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等価報復



マチルダ「まずい!間に合わない!」


焦り諦めかけたマチルダだったが、通りかかった一人の男がそんな状況を一瞬だけ

だが変えた。


ルナン「ぼっちゃん!駄目だ!」

ロッド「なっ!」


そんな呼ばれ方をしたのは、物心つくかつかない、両親の愛を一身に受けていた幸

せな頃、取引先や客人から言われたのが最後だった。

その余りの懐かしさと記憶にロッドの剣が一瞬だけ止まった。

そしてマチルダにはその一瞬で十分だった。


マチルダ「でかした、ここまでよロッド!」


マチルダの剣が、ロッドの剣と伯父の首の僅かな隙間に入り込んだ。


 ロッド「マチルダ・・・さん?」

マチルダ「駄目よ、あなたの剣の最初の相手は魔獣でしょ」

 ロッド「でも、でもこいつは!」

マチルダ「ほら、落ち着いて、息を整えて」

 ロッド「ふう、ふぅ・・・・・はい・・・・」

マチルダ「良かった、駄目よこんな物を斬っちゃ、剣が汚れるわ」

 ロッド「うん、うん」


何とか落ち着いたロッドだったが、年はまだ十一歳、簡単には抑えきれない感情に

ポロポロと涙を零した。


 ロッド「うっ、うっ、うっ」

マチルダ「よしよし、いっぱい泣きなさい」

 ロッド「うっ、うわ~ん」


マチルダよりまだ頭一つ以上小さなロッドは、すっぽりとその胸に包まれて泣き続

けた。


 イルマ「ちぇっ、やっぱりこう言う時は、マチルダさんには適わないや」

イレーネ「胸・・・・・・無いものね」

 イルマ「うるさいわよ」


そんな事になっている場所に、遅れて衛兵がやってきた。


 衛兵B「ハアハア・・・騒ぎを・・・ハア・・起こしたのは、お前か?」

マチルダ「あ~はいはい、もう終わったから戻って良いわよ」

 衛兵B「そんな訳に行くか」

マチルダ「煩いわねえ、誰も死んでないんだから構わないでしょう」

 衛兵B[と、とにかく詰所に来て貰うぞ」

マチルダ「・・・私の言ってる事が聞こえなかったの?ああ?」


マチルダに睨みつけられ、衛兵の心は早々にへし折れた。

途轍もない美人の怒気がこんなに恐ろしいとは、思っていなかったのだ。

だが、彼にも衛兵としての責務がある。

簡単には引けないのだが、ここで再びルナンが助け舟を出した。


ルナン「まあまあ、ただの擦れ違いだから」

衛兵B「いや、しかし」

ルナン「大丈夫、大丈夫、ほらこれを見て」

衛兵B「げっ、これは第二王子様の?」

ルナン「そうそう、彼らはディラン様の庇護下に在るの、ねっ、分かるでしょ」

衛兵B「はっ、失礼いたしました」


身分証代わりの過剰装飾の銀板を見せると、衛兵は敬礼して戻っていった。

王族が渡す銀板は、その責任を持つとの意思表示であり、その為数が少なく滅多に

お目にかかれない分、希少性も相まって効果は絶大だった。


  ユナ「へえ~、やるじゃん」

マチルダ「本当、助かったわ」

 ルナン「いや、たまたま通りかかっただけだから」

  ユナ「その一瞬で状況を把握して、最善の一手を打ったのね」

 ルナン「ええ、まあ」

 アイナ「ユナ姉、やっぱりこんな時は御褒美が必要なんじゃないかなぁ」

  ユナ「御褒美?」

 アイナ「ねえ、ルナンさん、御褒美って欲しくないですか?」

 ルナン「ええっと、御褒美って何ですか?」

 アイナ「そうね~、例えばユナ姉に食事を御馳走できる権利、とか?」

 ルナン「欲しい!なんなら権利を買います!幾ら払ってもいい!」

 セーナ「御馳走出来る権利って、それ、御褒美なの?」

 アイナ「あの顔を見れば、間違いないわ」

 セーナ「ほんとだ、天にも昇りそうな顔してる」

 アイナ「それにユナ姉も、満更でもなさそうだし」


どうやらユナの方もルナンを憎からず想っていた様だった。

特にマチルダがオーティスと結ばれてからと言うもの、自分も相手が、恋人が欲し

いと言う欲求が強くなっていた。


セーナ「でも、大丈夫かなあ」

アイナ「何が?」

セーナ「ユナって、恋人は自分より強い事が条件だって」

アイナ「そんなの、師匠以外、居るわけないじゃない」

セーナ「もともと年上好きだけど、爺は嫌なんだって」

アイナ「・・・・・ユナ姉って、もしかして・・・・・馬鹿?」

セーナ「う~ん、馬鹿って言うより、夢見る少女なのよ」

アイナ「夢?」

セーナ「そう、女としては勇者様に守って貰いたい訳よ」

アイナ「ゆ、勇者?」

セーナ「イエス~」

アイナ「で、自分が勇者よりも強くなってどうするのよ!」

セーナ「そこまで責任は持てないわ」

アイナ「駄目じゃん」


その後、マチルダ達はリット達に三人をギルドまで送らせると、へたり込んでいる

伯父の尋問に移った。


ルナン「誰に頼まれた」

 伯父「いえ、あの、自分で」

ルナン「正直に答えた方が身のためだと、思うがな」


かがみ込んで聞いているルナンの後ろで、睨んでいる羽蝶蘭の圧が凄まじく、何と

か誤魔化そうとした伯父の心はへし折れた。


  伯父「事情を知ったエルナト商会から、援助してやるからと・・・・」

  ユナ「またエルナト商会なの?」

 ルナン「またとは?」

  ユナ「少し前に、その商会の手先と揉めたのよ」

 セーナ「うちの運送部の嫁にちょっかいを掛けてきたの」

 ルナン「はあ?なんでまた嫁に・・・・」

  ユナ「エルナト商会の馬鹿息子に乱暴された娘を、うちの運送部の男が保護し

     たのが、きっかけね」

 セーナ「その娘が生んだ子供が欲しかったみたいね」

 ルナン「クズですか?」

  ユナ「クズよ」

 ルナン「ディラン様に釘を刺してもらいましょうか?」

マチルダ「別に構わないわ、それよりも苦情がきたら無視する準備をしておいて」

 ルナン「じゃあ、すでに?」

  ユナ「少なくとも西地区のギルドは、エルナト商会に素材は卸さないし、護衛

     も引き受けないわ」

 ルナン「素材を?」

 セーナ「ええ、西ギルドからはスライムの魔石一つ、薬草一本出てないわ」

 ルナン「えげつないですな、商会にとっては痛手でしょう」

マチルダ「師匠が怒ってるのよ、おまけに今回の件でしょ」

  セナ「激怒する師匠が目に見えるようだわ」

 セーナ「エルナト商会が潰れるまで止まらないわよ」

    

現在冒険者ギルド西支部は、王都に流通する素材のうち、薬草類の七割、低ランク

の魔石の八割近くの供給を担っている。

大手の商会と言えど、年中貴族からの依頼や注文が有る訳では無い。

普段使用する普通の物が、売り上げの基礎となっている。

それは、食料であり、日用品であり、住居であり、薬草でもある。

そしてその全てに、僅かながら冒険者ギルドが絡んでいる。

食料一つをとっても、冒険者の護衛が無ければ、遠い生産地からの輸送が滞る。

魔石が無ければ、灯りは松明頼りになる。

更に言えば、ガライ達の運送部門は護衛付きで料金は安く、信頼度はAクラス。

今や、商会からの依頼が途切れる事がない。

他のギルドに依頼しようにも、安い依頼はベテランが受けようとしないし、護衛

代は高額になってしまう。

挙句に約束は反故にするし、礼儀はなっていない、トラブルは起こすしと、評判

は、すこぶる悪い。

日常の生活は、低ランクの冒険者が関わっている物も少なくない。

そして今や新人、見習い、低ランクの冒険者の殆んどが西支部の所属、影響は火

を見るよりも明らかだ。


 ルナン「今の西支部にそっぽを向かれたら」

  ユナ「自業自得」

 ルナン「確かにこれはディラン様の所に泣きが入るな」

マチルダ「無視する様に言っておいて」

 ルナン「ああ、伝えておく」

  ユナ「それと、いつにするの?」

 ルナン「いつ?とは?」

  ユナ「食事に誘ってくれるんでしょ?」

 ルナン「明日、明日の夕方に迎えに、必ず行きますから!」

  ユナ「ええ、待ってるわ」

 ルナン「ひゃっほ~!やった~!」

 セーナ「仕事しなさいよ・・・・・・・・・・・・」


第二王子の腹心がこの有様では、王都の未来はどうなってしまうのか一同が少

し不安を感じていた事に、当人は気が付いていなかった。





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