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引罪辞任



クラウス「仕入れが滞っているとは、どう言う事だ!」

  店員「それが、ギルドからの入荷が異常に減ってまして・・・・・」

  店員「あと、アグラオネ領からの荷物が遅れています」

  店員 「ユニカムの町からの荷馬車隊が行方不明です、盗賊かもしれません」

クラウス「何が起こってるんだ!」

  店員「我々も、何が何だか・・・・・」

クラウス「答えられんのか!」

  新入「あ、あのう」

クラウス「ああ?新入りか!黙ってろ!」

  新人「はぁ・・・・・・」

クラウス「とにかく、原因を調べて報告しろ!いいな!」

  店員「・・・・・・・わかりました」


怒鳴るだけ怒鳴り散らしたクラウスは、そのまま事務室に籠ってしまったが、残さ

れた店員たちは困惑するだけだった。


店員「調べろって言っても・・・なあ」

店員「何をどう調べるんだ?」

店員「知るかよ、俺らただの店員だぞ」

店員「ほんと、そんな事は支店長とか、もっと上の連中の仕事だろ」

店員「駄目だって、支店長って単語は禁句だぞ」

店員「ああ、そうだったな」

店員「セドリックさんも大変な事を仕出かしてくれたよなあ、本当」

店員「流石になあ、托卵は駄目だろう」

店員「そりゃそうだ、責任はセドリックさんに取ってもらわないと」

店員「でも、あの人逃げたらしいぞ」

店員「ありゃりゃ、そりゃ駄目だわ」


軽口ばかりを叩いて何も行動を起こさない店員達を見ていた新入りの少年は、早々

にエルナト商会から逃げ出す事を考えていた。


(父さんに頼んで、無理に入れて貰った店だけど、ここは駄目だ、先が無い)

(やはり、伯父さんが勧めたガレッティ商会にすべきだった、いや、今からでも)


エルナト商会に見切りを付けた少年は辞める時、行きがけの駄賃とばかりに爆弾を

落としていった。


「支店長って、逃げたんじゃなく殺されたんじゃないんですか?」

「この商会って、冒険者ギルド西支部と喧嘩してるって、本当ですか?」


当初、鼻で笑っていた店員達だったが、時が経つにつれ、それらが現実味を帯びて

くると、途端に動揺し始めた。

そしてこれが、いずれ訪れるであろう、転落の第一歩だった。


クラウス「どうして、我が商会のみが卸して貰えなないんだ!」

オリバー「・・・・・父さん、プラムを連れ戻そうとしたろう」

クラウス「今はそんな事を話しておらん!」

オリバー「良いから答えてくれ」

クラウス「北支部に依頼を出したが、失敗しおった、使えん連中だ」

オリバー「そうか・・・みんな聞いてくれ、低ランクの素材加工部門は縮小しようと思う」

クラウス「なっ!何を言っておる!」

オリバー「今後は高級素材の加工販売を主力とし、自前で荷馬車護衛隊を作ろう」

クラウス「ふざけるな!」

オリバー「父さん、俺たちは虎の尾を踏んだんだ」


オリバーは数日前、プラムと自分の息子に会う為、密かに門前町を訪れていた。

そしてそこで、ガライと連れだって買い物をしているプラムを見つけた。

美しかった。

眩しい程、美しかった。

ガライに向ける笑顔も、腕の中の赤ん坊を慈しむ微笑も、まるで日の光に揺れる秋桜

の様だった。


オリバー「いつも下ばかり見ている暗い女だったと思っていたのになあ」


そして唐突に気が付いた。


オリバー「違う・・・・下を向いてたんじゃない・・・俺が向かせていたんだ」


思い返せば、いつの頃からか自分の妻でさえ向けてきたのは、まるで取引相手が見

せる様な、ただの愛想笑いばかりだった。

確かに浮気は許せないが、妻の心に微塵も寄り添う事をしなかった自分は一体何だ。

自分は有能で偉いと思い込んでいた愚かで情けない、惨めな勘違い男ではないか。


オリバー「違う未来が有ったのかも知れないな」


もしこの独善的な性格が変わっていれば、相手の思いを尊重する事が出来ていたら

他者の苦しみや痛みに少しでも思いを馳せていたら、そう思わずには居られなかっ

た。


オリバー「随分仲の良さそうな夫婦だね」


串焼きの屋台で一串買うと、そう店主に話しかけた。


屋台店主「だろ、でもちょっと前は大変だったんだぜ」

オリバー「大変?」

屋台店主「子供と嫁さんを攫おうとした奴がいてな、旦那が酷く殴られたんだ」

オリバー「そ、それは大変だったな」

屋台店主「旦那が血だらけで嫁さんを守ったんだが、九鬼の爺さんが激怒してなあ」

オリバー「九鬼の爺さん?」

屋台店主「五稜郭ってクランの総帥さ、この辺の連中はみんなお世話になってる」

オリバー「その人が・・・・激怒」

屋台店主「どこぞの商会が相手らしいが、気の毒な事だ」

オリバー「気の毒って、それは」

屋台店主「九鬼さんが右を向けば全員が右を向くんだ、それこそこの西地区全てが」

オリバー「す、凄いな」

屋台店主「ああ、冒険者ギルドも所属の冒険者も、下手すりゃ衛兵達までもな」

オリバー「そう・・・・か」

屋台店主「あんた、その様子だと、相手の商会の知り合いか何かだろう」

オリバー「ああ、ちょっとね」

屋台店主「なら教えてやりなよ、土下座でもして謝った方が良いぞって」

オリバー「言ってみるよ・・・・・」

屋台店主「取り返しが着かなくなる前にな」

オリバー「そうだな、忠告ありがとう」


その後、あちこちで九鬼とクランの事を調べて回ったが、聞けば聞くほど信じられ

ないものばかりが出てきた。

だが、エルナト商会も王都最大の商会と言う自負がある。

会頭である父親は絶対納得しないだろうし、謝りもしないだろう。


オリバー「まさか廃屋に虎が住み着いてるなんて、親父も想像出来ないよな」


だが、働いている従業員はどうなる。

商会の利益が減れば従業員の給金も減る事になっている、嫌なら頑張れ、だ。

最低賃金の概念など存在しない。

そして次に待っているのは、情容赦の無い解雇だ。

それを良しとして受け入れるのか、大商会の後継者として決断を迫られていた。


(ここで変われなければ、失うばかりの人生になってしまう)


金と権力を強引に振り回し続けて一体何が残ると言うのか。

孤独で傲慢で、そして愚かな老人が一人で金貨の山にしがみ付いている様なんて

哀れでしか無いだろう。


クラウス「ここは俺の店だ、勝手は許さんぞ!」

オリバー「父さん・・・・・・・・」


オリバーは九鬼の事と商会の事、そして従業員の事を考えて最も商会が痛手を負わ

無い方法を考えたのだが、予想通り父親は承諾しなかった。


クラウス「下らん事を考えおって、当分店には出るな!」

オリバー「聞いてくれ!父さん、このままじゃ」

クラウス「煩い!儂は出掛けてくる、お前は謹慎していろ!」


そう怒鳴ると、クラウスはそのまま店を出て行ってしまった。


  店員「・・・・・・・オリバーさん」

オリバー「ああ、済まない」

  店員「いえ、でもさっきの話は・・・・・」

オリバー「そうだ、このままでは赤字を垂れ流すだけだ」

  店員「仕入れは元に戻らないんですか?」

オリバー「すまん、たぶん無理だ」

  店員「いったいどうしてこんな事に・・・・・・」

オリバー「全部俺と親父のせいだ、お前たちに責任は無い」

  店員「では、どうしたら・・・・」

オリバー「悪いが、少し考える時間をくれ」


一方、クラウスはカール第一王子の執務室に来ていた。

待たされる事も、追い返される事も無いのは、王都で屈指の大商会ならではだ。


 カール「それで私にどうしろと?」

クラウス「ですから、西支部のギルドに制裁を解除するように」

 カール「冒険者ギルドは独立組織だよ、私には権限が無い、知っているだろう」

クラウス「なら、あの孤児院に巣食ってる五稜郭とか言う連中を、投獄してください」

 カール「無茶を言わないでくれ、それにあそこはディランの内庭だ」

クラウス「第二王子様の・・・・・・」

 カール「それに投獄と言っても、何の罪を問うのかね」

クラウス「それは・・・・・・・」

 カール「疲れているんじゃないのかい、少し休んだ方が良い」

クラウス「私は!・・・いや・・・・・そうかも・・・・しれません」


肩を落として出て行くクラウスの後ろ姿を見ながら、第一王子は深い溜息をついた


カール「幾ら何でも傲慢すぎる、そう思わないかい、キース」

キース「貴方が特別扱いし過ぎたせいで増長したんです」

カール「ええっ、俺のせいか?」

キース「貴方のせいです」

カール「少し言葉が厳しくないか?主に俺に」

キース「私的には十分優しく言ってつもりですが、元に戻しましょうか?」

カール「・・・・・そのままで頼む」

キース「御理解頂けた様で」


キース・フレミング男爵は38歳、第一王子とは乳兄弟であり、カールが肉親以上に

信頼する腹心でもあった。

更に能力的に見ても、他の貴族連中とは一線を隔す。

ただ歯に衣を着せぬと言うか、辛辣と言うか、忖度しないと言うか、とにかく上司

や高位貴族連中には死ぬほど嫌われている。

理不尽な命令や、言いがかりの様な苦言には、後からの報復人事や嫌がらせなど物

ともせずに、理詰めで徹底的に追い込むからだ。

そのせいで、騎士団を辞める事態にまで追い込まれた事も有ったが、


カール「丸くなったキースなど、キースでは無い!」


若かりし頃の失言で自分の首を絞めてしまった第一王子に是正を促す資格は無い。

かくして、キースは毒舌男爵として王宮に確固たる地位を築いたのだ。


キース「あのままではカール様の足を引っ張りかねません」

カール「だが、どうする、殺す訳にもいかんぞ」

キース「その事ですが、北地区の冒険者ギルドに依頼を出していました」

カール「?それがどうした、問題ないだろう」

キース「依頼が殺人でも?」

カール「・・・・・・詳しく聞こうか」


キースは確かに上司や目上の者には蛇蝎の如く嫌われている反面、若い連中には

驚く程慕われている。

それは、貴族だけに留まらず、騎士や平民、はては冒険者にまで及んでいる。

その特技とも言えぬ才能を生かしてカールに関係する情報を掻き集めている云わば

第一王子の専属諜報部だ。


キース「従業員の子供を孫としていた事が我慢できなかったらしいですね」

カール「なるほど・・・・・まあ、気持ちは分かるがな」

キース「これを理由にして、隠居して貰いましょう」

カール「後は息子にか・・・・・・」

キース「父親よりも扱い易いでしょう」

カール「そうだな」

キース「まあ、無理にでも従って貰います、安心してください」

カール「少しは手加減してやれよ」

キース「本人次第でしょう」

カール「やれやれ・・・・」

キース「ですが、もう一つ問題が出てきました」



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