水を得たミイス
「パパー、パパは何で水をそんな風に操れるの?」
「それはね、パパのお母さん…おばあちゃんがそれが出来たからだよ。」
「あたしにも出来る?」
「きっとな!お前はパパの自慢の娘だからな!」
何処か昔の記憶で娘と父とのやり取り。父は自分の手のひらで水流を自在に操っていて、娘は何故それが出来るのか訊ねていた。
「…治せるよね?」
「もちろんだ!絶対に死なせはせん!」
時間は戻って現在。ドレインホースの中に吸い込まれた気弱な少年は肺の中に水が入ってぐったりしており、パスナが水を取り除く準備をしていた。
『そうかその炎はそのドラギアスと契約したからか…!』
「そうだ、こっちだ車輪野郎!」
『火はこっちだ!』
晴れてアルフと契約したサルサは全身から炎を出してヒグルマの注意を引いていた。
『ダイアモンドは最後のデザートにしてやる。まずはあのワイルドな炎をまた味わうとしようか!』
目論見通り、ヒグルマはサルサの炎と味わったアルフのドラゴンの炎に惹かれそちらへと進路を変える。
「俺らがあいつの気を引く!早く水を用意してくれ!」
「用意してくれと言われても…余はこんな複雑な機械は見たことがないぞ…!?」
サルサ達の意向は分かるが、肝心のポンプの使い方が分からないためにホレスは困惑する。
「他の者達はどうだ?」
「こんなの分からないわ…。」
「あたしだって!?」
「僕もこんなのは…。」
それなら適任者を探すもののロゼ、ジャオ、ビートも首を横に振る。
「やっぱりパスナくんにしか出来ないわ…けど…。」
「右の肺はもう少し…後は左か…。」
使えるのは機械を組み立てたパスナだけになるが、彼は少年を救うので手がいっぱいだった。
「…ねぇ、この子をあたしに任せてくれる?」
「え、何を急に…。」
まだ処置は終わっていないのに任せて欲しいなんてどう言うつもりか分からず聞き返してしまうパスナ。
「あたしは…マリーイド族のクォーターなの。」
「!マリーイド族…!」
マリーイド族とはこの世界に置ける海の種族のことであり、人魚や魚人、或いは水生生物の特徴を持った人間と言った見た目をしている。
「そうか…だから君は長い間水中にいれたのか。」
「うん、ずっと言わなかったけどあたしはパパ似でマリーイド族の血を引いてるの。」
海の種族であるがために水を好み、水中でも呼吸が可能であり、水を操ることで有名とされている。
見た目では分からなかったが、クォーターで種族の血を受け継いでいるならばこれまでにも噴水で遊んだり、長い間潜水できるはずだった。
「あたしがこの子の肺の水を取り除く!だからパスナくんは…。」
名乗り出たのは水を操る力で少年の肺の中の水を取り除こうとしたからだ。
「だが水は本当に操れるのか?片方は処置が済んだがもう片方は…。」
「正直、パパみたいに扱えるかは分からないよ。でも、今は君があれを動かさないと皆危ないのは分かる!この子だって…。」
それならば申し出ればいいのだが、そうしなかったのはまだ水を操れるかどうかよく分からないからだった。それでもミイスは何とか少年を助け、他の皆を助けようと言う一心で動いていた。
「しかし、ぶっつけ本番で成功するかどうか…。」
「だったら私がこれを動かすわ!やり方を教えて!」
今度は話を聞いていたロゼが名乗り出て、機械を動かす方法を教えて貰おうとする。
「しかし…。」
「あなたがサポートしてくれれば大丈夫!この子とミイスちゃんの側にいて、やり方を喋ってくれれば良いの!これでも聴覚と視力はスゴいんだから!」
居ても立ってもいられないのが勝ってグイグイと話を進めるロゼにパスナは押されてしまう。
「分かった…初めてだがバイパスで行うことにしよう。」
「ありがとう!私も精一杯やるわ!」
「この子を川に浸けて!水の中なら集中出来るかも!」
ロゼに機械を任せ、パスナとミイスは少年を川へと運んで治療を行う。
『ええい!何処まで行くんだよ!』
「おいそれと食わしてやるかよ!」
炎を出してヒグルマを誘うサルサとアルフは町中を逃げ回っていた。
『ウロチョロと…あ!また引っ掛かった!?』
「食べ過ぎで身体がでっかくなってるのが災いしたな!」
炎を吸収して身体が大きくなったヒグルマはサルサとアルフが路地を通ったり、急な方向転換をすることで翻弄されてしまう。
『こんな逃げ続けてていいのか?』
「悔しいが奴には炎は逆効果だ。だから今は逃げ続けて時間を稼ぐんだ!」
『そうだが…しかし…!』
何とか一矢報いたいと思うアルフだが、サルサの言うことは一理あるためやむなく今は逃げるしかなかった。
「次はそこのレバーを下ろして水を吸い上げ、その次は赤いボタンで圧力を上げるんだ。」
「こうね!」
なるべく大声で使い方を口に出し、それを聞きながらロゼは操作していく。
『ううっ…。』
(集中…パパはまずは水と共にいることから始めなさいって…。)
その側では水に浸かったミイスが少年の胸辺りに触れながら集中していた。
(あたしは全身で水を感じてる…この子の肺の中の水は…。)
水に触れることで操る感覚を掴み取ろうとし、少年の肺の中の水を感じ取ろうとする。
『ん…!?くそ、これは罠か!』
「何!?」
囮を買って出たサルサとアルフだったが、ヒグルマはジャンヌ・ダイアから遠ざかっていることに違和感を覚え引き返し始めたのだ。
「おい!そっちにもう行きそうだぞ!?ポンプは!?」
『えっ!?もう!?まだ充分な水を吸い上げてないのに!?』
先進国では当たり前の通信機器、テレパシータブレット略して【テレット】を使ってサルサはロゼに警告するもまだ準備には時間が掛かると言う。
「おい!炎はこっちだぞこっち!?」
それを聞いたサルサは慌てて炎を出してヒグルマを呼ぶが今度は見向きもせずに川へと向かっていく。
『さすがに炎を使わなかったことが裏目に出たようだ。』
「ならどうしたら…。」
炎を出さないと分かり、無視する一方のヒグルマにサルサはどうしたらいいか考える。
『やはり炎を使うぞ!』
「だが、それだと逆効果だって…。」
『攻撃する時はそうだが、餌として引きつけるにはそれしかないだろ!』
「お前、あいつに炎を吸われまくってヤバかったのにか!?」
アルフの言う通り、攻撃としてならダメだが、引きつけるエサならば炎が一番だ。しかしながらヒグルマにほとんど炎を吸われて、ぐったりした状態に追い込まれてたことをサルサは憂いていた。
『言ったはずだ!俺とあいつを助けてくれたんだ!これくらいのことで怖じ気づいてられるか!このままだと友達が危険な目に遭うかもしれないのに…!?』
「そうか…でもやるなら俺だ!お前はまだ少し休んでてくれ。もしも俺に何かあったら皆を頼む!」
『…!やっぱりお前と契約して良かった!』
アルフの思いにサルサは力強く受け答え、それでいて仲間や自身を考える様子にアルフは満足そうに微笑む。
「ヒグルマ!お前の大好きな炎だぞ!喰らえ!」
『ぬおっ!ようやく食べさせる気になったか!』
火の玉を手のひらに出したサルサは豪速球でヒグルマに投げつけると、ぶつかっても吸収されるだけだが気を引くには充分だった。
「さあ、これで時間は稼いでやれるぞ。後は俺が力尽きるまでに準備が終わるかだ…いずれにしてもこっからが俺とお前の根比べだ!」
力尽きるのが先か、作戦が進むのが先か。サルサとヒグルマの意地のぶつかり合いが始まる。
『ううっ…。』
「マズい…これ以上長引くと命に関わる…!」
少年の顔色は彼の髪よりも青くなっており、このままだと危険だとパスナは忠告する。
「水を…水を感じないといけないのにどうして…!?」
いつもはマイペースなミイスも人の生き死にを前にして焦りを覚える。それでも何とか水の力を感じ取ろうと躍起になっていた。
「やっぱりあたしには水の力なんかないのかな…。」
『ミイス、お前は水を感じ取ろうとしてるんじゃないのか?』
諦めてパスナに全てを任せようとした矢先、今のミイスのやり方ではダメであると告げる台詞が脳裏をよぎる。
それはミイスが幼い頃、父のように水の力を会得しようとするも成功せずに現在のように諦めようとしていた時に言われた台詞だった。
『何がダメなの?』
『パパのような力を使いたいなら、水を他人行儀に考えたり、捉えたりしないことが大事なんだ。』
『どう言うこと?』
『ミイスは水を感じ取ろうとしているだろ、それは水を自分の身体の一部ではないと考えるのと同じだからさ。』
その時は現在のように水の力を扱うために水を感じようとしていたが上手く行かず、父親のアドバイスを聞いても何のことかさっぱり分からなかった。
(あの時と同じだ…パパはあの時はなんて言ってたかな…。)
走馬灯と言う訳では無いが、既視感からその時のことを鮮明にそれでいて僅かな時間帯の中でミイスは記憶を徐々に呼び覚ましていく。
『パパ、それってどう言うこと?』
『水を自分の身体の一部…そうだな、水を自分の手と足みたいに扱うことだな。水で遠くの物を掴んだり、遠くにある水を自分の所に呼び寄せたり…水を感じ取ると言うのはその時分かるものなんだよ。』
『ふーん…よく分かんないー。』
結局、その時は父親の台詞の意味は理解できずに水の力は会得できなかった。しかしそれまで忘れていた肝心の内容は呼び覚まされ、その瞬間に足りなかったピースが全て揃ったような感覚に目覚める。
「待ってて!」
「ミイスくん!?」
ハッとなったミイスは頭から水中に潜り、身体を大の字に広げて深く沈んでいく。
(そうだった…あたしは水を感じ取ろう、感じ取ろうって水を自分とは別の物だって考えてた…けど、そうじゃなかった。水はあたしの手や足、流れている血液や心臓でもあるんだ…。)
眠るように目を閉じ水が自身の手足であることはもちろん、血潮や鼓動も水と同じく波打っては流れていくと感じ取り、深海のような身体の奥深くから不思議と何かが浮上してくる。
『はあ…はあ…。』
「くっ…済まない!やはり私が…!?」
「待って!今度こそあたしに任せて!」
もはや我慢の限界と判断したパスナは水から引き上げて処置しようとする。その時、水面が跳ね上がり薄い水に覆われたミイスが空中へと飛び出した。
「ごめんね、苦しかったでしょ?今助けてあげるからね。」
『ううっ…。』
「…今なら分かる。この子の肺の中にある水を。この水を外に…!」
苦しむ少年の胸に手をやるミイスは、打って変わって身体を通して水を感じ取っていた。そしてその水を肺から気管、気管から口の外へと誘導していく。
『んく…ぷあっ!?』
「よし…!」
『けほけほ!?』
肺の中の水が完全に体外へと出され、少年は苦しい状態から解放されて暫く咳き込む。
「信じられん…本当に肺の中の水を…。」
『僕は…。』
「良かった〜!もう大丈夫だよ!」
助けられたことにパスナは唖然となっており、ミイスは嬉しくなって助かったことでポカンとする少年に抱き着く。
「パスナくん!ポンプ使えるわよ!」
「よし!そのレバーを一気に上げてくれ!」
「うん!それ!!」
峠を越えたことを確認し、後腐れなくなったことで機械の操作を指示し、ロゼは従って操作するとポンプのパイプから勢いよく水流が発射される。
『むおおおっ!?』
「おおっ!間に合ったか!」
高い圧力で発射された水流は空中にいるヒグルマに命中する。
『ぬぐぐぐっ!?』
「やった!効いてるよ!」
『そのまま倒すのです!』
やはり火を消すには水。これだけの水流であれば大きくなったヒグルマには効果は抜群だった。おまけに大きくなった分当てやすくなっていた。
『そ…それなら…!?サテライトフレイム!?』
「ロゼお姉ちゃん危ない!?」
「きゃあっ!?」
水に苦しむヒグルマは耐え忍んで火の玉を機械に向けて飛ばす。それを見たサーティはロゼに飛びかかって機械から引き離し、その途端に火の玉が機械を燃やし尽くす。
「しまった!?ポンプが…!?」
『はあ…はあ…こんな物を用意していたのか…何にしてももうその小賢しい機械は使えん!そしてそのダイアモンドもいただきだ!』
邪魔者はいなくなり心置きなくジャンヌ・ダイアをいただこうと近寄ってくる。
「くそ!その前にメインディッシュが残ってるぞ!」
『こっちを向け!』
『おっ、それならまずはお前らから食らい尽くすか!』
思わぬ窮地にサルサもアルフも焦って炎を連続で撃ち出すも、やはり全てヒグルマに吸収されより大きくさせるだけだった。
「バカ者!?余計に大きくさせてどうする!?」
「もう山盛りMAXだよ!?」
「あれ…ヒグルマって確か…。」
焦ったことでよりヒグルマを大きくさせてピンチを招いてしまう。しかしサーティは少なくとも大きくなっただけではないと気が付いていた。
「水なら、そー…れ!!」
『ぶあっ!?』
「どうだ!」
目覚めた水の力を使い、川の水を手のひらのような形にしてヒグルマを平手打ちをする。
『おのれええぇぇぇ!!』
「熱い!?水が蒸発しちゃう…!?」
「熱い…?まさか君は水と感覚を共有しているのか?」
ヒグルマは全身を炎で包み込むと、水の手のひらが一気に蒸発する。それだけでなく水を身体の一部としたためか感覚なども共有しているらしく、炎によって水が蒸発した瞬間にミイスは熱がる。
『これしきの水で止まってなるものかー!?』
「マズい…ホレスの言う通り炎を与え過ぎたか…!?」
最初は圧されるも水を蒸発するほどの熱量の前には、付け焼き刃である水の力だけでは敵わないようだ。
「むむっ…どうしたら…あたしがモタモタしてたから…。」
『お姉ちゃん…水が使えるの?』
「え?うん、まだ使えるようになったばかりなんだけどね。」
気弱な少年は立ち直ってミイスのことを訊ねてくる。
『それで僕を助けてくれたんだね…ありがとう。』
「どういたしまして!」
『アルフもパートナーを見つけたんだね…僕もパートナーを見つける必要があるなら…。』
「?」
助けてくれたミイスに感謝しているのは分かったが、彼は何やら思い詰めた様子を浮かべていた。
『お姉ちゃん!僕はドラギアス…名前はギザ!』
「あ…君はドラギアスだったの?」
少年の名前はギザと言い、彼は背中からドラゴンの翼を生やし、手足はドラゴンのような堅牢な鱗に覆われた状態となりドラギアスとしての正体を表す。
『本当は戦うのは怖いよ…でも僕を助けるためにお姉ちゃんが頑張ってて、友達のアルフが戦っているのを見て思ったんだ…僕もアルフと戦いたい!お姉ちゃんの力になりたいって!だから…!』
「うん!あたしからもお願い!契約して!」
『うん!』
「ギザ!チェインタクト!」
ギザの逆鱗とミイスの手首から血のような赤い鎖が出現して互いに巻き付き1つとなる。こうして晴れてギザとミイスは互いに契約を交わすのだった。
「わあっ…スゴい!まるで水の中にいるみたいな感じがして、力がみなぎってくるよ!」
『お姉ちゃんの水の力が僕にも伝わってくるよ!』
契約を交わした途端に何もしなくとも雫や水流がミイスとギザの周りに発生し水の力が満ち溢れていた。
「よ〜し…やるよ!」
『うん!』
2人は契約して早々なのに息が合う姉弟のように水を操り始める。
「サルサ兄ちゃん!あいつにもっと炎をあげて!」
「お主、血迷ったか!?そんなことしたらもっと手が付けられないなくなるぞ!?」
2人が水を操る中でサーティはもっと炎を与えるようにサルサに指示した。確かにそんなことをしたら益々手が付けられなくなるのも当然だろう。
「よく見て!あいつ炎を食べて大きくなってるけど、その分高く飛べなくなってるよ!」
「言われてみると…そうか!食べ過ぎて身体が重くなっているのか!」
しかし何も考えがない訳じゃなかった。先程と比べるとヒグルマは確かにサイズは何倍にもなっているがそれに伴って高度が下がっていたのだ。
「だとしたら方法は…。」
「皆まで言うな!分かったぜ何をすべきか!ヒグルマ!お望み通り食べ放題のバイキングを嫌と言うほど食わしてやるぜ!」
炎の攻撃は確かに通用しないがそれだけであり、ヒグルマの重さが変動すると聞き、その上で自分達がいる場所と、たった今契約を交わした2人がいることを鑑みて自分達がすべき行動がハッキリしてくる。
「ヒートパンチャー!」
『俺もやるぜ!フレイムガン!』
『おおっ…何だ!?美味しいご馳走をわざわざどうも!』
その中で真っ先に動いたのは心も体も熱々の熱血コンビで、2人は一斉に火の玉の拳と火の玉ブレスをヒグルマにぶつけて吸収させる。
『ダイアモンドはそこで待ってな!メインディッシュを食ったら次は……むっ!?何でこんなにお前達が間近に見えるのだ!?』
炎に満足しているとデザートであるジャンヌ・ダイアや彼女を抱えるサーティが先程よりも大きく見えることに違和感を覚える。
「幾ら食べ放題と言っても限度はあるよね〜。」
「私も食べ過ぎには気を付けよう。太りたくないもん。」
『はっ!?し…しまった!?炎を吸収し過ぎて高く飛べなくなっている!?』
ビートとロゼの発言でヒグルマは自分自身が吸収し過ぎで重くなり高度を維持できなくなっていることに気が付いた。
『しかもここは川の近く…いかん!?炎を放出しなくては!?』
「うわっ!?こいつめちゃくちゃに炎を放出してるぞ!?あたしらまで丸焼きにする気かよ!?」
川で高度を維持できないことに焦ったヒグルマは慌てて火の玉から火炎放射を放って軽くしようとする。そのため芝生に火が付いて小火になり始める。
「ダイエットしたいの?それならあたしが手伝ってあげる!」
『おうおう、そりゃ悪いな……えっ!?』
唐突に辛いダイエットを手伝うと言われ、願ったり叶ったりだと返事をするが真っ赤な火の玉が水のように青ざめる。
「この渦巻きでシェイプアップしてあげる〜!」
『お…お…お…!?』
気が付くと川の水はアメリカのハリケーンのように空高く吸い上げられるように渦巻きながら上昇しており、ミイスとギザが手をかざしながらヒグルマを見ていた。
『火遊びをする悪い子は…!』
「渦巻きの中で…お仕置きだー!ボルテックスシュート!」
『うおおおおっ!?』
重くて動けないヒグルマにギザとミイスが作り出したハリケーンのような渦巻きはヒグルマをあっと言う間に呑み込むのだった。
『がぼごぼっ!?ぶくぶく!?』
呑み込まれたヒグルマは渦の遠心力が加わった水流に火を消されると同時に掻き回される。
『げふあっ!?』
「あいたっ!?…こんなに小さくなるんだ。」
ハリケーンの渦巻きはやがて小さくなり、辺り一帯に雨となって降り注ぐ。その中で手のひらサイズにまで縮み、火の玉も灰色になったヒグルマがサーティの頭に落ちてくる。
「やったね!」
『うん!』
「でも、その前にやっておかなきゃならねぇだろ。封印をよ。」
ミイスとギザは互いにハイタッチをしていたが、肝心のアーティガルの封印をしなくてはならない。
「ミイス、お前が封印しな。」
「いいの?」
「今日はお前の手柄だからな。俺じゃどうにもならなかったわ!」
サルサはヒグルマに勝てたのはミイスのお陰であり、彼女に封印を任せることにする。
「よーし、チェインタクト!ギザ!ヒグルマを封印して一緒に遊ぼう!」
『喜んで!チェインタクト、ヒグルマ!君を悪さしないように封印する!』
『もう…燃え尽きたぜ…。』
プレパカードを受け取ったギザはミイスの呼び掛けにより、鎖を放って燃え尽きたヒグルマに巻き付ける。燃え尽きていたためプレパカードの中へと容易に引きずり込んで封印するのだった。
『アーティガルのヒグルマ!封印したよー!』
「やったー!成功ー!」
封印が完了してミイスとギザは再びハイタッチしてようやく他の面々もホッとするのだった。
「一時はどうなるかと思ったねー。」
「ぶえっくしゅん!?」
「ジャオちゃん、女の子がそんなおっさんくさいくしゃみしちゃダメでしょ。」
今回はかなりギリギリだったためにホッとした瞬間に、雨でずぶ濡れになっていることに気が付く。
「今日は暑かったり、濡れたり…忙しかったな。」
「お風呂に入りましょう。風邪引いちゃうわ…。」
「…ならば余の宮殿に来い。」
最終的に雨でずぶ濡れになったため、冷えた身体を温めるために入浴したいと思っていたら、唐突にホレスが宮殿に来るように申し立てる。
「どう言う風の吹き回しだよ?」
「勘違いするな。サーティに目を光らせよと言う任はまだ続いている。帰宅すると見せかけ持ち逃げしないように見張る必要がある。故に余の宮殿に来れば何の問題もあるまい。」
「なんか釈然としないわね…まあ、無駄にお金が掛かってる分その方が良いのかも。」
ホレスはまだサーティを見張ると言う信念の元で動いているらしく、監視を兼ねて宮殿に来るよう言うためロゼはムッとして意地悪なことを言う。
「まあ、何にしても風呂だ風呂!行くぜー!」
「そうだね。くしゅん!」
『風呂って…なんなの?』
「ああ、お風呂はね…。」
何にしても宮殿の入浴場へと一同は向かうのだが、その光景を遠くから見守る者達がいた。
「あの2人がドラギアス解放の鍵か。」
「俺様達の所に引き入れれば組織の本懐を遂げられるな。」
「しかしウチらには色々と足りないよな〜、アーティガルやドラギアスはもちろん同志もな。」
「そのためにもあの子は必要なのよ。」
遠目から見ていたのは咆哮を挙げながら羽ばたいている血のような赤いドラゴンの刻印を身体の何処かに刻んだ男女4人だった。




