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九鬼老人の庭



 「九鬼さん、これは一体なんですか?説明してください」


私が指さした先には、土の山や小さな箱の様な物が転がっていた。


九鬼「おお、司祭さんか、これが鳥罠、こっちが獣罠じゃな」

  「はあ?こんな街中にホウロ鳥やレオボアなんていませよ、狩人のスキルも無

   いし」

九鬼「獲物はおるし、スキル無しでも罠ぐらい作れるわい」


そう言って九鬼老人は私の前に篭に入った三羽の水鳥を差し出した。


  「ペールダックですか、食べる部位も少ないし、美味しくない鳥ですよ」

九鬼「ここではそういう認識か、まあ多分大丈夫だと思うぞ、三日後には喰わせて

   やろう」

  「そう言うなら、まあ、期待はしませんが」


ペールダックはこの国ならどこにでもいる水鳥だが、小さい上、肉はパサパサして

味も薄い為、誰も食べない。

普段、肉屋に卸される鳥は、グラスバードという、羊ぐらいの大きさをした、地上

を駆ける飛べない鳥だが、肉は旨い。

ちなみに、脚は短く、保護色によって隠れている為、狩人のスキル持ちでないと、

探し出せない。


  「そして、あの煙を出している土の山は何ですか?」

九鬼「あれは、炭竃じゃよ、簡易のな」

  「すみ?何ですか、それ」

九鬼「飯を美味くする薪じゃよ」

  「薪って、燃やしてるじゃないですか、意味が分かりません」

九鬼「いや~、薪が取り放題なのは、有難い」

  「話、聞いてます?…………まさか、これも三日後ですか?」

九鬼「察しがええのう、あと、このボロ小屋をねぐらにするから、覚えておいてくれ」

  「それは、構いませんが、ボロ小屋と言うよりは、廃屋ですよ」

九鬼「十分じゃ、それにここの周りは宝の山じゃ、よくぞ誰も気づかなんだのう」

  「宝?そんな物が、どこに?」

九鬼「何を言っとる、目の前に広がっておるじゃないか」


このボロ小屋は教会の一番外れにあって、その奥には、鬱蒼とした森、雑草だらけ

の広場と外部から引き入れたであろう、大きな水路が、教会の壊れかけた、外壁の

中に納まっているのだ。

その広さは驚くべき物で、一辺が600m以上ある正方形をしている。

それが、数百年は手つかずで、放置されたのだ。

子供達も、その中に踏み込もうとは思わない、身動きが取れないからだ。

つまり、この場所の中身を知っているのは、現在、九鬼一人だけだ。

お宝の意味も彼にしかわからない。


  「あなたが、そこまで言うのなら、きっと有益な物でしょう、お任せします」

九鬼「任されよう、だが、時間の掛かる物が多いのでな、長い目で見てくれ」

  「勿論です、よろしくお願いします」

九鬼「ああ、後、ボロ小屋を掃除してくれたのは子供達じゃ、褒めてやってくれ」

  「わかりました、お土産も有りますしね、喜ぶでしょう」


そう言って袋を掲げてみせた。

今夜の夕食は、幾らか、彩りの有る物になるだろう。


九鬼「さて儂は、また作業に戻らせて貰おうかの」

  「では、三日後、楽しみにしてます」

九鬼「あと、子供達には近づかない様に言ってくれ、ケガされるのが怖い」

  「言い聞かせましょう、ただあの二人は…………」

九鬼「イレーネとイルマじゃろ、ほぼ諦めとるよ」

  「一応、注意は、しときます」

九鬼「ああ、頼む」


それから、彼は恐ろしく精力的に動いた。

何とも言えない、妙な匂いも漂う事もあったが、別に迷惑な程では無かった。

それよりも、あのボロ小屋の周りの変化が著しい。

小さな竈らしき物や、木箱が幾つも作られていた。

ボロ小屋の軒先には、おびただしい種類の雑草が吊るしてあり、竈の鍋と相まって

まるで、物語の中の魔女の家のようだ。

おかげで二人がおとなしい。


 ロット「ねえ、司祭様が危ないから近づくなって言ってたよ」

イレーネ「ふっふっふっ、つまり、危なく無ければ近づいて良いんだよ」

 イルマ「イレーネが、何を言ってるのか、わかんない」

イレーネ「なら、臆病者のイルマは、来ないんだな」

 イルマ「行くに決まっている」

 ロット「ええっ、司祭様が駄目って言ってたじゃん」

イレーネ「ロッドはびびったんだ、男のくせに~」

 イルマ「臆病者は、このパーティーには入れない」

 ロット「わかったよ、行くよ、行きます」

イレーネ「それでこそ、我ら暗黒の牙のメンバーよ」

 イルマ「・・・・パーティー名が死ぬほどダサい・・・・」

 ロット「ぼく、これだけが受け入れられない・・・・・・」

イレーネ「どこがダサいのよ!かっこいいじゃない!」

 ロット「センスがない」

 イルマ「ないよね~」

イレーネ「ムキ―――」


イレーネとイルマは12歳、ロッドが11歳、3人共あと2~3年で成人となるので、

孤児院を卒業する事になるが、3人は商家や工房の下働きに成るつもりは無かった

彼らは、孤児院をホームベースにして冒険者になるつもりなのだ。

理由はロッドの叔母夫婦の非道な行いを嫌悪したから。

もし、ロッドが上町の商家などに雇われでもしたら、叔母夫婦にどんな言いがかり

を付けられるか判った物では無い。

それにロッドは、叔母夫婦を絶対に許すつもりは無かった。


 ロット「いずれ、絶対に復讐してやる」

イレーネ「なら、あたいが手伝ってやるよ」

 イルマ「弟の恨みは、お姉ちゃんが晴らす」


当然、子供の考える復讐方法など、たかが知れており、実現など、万が一にもあり

得ない。

だが、3人には諦める気は毛頭無かった。

機会があれば、躊躇なく復讐する為にも、金が稼げて誰にも縛られない上に、戦う

力を得る事が出来る職業。

考えた末に出た結論が冒険者だ。

こうして、パーティー暗黒の牙が結成された。


九鬼「そこの、悪ガキども、こっちに来るんじゃ」


こっそり、草むらに隠れて近づいていた3人はあっさりと九鬼にバレた。


  九鬼「司祭様に近づかない様にと、言わなれかったか?」

イレーネ「何してるのか、気になっちゃって我慢できなくなった」

 イルマ「ここには秘密が隠されている、冒険者の出番」

 ロット「僕は止めたんだけど」

イレーネ「そもそも、喋れるようになった爺ちゃんが、あたいの興味をを引いた

     のが悪い」

 イルマ「秘密がいっぱい」

 ロット「ああ、司祭様の拳骨かなぁ~、いやだな~」

  九鬼「フェムはどうした」


フェムはこの孤児院唯一の赤ん坊で、2ヶ月前に、門の前に捨てられていた。

普段は九鬼が世話をしているが、今はイレーネとイルマに任せている。

はずだ、が?なら目の前の二人は何者だ?


イレーネ「あの子は、マリが面倒を見てるから大丈夫!」

 イルマ「マリはお母さん向き、適任」

 ロット「僕は止めました」

  九鬼「ほほう、つまり年下のマリに全部押し付けて遊んでいると・・・」

イレーネ「え、え~と」

  九鬼「どうやら元気が有り余っとるようじゃのう、おぬしら」

イレーネ「あっ、あたい、急用を思い出しちゃた」

 イルマ「わ、わたしも・・・」

 ロット「・・・・ごめんなしゃい」


ロッドは謝ったが時すでに遅し。

3人とも九鬼に首根っこを掴まれてしまった。


九鬼「では、荒地の草取りをして貰おうかのぉ、悪ガキども、逃げても無駄じゃ」



3人の冒険は朝一番に、何もせず終わってしまい、対価として草むしりと言う肉体

労働を得る事になった。

妥当な報酬である。


         「「「そんなあ~」」」



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