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老人、冒険者ギルドへ




九鬼「で、あの子達を預かる事になったと」


いま、あの違法奴隷の子供達は、イレーネ達と一緒になって孤児院の施設や決まり

を、学んでいる最中だ。

私相手には中々、心を開いてくれないが、子ども同士だと、暫らくゴタゴタした後

からは、瞬く間に全員が打ち解けてしまった。


  「ええ、もう帰る場所も、親も居ませんから」

九鬼「何とも、やるせないのお」

  「それぞれ事情があったんでしょう、一概に親ばかりを責められません」

九鬼「親を恨まねば良いが・・・・」

  「自分は捨てられた、売られた、そう思ってますからね、何とも」

九鬼「真っ直ぐ育てねばならん、責任重大じゃぞ」

  「当然、手伝って頂けるんですよね、九鬼さん」

九鬼「お人好しの司祭様の為じゃ、粉骨砕身務めさせて、貰おう」


しかし、現実問題として、運営資金を確保する当てもない。

食料だって、あと、ひと月持てば良いだろう、その後の事は考えたくも無い。

まかり間違っても、子供達を飢えさせる訳にはいかない。

ただでさえ、こんな境遇に放り込まれて、怒りや不満の持って行き場を、無くして

いるのだ。

空腹などと、そんな物迄この子達に背負わせる訳にはいかない。


九鬼「その事なんじゃが、孤児院が何かを売って利益を得るのは違法か?」

  「いえ、特段、無かったと思いますが」

九鬼「生産者の組合とか、税金とかに金は取られんのか?」

  「孤児院も教会の一部ですから無税ですし、組合も無視するでしょう」

九鬼「ほほお、では狩ってきた得物も採取した物も自由にして構わんと」

  「ええ、肉屋に卸すなり、ギルドに売るなり自由です」

九鬼「屋台とか、露店は?」

  「商業ギルドに場所代を払う事になりますね、値段は場所次第ですね」


今はまだ冬が終わったばかり、やっと緑が大地を覆い始めたばかりだ。

春一番の収穫物が市場に出るまでは、まだ二ヶ月以上掛かるだろう。

王都の人々はその間、主に根菜類で凌ぐのが、当たり前になっている、

事実、下町の八百屋の露店に並んでいるのは、殆んどがイモ類だ。

逆に、今まで雪のお陰で、順調だった狩は徐々にその数を減らていった。

九鬼はここに目を付けた。


九鬼「不足している物なら、少量でも取引可能じゃろう」

  「何を考えているんですか?」

九鬼「無ければ、取りに行けばよい、狩に行けばよい」

  「危険です!」


オーティスは九鬼の提案を即座に否定した。

何のスキルも持たない九鬼が、得物が狩れるとも思えないし、もし森で魔獣にでも

出くわしたら、命がない。

九鬼は見た目は元気だが、歳は六十を超えているのだ。

オーティスは危険を覚悟で全てを投げ捨てて自分の能力を解放しようかとも思った

だが、九鬼がその決断に待ったをかけた。


九鬼「まあ、ちょっと見て貰おうか」


そう言うと、老人は削りだしたばかりの木刀を手に取った。

そして、そのまま一瞬、体が揺れたと思った途端に、ドンッという音と共に木刀の

切っ先が傍に置いてあった、樽のど真ん中にめり込んでいた。

もう、何をしたのか、動きが見えなかった。

自分の目を信用できなくなった。


  「・・・・何ですか‥‥今の」

九鬼「ただの片手突きじゃよ」

  「しかし、見えなかった、いつ、動いたんですか」

九鬼「ああ、これは浮舟と言う動きじゃ、珍しかろう」

  「異界の技ですか、見た事も聞いた事も無いですね」

九鬼「獲物を狩るには、冒険者ギルドの登録が必要なんじゃろ」

  「ええ、別に明記されてはいませんが、無登録だとトラブルになりますね」

九鬼「なら、登録を頼もうかのう」

  「はあ、本当に大丈夫なんですね」

九鬼「町の衛兵程度なら片手で十分じゃな、じゃが魔法は見た事が無いし判らん」

  「ああ、多分大丈夫ですよ、魔法使いなんて」


そもそも、魔法使いは対人戦では、ほぼ最弱である。

長ったらしい詠唱をする間に接近されてしまえば成す術がない。

では、なぜ魔法使いが特別視されるのか、それは治癒魔法や生活魔法の様な後衛に

もってこいの能力を多数持っているからだ。

ケガは治して貰える、水も火も出せる、荷物には軽減魔法を掛けて貰える、獲物を

持ち帰る量が格段に増える。

アイテムボックス持ちなど、上位パーティーで引っ張りだこだ。


魔法使いの存在と能力が、パーティーの収入とランクを大幅に左右する。


これが、冒険者達の常識であり、魔法使いは戦闘時には守るべき存在なのだ。

お陰で、魔法使いは男も女も高慢で傲慢な連中が多い。

町中でも立場の弱い者を、まるで奴隷のように扱う魔法使いの姿をよく見かける。


  「ただ、魔法使いは厚顔無恥な連中が非常に多いから、近づかない方が懸命

   ですよ」

九鬼「わかった、善処しよう」これで

  「なら、後は装備ですね、ちょっと礼拝場に行きましょう」


ただ広いだけが取り柄の礼拝場には、もう、土台だけになった大きな祭壇がある。

主神の像は、移転の時に持ち出され、今は倉庫の隅で埃をかぶっていた作りかけの

月の女神像を、オーティスが補修して祭っている。


九鬼「いつ見ても、下手くそな補修じゃのう」

  「余計なお世話です、腕も材料も無いんです!それよりこっちです」


オーティスは祭壇の下にある小部屋の鍵をあけ、扉を開いた。

そこいは、様々な古い剣や槍が、無雑作に積まれていた。


九鬼「えらく、孤児院に似つかわしく無い物じゃのう」

  「私がここに来た時から、有ったんです」

九鬼「売る気にはならなかったのか?」

  「こんな地味で古い物、どうせ大した金にはなりませんよ、それより子供達が

   ここから出て一人立ちする時にでも持たせてやろうと思いましてね」

九鬼「確かに全部なまくらじゃが、この剣と短槍だけは、別物じゃぞ」

  「構いません、好きに使って下さい、半分にしても構いませんよ」

九鬼「清々しい程、武器に興味が無いんじゃのう」

  「ええ、刃物は包丁で十分です」

九鬼「なら、研ぎ直しをするか、明日の朝一番に登録に向かう、よろしく頼む」

  「ええ、わかりました、では、明日」


その夜は遅くまで、剣の手入れをする九鬼の小屋の灯りは消えなかった。

そして翌日の朝、通りを歩く若い司祭と、年老いた剣士の姿があった。

腰に下げた剣もそうなのだろうが、鞘のない槍の刃が凄まじい。

全く興味の無い司祭の自分でさえその凄みが分かる。

そして、とにかく美しいのだ。


  「なかなか、様になってるじゃないですか」

九鬼「ああ、久々に剣を手にして、柄にもなく興奮したわい」

  「ついでに言っときますが、問題を起こさないで下さいよ」

九鬼「それは相手次第じゃのう」

  「・・・・不安だ、凄く不安だ」

       ・

       ・

       ・

       ・

受付嬢「冒険者登録ですか?この方、かなりのお年寄りですよね」

   「ええ、ですが本人の希望ですから、何か問題でも」

受付嬢「いいえ、ただ、いくら司祭様の御紹介でも一番下の10級からですよ」

   「それは当たり前ですね、逆に忖度されては困ります」

受付嬢「はあ、わかりました、では、お名前を」

 九鬼「九鬼 十三じゃ」

受付嬢「クキ・ジュウゾウ様ですね、では、そのお名前で刻印しますね」


受付嬢が機械を操作すると、小さな金属板に九鬼の名前と等級が刻まれる。

金属板は、外にも冒険者ギルド西支部のシンボルの交差した槍が刻印されている。

ちなみに、北支部は盾、東が剣で南が弓になっていて所属がすぐに判別できる様に

なっている。


受付嬢「どうぞ、これがクキ様のギルドカードです」

   「ほほう、まるで名刺じゃのう、面白い」

受付嬢「では、この後、簡単な規約などの説明を・・」


そう言いかけた所に、思い切り頭とガラの悪そうな冒険者が会話に割り込んだ。


冒険者「おいジジイ、良い槍持ってんじゃねえか、俺様が使ってやるよ、寄こしな」

 九鬼「なんじゃ、ここらの豚は言葉を喋るのか、知らなんだわ」

冒険者「なんだと、このジジイ!」

九鬼「おまけに服まで着とるとは、ペットじゃったか、飼い主はどこじゃ」

冒険者「て、てめえ」

九鬼「躾のなっとらん豚じゃのう、早う肉になった方が皆の為じゃぞ」

冒険者「ゆ、ゆるさねえ」


男は毛髪の無い頭から湯気を上げながら、腰の剣を引き抜いた。


九鬼「ほお、剣を抜いたか、良き哉、良き哉」

  「九鬼さん、わざと、煽ったでしょう」

九鬼「こういう頭の悪い連中は最初に締めておいた方がやり易い」

  「問題を起こさないで欲しいと、言いましたよね」

九鬼「なに、殺しはせんよ」

  「はあ~」


そして、老人が槍を構えようとした途端に、二階の踊り場から怒声が飛んだ。




      「いい加減にせんか!」



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