「放って置けないかったのよ。サーティちゃんと違って無謀なことをしそうで放って置けないって言うか…。」


「ロゼちゃんは本当に優しいんだね!」


サーティはもちろんだが、ジャオは彼より年上のようとは言え破天荒なことをしそうなため何かとロゼは気になるようだった。


「それにしてもジャオちゃんの髪って銀色なのね、泥やらシラミが多くて分からなかったわ。…それにこの生臭い匂いは何なの?」


サーティはいつも通り洗い終えたが、ジャオはあのみすぼらしい見た目ことも相まってかなり身体が汚れていた。髪に関しては銀色だったのだが、汚れていたために変色して判別出来ないほどだった。


身体の垢とかならばまだ良いが、洗う際に鉄分を含んだ血の匂いがしてくるのが気になっていた。


「これは…血だ。」


「ふ〜ん…血…え、血!?ジャオちゃんあなた何処かケガをしてるの!?」


もはや洗われるのには観念したのか抵抗せずにジャオは素直に答える。しかし匂いの正体が血だと知り、彼女がケガをしていたのではと慌てるロゼ。


「これは返り血だ!染めるのに必要だったから…。」


「染めるって…何で血を?それにまさかそれって…。」


ケガではなく染めるために返り血を浴びていたようだが、何の血であり何の目的であるかと言うのが問題だった。


「あたしは…ハンゾウルフに育てられたからだ。」


「ハンゾウルフ?」


ジャオは自身がハンゾウルフに育てられたと告げ、ミイスは何のことか分からず首を傾げていた。


「ハンゾウルフはワイルズビーストの似たような種の中でもとても頭の良い種類で、群れで活動して狩猟をするんだよ。」


サーティがハンゾウルフはワイルズビーストのことであると説明する。その名の通り狼のワイルズビーストであり、見た目も我々がよく知る普通の狼とは変わらない。


「あたしは小さい頃に『ヤマトの大地』の…『甲隠し山』って呼ばれる場所に捨てられたんだ。」


「ヤマトの大地!?そんなとこにいたの?」


なんとジャオはとある国で捨てられ、その際にそのハンゾウルフに拾われたと話した。


「何処なのそこ?」


「8つの首を持つドラゴン族の戦士を『ヤマト』って言うギガント族の戦士がその地で倒し、国を作ったと呼ばれる東の島国だよ。」


また分からないことがあるも、ドラゴン族とギガント族のことにも興味津々なサーティはその国と歴史の詳細を話す。


「ジャオちゃん…あなたはヤマトの大地の出身だったのね。けど、捨てられたって…。」


「あたしは捨てられたことをよく覚えてる…あいつらや親はあたしの銀色の髪を見て『化け物』と呼んで生贄と称して山に捨てたんだ…。」


「…!酷い…!?」


ジャオは何の因果でかその時の仲間達や本当の親にすら化け物として疎まれ、挙句の果てに生贄として山に捨てられたと知りロゼは怒りを露わにする。


「けど、ハンゾウルフの皆が仲間として育ててくれたんだ。拾ってくれた頭領に応えようと思って下忍から始めて忍術を体得しようとしたんだ。」


「ゲニン…ニンジュツ?」


「えっとね…。」


サーティが説明するに、ハンゾウルフには我々のよく知る狼とは異なるところがある。それは彼らが『階級』や『忍術』を持っていることであった。


彼らはまるで忍者のように闇夜に紛れて相手の情報を探り出し、時としては人間顔負けの技を使い、暗殺するかのように獲物を仕留めるとされている。


その時の成果や活躍によって格付けされ、上の階級になるほど敵を仕留める技術はもちろん、身を隠す技術や周りの物を武器や道具とする技術を会得し洗練させていく。その格が『階級』となり、技術が『忍術』になるとされている。


「あたしは死ぬ気で頑張った!初めは他の白装束のハンゾウルフを守ったり…。」


産まれたばかりのハンゾウルフは白い体毛を持ち、その個体は『白装束』とされる。この時はまだ保護下にあるため敵対するグループのハンゾウルフに殺されてしまうことがあるためこの名称なのだ。


「あたしは頭領や仲間のために階級を上げようとあくさんの血を浴びたんだ。」


階級を上げる方法として獲物の狩猟や敵対するグループとの戦闘を経験し身体を赤く染めれば『下忍』に昇格する。


更にそこから経験を積めば毛に付着した血が黒くなって『中忍』、そして更にそこから風化して灰色になったら『上忍』になると言う仕組みだ。 


「今は中忍まで行ってたんだ…!?」


「それであんなに血がたくさん…って、ジャオちゃん?」


ジャオは中忍まで階級を上げていたところでプルプルと泣き出し始める。


「けど…あたしが魚を獲ってる間に…皆他のグループに殺されて…頭領だけが何処かに連れ去られて…!?」


「そう言えば出会った時も頭領って…。」


「そんなことが…。」


出会った時から『頭領』と言いながら彼らとで出会ったのは自分を拾い育ててくれた頭領を見つけるためだった。


「頭領を絶対見つけて立派になった所を見せたかったのに…!お前が洗うからこんなことになったんだぞ!」


「あっ!ご…ごめんなさ…ひゃっ!?ちょ…止め…あっ!?」


まさかそんな理由があったとは知らずに洗ってしまったことに謝罪しようとするが、怒ったジャオがロゼの魅惑的な果実を乱暴に鷲掴みしたことにより変な声で遮られる。


「この無駄な脂肪!よく分かんないけど見てると腹立つ!」


「ちょっ!?止めてってばー!?」


攻守逆転と呼ぶべきか怒ったジャオはそのまま体格差のあるロゼを押し倒し、餅でも扱うかのように乱暴にもみくちゃにする。


「何か騒がしくないか?」


「あいつら何をしとるんだ。」


男からしたらかなり魅力的なことが女湯で起きているのだが、そんなのはつゆ知らずゆっくりと湯に浸かっていた。


「はあ〜…良いねぇ…。」


「ビートも熱いのはいけるのか。」


「バレル山脈にも温泉はたくさんあったからねぇ〜。」


すっかり風呂を堪能しており、中でもビートは熱いお湯に平気で入っていた。


「ちゃんとサーティは見ているのだろうな。」


「そんなに気を張るなよ。」


「気など張っとらん。」


「じゃあ任務なんてどうでもいいってことか?」


「…貴様、余をからかっているのか?」


同じ浴槽にて二人して並んで浸かっているとサルサはホレスにふと語りかけるが、挑発されてると受け取られてしまう。


「悪い、そう聞こえたか?ただ…さっきロゼとサーティを監視するかどうかって言い争ってたけど…アーティガルとドラギアスを逃がしたこと、お前なりに何とかしたかったんだろ?」


「……。」


「まあ、確かに女湯に連れてくのはどうかと思うがサーティは持ち逃げとかはしないぞ?」


答えはしなかったが否定をする様子でもないためサルサは話を続ける。


「しかし万が一と言うことも…。」


「本当は親父さんに顔向け出来なくてそれで躍起になってるんだろ…。」


「それは…。」


あくまでも任務だと言いたかったが、図星でもあり反論することは出来ずに俯く。


「そりゃ身分が違うから慣れないのも分かるぜ。でも俺達は仲間なんだから何にも考えずに頼っても良いと思うぞ?」


「…何も慣れないと言う訳ではない。」


最初は一般人と王族と言った違いから接し方に慣れないのかと思われたが、ホレスはそれを否定してきた。


「余は確かにこのような身分ゆえに友人はあまり多くなかった…偶然とは言え、短期間ながらお前らといた時間は…不思議と悪くなかった。」


「ならどうして…。」


サルサが指摘したように慣れないどころか寧ろ受け入れている節があった。それでも先程サーティを監視する役目を担ったのはどう言うことなのかと疑問に思う。


「ヒグルマとの戦いの時、我は特に何も出来なかった。お前やミイスはドラギアスと契約し、窮地を乗り越えてヒグルマを倒した…我々王族は民を守るのが役目だと言うのに…。」


押し殺すようにホレスは自分の役目を見つけ、果たすことが出来なかったことに後悔と自責の念を明かすのだった。


「だからこそ余はここへ案内してお前達の働きを労い、せめてサーティの監視だけはしてロゼを休ませてやりたかったのだが裏目に出てしまったようだな。」


「それであんなことを…。」


入浴場へ来たのも最初の言い争いもホレスなりに何とかしようとした努力の表れだったことにサルサも目を丸くする。


「ふっ…これではロゼの言う通り、見せかけだけのお荷物の王様だな。」


「そんなことあるもんか!俺だって最初は分かんなくてがむしゃらに動いてた…でも人によっては動けないことだってあるさ!」


自虐的になるホレスを見て我慢ならなくなったサルサは取り繕うと必死になる。


「ホレスはお荷物なんかじゃない!誰かを思いやり強い気持ちがあるじゃないか!その気持ちがあればきっとお前は守れるよ!」


「何を根拠に…。」


「俺が絶対にそうさせる!」


「…!絶対にそうさせるか…面白いことを言ってくれるじゃないか…。」


現実的ではないと否定するが、サルサはホレスの願望を叶えるような言い方をして不敵な笑みを浮かべる。


「何だよ、おかしいか?」


「いや…立派だよ。ありがとう…。」


「おっ…お前に感謝されたの初めてだ。お前でも感謝するんだな。」


「お前こそ失礼だな。」


真剣な話をしていたのに互いに間の抜けたやり取りをしていたことに向かい合い、気が付くとクスクスと笑っていた。


「ぐすっ…。」


「はあ…はあ…ごめんなさいね…そんなことがあったなんて…。」


「謝るくらいなら洗うなよな…。」


グッタリした様子のロゼは泣き疲れすっかり不貞腐れるジャオに謝るがそっぽ向かれてしまう。


「ジャオちゃんは頭領を探して1人でここまで来たのね…小さいのに偉いわね。でもそれならアーティガルが管理されてる部屋に?」


「分かんねぇよ…頭領の匂いを辿っていたのに…頭領…。」


「でも頭領にきっと…ううん、私が絶対に会わせるわよ。だって、アーティガルの部屋にいたんだから。」


理由は不明だがジャオの探しているハンゾウルフの頭領の匂いはアーティガルの部屋に残されていた。それはつまりアーティガルを探していればきっと出会えると言うことだ。


「問題は頭領に会った時にこの髪はどうするかってんだよ!ハンゾウルフにはそれが全てなんだよ!もし会ってもこんな落ちぶれた姿なんか…。」


しかし頭領と出会っても積み重ねた髪の色が変わってしまい、失望されてしまうことがジャオに取っては一番の問題だった。


「ジャオちゃん。あなたを育ててくれた頭領はきっと髪の色だけで全部を判断すると思えないわ。大切なのはジャオちゃんが努力を積み重ねて来たことじゃないの?出会ったら成長した所を見せてあげると良いわ。」


拾って群れの仲間として育ててくれた頭領が外見だけで判断するとは思えないし、大切なの中身だと励ます。


「でもそうじゃなかったら…?また捨てられたら?この銀色の髪で捨てられたのに…?」


「ごめんなさい…知ったような気で偉そうなこと言っちゃって…。」


ところがそれは返ってジャオの心の傷を抉る結果となってしまい、再び泣き出すのを見てロゼは傲慢であったと謝罪する。


「やっぱりあたしは…。」


「もしもその時は私達と来なさい。私達はもうあなたの仲間なんだから…怖がらないで…ずっといるからね…。」


「…!…うっ…ううっ…うあああっ…!?」


そっと後ろから優しく抱きしめられ、ジャオは何故だかは知らぬが涙と泣き声が止められなくなる。


孤独な出生と旅路を経て、ずっと一人で気張っていたがこれまでの感情が一気に押し寄せて止め処なくなったジャオはロゼの胸の中で泣き続けるのだった。


「はあ〜…良いお湯だった…そっちはどうだった?」


「良かったよ!」


一足先に上がっていたビートとミイスはポカポカと堪能したと言わんばかりの様子であった。


「君はもう何処か調子が悪いとかないかい?」


『ううん、大丈夫。あの時は魚を追いかけていたら網を突き破っちゃって…。』


「そうだったか…耐久性に問題があったか。どちらにしても済まなかったな。」


一段落してドレインホースに吸い込まれたギザを心配するパスナ。しかしもうギザは気にしていなかったようだ。


「俺は牛乳だけど、ここは好みによるんだぜ。」


「ほう。そうなのか。」


「ジャオちゃんは髪が綺麗なんだから手入れしなきゃダメよ?」


「うん…。」


風呂から上がったサルサとパスナ、ジャオとロゼは入る前よりも親密な様子になっていた。


『気持ち良かったけど、これからどうするの?』


『もう日が暮れたな。』


「もう今日は遅い。この宮殿に泊まって休むと良い。」


「わーい!やったー!お泊りだー!」


先程よりも柔和になったホレスは仲間達を招き入れるように宿泊を提案する。


「衣服などはこちらが用意しよう。また明日探すとしよう。」


「うん!」


満場一致で宮殿に泊まることとなり、ホレスを含め全員がワクワクした様子で身支度をするのだった。


「お前にこれを託す。どう扱うかはお前次第だ。」


「ありがとうね。こいつがいれば私の願望が…!」


その頃、ハルパニア王国の郊外では羽ばたく赤い竜の紋章を刻んだフードを着用した男が三十代くらいの女性にアーティガルが封印されたプレパカードを渡していた。


「カロイ〜、奴らも動き出したよ〜。」


「そうか。首尾はどうだ?」


何処からともなく同じ紋章を刻んだ少女が、謎の取引をしていたカロイと呼ばれる男に話しかける。


「3体ほど完了だよ〜!」


『『『グルルル…!』』』


「ならいよいよだな…。」


彼女の背後では血に飢えた獣のような顔つきになった三人のドラギアスがいた。サーティ達の知らないところで怪しげな企みが動いていたのだ…。

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