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貧乏司祭のお勤め




翌日、老人は教会の空き地に、朝早くから、さまざまな仕掛けを作り始めた。

元々、膨大な敷地面積だけが自慢みたいなボロ教会なので、余っている土地など、

幾らでも有る。

好きに使ってくれて構わないのだが、何を作っているのかは、判らない。

興味は有るのだが、生憎今日は、町の警邏隊に呼ばれている。


主任「いつも済まないな、司祭様」

  「いえ、これも我々の義務なので、しかし何ですかこの数は」

主任「昨夜、黒蛇の連中と貧民窟の連中がぶつかって、このざまさ」


そこには、二十体近くの死体が、無造作に転がされていた。

この様な死体は、当然引き取り手など現れない。

自分から捕まりに来る馬鹿は居ない。


  「またですか?」

主任「ああ、まったく迷惑な話連中だ」


黒蛇とは、下町を根城にしている非合法組織、いわゆる暴力団で、構成員は三百

とも五百とも言われている。

片や貧民窟とは、貧民街の更に奥に巣食う一団の事で、こちらは数さえ良く判って

いない。

どちらも、この王都の闇の中で生きているため、しょっちゅうこうして、諍いを起

こしては、死体を量産している。


  「じゃあ、早速始めましょう、はあ、昼御飯はお預けだな、こりゃ」

主任「あはは、お詫びに、飯はここの食堂で食ってくれ」

  「三日分は食いだめしよう」

主任「がははは、幾らでも食ってくれ」


この無縁仏のスキルを確認するのも、司祭の仕事だが、無賃なのが地味につらい。

だが今日は、ただ飯にありつけただけ、マシだった。

ここ、警邏隊の本部には、常に数十人の兵士が常駐しているため、食堂は常に開店

状態になっているし、種類も豊富だ。


「では早速」


死体に左腕をかざしてスキルを発動させる。

長い詠唱が始まり、灰銀色の鈍い光がゆっくりと、男の亡骸を覆い尽くしていく。

暫くして握りこぶしぐらいの薄緑色の丸い玉が、左胸から浮き上がると、手のひら

に収まった。


  「農業系のスキルですね、え~と開墾、星は一つ」

主任「ほんと、お約束通りのスキルと星だよな、呆れるよ」

  「なら、いつも通りで」

主任「ああ、そうしてくれ」


そうして、そのままスキルを吸収する。

誰も欲しがらない、要は金にならないスキルは、こうして俺が吸収している。

放っておいても一日経てば消滅するが、そうなると死体の上にスキル玉が浮かんだ

まま、それが幾つも。

まあ、鬱陶しいからと、吸収して処分している。

それからも、死体からスキルを取り出したが、どれも農業系の緑色か生産系の茶色

の玉が殆んどで、星も1つ、偶に2つの事が有る程度だ。


  「おっ、最後の一人は珍しい狩猟系スキルだ、採取で星二つ」

主任「こいつ多分冒険者くずれだな、田舎から流れて来たんだろう」

  「で、どうする?」

主任「わかってるだろ、要らねえよ」

  「まあ、規定だからね、一応聞かないと」

主任「まじめだなぁ………」


その男で最後だったので、ここで終わり、さあ、飯だ。

二人で食堂のテーブルを一つ占有する。


主任「何だ、三日分たのまなかったのか?」

  「食える訳無いだろう、そんなもんWWW」

主任「だよな~、だから今、お土産にして貰ってる」

  「いつも悪いな」

主任「いいって、こっちこそ貧乏くじばかりですまんな」

  「仕方ないさ」


この警備主任の男との付き合いは、もう2年以上になる。

他の司祭に依頼しても、なんやかんやで断られるか、返答が延ばされ翌日になった

りいと、話にならない。

で、結局、オーティスばかりが駆り出される事になっていた。


主任「しかし、これだけ真面目に仕事する司祭が、何で未だに星ひとつなんだ?」

  「さあ、多分才能が無いんだろう」

主任「そうなのか」

  「そうなんだろう」


私の星には、ある秘密があり、おいそれとは増える事が無いのはわかっているし、

絶対に表に出せない。

それ程、異質な物なのだ。


(もし、使いどころを間違えると、命に関わりますからね、注意しないと)


食事を終えて警邏隊本部を後にしたのは午後遅く、夕方にはまだ時間の有る頃だが

孤児院に着く頃には、夕方になっているだろう。

ここから孤児院までは、ほぼ円形の王都の北西と南西に分かれている為、やや時間

が掛かる。

本当は司祭なのだから貴族街や上級民街を抜ければ良いのだが、要らないトラブル

に会いたくないので、いつも大回りして帰る事にしている。


  「しかし、いつ見ても無駄に立派な警邏本部ですよね、古いけど」

主任「古いは余計だが、ここは昔、王城だったらしいからな」

 「はっ?」

主任「やっぱり驚く?」

  「初耳ですよ」


聞けば、昔、まだアマルティア王国が小国だったころ、王都の東に巨大な魔素溜り

のある洞窟が発見された事で、この洞窟の上に教会の総本山が移動してしまった。

その時、人口密度が限界を通り越していた王国もここぞとばかりに、教会の傍に、

王宮を建て、そこを中心にして、円形状に王都を作った。

奇しくも、この遷都ともいえる大工事は、王族や貴族から教会や豪商まで半強制的

に持っている資産の大部分を吐き出させた。

そうしなければ、自分の屋敷や店舗を建てる土地を分けて貰えないからだ。

だが、資金が大量に市場へ供給された事で、王国は空前の好景気に見舞われ、以後

それは百年近く続いたそうだ。


主任「昔は王国の中心だったここも、今じゃ半分貧民街だぜ」

  「知らなかった、でも何でそんなに詳しいんですか?」

主任「俺の祖父は昔、王宮の歴史編纂室にいたからな」

  「そんな部所、有りましたっけ?」

主任「俺がガキの頃、予算不足を理由に閉鎖されたよ」

  「ああ、何でしたっけ、行政予算改革とかなんとか」

主任「俺から言わせて貰えば、手前ら大貴族が一人消えれば事は済むって話だ」

  「ですよねぇ~うちも予算が欲しいですよ」


それから、袋に入ったお土産をもらい、帰路に就いた。

今日は随分と奮発してくれたみたいで、ずっしりと重みのある袋からは、焼いた

肉の匂いが漂ってきた。

昨日の飴玉に続いて今日は久々に食卓には肉が出せる。


「子供達の喜ぶ顔が今から見える様な気がします」


肉が食卓に並ぶのは何か月ぶりだろう、警備主任に感謝だ。

そして、夕方になる少し前に帰って来た私の目に、何やら見慣れない物ばかりが

飛び込んで来た。

間違いなく、あの老人が作った物だろう。

手を振りながら、こちらに歩いてくる。


     「お帰り、司祭どの、遅かったのう」


  「九鬼さん、これは一体なんですか?説明してください」





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