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ギルドの珍騒動


      「いい加減にしろ!」


二階から掛けられた声にみんなの目が一点に集まった。


ブルクス「ギルマス・・・・」

ギルマス「ブルクス!お前は何度言えば、大人しくなるんだ!」

ブルクス「うるせえ!俺はコケにされたんだ!このままじゃメンツが立たねえ!」

ギルマス「何がメンツだ!お前が、その老人に難癖をつけただけだろうが!」

ブルクス「知らねえな!これは、俺と爺の問題だ!」


男は興奮して誰の言葉にも耳を向けようとしなかった。


  九鬼「あんたが、この躾のなっていない豚の飼い主かのう?」

ブルクス「てめえ、また、もう許さねえ!」

ギルマス「やめろ、ブルクス!」


階段を降り切ったギルドマスターは、剣を振り下ろした男が、老人に足を払われて

自分の足元に転がって来るのを、愕然と見ていた。

彼は老人が斬られると思っていた。

なぜなら、このブルクスと言う男は、頭はお粗末だがギルドランクは5級で、剣術

スキル持ちだ。

いくら王都の冒険者が弱いと言っても、このギルドで武力だけなら一番強い。

だから、少々やり過ぎても、誰も文句を言えなかった。

ギルドマスターでさえ、本気でやり合っても、確実に勝てる保証は無い。

なのに、この老人はまるで子供をあしらう様に転がしたのだ。

実際、男は顔面を強打したのか、血だらけの鼻は潰れてしまい、呼吸さえ苦しそうだ


  九鬼「剣を抜いたのなら、死ぬ覚悟が有ると判断するが、良ろしいか?」

ギルマス「いや、待ってくれ、こいつには、もう手出しはさせない」

ブルクス「お、俺はまだ・・・」

ギルマス「黙れ!これ以上は除籍にするぞ!」

ブルクス「うう・・・」

ギルマス「奥に行って治療して来い」

ブルクス「あ、ああ・・・・・」


のろのろと、奥の医務室に向かう男をしり目に、老人はまるで、何も無かった様に

受付嬢から規約の説明を受けている。


受付嬢「以上で説明は終わりです」

 九鬼「ありがとう、お嬢さん、一つだけ聞いて良いかのう」

受付嬢「何でしょう?」

 九鬼「偶然、魔獣を狩ってしまった場合は罪になるのかのう」

受付嬢「いいえ、ただ、討伐依頼と違って素材分の金額にしかなりません」

 九鬼「討伐依頼の場合は違うと?」

受付嬢「ええ、討伐依頼の場合は依頼を受けたパーティーに報酬の半分を渡

    します」

 九鬼「うむ、横取りはいかんのう、わかった」

   「さあ、九鬼さん、終わったら一旦、帰りましょうか」


どうにも不必要に目立った様だし、早めに退散した方が賢明だと思ったが、やはり

ギルドマスターに足止めを喰らった。


ギルマス「ちょっとだけ、話を聞かせて貰うぞ」

    「わざわざギルドマスターがど新人に何の用ですか」

ギルマス「司祭殿には関係ない」

    「そうですか、九鬼さん、行きましょう」

  九鬼「うむ、居候の身じゃ、司祭様に従おうかの」

ギルマス「わしの、命令に逆らうのか?碌な事にはならないぞ」

    「何を命令するつもりですか?」

ギルマス「スキルを教えろ、それだけだ」

    「断る!開示の義務は無い!」

ギルマス「ギルドカードを返して貰っても良いんだぞ!」

    「なら、別の支部で登録します、九鬼さん。カードを返しましょう」

  九鬼「そうじゃのう、有っても無くても肉は手に入る」

ギルマス「きさまら・・・・ただじゃ」


要は、こいつも、先程の男も同じ穴の貉だったって事だ。

コイツと、先程のブルクスと言う男には何の違いも無い、力や地位を無意識に振り

回すだけの、ただの無能だ。

我慢して、ここに居る必要は無い。

受付嬢にギルドカードを返そうとした途端に、奥の扉が勢いよく開いて、年老いた

女性がギルドマスターを怒鳴りつけた。


チェスカ「いい加減にしな、この馬鹿が」

ギルマス「チェ、チェスカ・・・・・」

チェスカ「こんな騒動を起こして、教会を敵に回す覚悟は、有るんだろうね」

ギルマス「あっ、い、いや、そんな事は」

チェスカ「また、独房の住人になりたいのかい、デライド」

ギルマス「す、すいません・・・・・」


どうも、ギルドマスターでも彼女には逆らえないようだ。

もし教会と揉めてしまえば、スキルの確認も譲渡も出来なくなるのだ。


 九鬼「お嬢さんや、あちらの御婦人はどなたかのう」

受付嬢「チェスカさんは副ギルドマスターで専属治癒師です」

 九鬼「ほお、チェスカさんと言うのか、美しい名じゃ」

受付嬢「九鬼さん、気にするところは、そこですか・・・・」


ギルド専属の治癒師となれば、ギルドマスターよりも発言権は、遥かに強い。

荒事ばかりの冒険者は、命が掛かっているのだから、治癒師を大事にするのは当然

だし、ギルドも彼女に辞められでもしたら、責任問題だ。


チェスカ「申し訳無いわね、馬鹿がギルドマスターで」

    「いえ、わかって頂ければ、それで」

チェスカ「スキルの詮索は厳禁なのに、何を思ったんだか、この馬鹿は」


恐らく九鬼の体捌きを見て、剣術スキルの種類が気になってしまったのだろう。

ただの、剣戟なのか、それとも剣聖にまで昇華しているのか、と。


チェスカ「それよりも、そちらの方は随分、お強そうですね」

  九鬼「いやいや、儂など剣しか取り柄の無い無能者、治癒師殿の素晴らしさに

     は到底」

チェスカ「あら、嫌ですわ、こんなお婆ちゃんをつかまえて」

  九鬼「なんの、まだまだお若い、それに溢れ出す気品は、隠せませんぞ」

チェスカ「まあ、お上手ね、もし怪我をしたら、必ず私が治して差し上げますわ」

  九鬼「これは、安心して魔獣を狩れそうじゃ、張り切る理由ができた」

チェスカ「いつでも、お越しください、お待ちしておりますわ」

           ・

           ・   

           ・

           ・

受付嬢「ねえ、司祭様、私たちは、何を見せられているんでしょう」

   「わかりませんが、今後、この光景がギルドで幾度となく繰り返される

    のではないかと・・・・」

受付嬢「わたし、受付嬢、辞めようかしら・・・・」

   「申し訳ない・・・・」

受付嬢「責任取って下さいね・・・」

   「甲斐性無しです、ごめんなさい」



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