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隠し部屋騒動



イルマ「司祭さま、地下の食糧庫の床が抜けて、イレーネが落っこちた」


聞いた途端に頭痛が、襲って来た。

疲れまくった挙句に、やっと教会に辿り着いたと思った途端にこれだ。

大体、地下の食糧庫なんて、赴任して来てからこっち、一度も使った事など無い。

そもそも、保管する必要がある程大量の食糧など、見た事もない。


   「それで、イレーネに怪我は?」

イルマ「大丈夫みたい、穴の途中で引っかかったって言ってた」

   「大丈夫の意味を知ってますか?イルマ」

イルマ「…………さあ?」


常々、いい加減な性格だと思っていたが、近頃は更に適当になってきて、何処かで

矯正したいが、たぶん無理だと本能が囁く。


   「クーリさん、ロープを持ってきてくださいませんか」

 老人「・・・・わか・た・・」

   「お願いします、で、穴は何処ですか?イルマ」

イルマ「こっち~」


案内されたのは、地下食糧庫の一番奥の左隅、柱と壁に仕切られた所の床に地下室

へ、降りる階段があった。

つまり、正確には、食糧庫の隠し部屋の床が抜けた、だ。


   「この階段は何ですか、イルマ」

イルマ「床板が動いたから、剝いだら出た」

   「あなたが見つけたんですか?」

イルマ「この前、イレーネと一緒に見つけた」

   「私に報告が有りませんでしたが、なぜですか?」

イルマ「・・・・・・秘密基地」

   「はあ、まずは降りましょう、灯りは有りますか」

イルマ「蝋燭、持ってきてる」


まずは、現場を見ないと、何も出来ない。

薄っすらとしか見えない階段を慎重に降りて行くが、一体何段有るんだ、これは。

たっぷり、二階の屋根から降りる程の階段の先に、小さな小部屋があった。

既に蝋燭が灯り、状況はわかる。

部屋の真ん中の石床にポッカリと井戸ぐらいの大きさの、まんまるい穴が、口を

開けていた。


    「イレーネ、聞こえますか?大丈夫ですか?」

イレーネ「げえっ、司祭様!」

    「げっ、とは何です!げっ、とは」

イレーネ「うう、イルマの裏切り者~」

    「はあ、無事みたいですね、もう少し我慢しなさい」

イレーネ「はあ~い」

    「後で、ここに有るガラクタの説明をして貰いますからね」

イレーネ「ううっ、おわった・・・」

    「知らん顔してますが、イルマも同罪ですよ」

 イルマ「そんなぁ~」


その後、クーリさんに持ってきて貰ったロープを使ってイレーネを、引き上げる事

に成功、そのまま、頭に拳骨を落とした、思いっきり。


           ゴンッ


イレーネ「いった―――っ」

    「この、大馬鹿者!あなた、死ぬところだったんですよ!」

イレーネ「えっ」

    「良いですか、良く見てなさい」


私は、傍に有った、小石を穴の中に放りこんだ。


   ぽいっ ―――――――――― こん


    「わかりましたか?イレーネ」

イレーネ「ああ、せっかく集めた、あたいの石が・・・・」

    「・・・・・・・・・・・・・・」


          ゴンッ


イレーネ「ぷぎゃ―――っ」


無言でイレーネの頭に再び拳骨を落とした。

このままでは、この子はいずれ、取り返しのつかない事に成り兼ねない。


    「あの音を良く聞きなさい、穴の深さは三階の窓ぐらいあるんですよ」

イレーネ「う、うそだぁ」

    「もし、途中で引っ掛からなければ、死ぬか、良くて大怪我です」

イレーネ「そ、そうだったんだ・・・」

    「私は、私はこんな事であなたを失いたくありません、私は、あなた達

     を幸せに・・・・」

イレーネ「うあぁぁぁぁぁん、ごめんなさい、ごめんなさい」

 イルマ「うえぇぇぇぇぇん」


イレーネはやっと事態が飲み込めたのか、私に縋りついて泣きじゃくった。

釣られたのか、イルマも傍で泣き始めた。


二人は、私が最初に保護した孤児で、当時は恐らく三歳ぐらいだった。

赴任したこの教会の倉庫の片隅で、食べる物もなく、ガリガリに痩せ細って、餓死

寸前だった所を保護した。

聞けば、前任の司祭も、そのまた前の司祭も、孤児院の運営など、書類の上に記載

されているだけで、何もしていなかった。

それが、昔から教会本部の基本方針だと聞いた時には、怒りさえ覚えた。


    「判ってくれればいいんです、さあ戻りましょう、お土産がまってます」

イレーネ「・・あ”ぃ・・・」

 イルマ「・・・ヒック、うん」


クーリさんに食糧庫の入り口を封鎖する様に頼んで、食堂に戻ると、異変を感じた

のか、他の子供達がみんな集まっていた。

みんな、不安そうな顔をしていたが、私達の姿を見ると安心したのか、急に各々が

喋りかけて来て、一気に賑やかになった。


  「今日は、お土産があります、今から飴を配りますから、一列に並びなさい」

孤児「わああああああ」

孤児「飴だあぁぁぁぁ」

孤児「やったー」


うちの孤児院では、何かを配るときは、必ず小さい子からと、決めている。

そうする事で、いつの間にか、年上の子が、みんなの世話をするようになった。

だから、譲り合う事はあっても、奪い合う事は無い、いつの間にかそう変わって行

くのだ。

今は、大人しく並んでいるロッドも、ここに来た当時は、物凄く荒れていた。


両親が馬車の事故で亡くなり、ロッドを引き取った母の姉夫婦は、死んだ妹夫婦の

資産を自分達の物に置き換えてしまうと、ロッドを散々虐待した挙句、死ぬ寸前に

この孤児院の前に捨てたのだ。

恐らく、ここで死んでしまえば、勝手に家出した、自分達は知らぬ存ぜぬで、押し

通すつもりだったのだろう。

余りにも非道な行いだが、当時六歳だったロッドに抗う術など無かった。

無口になり、自分以外を拒絶して、時には暴力まで振るったが、そんな事には誰も

怯まなかった。

特に、イレーネとイルマは、全く気にせず構い続けたため、ロッドの方がとうとう

音を上げてしまった。

以来、彼も家族の一員になった。


時折、その姉夫婦が、孤児院に探りを入れてる様だが、どうも、ロッドからの復讐

か報復を気にしている様だ。

だが、上町の住人が貧民街の情報を、簡単に入手出来ると思わないでほしい。

それに、ロッドの決意した目の意味は、ロッドにしか判らない。

せいぜい、死ぬまで怯えて暮らせばいい。


暫くして、賑やかな食堂を後に私室に戻った私は、クーリ老人と向かい合って話し

ていた。


老人「スキル・・どう・・・でし・・・た?」

  「その事ですが、スキルは有りません、何も表示されませんでした」

老人「・・・・・わたし・・に・・スキル・・ない?」

  「ええ、確認できませんでした」

老人「・・・・・そう・・で・すか・・」

  「でもね、普通、赤ん坊でさえ、スキルを持って生まれて来るんです」

老人「・・・・・・・・・」

  「それに、生きていれば、必ず何がしかのスキルを得ます」

老人「・・・・・・・・・」

  「出来れば、正直に答えて欲しい」

老人「・・・・・・・・・」


   お互いの間に、言い知れぬ緊張が走るのがわかる。


     「あなたは、本当に人間ですか?」


         そう、問いかけた。



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