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百華無双・冥界黒風



マチルダ「あんたは、確かルナンとか言った第二王子の密偵だったかしら」

 セーナ「その密偵さんが何の御用かしら」

 ルナン「早急にお知らせしたい事があります」

マチルダ「・・・・・話して」


聞けばレクルバータ伯爵家がリット達に黒霧と言う暗殺クランを差し向けた

そうだが、問題なのは、その暗殺者が毒を使うらしいと言う事、そしてその

クランが高い成功率をほこっているいるらしいと言う事。


マチルダ「聞いた事も無いクランね」

 ルナン「冒険者ギルドの北支部所属です」

 セーナ「それでも、全く知らないのは何故なのかしら」

 ルナン「黒霧の顧客は一部の上級貴族か王族だけだからです」

マチルダ「暗殺専門って事かしら、ちょっと不気味ね」

 セーナ「前もって分からなかったの?」

 ルナン「無理を言わないでくれ」


そもそも第二王子もルナンも、この黒霧と言うクランに伝手も繋がりも無い

のだから、動向を事前に推し量る事など出来る訳が無い。

レクルバータ伯爵家を監視していたからこそ、知り得たのだ。

そして何より、その情報を掴んだ時には、既にディスカの森に向かった後だ

と言う事だ。


ルナン「杞憂なら良いのですが、彼らはまだ若い」

セーナ「そうね、経験不足は否めないわ」


リット達も冒険者になってもう直ぐ二年になるが、その大半が街中の雑用や

薬草採取が主で、荒事の経験は無い。

幾ら剣の腕が高かろうと、戦いは必ずそれで決まる訳では無い。

人数や武器、周囲の自然や相手の戦術、つまり環境や状況によって幾らでも

変わるのだ。


マチルダ「リット達はまだ本当の窮地を知らないわ」

 セーナ「嫌な予感がする・・・」


羽蝶蘭ウチョウランは狩を中止すると、獲物も全て放り投げて、一目散にディスカの森に

向かって走り始めた。

全力で走る彼女らは、見る見るうちに同行したルナンを置き去りにした。


ルナン「お、追いつけない、冗談だろ」


曲がりなりにもルナンは間諜として、一流と称される力を持っている。

当然、身体強化のスキルも持っていたし長距離移動にも慣れている。

それが今、後ろ姿を見る事さえ困難になりつつある。


  ユナ「左前方の森に気配があるわ!」

マチルダ「わかったわ!」

  ユナ「急いで、酷く弱った気配が二つ有るわ!」


気配察知を持つユナが的確にリット達の居場所を見つけると五人は躊躇無く

目の前の藪に突っ込んだ。


マチルダ「うちの兄弟子に何をした!」


虚を突かれた黒霧の男達は、乱入してきたマチルダ達にあっと言う間に三人

が沈み、残る五人は転がる事で何とか僅かばかりの距離を取る事に成功した

が、所詮は体一つ分でしかない。


バルド「ゲッ、羽蝶蘭ウチョウラン!」

バクラ「何でここに!」


男達の何人かは初撃を躱したが、マチルダ達にとっては、所詮は一呼吸で詰

め寄られる程度の物でしかない。

瞬く間に数えきれない斬撃を浴びせられ、防戦一方になって一人また一人と

倒れていった。


マチルダ「もうあなた一人、粘っても無駄よ」

 バクラ「ちくしょう!化け物め!」

マチルダ「失礼な男ね、大人しく死んで頂戴」

 バクラ「くそったれが――――――!」


こうして黒霧を排除したが、事態は一刻の猶予も無い状態だった。


アイナ「マチルダさん!ガインが、ライナーが!」

 エマ「お兄ちゃん!しっかりして!お兄ちゃん!」


リットはまだ辛うじて意識は有るが、ガインとライナーは既に昏倒している

状態だ。


マチルダ「毒ね・・何の毒か判る?」

  エマ「わかんない、わかんないよぉ」

 セーナ「落ち着いて、エマ」

 アイナ「死ぬまで半日は掛かる、でも解毒剤は無いって・・・・・・」

  エマ「あと安いって言ってた・・・・」

マチルダ「マナ、何の毒か判る?」

  マナ「多分、クルシェヒルの毒だと思う」

 セーナ「クルシェヒルって取引禁止薬物じゃなかった?」

マチルダ「ええ、所持しているだけでも重罪、使ったりしたら死罪よ」


王国では過去、クルシェヒルの毒で王族や貴族、果ては教会関係者までをも

巻き込んだ暗殺合戦が起きた事がある。

解毒薬が無いせいで死者がとんでもない人数になり、一時期、国政ばかりか

経済活動まで停滞してしまった。

更にその混乱に乗じた北方の帝国に建国以来、初めて王都近くまで侵攻を許

してしまった歴史が有る。

だから取引するだけでも重罪で人生を棒に振る事になる。

それなら高くて手に入り難くても、解毒剤のある普通の毒を買う。

安いには安いなりの理由があるのだ。


マチルダ「とにかく、急いで三人を担いで帰るわよ!」


急いで教会に向かって走りながら、マチルダ達は暗鬱な気持ちを押さえられ

なかった。

三人は助からない。

過去、この毒に侵されて助かった人間は一人も居ない。

数千、いや数万人にも及ぶかもしれないクルシェヒルの毒に感染した者で助

かった者は只の一人も居ないのだ。

いくら九鬼が規格外だからといっても神では無い。

僅かな望みに縋るアイナ達には悪いが今回だけは無理だ。

そう思うと、足どりは重くなるばかりだった。


九鬼「どういう事じゃ!」


当然ながら孤児院は、大騒ぎになった。

昼前に出て行ったリット達が瀕死の状態で担ぎ込まれたのだから、無理も無

い事だった。


アイナ「師匠、助けて!お願い!」

 エマ「師匠、お兄ちゃんが死んじゃうよぉ」


すでに三人共意識は無く、顔色は毒のせいで紫色になっていた。

生気が少しづつ零れ落ちているのが素人でも分かる。


 九鬼「わしには・・・・救う手だてが・・・・無い」

アイナ「そんな・・・・・嘘だよね、嘘だと言ってよ、ねえ師匠」

 九鬼「・・・・・・・すまん」

 エマ「やだ・・・・・やだやだやだやだ・・・やだよぉ」

 九鬼「・・・・・・・すまん」


助けを請われた九鬼にしても、薬に関して深い造詣が有る訳では無く、ごく

一般的な知識を持っているに過ぎない。

打つ手が無いのだ。

五年前、この世界に迷い込んでから、始めて出来た弟子を失う、その事実が

豪胆な九鬼の心にも重く圧し掛かった。


  「一体何事ですか」

九鬼「ああ・・・司祭殿か」

  「本当に、一体何事ですか」


剛健を絵に書いたような九鬼の焦燥した姿にオーティスは驚愕した。


  「馬鹿な!クルシェヒルの毒ですって!あり得ない」

マナ「たぶん間違い無いと思います」

ミナ「伝え聞いていた症状と同じです」

  「何てことだ・・・・・・・」


司祭であるオーティスでさえ、禁止されている事を知って居る程、有名な毒

だと言う事が、全員の絶望感を表している。

後はもう三人の死を見届ける事しか出来る事は無い。

いつの間にか集まっていた孤児達ですら、一言も言葉を発しなかった。


 九鬼「静かに送ってやれ」

アイナ「いや、いやだよぉ、死んじゃいやだよぉ」

 エマ「うああああああああああああん」


重苦しい空気の中、アイナとエマの悲痛な叫びだけが聞こえる。

五人は小さい頃から一緒に育ってきた幼馴染というなの家族だ。

貧しい下町の暮らしの中でも、お互いに支え合って生きてきた。

なのに無慈悲な死神が理不尽に三人の魂を奪いにきたのだ。

納得できる筈が無い。

だが、抗う術の無い自分に気が狂いそうだった。


      「あたし、やってみる」


一人の少女が横たわるライナーの胸に両手を添えてそう呟いた。




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