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賢兄仁弟



カール「今度は誰だ・・・・・・・」


執務室で頭を抱えて机の置物と化しているのは、この国の第一王子だ。


キース「名はリッケン、センフィールド伯爵の五番目の孫です」

カール「で、いったい何をやらかした?」

キース「殺人と婦女暴行です」


薬剤工房の薬師の娘を襲って暴行したらしい。

薬を届けに行く途中、馬車に引きずり込まれたと荷物持ちの小僧が泣きながら警邏

中の衛兵に報告。

馬車の紋章から身元が特定されると、発覚を恐れて殺したのだ。


キース「一向に振り向かない事に業を煮やしたそうです」

カール「歳は?」

キース「24か5だったと思います」

カール「結婚は?」

キース「妻と息子が二人います」

カール「殺された娘は?」

キース「16で婚約したばかりだそうです」

カール「・・・・・・名誉ある死をくれてやれ、関与した者も死罪だ」

キース「御意」


不愉快極まりなかった。

近頃は貴族たちの横暴な行動の後始末に追われてばかりだったが今回は極め付け

だった。

だが、その嫌悪感を撒き散らした下衆の祖父が面会を求めて来た。

グラン・センフィールド伯爵、歳は八十近いが未だに矍鑠かくしゃくとして貴族界に強い影響

力を持っている。

王国六大伯爵の中で最も良識が有る貴族だと聞いていたのだが口から出て来た言葉

は真逆の物だった。


グラン「リッケンを牢から出して頂きたい」

カール「私はてっきり卿が身内の不明を詫びに来たと思っていたのだがな」

グラン「孫は当初、些か酒に酔っておりましてな、御温情を賜ればと思いまして」

カール「酒に酔った人間が数人の部下と馬車を仕立てた挙句、宿まで取ったと?」

グラン「ですから、些かと申し上げました」

カール「詭弁だ、減刑するつもりは無い」

グラン「その為に私の支持を無くしても構わないのですか?」

カール「・・・・・・・・・・・・」

グラン「平民の女一人と我がセンフィールド家の勘気を同列に置かれるつもりか」

カール「・・・・・・・・」

グラン「我らの支持無くして王位など夢のまた夢ですぞ」

カール「・・・・」

グラン「悪いことは言いません、大人しく言う事をお聞き下さい」

カール「やかましい・・・・」

グラン「はあ?」

カール「喧しいと言ってるんだ!このくそ爺!」

グラン「くっ、くそ?」

カール「貴様!何様のつもりだ!驕り昂ぶるのもたいがいにしろ!」


突然激高したカールの声にグランは二の句が継げず、そのまま後ろに数歩下がって

しまった。

これは自分の半分以下の年齢しか重ねていない若造に気押された事を意味するが、

当然、だがグランは反発した。

相手が第一王子でもだ。

つまり貴族が王家を軽視している事の証拠でもある。


グラン「この侮辱、ただで済むと御思いか!」

カール「思って悪いか!」

グラン「・・・・・・・・・後悔しますぞ」

カール「貴様がな!とっとと出て行け!」

グラン「覚えているがいい、青二才めが・・・・」


この時点でカールは高位貴族に見切りを付けた。

第一王子は、激昂し踵を返して大股で出て行く伯爵の耳に、ワザと届く様に大声で

指示を出した。


カール「キース!今からリッケンの刑を執行する!牢から引き出せ!」

キース「はっ」

グラン「なっ!」

カール「私が自ら首を落としてくれる!」

グラン「お待ちを!王太子様お待ちを!」

カール「聞かん!衛兵!つまみ出せ!」

 衛兵「はっ」

グラン「おっ、おのれーっ」


暴れ出したグランを衛兵に任せ、カールはリッケンを牢から引き出すと、そのまま

歩いて中央広場まで引きずってきた。

途中で声高にその罪を鳴らし、広場にて処刑する旨を喧伝して歩いた。


市民「センフィールド伯爵の孫だとよ」

市民「薬師の娘を殺したらしい」

市民「あのかわいい子か?まだ子供だろう」

市民「16歳になったばかりらしい、可哀想に」

市民「で、どうなるんだ?」

市民「王太子様が直接首を落とすそうだ」

市民「おおおおおおおおおお」


噂はあっという間に広がり広場は黒山の人だかりが出来始めたが、カールもキース

も集まるに任せた。

更に市民の皆が口ぐちにリッケンとセンフィールド家を非難する中、数人の貴族ら

しき男達が群衆を引き揚げさせようと無駄な努力をしていた。


キース「センフィールド家の者達でしょうか?」

カール「恐らくな」

キース「もしかしてこうなる事を?」

カール「ああ、だからゆっくり通りを歩いて来たのさ」

キース「なるほど・・・」

カール「貴族の習性は良く知ってるからね、あっ、殴られた」


こんな群衆の中で貴族風吹かせれば反感を買うのは当たり前の事である。

誰だ殴ったかなど、分かる訳が無いし、後で特定も出来ない。

殴られ損である。


キース「しかし、よろしいので?」

カール「ああ、お前には悪いが王位はディランに譲るよ」

キース「そう・・・・・ですか」

カール「不満か?」

キース「いいえ・・・・そうだ、二人で冒険者にでもなりますか」

カール「いいねえ、その時は五稜郭とか言うクランに入れて貰おう」


暫くして用意が出来たのか、衛兵がカールを呼びに来た。

向かう先には手足を拘束されたリッケンが一段高い刑場の柱に繋がれていた。

手を貸した五人の部下達も同様だ。


 カール「覚悟は出来たか」

リッケン「こんな真似をして、おじい様が黙っていないぞ!」

 カール「ああ、あの煩いクソ爺なら独房に放り込んだぞ」

リッケン「う、嘘だ・・・・・」

 カール「嘘じゃ無いさ、だから助けも来ない」

リッケン「嘘だ嘘だ嘘だ・・・・」

 カール「お前はこれから俺に首を落とされるんだよ」


そう告げられたリッケンは情けない悲鳴を上げて命乞いを始めたが、当然聞き入れ

られる訳が無い。

カールはそんな戯言に耳を貸す事も無く、剣を抜き放つと頭上高く掲げた。


カール「ここに居るリッケン・センフィールドは自らの淫らな欲望を満たすために

    僅か十六歳の少女を暴行、殺害した」


ここでカールは民衆が自分の言葉に黙って耳を傾ける様に一拍の間を取った。

今や響くのはリッケンが喚く声だけだ。


カール「貴族だからと言って、こんな事が許されるのか!」

 民衆「「「「否!否!否!」」」」

カール「今からこの男に裁きを下す、異議の有る者は居るか?」

 民衆「「「「否!否!否!」」」」

カール「なら刑は決まっている、死罪だ!」

 民衆「「「「応!応!応!」」」」


カールの前に引き出されたリッケンは尚も命乞を止めようとはせず、泣き叫び抵抗

を続けた。


 カール「情けない・・・貴族の矜持も持ち合わせていないのか」

リッケン「いやだいやだいやだ!だれか助けて!だれか!」

 カール「地獄に落ちろ、下衆が」


振り下ろされた剣が綺麗な弧を描いて、足掻く男の首を落とした。

吹き出る血と転がる首が如実に死を表し、途端に上がる歓声が残る五人を絶望の縁

に追い込んだ。

伯爵家であり、主犯格でもあるリッケンはカール自ら首を刎ねたが、使用人である

残る五人の処刑は民衆に委ねた。

無責任にも見えるが、普段貴族らの横暴に耐えてきた民衆に、抑えていた怒りの吐出

し口を提供する形を取ったのだ。


「や、やめ・・・ぎゃあああああああああああああああああああああああ」


本来は無差別殺人犯や放火魔など、広く被害者が発生した場合に取る刑罰である為

民衆もやり方を心得ており、ひとおもいには殺さない

素手による殴打、小刀による小さな斬りつけ、一つ一つは小さいが狂い死ぬか出血

多量で死亡するまで延々と繰り返されるのだ。

首を落とされたリッケンの方が幸せだと思える程に。


カール「さあ、帰ってディランの所にでも遊びに行くか」

キース「そうですね、途中で菓子でも買いましょう」

カール「いや、ここは酒だろう」

キース「まだ昼前ですよ、酒盛りには早すぎです」

カール「そりゃそうか、わはははは」


何年ぶりだろうか、心も体も軽かった。

まるで羽でも生えたかのようだった。


カール「ああ、気持ちいいな、見ろよキース、空が高いぞ」

キース「そう・・・・ですね」


幼馴染で乳兄弟でもあるキースは、カールが無理をしているのを知っていた。

それでも彼が王位を望むのであればと思っていたのだが、度重なる貴族達の理不尽

な行いや非道な行動を見て見ぬ振りをして擁護し続けた結果は、カールの心を疲弊

させただけだった。


キース「笑顔など・・・・・・いつぶりだろう・・・・・」


ここ数か月、皮肉な苦笑いしか見た覚えが無い。

おかしくなった国王と欲にまみれた教会、貴族の専横に大手商会の独占。

問題だらけのこの国を、何とかしようと試みたが結果はご覧の通り、元々真直ぐな

性質のカールに貴族達の本質は汚な過ぎたのだ。


キース「今度はディラン様に頑張って貰おう」


元々兄弟仲は悪く無かった。

ただ、貴族と大手商会を取り込み優遇した事にディランが反発しただけだった。

新しい力を手に入れた今のディランなら、十分王位争奪戦に加われる。

問題は今回切り捨てる恰好になった高位貴族と大手商会の一部だろう。

案の定センフィールド伯爵を含む六伯は、今まで反目しあっていた王弟バルケロア

公爵の陣営に加わった。

これで間違いなくバルケロア公爵は王位を狙って来るだろう。

一方、対照的だったのは大手商会の面々だった。

今回の一件が理由なのか、半数の商会が貴族と距離を取り始めたのだ。

勿論、その中にはエルナト商会も入っていた。


 カール「じゃっ、そう言う事で」

ディラン「そう言う事って、兄さんちょっと待ってよ!」

 カール「なんだよ、王位は譲るって言ってんだから問題ないだろう」

ディラン「問題だらけじゃないか!」

 カール「心配性だなあ」

ディラン「とにかく、きちんと詳しく話して貰うからね!」

 カール「え~」

ディラン「え~じゃ無い、え~じゃ!」

 カール「へいへい」

ディラン「へいへいでも無い!」

 カール「興奮すると頭の血管が切れるぞ」

ディラン「誰のせいだよ!誰の!」


いきなりやって来た兄は意味不明な事を口走ると、そのまま出て行こうとしていた

為、慌てて引き留めたのだ。

お前が王位を継げと言われて、はいわかりました、と言える訳が無い。


ディラン「で、貴族連中はどうしたの?」

 カール「叩き出した、今頃はバルケロア伯父貴の靴でも舐めてるさ」

ディラン「叩き出したあ?」

 カール「傲慢すぎて、いい加減我慢の限界だった」


ここでディランは兄を貴族至上主義者の無能と勘違いしていた事に気が付いた。

自分の権力欲をこれ程見事に、それも躊躇なく捨て去れる人間が無能な訳が無い。

実の兄の本質に気付けなかった、無能は自分ではないか。

ならば、共闘だって出来たかもしれない、目指す先は同じなのだから。


 カール「それは違うよ、俺が選んだ方法では国は救えない」

ディラン「兄さん・・・・」

 カール「お前の選んだ道は確かに困難だが、唯一の正しい道なんだ」

ディラン「でも・・・」

 カール「民を蔑ろにする貴族の協力で王位に就いたとて、民の為の政治が出来る

     訳が無いじゃないか」

ディラン「だったら、今からでも兄さんが」


ハッキリ言ってしまえば、自分より兄の方が国王に相応しいと思ってしまったのだ

兄に比べて自分の考えが短慮で浅いのではないか、相手を推し量る力が劣っている

のでは無いか、そう考えれば自分が国王で良いのかと不安になった。


 カール「それは思い違いだ」 

ディラン「思い違い?」

 カール「お前は躊躇なく今の貴族連中に見切りを付けた」 

ディラン「それは、連中が余りにも・・・」

 カール「俺は今の今まで我慢してしまった、民にとってどちらが好ましい?」


貴族を通して民を見ていたカールと、民の目で貴族を見ていたディラン。

どちらが今のアマルティア王国に必要なのか、考えなくても分かるだろう。


カール「それに、今のお前には天運が付いている、これを無視しては駄目だ」


カールの言う天運とは、九鬼の事でありクラン五稜郭の事である。

なんの力も無く、ただ理想だけを頼りに王位を望むディランを好ましく思った天が

縁を結んだとしか思えない。

それだけ九鬼の持つ力は驚異的だった。

もし協力を取り付ける事が出来れば、王弟エリオット・バルケロア公爵や父で国王

でもあるクロード・アマルティアとも互角に戦える。

そう確信したのだが、本当に重要な縁は孤児院であり司祭のオーティスだと言う事

をカールはまだ知らない。

九鬼もクランも、オーティスと言うキャラバンに集まっているのだ。

そしてそれは今も増え続けている。

ガレッティ商会が、冒険者ギルドが、ルデマニア領主リカルド・アフェンドラが、

まるで当然の如く、オーティスのキャラバンに合流してきた。

つまり、時間が経てば経つほどキャラバンは大きくなってゆくのだ。

時間が味方に付いているのと同じだ。

だが、実情を知らないディランの不安は消えない。


ディラン「なら協力ぐらいはしてくれるよね?」

 カール「もちろん!消えて無くなる訳じゃ無いからね」

ディラン「なら、やれるだけやってみるよ」

 カール「ああ、頑張れ」


一方、こちらは支える側の二人、地位は違えど、どちらも苦労に大差はない。

あっという間に、胸襟を開く関係になった。


キース「で、実際の九鬼氏の強さは噂通りなのかい?会った事が有るんだろ」

ルナン「はい、ですが、かなり間違った評価が出回ってますね」

キース「そうだろ、鬼だの、英雄だの、幾ら何でも話を盛り過ぎだよね」

ルナン「違います、逆です、逆、鬼なんてそんな生易しい存在じゃあ無いです」

キース「はい?」

ルナン「会ったら分かります、素っ裸でドラゴンの前に立つ気分を味わえますよ」

キース「それ程なのかい?」

ルナン「ええ、それに鬼は弟子たちの事ですよ」

キース「つまりドラゴンが鬼の集団を引き連れていると?」

ルナン「ええ、最初に殺気を受けた時なんか、生きるのを諦めそうになりました」

キース「・・・・・国軍で抑え切れるかな?」

ルナン「無理ですね、最近弟子も増えたし、孤児院の子達も鍛えてるし」

キース「・・・・・・もういっそ、独立してみたら?」

ルナン「それ、良いですね、独立かあ」

キース「冗談のつもりだったんだが・・・・・」

ルナン「実際、今、西地区は半分自治領化してますし」

キース「冗談だったんだよ」

ルナン「実現可能な事は冗談にならないです」

キース「ゴメンナサイ、冗談にして下さい」


この日、王都の勢力図が大きく、だが、安定した混沌に収まった。

以降の勢力争いは、喰うか食われるか、潰すか潰されるか、滅ぶか滅ぼすか、必ず

誰かが血を流す事になるだろう。



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