魔獣受難
シリウス「今度は何!」
領兵「クリスタルマンティスが2体です!」
領兵「こっちは大型のラッシュブルが一体!」
領兵「解体が間に合いません!」
翌日、朝日が昇ると同時にクラン五稜郭の看板パーティー二組は、競うように狩場
に突撃すると、手当り次第に魔獣を狩り始めた。
最初はいつもの様にフォレストウルフやソードラビットの様なEクラスの魔獣も運
んでいたのだが、その数が増え始めると同時にDクラスの魔獣が混ざり始めた。
つまり、Eクラスの小型の魔獣にまで手が回らなくなって来たのだ。
エマ「右前方、約五十m先に大きいのが居るわ、多分フォレストサーペント」
ライナー「この森の中で凄いな、さすがの気配察知だ」
エマ「えへへ、ま、まあね」
ユナとガインも気配察知を持っているが、星三つのエマは頭二つ以上抜けている。
距離もさることながら相手の大きさや種類、方向を木々の障害がある森の中で感知
が可能なのは、クランの中でもエマだけだ。
加えて治癒も持っている事から、パーティーの中では最重要な存在となっている。
リット「よし、クジの順番からいけば次はガインだな」
ガイン「待ってました!」
アイナ「カマキリに蛇が三匹かあ、今度は別な、熊みたいな奴がいいなあ」
ライナー「そうだな、ちょっと飽きてきた」
エマ「ここ深い森の中だし、ちょっと無理かも」
一方、羽蝶蘭の狩場は草原や荒地が多く、従って生息する魔獣も変わってくる。
へそ曲がりの神によってアイナの願いは、こちらに届けられた。
ユナ「居たわ、大物よ」
セーナ「何処?」
ユナ「右の大岩の傍」
マナ「おお、スケールベア、久々のBランク」
ミナ「向こうから出てくるなんて珍しいわね」
ラッシュブルやブラディシープを数匹狩った所で、血の臭いに誘われたのか大型の
魔獣スケールベアが乱入してきた。
立ち上がれば人間の二倍近くにもなるBランクの魔獣だが、普段は臆病で警戒心が
強く滅多に人前には出てこない。
セーナ「血の臭いに酔ってるみたいね」
ミナ「やったね!」
マナ「大チャンス!」
スケールベアは捨てる所が無い程の素材の塊で、この大きさだと金貨五枚は堅い所
だろう。
特にその心臓や肝臓は薬の材料として引く手あまただ。
ユナ「面倒だから血抜きを兼ねて討伐しましょうか」
セーナ「了解、まずは足から潰すわね」
マナ「じゃあ、私が右手をやる、ミナ、左手よろ~」
ミナ「任せて~」
そして哀れな巨大熊は、見惚れる様な美しい死神に寄って集って手足の筋を切断、
うつ伏せに倒れて身動き取れなくされた所に、首筋の大動脈に大穴を開けられた。
最初は雄々しかった唸り声が徐々に命乞いをする様に小さくなって行く様は、同行
した領兵達の心に、言葉にならない悲哀の雨を降らせた。
領兵「何だか・・・・魔獣が可哀想になってきた」
領兵「何言ってるんだ」
領兵「俺ら領兵が全員でかかっても簡単には倒せないんだぞ」
領兵「間違って手負いにでもなったら手が付けられん程狂暴になるし」
領兵「そうなれば死人が出てもおかしく無い」
領兵「でもよう、ありゃあどう贔屓目に見ても・・・・なあ」
領兵「弱い者いじめにしか見えない・・・か」
領兵「いや、むしろ虐殺か屠殺だ」
目の飛び出る様な美人が笑顔で魔獣を蹂躙する様は、前日のゴブリン討伐で免疫が
出来たと自負していた領兵達に再び現実を突きつけた。
たった数日で彼女たちを理解する事など不可能なのだと。
領兵「どちらでも構わないが、俺達四人でどうやって運ぶんだ?」
最初、四十人ほどいた運搬要因は直ぐに足りなくなり、半刻前には既に応援要請を
出していた。
領兵「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・応援を待とう」
領兵「賛成」
領兵「応援・・・・・・・・・・・足りるかなあ」
同じ修羅場はリット達の所でも起こっていたが、それらを軽く凌駕する混乱が領主
館で発生していた。
正午を待たずして、処理能力が完全に破綻したのだ。
ラッシュブルが、クリスタルマンティスが、ブラッディシープが山になっている所
に新たにフォレストサーペントが積まれ、更にスケールベアが狩られたとの報告も
はいってきた。
シリウス「・・・・・・・・・無理だ、捌ける訳がない・・・・・・・」
一体の魔獣の解体が終わる頃には、新しく二体増えているのだ。
唯ひたすら増え続ける素材の山を茫然と見ている事しかできない事に頭を抱えてい
たシリウスだが、きちんと助け舟を出す人間は存在している。
ロイス「これはまた、凄い事になっているねえ」
シリウス「あ、あなた・・・・・」
ロイス「冬で良かった、夏だったら臭いで気絶してしまうよ」
シリウス「ごめんなさい、兵士は頑張ってくれたの、だけど私の見通しが甘くて」
ロイス「そうだね、だけどもう手は打ったよ」
シリウス「えっ?」
ロイス「領民に総動員を掛けた、手伝ったら肉は取り放題だぞって、ね」
見れば既にメイドや料理長達が簡易の竈を作って肉を焼き始めている。
ロイス「直接臭いを嗅がせた方が効果があるからね」
領民に限らず、平民に分類される者達にとって、肉は簡単には手に入らない高価な
食材である。
更に言えばDクラスやCクラスの魔獣の肉などは超が付く高級食材である。
領民たちにとって、この機会を逃せば恐らく一生口にする事は出来ないだろう。
皆が競うように領主館に殺到した。
ロイス「素材は北の倉庫に、残った肉は好きにして構わないよ」
領民「あのう、あそこで焼いてる肉は・・・・・」
ロイス「ああ、あれはラッシュブルの肉、良い臭いだろう」
領民「ゴクリ・・・・・」
ロイス「捌くのを手伝ったら、好きに食べて良いよ、勿論持ち帰りもOKだ」
領民「・・・・・夢か?」
ロイス「あははは、現実だよ頑張って」
領民「はい!うおおおおおお、やるぞおおおおおおおおおおおお!」
今回の様な普段と違う出来事に対するには、高い処理能力を持った管理者が居る事
で、効果は何倍もの違いが出る。
領主であるロイスは荒事には、とことん素質がないが事務処理能力や管理能力には
非常に高い実力を持っている。
荒事方面に能力の殆んどを振り切っているシリウスとは、見事な程に真逆である。
ロイス「鉱山の方も作業を止めて全員運搬の応援に向かわせたよ」
シリウス「ありがとう、貴方が夫で本当に良かった・・・・・」
ロイス「奥さんが困ってるんだ、夫としてこれ位は当然さ」
解決策を思いつかないまま、身動き取れなくなったシリウスを救ったのは、やはり
夫のロイスだった。
結果、状況は一気に好転、今では余裕さえ出て来た。
そして重圧から解放され倒れそうになったシリウスは、ロイスの胸にしがみついた
それ程追い詰められていたのだ。
シリウス「ああロイス、愛してるわ」
ロイス「や、やめなさい、みんなが見てる」
シリウス「ちっとも構わない、ねえ、もう一人作る?」
もう三十後半の年齢にも関わらず、普段から好んで体を動かす事の好きなシリウス
の体は見事な均整を保っている。
おまけに美人で若々しく、そして爆乳である、爆乳なのである。
とてもでは無いがロイスに拒否など不可能だし、する気も無い。
ロイス「きょ、今日は酒を飲まないでおこうかな」
良い子の皆さんには良く意味が分からない独り言をつぶやく領主をメイド達が微笑
ましく見ていた。
事実、この日の夕食を早めに済ませた二人は、前庭で酒盛りを始めた兵士や領民達
の世話を家宰のコンラットに丸投げした。
ロイス「酒はコンラットの裁量で出してくれ、私は疲れたので先に休ませて貰う」
その夜、三階への階段は封鎖され、娘達であっても通行は許されなかった。
二人の寝室がある最上階はメイド長が立ち入り禁止を厳命したからだ。
中庭の酒盛りと寝室の濃密な営みは日付が変わってからも暫く続けられていた。
長い夜が始まり、短い夜が終わると、嫌われ者の朝日が顔を覗かせ始める。
翌日、朝食に現れたのは目の下に隈を作ってフラフラのロイスと妙にお肌の艶が良
いシリウスだった。
ソフィーナ「昨日は、お父様もお仕事が大変だったのですね」
ロイス「そ、そうなんだよ、あは、あはははははは」
ソフィーナ「でも何でお母様はそんなにツヤツヤしているの?」
シリウス「な、何ででしょうね、おほほほほ」
未だこの辺りの事情に疎いソフィーナは給仕のメイドに質問を投げ掛けようとした
のだが、
マリアン「ソフィ、朝食の前にする質問では無いわ」
シャロン「後で教えてあげるから、まずは食事にしましょう」
ソフィーナ「?????はい?・・・・・・・はい」
上の姉二人の気転が無ければ、甚だ気まずい朝食になっていただろうが、実は姉達
には、別の思惑があった。
朝食を摂り終えると、ゆっくり紅茶を飲む時間も与えられずにソフィーナは姉達に
拉致される事になる。
マリアン「この討伐が終わる迄に必ず羽蝶蘭の方々と、お茶の約束を取り付けて」
シャロン「絶対に忘れては駄目だからね、絶対よ!」
マリアン「いい事ソフィ、これはお願いじゃ無いの、命令よ」
シャロン「出来れば、明鏡止水の女性達にも声を掛けるの」
鬼気迫る二人の勢いにソフィーナは、激しく首を縦に振っていた。
いつもは穏やかで優しい姉達の豹変ぶりは、ソフィーナに不安を通り越して恐怖す
ら感じさせる事になった。
ソフィーナ「失敗したら非常に不味い気がする・・・・・・・・・」
この日からソフィーナは暇を見つけては女性陣に接触し続け、何とか時間を取って
貰う事に成功した。
ガイン「・・・・・大変そうだな」
ソフィーナ「そうなの、御姉ちゃん達がガチなの、怖いのよ」
ガイン「でも何で女性だけなんだ?」
ソフィーナ「さあ?」
ガイン「さあって・・・・」
ソフィーナ「私、姉達とは趣味が合わないの、お茶会も出る気は無いし・・・・」
別に仲が悪い訳でも無いが、貴族の令嬢然として女性らしさに労力の殆んどを注ぎ
込む姉達と違って、お転婆三女のあだ名を頂くソフィーナは宝石やドレスよりも剣
や弓矢に目が行ってしまうのだ。
ガイン「じゃあ、お茶会の間、剣の手合せでもする?」
ソフィーナ「やる!」
ガイン「即答かい・・・・・」
花より団子なのだから当然の反応だろう。




