表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/44

醜悪夫婦



 リーゼ「何か用かな?」

イレーネ「登録しに来た!」

 リーゼ「ええと、君たちは?」

イレーネ「私たちは暗黒の牙!」

 イルマ「絶対に認めないからね!そのパーティ名」

 ロッド「うう、恥ずかしい」


冒険者ギルド西支部のカウンターは、朝一番の忙しい時間も終わり、まったりと一

息ついていた。

その受付嬢の前に三人の少年少女が張り付いたのだ。


イレーネ「登録、登録、早くして」

 リーゼ「早くって、あなた達、年は幾つなの?」

 イルマ「この煩いのと私が十二歳、ロッドは十一歳」

 リーゼ「ちょっと早すぎない?冒険者って危険も多いのよ」


確かに冒険者には年齢制限は無いが、町中の雑用程度ならまだしも、一歩町の外に

出れば、魔物や野獣、はては野盗の類まで、遭遇する可能性が有る。

最低限、逃げるなり戦うなり、身を守る能力は必要なのだ。

その判断を行う事も、受付の重要な仕事の一つだ。


デライド「ああ、来たか、大丈夫だからそいつらを登録してやってくれ」

 リーゼ「でもギルマス、流石に歳が」

デライド「そいつらは教会の子、つまり九鬼爺さんの弟子だ」

 リーゼ「ええと、つまり?」

デライド「五稜郭のメンバーだ、そこいらのチンピラより強いぞ」

 リーゼ「マジですか」

デライド「足りないのは経験だけでな、早めの登録になった」

 リーゼ「つまり期待の新星って訳ですか、了解しました」

イレーネ「えへへ、宜しくお願いします」

 リーゼ「こちらこそ、でもパーティ名は考え直した方が良いわよ、ダサすぎ」

イレーネ「ええ~!」

イルマ・ロッド「「うんうん」」


リーゼの助言の甲斐あって、パーティ名は暗黒の牙(仮)となった。


イレーネ「う~ん(仮)って、なんだか嫌」

 イルマ「文句言わないの」

 ロッド「不安だ・・・・・」


九鬼からは、カリファの森での薬草採取のみが許可されていた。


イレーネ「え~、でもフォレストウルフぐらいなら」

  九鬼「そうかそうか、イレーネは三日ぐらいは夕食抜きで平気らしい」

イレーネ「薬草採取に誠心誠意取り組んで参ります!」

  九鬼「うむ、よろしい」

イレーネ「夕食抜き・・・・なんて恐ろしい罰なの・・・・」

 ロッド「・・・・・不安だ」


九鬼がカリファの森を指定したのは、理由があった。

幾ら剣術の腕が上がったとは言え、新米中の新米には違いない。

いつ、不測の事態に陥るか、不安は払拭出来ない。

その為、マチルダ達の羽蝶蘭とロッド達の明鏡止水が、九鬼の命令で、三人の護衛

に駆り出されていた。

まかり間違っても、対処不能の魔獣等に出くわさせない為だ。


 ロッド「過保護だって言ったんだけどな」

ライナー「師匠が聞く訳無いだろう」

マチルダ「ああ見えて、子供には甘々だからね」

  ユナ「確かにそうね」

 アイナ「もうね、訓練中でも目が優しいのよ」

  マナ「そう、あれは孫を見る目よ」

  ミナ「爺馬鹿だよね~」

 ガイン「経験を積む前に、大怪我させたく無いんだよ」

マチルダ「とにかく、見つからない様に見守るのよ」

 セーナ「・・・・・あんたも甘々じゃない」


こうして、新米冒険者の薬草採取の為に、Bクラスの魔獣でさえ瞬殺する戦力が、

Cクラスの魔獣でさえ、めったに見かけないカリファの森に展開した。

はっきり言って過剰戦力も甚だしい。


 ロッド「あった、ベラドンナ草(鎮痛剤用)だ」

 イルマ「また?それ、三級の薬草だよ」


薬草のランクは特級から四級までの五種類があり、需要と希少性等を鑑みて買い

取り価格が決まっている。

四級だと、一本当たり鉄貨三枚(約三十円)だが、三級だと銅貨三枚(三百円)

に上がる。

ちなみに二級は銀貨三枚(三万円)、一級になると一本小金貨一枚(十万円)、

特級に至っては金額の天井が無い。

ただし、二級以上は魔獣の巣のような場所に生えているし、特級に至っては、命の

危険がある環境にしか生えていない。

例えば六千メートル級の山の山頂付近とか、砂漠のど真ん中だとか、余程の幸運か

大規模な探索隊を組める王族あたりでしか、手に入れる事は出来ない。

まあ、近郊にあるカリファの森程度では三級までが限界なのだ。


イレーネ「む~、なんでロッドばっかり」

 イルマ「イレーネは何を見つけたの?」

イレーネ「エストラゴン草(香草の一種)」

 イルマ「また~?食材ばっかりじゃない、どれだけ食いしん坊なのよ」

イレーネ「む~!私には薬草採取は向いてない、いでよゴブリン!」

 ロッド「ゴブリンなんて狩り尽くされて、王都周辺には居ないよ」

 イルマ「夕ご飯要らないんだ~」

イレーネ「・・・・・・・出でよターネラ草(利尿剤用)」

 イルマ「オネショするわよ」

イレーネ「しないわよ!」

 イルマ「司祭様大変だった」

イレーネ「いつの話よ!」


いい加減、実りの無い会話にロッドが割り込んだ。


 ロッド「ねえ、ちょっといいかな、もう採取袋がいっぱいなんだけど」

 イルマ「そう、ならちょっと早いけど帰りましょう」

イレーネ「え~、まだ一度も剣を抜いてないのに・・・・・・・・・」

 イルマ「早くしないと、ギルドが混むよ」

 ロッド「混むのは・・・・嫌だなあ、年上ばかりだし」

 イルマ「あんたはもっとシャキッとしなさい、男でしょ」

 ロッド「ああ、うん」

 イルマ「はあ・・・・・早く帰りましょ・・・・・」


今日は自分達三人が、初めて自分達でお金を稼いだ、独り立ちにはまだまだ遠い。

けれども、それでも自分達の足で立った記念の日、早く司祭様に褒めて貰いたくて

足早に王都の門をくぐった。

なのに厄介事は、それを見越した様にやってきた。


   「や、やあ」

   「ひ、久しぶりね、ロッド」

ロッド「・・・・・・・・・・・・・・・」


いきなり声を掛けてきた中年の夫婦だが、ロッドが固まった様に動かない。


イレーネ「誰よあんたたち、ロッドに何か用?」

 イルマ「ねえロッド、この人たち誰?」

 ロッド「・・・・・・・・・俺の・・・・伯父さんと伯母さん」

 イルマ「何ですって!」

イレーネ「・・・・・殺す」


ロッドの伯父夫婦は、弟夫婦が死ぬと、ロッドを引き取ると共に資産の全てを自分

達の物にして取り上げた。

その上、周りの関心が薄れた頃を見計らって、幼いロッドを孤児院の前に捨てた者

達なのだ。

その事を知っているイルマとイレーネはの二人は、町中であるのも忘れて腰の剣に

手を掛けた。


 イルマ「どの面下げてロッドの前に出てきたの」

  伯父「何だお前たちは、関係ないだっろう」

イレーネ「私達が何も知らないと思っているの?」

  伯母「何の事かしら」

イレーネ「孤児院の前に捨てる事を何て言うの?」

  伯母「それは・・・・・・・」

 ロッド「・・・・・・・何しに来た」


およそ少年の口から出たとは思えない、冷たい抑揚のない声だった。


 伯父「い、いや、今まで放っておいて悪かったなと、謝ろうかと思ってな」

 伯母「そう、たった一人の甥っ子だもの」

ロッド「何しに来た」


白々しいセリフしか吐かない伯父夫婦にロッドの怒りが増してゆく。

自分から両親の財産も思い出も何もかもを取り上げた挙句、命まで奪いかけたのだ

顔など出せる立場の人間では無いのだ。


 伯父「いや、そんな風に言われると・・・・」

ロッド「何しに来た」

 伯父「その、実は俺の店、ちょっと困っててな」

 伯母「あなたの所で作ってるんでしょ、あの、炭とか言うの」

 伯父「ちょっとだけ品物を回してくれないか」

 伯母「あなたならできるでしょ」

 伯父「それか、作り方だけでも良いんだ」

 伯母「放っておいて悪かったけど、甥、伯母の仲でしょ」

 伯父「これまでの事は水に流してだな」


水に流すなど、加害者が口にして良いセリフでは無い。

この恥知らずな要求に、ロッドが爆発した。


ロッド「・・・・・・・・・ふざけるな」

 伯父「えっ?」

ロッド「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!」


叩きつける様に叫ぶロッドに周囲の目が一斉に集まり、通り過ぎようとしていた人

々が興味を惹かれて立ち止まった。

怒気を孕んだ声に近寄っては来ないが、皆、遠巻きにみている。

そして、そんな騒動が門番衛兵の注意を惹かない訳が無い。


衛兵A「何か面倒ごとみたいだな」

衛兵B「はあ、仕方ない、ちょっと見てくる」

衛兵A「どうせ冒険者だろ、放っておけよ」


この南門は、カリファの森が近い事も有って、新人や見習い冒険者が多い。

その分、若者同士の喧嘩などは日常茶飯事なのだ。


衛兵B「いや、片方は一般市民みたいだ」

衛兵A「あちゃ~、このままじゃまずいな!」

衛兵B「だろ、済まないがここを頼むよ」

衛兵A「あいよ~」


そんな動きを見ていたマチルダ達は慌てて走り出した。


マチルダ「油断したわ!まさか門の内側でもめ事なんて!」

  ユナ「だいたい、あいつら誰よ!」

 リット「まさか・・・・」

  ユナ「心当たりが有るの?」

 リット「死に掛けたロッドを孤児院に捨てた親戚の夫婦じゃないだろうな」

 アイナ「あの、両親の遺産を全部ネコババしったって言う奴?」

 リット「そうだ、上町で店を開いてると聞いたことがある」

  ユナ「嘘でしょ、そんな奴、殺しかねないわよ!」

ライナー「拙いぞ、止めなきゃ!」

マチルダ「先に行く!身体強化!」


オーティスが、何度も取り出しては重ね掛けしたマチルダの身体強化は、現在は星

四つにもなっている。

星一つでも常人の三割増し、星四つともなれば、走るだけでも三倍近くになり百m

なら六秒台で駆け抜ける事が出来る。

そんなマチルダが門も衛兵も置き去りにして全力で駆けた。


ロッド「ふざけるなよ!俺を殺しかけたくせに今更水に流せ?」

 伯父「いや、おれはただ・・・・」

ロッド「小さかった俺なら覚えていないとでも思ったのか?」

 伯父「うっ」

ロッド「殴られた事も、蹴られた事も、食事を貰えなかった事も」

 伯父「ロ、ロッド、あの」

ロッド「高熱の出た俺を孤児院の前に、裸同然で置き去りにした事も」

 伯父「まさか・・・・」

ロッド「何一つ忘れた物は無い、全部覚えているぞ」

 伯父「あわわわわわ」

ロッド「それを水に流せ?」

 伯父「ひいっ」


ロッドの怒気に伯父はその場に尻餅をついた。

壮年の大人の男が、僅か十一歳の少年に圧倒され、怯えたのだ。


ロッド「ああ、いいぞ、水に流してやるよ」

 伯父「ほ、ほんとうか、へへ」

ロッド「水に流してやるからお前の首を寄こせ」

 伯父「じょ、冗談だよな」

ロッド「ああ?水に流してやると言ったんだ、ありがたく思いなよ」

 伯父「ひいいいいいいいいいいいい」


ゆっくりと引き抜かれた剣が、まだ高い日の光を浴びて銀色に輝く様は、美しくも

あり、恐ろしくもあった。

ロッドの伯父は、この時になって初めて自分が踏込んではならない場所に土足で上

がり込んでいる事に気が付いた。

ロッドは、伯父夫婦が虐待した挙句に殺しかけた頃の幼い姿では無く、剣を手に取

り、自ら復讐の出来る一人の男に成長していた。


 伯父「すまない・・・・許して」

ロッド「聞こえないなあ・・・・」


だが、理由はどうあれ、町中で人一人殺せば、罪に問われるのはロッドのほうだ。

しかし、頭に血が上った三人には、そんな簡単な事にさえ、思考が回っていない。

最悪の状況が現れようとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ