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鳴竜応虎



エディ「これは・・・また・・・とんでもない物を・・・・・」

マルコ「もう・・・どうすればいいのか・・・」

 九鬼「それ程のものかのう?」

エディ「それ程の物ですよ」


三人の目の前には一枚の皿。

乗っているのは、蒸かしたゴダ芋。

だが、問題はその味。


エディ「どうしてゴダ芋が美味いんだ・・・・・」

 九鬼「塩でも掛けねば、喰えんぞ」

エディ「訂正します、何で塩を掛けただけで、ゴダ芋が美味くなるんですか」


本来、ゴダ芋には酷い苦みがあり、普通は見向きもされない。

よほど耐えられない空腹に襲われない限り、口にしない。

舌が馬鹿になるからだ。


 九鬼「このゴダ芋は、当分の間はここの下町のみの販売にする」

エディ「下町のみ?理由を伺っても?」

 九鬼「この西地区の人口を増やす」

エディ「・・・・・・・・・なるほど」

マルコ「えっ、どう言う事?」

エディ「冬に入って、食料が乏しくなればなるほど、安価な食料は魅力的だ」

 九鬼「冬が来る度に食料の値段が跳ね上がる、下町の人間は、どう思うかのう」


五稜郭のせいで、西地区からは、犯罪者や脛に傷を持つ連中が逃げ出してしまった

為、治安は格段に良くなったものの、人口は一気に減少した。

その上、九鬼が善良そうな人間を孤児院の周りに移住させたおかげで、今や西地区

のスラムはガラガラな状態、移住する土地は余っているのだ。


 九鬼「そもそも、こんな状況で何も手を打たない国に問題がある」

エディ「大手の商会から貴族に金が流れてますからね、黙認ですよ」


税として農家から徴収された穀物は、大手の商会が貴族や国から買い取っている。

つまり、売るも売らぬも彼らの思い通り、価格も思うまま全て彼らがコントロール

している。

王都では、大手の商会による穀物カルテルが出来上がっているのだ。


マルコ「損失は冬に取り返せ、大手商会の合言葉らしいですよ」

 九鬼「度し難いのう」


大手の商会は、本店のある場所周辺を勢力範囲として大まかだが、住み分けをし

ている。

例えば、○○商会は王都の北東部を、△△商会は王都の南東部を、と言った具合だ。

王城を中心とした上町は、完全に分割支配していて、他者の入る隙間は無い。

これは長い年月をかけて出来上がった集金システムの様な物だが、下町やスラムに

迄は明確な区分をしている訳ではない。

だから小さな商会や新興商会は下町で活動している。

かくゆう、ガレッティ商会も本店は下町にあり、上町には支店さえ出せ無い。

土地や建物を貸しても売ってもくれないからだ。


エディ「当然、移動する人間が出てくる、特に本格的な冬に突入する前にと、急ぐ

    者も多いだろう」

マルコ「だが、五稜郭が居るので、素行の悪い連中は入って来れない」

エディ「結果、善良な者ばかり集まる事になり、町は発展する」

 九鬼「逆に言えば、犯罪者や無法な連中の多い町は衰退するんじゃ」

エディ「四、五年もすれば嫌と言う程、格差が出来る」


古今東西、治安の悪化が経済発展に繋がった例など無い。

その為に為政者は、安定した国を作る為に、腐心するのだ。

商会にとって、安定した市場は確保しておきたいだろう。


 九鬼「もし、今まで散々吸い上げてきた下町の富が無くなれば・・・・・」

マルコ「暴力に訴えてでも、邪魔をして来るでしょうね」

 九鬼「儂らが居るのに?」

マルコ「後は・・・・真似をする?」

 九鬼「じゃが、この蒸かしゴダ芋には重大な欠点がある、まず材料が足らん」



ゴダ芋の灰汁抜きに使う灰は、シャガの木を燃やした灰が必要で、他の樹木等では

効果が無かった。

元々、珍しい樹木で数が少ないのに、情報を一気に流してしまえば、恐らくシャガ

の木は根こそぎ伐採され、下手をすれば近隣から消滅しかねない。

幸い孤児院には数十本程大木が自生しているが、王都全体に行き渡る程では無い。

それにゴダ芋自体を栽培している畑など、孤児院以外には無い。

昔は割と空き地等に生えていたが、今では稀に、草原などの地面が柔らかくなった

場所で見かける程度だ。

ゴダ芋にしても、異常な成長速度は逆に地中の養分を大量に消費する。

下手に畑で何度も収獲すれば、土地は瘦せ細り元に戻るまで何年掛かるか解らない

農地に多大な損傷を与えかねないのだ。


 九鬼「だから情報は出さんが、灰を使う事ぐらいは漏れるじゃろうな」

マルコ「・・・・・確かに」

 九鬼「それでも不確かな情報で先走る連中が必ず出て来るじゃろう」


炭の件で忸怩たる思いをしている商会も少なくないだろう。

新しい商材として、飛びつく可能性が高い。


エディ「あく抜きする事は分かっても、手順や灰の種類までは、解らない」


灰汁抜きの方法を知っている九鬼でさえ、正解にたどり着くまで、数え切れない程

の試行錯誤を繰り返してきた。

天文学的な幸運にでも恵まれない限り、手順さえ知らない者が、簡単に再現できる

とは考え難い。


九鬼「結果、無駄なゴダ芋畑だけが、残る」


身も蓋も無い言い方だが、腹が膨れる食感だけは根菜の苦い漢方の丸薬としか九鬼

には思えなかった。

薬効も何もない、そんな物を自ら育てたい農家など、居る訳が無い。



エディ「大手の商会が見放した農家に、わが商会が手を指しのべる」

マルコ「大手に不信感を持った農家は、ガレッティ商会と契約をする、かも」

 九鬼「いずれにしろ、大手の商会には痛い目を見て貰う、ゴダ芋はその為の一手

    にもなり得る」


翌日から,下町の一角で蒸かしたゴダ芋の販売を始めたが、売り上げは初日から好調

だった。

しかし、九鬼達の思惑は早々に軌道修正を、迫られた。

日を追う事に販売数が跳ね上がり始めたからだ。

最近では、開店して幾ばくもしない内に売り切れてしまう。


九鬼「完全に見誤ったのう・・・」


幾ら食べられる様になったとはいえ、所詮はゴダ芋、販売価格は子供の握りこぶし

程の物が三つで銅貨一枚(約百円程度)にしたのだが、これが間違いだった。

まず第一が味覚が問題だった。

九鬼の味覚は、元々が美食の国である日本の物。

こちらの世界と誤差が有るのも自覚していたが、それは九鬼が思っていたよりも、

遥かに大きな物だった。


九鬼「僅かに、苦みが残っておるし、所詮は塩味だけなんじゃが・・・・・・」


九鬼にしてみれば、どうしても気になる苦みというか、えぐみが、この世界の人間

には許容範囲らしい。

そして、二つ目が価格と品質の問題だった。

冬の時期に大手商会が下町に流す食料は、倉庫の奥に眠っていた不良在庫や貴族達

から依頼された訳あり物がほとんどで、低品質にも程がある代物だ。

中には、五年前の小麦やトウモロコシさえあった。

それでいて、価格は通常品の二倍以上するのだから始末が悪い。

同じ分量なら、ゴダ芋の方が、遥かに安価で美味なのだ。

このままだと、想定よりも多くの農家が、ゴダ芋に手を出すかもしれない。

余りに多い場合、ガレッティ商会では支えきれない可能性がある。


 九鬼「早急に、農村にゴダ芋に切り替えた場合の危険性を流布させて欲しい」

マルコ「わかりました」

 九鬼「既に大手商会の手先らしき者を数人確認しておる」

エディ「早急に店の者達を走らせましょう」

 九鬼「説得に応じてくれれば、良いのじゃが・・・・・・」


余りにも急激な変化は意外な所で軋轢を生み、不幸な結果を齎す事も少なく無い。

それが、欲に駆られた物だと、取り返しのつかない事態に陥る可能性が高い。

九鬼とて、進んで破滅する者を量産するつもりは無い。

こういう時、自ら動いた所で何の役にも立たない事ほ自覚していたが、いざ直面す

ると、心に重りを乗せられたような不快感が押し寄せて来た。

九鬼に出来る事はじっと待つ事だけなのだから。


エディ「ほとんどの農家は理解してくれたようです」

 九鬼「何とか治まったか、有難い」

エディ「あのままでは、来年の収穫量が激減する所でした」


無駄にゴダ芋を何度も収穫すれば、土地の養分は欠乏し、数年は絶望的な収穫量に

なってしまっただろう。

そうなれば、一気に食糧難に突入する事になる。

灰汁抜きに使用する樹木はシャガの木が限られている、ゴダ芋は麦の代用品には

ならないのだ。

少しばかりの農地がゴダ芋畑に変わったが、全てガレッティ商会が買い付けた。

ようやく落ち着きを取り戻し、冬支度を始めようとした九鬼とオーティスの元に、

バクラが駆け込んで来た。


バクラ「九鬼さん、大変です!」

 九鬼「どうした?」

バクラ「スラムが、スラムが!」

 九鬼「スラムがどうした!」

バクラ「移住してきた人間で溢れ返ってます!」

 九鬼「はあ?」


慌ててスラムに駆け付けた時には、既にマルコが路上に座り込んでいる集団と話

していた。


マルコ「あっ、九鬼さん」

 九鬼「これは、いったい何事なんじゃ」

マルコ「みんな、生きてゆけないと、北地区から此処に逃げて来たそうです」

 九鬼「逃げて来た?」


見れば、確かに集団の大部分は、女と子供と老人で、ごく僅かに、成人男性が居る

くらいだ。

逃げて来たと言うのも分かる。

だが、なぜ急にそんな事態なったのかが、解らない。


マルコ「小麦の値段が、通常より五倍の値段になったそうです」

 九鬼「・・・・・・意味がわからん、そんな値段で小麦が売れる訳が無かろう」

マルコ「どうも、北部のエルナト商会に小麦を売っていた貴族が一斉に卸量を半分

    以下にしてしまったそうです」

 九鬼「戦争が起こったのか?」

マルコ「分かりません、ですが販売量が減ったのも事実のようです」

 九鬼「それは理解したが・・・・・」

マルコ「彼らは、そのあおりを受けたようです」


いきなり高額になった挙句に、流通量さえ減ってしまった食料は、当然の様に奪い

合いになった。

町に住む人々はまだ幾ばくかの理性を保っていたが、スラムの住人はすぐさま理性

をドブに捨てた。

一部の者が、弱者から全てを略奪し始めた。

それこそ、鉄貨一枚から、一粒の麦までもだ。


 九鬼「それで、逃げて来た、と言う訳か・・・・」

マルコ「はい、どこかで西地区の噂を聞いたらしく・・・・」


どうやら、九鬼達五稜郭の話は王都中のスラムや下町にまで広がっているらしい。


 九鬼「とにかく、食料の確保じゃな」

マルコ「小麦なら家の倉庫に幾分確保してありますが・・・」

 九鬼「商会の分を放出して一ヶ月、ゴダ芋で一ヶ月・・・冬は越せん」

マルコ「それに雪が降り出す迄、後一ヶ月も有りません」

 九鬼「寝る場所を確保をせんと、このままでは凍死者が出るぞ」

マルコ「兄に相談してきます!」

 九鬼「冒険者ギルドも巻き込まんと手が足らんな」


それからは、怒涛の日々が続いた。

食料を確保する為にガレッティ商会は東奔西走したが、結果はあまり芳しく無い。

どの商会も今度の騒動に気が付いたらしく、売り渋り始めた。

けっか、農家が僅かばかりの余剰分を売ってくれたに過ぎない。

九鬼達の方も、冒険者を巻き込んでスラムの家屋補強にかかったが、如何せん素人

の集団、隙間を塞ぐだけでも苦労する有様で、到底時間が足りなかった。

遅々として進まない状況に九鬼が頭を悩ませていると、ある日冒険者ギルドから、

顔を出して欲しいと使いが来た。


デライド「すまん、どうしても会わせろと五月蠅いんだ」


ある一人の壮年の男を紹介された。





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