踊る白銀の輝き
九鬼「やはり、大した修練にはならなかったか、まあ仕方が無い」
襲撃を撃退してから数日ぶりの稽古だが、特に目覚ましい成長を遂げた者はいない
だが、真新しい問題は発生していた。
リット「師匠、そろそろまともな剣が欲しい」
ユナ「私たちの剣も切れ味が鈍ってきたみたい、限界かも」
九鬼「型抜きじゃからのう、じゃがどうするか・・・・」
実際問題として、王都の鍛冶師のレベルは余り高くない、というか低い。
鉄の板を叩いて剣にするから、常に研がなければ、直ぐに切れ味が落ちる。
その上、寿命が短いと来ては、九鬼にとって不満しか無い。
そもそも、鞘の豪華さで値段が決まるのだから頭が痛い。
九鬼「いっそ、儂が打つか・・・しかし設備がのう」
剣を打つのに金床と槌が有れば良い訳ではない。
そもそも材料さえ無いのだから、話にならない。
手詰まりになった九鬼を意外な人物が手助けをした。
ガライ「商会なら、何か伝手があるかもしれません」
九鬼「確かに・・・王都の事なら儂らよりも詳しい筈じゃな」
バクラ「明日にでも聞いてみます」
九鬼「まあ、そう簡単に手に入る物でもないからのう」
だが、九鬼の予想は大きく外れ、三日後には廃業した鍛冶屋の設備と鉱石が孤児院
へと運び込まれた。
多少重量物が多くても重量軽減が有れば、移動は難しくない。
九鬼「随分、都合よく見つかったものじゃな」
ガライ「その件ですが、実は条件と言うか、お願いがあって・・・」
九鬼が剣を打つ為の設備を探している事を知ったガレッティ商会は、あっと言う間
に廃業間近の鍛冶屋に話を付けてしまった。
九鬼「で、お願いとは?」
バクラ「もし余分な剣や槍ができたら、是非売って欲しいと・・・」
九鬼「まあ、そんな所じゃろうな、了承したと伝えてくれ」
ガライ「わかりました」
ガレッティ商会は、今やクラン五稜郭の御用商会と化していた。
炭だけでなく調味料や紅茶、更に運送業にと、受けた恩恵は計り知れない。
このひと月だけの売り上げだけを見れば、王都の商会の中でも五本の指に入る。
商会の規模が序列九番目である事を考えれば、異例の事だ。
立て続けに齎される斬新な商品の数々。
例え鍛冶物だとしても、一般の物とは一線を画すと考えるのは当然の事。
なれば、要求には全力で答えるのが正解と商会は考えた。
九鬼「出来たぞ、お前達の剣、刀と言う」
リット「・・・凄え」
マチルダ「綺麗・・・」
最初に完成した二振りは、パーティーリーダーであるリットとマチルダの二人に渡
した。
リットに与えられた刀は、やや反りを押さえた太刀で刃は直刃文、リットの筋力と
成長を考慮して、刃渡り二尺三寸(約70㎝)、いわゆる同田貫と言われる物だ。
無骨で質実剛健、見るだけで相手を威圧する一振りである。
逆にマチルダの刀は刃渡り二尺四寸(約72㎝)と長め、細身で反りが強い。
波紋は一文字丁字で、新選組沖田総司の愛刀、菊一文字を思わせる美麗な一振りと
なっている。
九鬼「教えた剣術に則した作りにしてある、振ってみろ」
九鬼に促されて一振りしたリットは愕然とした。
リット「何だこれ・・・」
アイナ「ど、どうしたの?」
リット「剣が、刀が自分で動いてるみたいだ、振ってる感じがしない」
今まで使っていた剣は直剣で、本来の使い方は突き刺すか、叩き切る事を目的に作
られた物で、九鬼から学んだ斬る事に特化した剣術とは相性が悪い。
それでもそれなりに成果を挙げられていたのは個人の技量に拠るものだ。
マルシア「流れる様に刀が滑る、今なら空の雲さえ斬れそうよ」
ユナ「そんなに凄いの?」
マルシア「ええ、まったく抵抗が無いの、疲れる気がしないわ」
軽やかに流れる様に、銀色に輝く細身の刀を振り回す様は、まるで踊っているよう
だった。
ライナー「師匠!」
ガイン「俺達の刀も早よ!早よ!」
ユナ「いつまで待てばいいですか!」
セーナ「我慢出来そうに無いです!」
九鬼「あ~、分った分った」
こんな物を見せられて他の連中が大人しくしている筈が無い。
せかされるまま、急いで制作に掛かったが、全員が同じ技量、同じ体格をしている
訳では無い。
其々に会った物を作る必要があった。
まずライナーとガイン、そしてセーナとユナに与えた刀はその長さの違いは有れど
作りはマチルダに与えた刀とほぼ同じだ。
そして、マナ、ミナ、アイナ、エマの四人には短槍を持たせた。
刃長は一尺五寸(約45㎝)余り、それに四尺程の柄を付けた、通称蜻蛉切。
徳川四天王、本多忠勝の愛槍である。
四人は身長が低く、刀を振り回すより、攻防一体の使用に有利な短槍を選んだ。
マチルダ「狩に行ってきます!」
それぞれが得物を手に入れた羽蝶蘭は、早速獲物を求めてカリファの森に飛んで行
った。
試し斬りをしてみたい、その欲求に抗えなかったのだ。
リット「魔獣を斬り殺したい美女の集団って何なんだろな」
九鬼「お前達は行かんのか?」
リット「行きたいんだが、今、ちょっと揉めてるんだ」
九鬼「揉める?原因は何じゃ?」
リット「・・・・・パーティー名」
九鬼「はあっ?」
リット「パーティー名で揉めてるんだ」
九鬼「・・・・」
リット達のパーティーは、全員同じ下町で育った幼馴染で、戦闘では非常に息の合
った行動を取れる。
それだけ相性の良いのに、冒険者になってから既に二年近く経にも関わらず、未だ
パーティー名が決まっていないのが不思議だった。
ガイン「俺達はこれから魔獣を狩るんだぞ!」
アイナ「分かってるわよ!そんな事!」
ガイン「これからどんどん注目されるんだ、勇ましい俺の案にするべきだ!」
アイナ「嫌よ、恥かしい!」
ライナー「だが、アイナの名前も・・・冒険者パーティーにはちょっと・・・」
エマ「でもマチルダ姉の所は可愛いパーティー名だよ?」
ガイン「あっちは女だから良いんだよ!」
アイナ「こっちだって女の子が居るのよ!」
ライナー「流石に可愛い名前はやめてくれ・・・・」
アイナ「良いじゃない、可愛くても」
エマ「綺麗なのが良い」
ガイン「勇壮なのじゃなきゃ駄目だ!」
こんな不毛な言い争いが延々と続いているのだ、パーティー名が決まる訳が無い。
九鬼「いい加減にせい、馬鹿者」
アイナ「だって、ガインが」
ガイン「アイナが悪い」
九鬼「はあ、まったく、で、ガインはどんな名前を付けたいんじゃ?」
ガイン「輝く聖剣の勇者!どう?かっこいいでしょ」
九鬼「・・・・・・・・正気か?」
ガイン「えっ?駄目?」
アイナ「当然でしょ」
九鬼「まあいい、ではアイナの考えた名前は何じゃ?」
アイナ「待ってました!私の考えた、赤い薔薇の乙女団で決まりよ!」
九鬼「却下!」
アイナ「え―――っ!」
リット「まあ、そうなるよね・・・・・」
九鬼は予想を遥かに上回る酷さに絶句しそうになった。
まさか此処まで壊滅的な感性をしているとは、夢にも思わなかった。
九鬼「そんな名前ではクランの良識が疑われる、パーティー名が儂が決める」
アイナ「そんな~」
ガイン「お、横暴だ!」
九鬼「やかましいわ!」
この後、パーティー名が明鏡止水に決まったのを見ていたリットとライナーが、
ほっと胸を撫でおろしたのは言うまでもない。
九鬼「狩に出る前にギルドに登録しておけ」
リット「了解です、依頼もついでに見てきます」
ガイン「ううっ、俺の輝く聖剣の勇者が・・・」
九鬼「まだ言うか」
冒険者ギルドでは、未だにパーティー名がが決まっていなかった事に呆れられたが
概ね好評だった。
デライド「明鏡止水か、落ち着いた良いパーティー名じゃないか」
ライナー「ええ、これなら恥ずかしく無い」
チェスカ「九鬼さんでしょ、名付け親は」
リット「ええ、ちょっと呆れてましたけど」
デライド「そりゃそうだろう、あれは酷かった」
ガイン「くそっ・・・・」
アイナ「あと一歩だったのに・・・・・」
エマ「まだ言ってる」
チェスカ「往生際が悪いわね」
デライド「全く、狩でもしてサッパリしてこい」
ガイン「う~す」
アイナ「へ~い」
デライド「不貞腐れるな、子供かお前ら・・・」
その日は、羽蝶蘭が南のカリファの森に居る事で、リット達は西のディスカの森を
狩場に選んだ。
大物の魔獣が潜むカリファの森と違って、ディスカの森は小物だが獲物の数が多い
のが特徴で、全員が獲物にあり付ける確率が高い。
マチルダが主軸の羽蝶蘭と違って、リット達には明確な違いが無い横一線。
いつも獲物の取り合いになっていたが、まあ強いて言えば、リットの妹であるユナ
が一歩引く事が多いぐらいだ。
だがこの日は全く予期せぬ乱入者によって、狩は中断せざるを得なかった。
「楽に死にたいなら、無駄な抵抗をしない事だ」
リット達の前に現れたのは、余り見かけたことの無い十人近くの冒険者だった。




