跳嬢蒼天
九鬼達が、スラムの立て直しに、右往左往している中、一人の男がふらりと冒険者
ギルドの西支部に現れた。
デライド「・・・・・・・・・・・何でこんなところに居るんです、リカルド様」
リカルド「暇なんで、ちょっと寄ってみた」
デライド「暇って、護衛はどうしたんですか・・・・」
リカルド「邪魔なんで巻いてきた」
デライト「滅茶苦茶だ・・・・・・・・・・・・」
そこに、騒ぎを聞きつけたチェスカがやって来たが、デライドの相手を見て
頭を抱えた。
チェスカ「どうして、此処に居るんですか・・・・・・・・・・・・・・」
リカルド「その会話はデライトと済んでいるよ・・・・」
チェスカ「なら、変えましょうか、面倒事を持ち込む前にお帰り下さい」
リカルド「え~っ、せっかく護衛を巻いたのに・・・・」
チェスカ「知りませんよ、そんな事、こっちの責任じゃありませんから」
リカルド「なんか、冷たくない?俺、貴族なんだけど・・・・」
チェスカ「大貴族の当主なら、こんな所でふらふらしないでください!」
リカルド「ふらふらしてない、ちゃんとデライドの所に来たぞ」
デライド「俺を巻き込まないで欲しいんだが・・・」
リカルド「なら、自由にさせて貰うからな」
デライド「あ~もう、どっちも面倒だ」
チェスカ「はあ、それで何しにきたんですか、こんな所まで」
リカルド「噂の武王に会いに来た」
一瞬で緊張が走ったのは、デライドもチェスカも九鬼の性格を知っているからだ。
九鬼は理不尽な権力者を異常なほど嫌っている。
身分の差から来る不利益など、絶対に許容しないのだ。
これは、九鬼がこの世界の住人では無い事が関係しているのだが、二人にはそれは
分からない。
よっぽど権力をかさに着た行動でもしない限り大丈夫だとは思うが確信は持てない
デライド「・・・・どこで聞いたか知りませんが、止めておいた方が無難です」
チェスカ「あの方は、貴族だからと言って特別扱いはしてくれませんよ」
リカルド「俺はただ会って話をしたいだけなんだが」
デライド「貴方はそうでも、護衛達は違うでしょう」
リカルド「その時は、護衛達を、きちんと止めるさ」
リカルドは、護衛達が九鬼に危害を加える事を危惧しているのだが、その考えを
デライドがバッサリと真っ二つに切り裂いた。
デライド「何を勘違いしているか知りませんが、死ぬのは護衛達の方ですよ」
チェスカ「襲い掛かった時点で手遅れなのよ」
リカルド「馬鹿を言うな、俺の護衛は一騎当千の者ばかりだぞ!」
リカルド自体も幼い頃から剣を嗜んでいたのも有って、護衛に抜擢する際には、
それなりに腕に覚えの有る者を揃えている。
その数、凡そ七名、滅多な事では後れを取る事は無いと、自負していた。
デライド「ああもう、言葉を取り繕うのも面倒になってきた、お前の護衛は、三十
メートルを超すフォレスト・サーペントの大物を一人で倒せるのか?」
リカルド「へっ?」
チェスカ「それも一太刀で」
リカルド「それほどの者なのか、その武王とやらは・・・・」
デライド「阿呆」
リカルド「あ、あほう?」
デライド「フォレスト・サーペントを倒したのは弟子の一人だ」
チェスカ「そんな弟子が十人近く周りに控えているのよ」
リカルド「武王より弟子が強い何て事は・・・・・・」
デライド「そんな訳が有るか、いつもまとめて転がされてるわ」
リカルド「・・・・・・・化け物か・・・・・・」
デライド「そんな可愛い物じゃねえよ」
チェスカ「大型のドラゴンと思っていた方が、間違い無いわね」
リカルド「・・・・・お前達は何で平然としてられるんだ?」
デライド「別に、普通にしてれば気のいい爺さんだし・・・・・」
チェスカ「女子供には異常なほど優しい方ですもの」
リカルド「・・・・・・・先に護衛と話を付けてくる」
リカルドの狙いは、噂の武王を自分の配下にと、勧誘に来たのだ。
だが話を聞いて、とても自分の手に負える相手では無いと諦めたのだが、それだか
らこそ一度会って、その人となりを確認する必要が出て来た。
自分にとって味方になるのか敵になるのか、基本的思想と価値観を共有する事が、
出来るのか、有益で友好的な関係を築く事が出来るのか。
聞いたからには、危険だ彼と言って無視する事が出来なくなってしまったのだ。
リカルド「・・・・・・・・・・・・・すまんが付いて来てくれ」
デライド「えらく、殊勝になったな」
リカルド「俺だって、まだ死にたく無い」
チェスカ「しょうがないわね、付き添ってあげましょうか」
デライド「そうだな、こんな所で死なれでもしたら大騒ぎだ」
リカルド「・・・・・・・すまん」
チェスカ「好奇心は猫を殺すのよ」
リカルド「肝に銘じるよ」
そのころ九鬼はスラムで、リット達と冬越しの為に空き家の補強をしていた。
そこに、デライドとチェスカが数人の男を連れてやってきた。
チェスカ「こんにちは九鬼さん、ちょっと御時間を頂けないかしら」
九鬼「おお、チェスカ殿、それにデライドも一緒か、勿論構わんよ」
チェスカ「事実は引き合わせたい男が居るのよ」
デライド「俺は止めたんだがな、気に入らなかったら殴っていいぞ」
九鬼「なんじゃ、そのいい加減な紹介は・・・・」
デライド「いいんだよ、いい加減な奴なんだから」
チェスカ「一応これでも貴族なのよ、悲しいかな」
九鬼「?」
デライド「こいつはルデマニア領主、リカルド・アフェンドラ辺境伯だ」
リカルド「お初にお目にかかる、ルデマニア領主、リカルド・アフェンドラだ」
ルデマニアと言えば、王都の南部にある王国第二の都市で、その領主は周辺貴族を
纏め上げ外国からの侵略を一手に引き受けている、外戚貴族の雄だ。
幾ら世情に疎い九鬼でも知っている、人格者で有名な貴族でもある。
それなりの礼を尽くす事に抵抗はない。
九鬼「こちらこそ、クラン五稜郭代表、九鬼十三じゃ」
デライド「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし」
九鬼「何が”良し”じゃ、デライド」
デライド「いきなり首を斬り飛ばさなかったから、よし、と」
九鬼「儂は殺人鬼か!」
デライド「だって、今まで貴族には容赦が無かったじゃないか」
九鬼「儂は別に貴族じゃから嫌っておった訳ではないぞ、礼儀も知らぬ馬鹿が
嫌いなだけじゃ」
デライド「そうなのか?」
九鬼「たまたま今まで会った貴族が全員、見事な阿呆だっただけじゃ」
デライド「阿呆なら、こいつも負けてないけれどもな」
チェスカ「確かにそうね」
リカルド「おい!」
九鬼「二人とも随分辺境伯とは親しそうじゃな」
デライド「腐れ縁だ」
チェスカ「腐れ縁ですよ」
聞けばこの辺境伯、若い頃はとんでもない放蕩息子で、当時まだ若かったデライド
と身分を隠して冒険者パーティーを組んでいたいたらしく、依頼中、大怪我をする
度にチェスカの治癒魔法の世話になっていたらしい、それもつけで。
その後、実家に強制連行された際に、アフェンドラ家の家宰が、現金を持って謝罪
に訪れた事でリカルドの正体が露見した。
デライド「にもかかわらずだ、こいつは度々抜け出しては、ギルドで好き勝手しや
がって」
チェスカ「辺境伯になって、やっと落ち着いて来たと思ったんだけれど・・・・」
デライド「十年ぶりにやってきた途端にこの有様だ」
九鬼「あ~確かに大人しそうには見えんのお、悪ガキがそのまま大人になった
様な・・・・」
リカルド「酷い言われようだな・・・・・」
九鬼「日頃の行いのせいじゃな」
和気あいあいとした雰囲気で辺境伯をいじっていたが、護衛の中の一人が我慢出来
なくなった。
どうもリカルドの姪っ子は、尊敬する叔父が敬意を持って扱われない事に憤りを感
じたらしい。
いきなり会話に割り込んできた。
リカルド「大人しく控えていろと命じた筈だぞ、ソフィーナ」
ソフィーナ「聞けません!なぜ平民が辺境伯である叔父上に不遜な態度をとるので
すか!」
リカルド「その事についても、先に説明しただろう」
ソフィーナ「納得できません!特にあの若い者まで笑っていた事は特にです!」
ガイン「えっ、俺?」
いきなり指を突き付けられたのは、九鬼の傍にいたガインだった。
吹き出しそうになったリット達はそれでも、多少は空気を読んで顔をそむけていた
のだが、ガイン一人が爆笑していたのだ。
九鬼「あ~、それは済まなかった、全面的にガインが悪い」
リット「だからいつも言ってるだろ、注意しろって」
アイナ「どうすんのよ、相手は女の子なんだから荒っぽいのは駄目よ」
ガイン「参ったな、すまない、ごめんよ、お嬢ちゃん」
たかが笑った、気に入らない、その程度、冒険者同士、男同士なら拳で話を付けて
終わりにするのだが、今回は相手が悪い。
相手はまだ少女と言っていい年齢だろうか、ガインよりも幾らか年下だろう。
まかり間違っても怪我をさせる訳には行かない。
気を使ったつもりだったが、その物言いが更にソフィーナの気に障ったらしい。
ソフィーナ「ふざけるな!私はこれでも騎士だ!」
ガイン「あ、ああ、そうだな立派な騎士だ・・・・・・・・・可愛いけど」
ソフィーナ「何だと貴様!」
リカルド「落ち着け、ソフィーナ」
ソフィーナ「決闘だ!決闘を申し込む!」
リカルド「止めぬか!何を口走っているんだ!このお転婆め!」
ソフィーナ「でも叔父上!」
九鬼「ふむ、まあ良いではないか、やらせて見れば良い」
リカルド「九鬼殿!」
止めに入るかと思った九鬼が、決闘を許可した事に焦ったリカルドだったが、次の
言葉をきいて、そのまま流す事に決めた。
九鬼「ただし、ガインは素手で相手をしろ、剣は禁止じゃ」
ガイン「うっす、了解です」
リカルド「く、九鬼殿?・・・・」
九鬼「これなら怪我をさせる事も有るまい」
リカルド「流石に無手では、ソフィーナも少しでは有りますが剣術をたしなんで」
九鬼「なに、ここにはチェスカ殿も居られる、心配無用じゃ」
リカルド「はあ、まあ、そうですが」
もし、致命傷だったら、一撃で死亡させたらどうするのか、その言葉をリカルドは
辛うじて飲み込んだ。
彼が武王の弟子だったのなら、これ以上の口出しは控えねばならないからだ。
こうして、剣対素手のやや奇妙な決闘が、始まる事になった。
リット「ありゃ駄目だ、頭に血が昇って周りが見えて無い」
アイナ「そうね、腕の一本も切り落として欲しかったんだけど・・・・」
リット「無理だな・・・・・」
アイナ「良い薬になると思ったんだけどなあ~」
エマ「お兄ちゃんたち、酷くない?」
この会話を聞いて、リカルドは確信した。
彼らは間違い無く武王の弟子なのだと、ならば間違い無く、いい薬になるのは姪っ
子の方だろうと。
リカルド「彼らが武王の弟子なんだな」
デライド「ああそうだ、だから安心して見てれば良い」
リカルド「そうさせて貰おう、だんだん楽しみになってきたしな」
デライド「楽しむ時間が有ればいいがな」
リカルド「どういう意味だ?」
そして九鬼の審判により、決闘が始まったのだが・・・・・・。
ソフィーナ「へっ?」
開始の合図とともに斬りかかったソフィーナは今、青く晴れ渡った冬の空を見上げ
ていた。
薄く細長い雲が、自分の置かれている状況を現実感の無い物へと変えていく。
ソフィーナ「あれ?」
ガイン「痛く無かったかい?」
ソフィーナ「え、ええ、ちっとも」
ガイン「良かった、ほら、立てる?」
ソフィーナ「あ、ありがとう・・・・」
毒気を抜かれ、放心状態のソフィーナは、言われるままに、差し出されたガインの
手を取って立ち上がった。
なんとなく負けた事だけは理解したが、自分の身に何が起きたのかが解らない。
だが、平然としているデライド達とは違い、リカルドは驚愕したまま動けなかった
デライド「まあ、こんなものか」
リット「妥当な結果だな」
アイナ「つまんない・・・・・・・」
ライナー「何を期待してたんだか」
リット「おや、、再開するみたいだぞ」
自分に何が起こったのか分らないままでは納得できないからと、ソフィーナがもう
一度素手で手合わせを願い出たのだ。
九鬼「構わんよ、ガイン相手をしてやりなさい」
ガイン「うっす」
リカルド「我儘に育ったようで、本当に申し訳ない」
九鬼「何の、向上心に溢れた若者を見るのは楽しいのでな」
リカルド「それで九鬼殿、先ほどのあの技は?」
九鬼「あれは合気道と言ってな、まあ、無手の技じゃ」
その後、リカルドは食い入る様に、ガインとソフィーナ名の組み手を眺めていた。
何度も飛び掛かっては、コロコロと転がされる様に、どうしても理屈が飲み込め
ないのだ。
最も、転がされているソフィーナが、何とも楽しそうな笑顔をしているのだから、
自分の疑問は取り敢えず棚に上げる事にした。
リカルド「時に、九鬼殿、何やらお困りだとデライドに聞いたのですが・・・」
ここから思いもよらない話が二人の間で交わされる事になった。
少なくとも、ソフィーナが転がされる事に飽きるまでは。




