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善因善果・悪因悪果



「ありがとうございます!ありがとうございます!ありが・・・・・」


今、ガライの目の前で地面に座り込んで頭を下げているのは、赤ん坊を抱い

たまだ若い一人の女、名をプラムと言った。

九鬼の命令で、孤児院の周りに住まわせる人間を探していた時、今にも崩れ

落そうなあばら家で、泣き止まない赤ん坊とやせ細った彼女をみつけたのだ


ガライ「随分と酷い話だな・・・・・・」


彼女は王国随一の老舗、エルナト商会々頭の家に下働として雇われていたが

御多分に漏れずと言うか、お約束と言うか、次期会頭の長男に無理やり関係

を強要され、挙句に身籠ったそうだが、妊婦の下女に妻が気づかない訳が無

かった。

子供が生まれた途端に、屋敷から無一文で追い出されたらしい。


ガライ「実家は頼れなかったのか?」

プラム「私は・・・・・・売られたので」

ガライ「全く、どいつもこいつも、人を何だと思ってやがる・・・・」


いつもそうだった。

金を持っている奴、権力を握っている奴、他者より力の強い奴、彼らには法

を守らず捻じ曲げても罪に問われない権利でも持っているのだろうか。

この国では、上を見ては駄目、地べたを見つめて生きるしかない。

いつもの傍若無人ぶりを見るにつけ、そう思わずにはいられなかった。

だが、クラン五稜郭の傘下に入った今は違う。

九鬼は法に反する事を許さない。

無慈悲な行いを許さない。

弱者を虐げる事を許さない。

そして、人を人とも思わない連中を決して許さない。

この町は変わりつつあるのだ。


ガライ「この家に住めばいい、食い物も用意してやるから」

プラム「でも私、お金を持ってません」

ガライ「そんな物、子供が大きくなって働けるようになってからで良い」


生れたばかりの赤ん坊を抱えて働くことなど、出来る筈がない。

おまけに、季節はもう冬。

あのままでは、親子そろって凍死か餓死に一直線だ。

だからガライは、この親子を保護してやろうと思ったのだ。

幸い、運送部門の責任者となったガライの懐は温かい。

家族の一つや二つ、養うぐらい簡単だ。


バクラ「裏切者!」

ガライ「一体なんだ、藪から棒に」

バクラ「いつの間に嫁を貰ったんだ!おまけに子供まで!」

ガライ「あ、あれはその、誤解だ!あの親子はスラムで保護しただけだ!」

バクラ「そうか、なら、赤の他人なんだな、誰が粉を掛けても問題無いな」

ガライ「い、いや、それは・・・・困る」

バクラ「裏切者―――!」


毎日食材を抱えて親子の元に通っていれば、親密な関係になるのに時間は大

して掛からなかった。

細身で儚げに見えるプラムは、ガライの好みど真ん中だった。

プラムにしても死の淵からすくい上げてくれただけで無く、その後も生活の

面倒も全て見てくれているガライが、白馬の王子様に見えても仕方のない事

だった。

例えチビでデブな王子様だとしてもだ。

そんなガライとプラムが仲良良く、下町の市場で買い物を楽しんでいる頃、

エルナト商会では、会頭のクラウスから跡取りである長男のオリバーが怒号

を浴びていた。


クラウス「いつになったら炭とやらを仕入れられるんだ!」

オリバー「あれは無理だ、ガレッティ商会が専売契約を結んでいる」

クラウス「ならば何故第二王子が仕入れる事が出来るんだ!」

オリバー「知らないよ!王族の伝手か何かじゃない?」

クラウス「馬鹿者!その王族の第一王子様から矢の催促が来てるんだ」

オリバー「そんな事言われても無理なものは無理だよ」


九鬼は、孤児院と取引するのは、ガレッティ商会だけに決めていた。

不特定多数の商会が出入りする事を嫌ったのも原因の一つだが、、何より他

の大店が、余りにも品性に欠けているのが原因だ。

金を稼ぐためなら、汚い手段も厭わない、貧乏人など客どころか人間扱いさ

えしない。

腐った亡者の様な連中に孤児院の、オーティス司祭の周りを、無遠慮にうろ

ついて欲しく無かった。


九鬼「最初に声を掛けて来たのがマルコだったのは幸運じゃった」


更にガレッティ商会は、本店機能を孤児院の有る西地区の支店に移動させ、

他の支店を縮小させた。

これは九鬼を最も重要な取引相手だと考えている事を意味すると同時に、他

の商会の不穏な動きを早めに察知する為でもある。

当然ながら、巨額の利益を生み出し始めた商材にダニが群がらない訳が無い

詐欺紛いの商談から、恐喝、恫喝は言うに及ばず、下らない言い掛かりまで

要注意人物には事欠かない。


エディ「奴はバルケロア公爵家の御用商人で強引な事で有名な男ですよ」

バクラ「了解、監視しておきます」

エディ「公爵家がもみ消しているだけで、殆んど犯罪者です」

バクラ「要注意人物ってことですね」


過去、詐欺まがいの商いをした者、裏社会と親密な者、貴族や教会の飼い犬

そして、その情報は直ぐにクラン全員に伝えられた。

ガレッティ商会に歯が立たなかった連中が、製造元を嗅ぎ付け、孤児院に押

しかけるのは目に見えていたからだ。

実際、何人かは、無理矢理に孤児院に乗り込もうとして、門番のアーヴィン

に放り投げられた。


アーヴィン「次は斬る!」


狂犬と呼ばれた強面のアーヴィンに睨みつけられ、全員尻尾を巻いて逃げ出

した。

実は大店の威光を振りかざして面会を強要したエルナト商会の長男も、同じ

道を辿っていた。

余談だが、そんな強面門番だが、孤児たちには人気が高かった。

特に、小さな子供ほどアーヴィンの傍から離れようとしなかった。


九鬼「誰の傍が安全なのか、子供は良く知っておる」


その様は、巨大なジンベイザメの傍を泳ぐ小魚の群れを思い起こさせた。

一方、エルナト商会では、とんでもない事態が勃発してた。


オリバー「いったい、いつからだ・・・・・・・」


その日、再び孤児院へ交渉に行く様にクラウスに言われたオリバーだったが

アーヴィンの顔を思い出すたび、足がすくんだ。


オリバー「仕方ない、しばらくセドリックの所で時間を潰そう」


王宮を挟んで反対側、西地区の上級民街の支店を任せているセドリックを、

オリバーは使い勝手の良い子分の様な扱いをしていた。

事実、セドリックが支店を任せられたのも、オリバーのゴリ押しだった。

恩を売って自分の手駒にしたのだ。


オリバー「行っても行かなくても結果は一緒、時間の無駄だ」


彼は孤児院に行った事にして、誤魔化そうとしたのだが、その事で地獄を見

る事になるとは、思いもしなかった。

路地の角を曲がり、支店長の家が見えたと同時に着飾った自分の妻が入って

行くのも見えた。

一瞬現実の事と思えず、狼狽えて状況の理由を探しまくった。


オリバー「セドリックは生き別れた兄妹だった?聞いたことねえよなあ」


使いを頼んだ覚えも無い。

セドリックに借金を頼んだ覚えも無い。

何度考えても接点が見つからない。

考えられる事は一つしか無い。

勝手知ったる従業員の家、裏口の閂を静かに外し、足音を立てずに奥の寝室

の扉に手を掛けた。

疑う余地は無かった。

聞いたことも無い妻キエナの喘ぎ声が、扉越しに漏れ聞こえてくる。

間違いなく”浮気”だ。


オリバー「嘘だろ・・・・・・」


目の前が真っ暗になり、足が震え、そして耳が音を拾う事を拒絶した。

静まり返った世界に、自分の心臓の音だけが響く。

だが、それも一瞬だった。

猛烈な怒りがオリバーの背中を押した。


 オリバー「お前ら何やっている!」


突然、扉を開けて踏み込んで来たオリバーに二人の目が向けられた。


  エキナ「ヒィッ、あ、あなた」

セドリック「オ、オリバー・・・・さ・・・ま」

 オリバー「良くもやってくれたな、只で済むと思うなよ」


何処の国でも、不貞行為は許されない。

更に言えば、使用人に妻を寝取られた格好になったオリバーの面目は丸潰れ

である。

商会としても夫としても、到底穏便に済ます事は出来ない。

それ相応の処分を科す事になるだろう。


オリバー「キエナ、お前とは離縁する、荷物をまとめて出て行け」


オリバー自身が下働の女に欲情した事を棚に上げて、そう告げた。

この社会の通例として、高い地位や、多くの資産を持つ家程、妻の不貞には

厳しい傾向がある。

逆に男は、高い地位の者は不問にされる事が多く、逆に貧しい程厳しくなる

傾向にある。

これは、跡取りが重要な位置を占める階級社会において、当然の事だった。

権力者や有力者にとって、自分の血を残す際に、貞操観念の低い妻と、好色

で女に依存しがちな男は最大の障害なのだ。

そして、オリバーには一つの疑問が浮かんだ。


オリバー「息子たちは本当に俺の子か?」


真っ青になって俯く妻に、目が忙しなく泳ぐ浮気相手の間男。

それだけで、大方の予想がついてしまう。


オリバー「神殿で調べれば直ぐに判る、答えろ!」

 キエナ「・・・ち・・がう・・・と・・・おも・・・う・・・」


絶望が襲ってきた。

二人の息子は、オリバーの子では無く、セドリックとの間に出来た子供だと

白状した。

そう言われて、初めて子供達とセドリックが、似ている事に気が付いた。

二重の目も、高めの鼻も、やや波打つ黒い髪も、今まで妻に似ていると思い

疑いもしなかった容姿は、全てセドリックと一致した。


オリバー「・・・・・ただで済むと思わない事だ」


裸の二人は、ふらふらと覚束ない足取りで出て行くオリバーを見る事さえ、

出来なかった。

その後のエルナト商会の反応は素早かったと、同時に苛烈だった。

妻のキエナと六歳と二歳の二人の子供は、実家のラスガー男爵家に戻され、

一切の援助を打ち切る事を通告した。


オリバー「以後、一切の関係を断たせて貰う」


男爵も最初はキエナに対して怒りを覚えたが、元を正せば、援助欲しさに

自分が無理やりに娘をエルナト商会に嫁がせた事が原因だった。

それも、オリバーはキエナより十四歳も年上で、おまけに何処か酷薄な印象

がキエナの好みとはかけ離れていた。

どうしてもこれ以上、怒る気にはなれなかった。

幸いな事に、領地の経済は援助のお陰で何とか持ち直した。


男爵「分かりました。援助金の返還を求めない限り、口を噤みましょう」


商会にしても、今回の事を声高に喧伝されると、店の看板に傷が付く。

幸いな事に男爵領と王都は離れているため、全員が沈黙を貫けば、噂などは

暫くすれば消えて無くなるだろう。

お互い、この辺りが落とし処だった。

だが、セドリックの方は、落とし処も何もなかった。


 オリバー「・・・・・・・・王都から出て行け、姿を見せるな」

セドリック「・・・・はい」


しかし街道を南へ、ルデマニア領に向かったセドリックの足取りは、その後

跡形も無く消え失せた。

知っているのは、エルナト商会々長のクラウスと依頼を受けた北部ギルドの

冒険者のみ。


クラウス「終わったのか?」

 冒険者「はい、今頃は魔獣の腹の中です」

クラウス「ご苦労だった」


商会長のクラウスは、今回の醜聞に激怒していた。

当然だろう、可愛いと思っていた孫が、実は血のつながりも無い赤の他人の

それも、自分の店の店員の子供だったのだ。

クビにした程度で腹の虫が納まる訳が無かったのだ。



だが、この騒動は、後日、意外な所に飛び火した。






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