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経済淘汰



問題とは当然、孤児院と五稜郭の事だ。

今までは下町の、それも殆んどスラム街と言ってもいい場所の出来事など、気にす

る事も無ければ、調べる事も無かった。

だが、今回エルナト商会と揉めた事で、キースの注意を引いたのだが・・・・・。


キース「カール様、孤児院の事、調べずに放りなげましたね?」

カール「ギクッ!」

キース「それとも忘れてました?」

カール「ギクギクッ!」

キース「まさか、思い出した後に無視して無いでしょうね!」

カール「ギク――――――――――――ッ」

キース「マジですか・・・・・・」


その後、散々説教されたカールを救ったのは夕食の連絡に来たメイドだった。

しかし、そのわずか三日後、激怒したキースの襲撃を執務室で受ける羽目になった。


キース「どうするんですか!」

カール「まさか、そんな事になってるなんて想像できる訳が無いだろう!」

キース「それでも早く調べていれば、もう少し情報が手に入った筈です」

カール「それは・・・・済まない・・・・・」

キース「本当にもう・・・・・・・・・・・・・・反省してください」

カール「わかった、しかしどうする?」

キース「どうするも何も、このまま監視するしか無いでしょう」


孤児院とクラン五稜郭の内部情報を得ようとしたが、見事に失敗したのだ。


カール「だが諜報部が侵入できないなんて、ちょっと信じられないんだが」

キース「事実です、三日間で八人が捕まりました」

カール「・・・・・・本当に孤児院なのか?」

キース「ええ、司祭に笑顔で、訪問なら昼に玄関からどうぞ、と言われて追い返さ

    れたそうです」

カール「追い返された?誰も死んでいないのか?」

キース「全員が精々、かすり傷程度です」

カール「なんなんだ、その武力差は」

キース「ええ驚きです、ですが助かりました、全員任務外でしたから」


若い諜報部員が、キースの頼みを聞いて私的に侵入を試みたのだ。

事が大きくなれば、流石に只では済まない。

今まで唯の小遣い稼ぎだと黙認されていたが、死んだり大怪我したりすれば、処分

される事になるだろう、不名誉この上ない。


キース「こうなるとディラン様に保有を明言したのが痛いですね」

カール「今更取り消す事も出来ないしな」

キース「大手商会などとは、比べ物にもならない価値がありますよ」

カール「まさか、そんな事は無いだろう」

キース「いいえ、もし噂が本当なら商会など、比べ物にもならないでしょう」

カール「いやいや、有り得ないだろう」

キース「西地区の下町はまるで自治領だそうです」

カール「信じられない・・・・・」

キース「本音を言えば私もです」


二人の、いや殆んどの王都民にとって、下町の孤児院など、スラムと同義語程度

の認識しかない。

臭く汚く、危険で暗くて淀んだ貧困街、そんな負のイメージしか持っていない。

聞こえてくる姿とは差異が大きすぎる。


カール「一度、この目で確認したい」

キース「御一緒します」


数日後、裕福な平民の恰好をした二人は西地区の門前町(通称)に来ていたが、

その余りに異常な光景に、道の脇で立ち尽くしていた。


カール「いま、季節は春か、まさか夏では無いよな」

キース「間違いなく初冬です」

カール「なら、何でこんなに人が多いんだ?」

キース「単純に考えるなら、売買出来る商品が有ると言う事でしょう」

カール「この時期にか、有り得んだろう」


初雪を待つばかりのこの時期、昨年なら歩いているのは衛兵か冒険者が殆んどで、

一般の、それも下町の人間は少数派でしかない。

品不足を見越した不良在庫の高額品など、よっぽど必要に追い詰められなければ買

いに出ないからだ。

なのに此処は、普段と同じかそれ以上の賑わいを見せている。


キース「調べれば分かる事です、さあ、行きますよ」

カール「なんだか、楽しんでないか?」

キース「解らないんですか、この匂いに!」

カール「匂?・・・・・・確かに何か・・・・・・微かに」

キース「これは絶対、美味い匂いです!」

カール「・・・・・お前は何をする為に来たんだ」


屋台の串肉に未練たらたらのキースを引きずって、真っ先に訪れたのは、最も大き

な露店場所を確保しているガレッティ商会の出店だった。

主な商品は大量の食料品と僅かな日用品の類で、高価な物は何一つ置いていない。

対象が平民の、それも下町に住んでいる者だと言う事だ。


キース「済まないが、この小麦はいくらだ?」

マルコ「ああ、この小さい袋なら小銀貨二枚(約2000円)だよ」

キース「小銀貨二枚だって!」

マルコ「わっびっくりした、そうだよ・・・うん?あんた、上町の人かい?」

キース「あ、ああ、そうだが」

マルコ「どうりで、着てる服が上等だと思った」

キース「しかし、安すぎないか、上町なら小銀貨五枚(約5000円)近くするぞ」

マルコ「へへ、上町の大店じゃあ、ちょっと見れない値段でしょう」

キース「ああ、驚いたがこれでは利益が出ないのではないか?」

マルコ「いいや、ちゃんと利益はあるさ」

キース「そんな馬鹿な事があるか!」


キースがいくら貴族だとしても、小麦の値段ぐらいは分かる。

但しそれは、表面的な店先の小売りに限った物、相場など知る由も無い。


マルコ「確かに安いけど、それは仕入値を抑えたからさ」

ガレッティ商会は九鬼経由で、ルデマニア領主リカルド・アフェンドラと繋がりを

持つ事に成功。

そのお蔭で、辺境領地から小麦等の取引が出来る様になった。

それも格安で。


キース「それでも・・・・・・」

マルコ「あんた、そもそも王都で売らてる小麦の仕入値って知ってるかい?」

キース「・・・いや知らない」

マルコ「王都まで運んで小銀貨一枚と銅貨六枚(約1600円)さ」

キース「銅貨・・・・・・・ろく・・・・・・・・・・・」

マルコ「更にその小麦を今、大店が幾らで売ってるか知ってるか?」

キース「それも・・・知らない」

マルコ「冬になると、銀貨一枚(約一万円)に変わるんだよ」

キース「まさか・・・・そんな・・・・・」

マルコ「まあ、上町の人はお金持ちだから、気にならないんでしょうねがえ」


横で聞いていたカールは今一つ実感が湧かないらしく、困惑した顔をしているキース

を引っ張って店を離れた。


カール「何を呆けているんだ」

キース「・・・・五倍ですよ、五倍」

カール「だから、それが何だって言うんだ、何が問題なんだ」


王族が小麦一袋の値段に気を回さなくても不思議ではない。


キース「良いですか、下町とは言え同じ物が上町の五分の一で売られているんですよ

    これは大手の商会が、弱小商会を潰す時に使う手段です」


此処で商品を買った者は、大店が同じ値段に下げたとしても、恐らく戻らないだろう

同じ品質の同じ物が、同じ王都で五倍もの高値で売られている。

一度経験した不信感は、一年や二年では消え去ることは無い。


カール「立場が逆転しているって事か?」

キース「そうです、そして一番問題なのは、彼らがそう出来るだけの資金と伝手を

    持っていると言う事です、常識的に有り得ない事態なんですよ」

カール「しかし、ある意味、それだけだろう」

キース「ええ、ここが例の孤児院の勢力圏に入って無ければ・・・・・」


つまり、王都の五大商会に匹敵、若しくはそれを上回る力を獲得している可能性が

有ると言う事だ。

資金力だけを取れば可能かもしれない。

人脈や組織力だけなら、可能かもしれない。

だが、その二つが合わさるなら、話は違ってくる。


キース「そこにレクルバータ家を完膚無きまでに叩き潰した戦力が加わるんです」


ここまで説明されて、第一王子はやっと事の重大さに気が付いた。

今迄問題外だった第二王子のディランが、王位後継者争いに食い込んできたのだ。


カール「・・・・・参ったな」

キース「ええ、もう一度計画を練り直す必要が有ります」

カール「今からこちらの陣営に彼らを引き込む事は?」

キース「一応、話はしてみますが・・・・・恐らく無理でしょう」

カール「まあ、そうだろうな」

キース「いっその事、ディラン様ごと取り込んでは?」

カール「あいつが貴族第一主義者に鞍替え?絶対に無理だろう」

キース「では貴方が貴族優先を放棄するのは?」

カール「・・・・・何だと?」

キース「カール様の方がが変わっては?と、提案してます」

カール「お前・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

キース「私が気づいて無いとでも?」


第一王子の支持基盤は貴族中心なのだが、最近一部の貴族連中の行動に辟易する

出来事が多発していた。

平民相手の強引な取引や金銭の未払いが慢性的に発生し、中には口論の末、相手

を殺してしまった例さえあったのだ。


「礼節を弁えないあいつが悪い」


妾話を断られた事に激高してその夫を切り殺した子爵の言である。

選民意識の塊の様なこの男を、何度その場で切り殺そうと思ったか分からない。

だが権力基盤である貴族家を潰す訳にも行かず、高く積み上げた金貨で相手の口

を封じる事しか出来なかった。

これに比べれば、自業自得の憂き目に合ったレクルバータ伯爵はカールにとって

普通に許せる存在だった。


カール「・・・・・・・感情だけで判断する事では無い」

キース「つまり、考慮する道も有ると言う事でしょう」

カール「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


その後、一言も発しない第一王子を連れて、市場を一周したキースは数点の買い

物をしたが、財布の中身は銀貨一枚分減っているだけだった。


 店員「良かったんですかマルコさん、あんな事まで教えて」

マルコ「良いんだよ、あれは平民のふりをしているだけの貴族だよ」

 店員「貴族ですか」

マルコ「それも結構上位の貴族だと俺は思うけどね」


第一王子たちは、平民の服を着て変装したつもりだろうが、下町の市場に来る為

に全ての衣服や靴までも新調する奴など居る訳が無い。


 店員「その貴族様が何の用事でこんな所に?」

マルコ「多分、評判を聞いて視察に来たんだろう」

 店員「なるほど・・・・」

マルコ「だから、火種を放り込んでやったのさ」


いくら貴族とは言え、自分達が不当に高い金額を払っていると気が付けば、良い気

はしないだろう。

いずれ、火災になる事を望んだ訳だが、実際は災害級の大火になる可能性が出て来

たのを、マルコは知らない。



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