スマホ漬け
目が覚めると、いつものようにスマホが手元にあった。ベッドの横に置いたはずなのに、どうやら寝ている間に手に取ってしまったらしい。
時計を見ると、まだ朝の5時。早すぎる時間だが、通知が気になってしまう。
「おはよう、スマホ」
そう呟きながら、画面をスワイプする。SNSの通知、メール、ニュースアプリの更新情報が次々と表示される。
指が勝手に動き、次々とアプリを開いていく。
ピロリン。
メッセージの着信が鳴る。
一旦食べる手を止めて、スマホを取る。起きているうちは一件たりとも見逃さぬように、わざと音が鳴るように設定していた。
朝食をとりながら、スマホを触る。家族との会話も上の空で、画面に集中していると当然ながら。
「あんたいい加減にしなさい。場を弁えて使わないと、スマホ解約するよ」
と脅しにも似た、母からの冷める言葉が飛ぶ。
ちっ。
スマホを解約される訳にはいかない。私は仕方なくまだ途中で止めてあるメッセージをそのままに、画面を消した。
『〇〇〇〇の俳優が、どうやら引退するらしい』。
ちょうどスマホを開くと、そう表示されていた。私の好きな俳優だったのに。
私はタップして詳細を見る。
『結婚』
その文字が出たところで、私の指は勝手にニュースを閉じていた。見る気が失せた――――もうどうでもいいと思ったからだ。
とりあえず、また新しい推しでも見つけて気を紛らわそう。
私は授業もそっちのけで、ついついスマホを見続けてしてしまう。先生に注意されることもあるが、なにせこの学校は全体的に緩い。私一人がどうこうしようと問題にはならなかった。
昼休みまであと少し。
友達と話すよりもスマホを見ている方が楽だと感じるのは、きっと私だけではないはず。
家に帰ってもスマホは手放せない。
家族と過ごす時間も、友達と会う時間も、スマホが中心。気づけば、リアルな人間関係が薄れていく。友達からの誘いも断ることが増え、家族との会話も減っている。
私は今それらより大切なモノを手にしている。つまらないことで貴重な時間を取られたくない。
スマホさえあればいい。
私にはこの掌に収まるサイズが心地いい。
本当にスマホだけで、生きていける。
寂しくも退屈も、これにはないのだから。