席捲
九鬼「では炭が小銀貨2枚、調味料が銀貨1枚と小銀貨6枚じゃな」
マルコ「十分です、これで契約成立ですね」
九鬼「お互い、良い取引じゃったな」
マルコ「ええ、これで兄貴たちに無駄飯喰らいと馬鹿にされずに済みます」
九鬼「それは何より」
マルコ・ガレッティの商会での立場は、味噌っかすの五男坊と言う位置が確定して
しまっていた。
ガレッティ商会長には五人の息子がいたが、マルコだけが第二夫人イーリスの子供
だった。
当然、第一夫人のクローデはマルコが商会で力を持つ事に難色を示し、自分の四人
の息子を、商会の要職に就け、まだ若いマルコを排除にかかった。
だが、クローデの思惑は意外な人物によって水泡に帰す事になる。
マルコを嫌う次男達と違い、何かとつまらない嫉妬心で商会に波風を立てる母親を
嫌悪していた長男のエディが、年の離れた異母弟のマルコを擁護したのだ。
エディ「下らない嫉妬心で商会を潰すつもりか?ああ?」
ガレッティ商会の次期会頭であるエディに真顔で、そう問いかけられては、母親で
さえ、口を噤むしか無かった。
堅実さで知られるエディは現会長のクレイグだけでなく、商会の従業員たちからも
絶対の支持を勝ち取っている。
そのエディが、マルコの居場所を守ってくれていたのだ。
だが、周りに居る者達の心無い陰口は、どうしてもマルコの耳に届いてしまう。
味噌っかすや、放蕩息子だけなら我慢出来た、だが兄に守られた役立たず、兄の足
を引っ張るゴミなどと、兄の評価にまで繋がってしまいそうな陰口を言われる事が
何より辛かった。
その為、何度か縁を切ってくれと兄に言った事がある。
エディ「お前は、お前の才覚で商会に居場所を作れ、焦らなくていいから」
実際問題、算術スキルだけしか持たないマルコが、肉体労働など出来るとは、到底
考えられなかった。
冒険者などにでもなれば、二日であの世に召される事は確実だ。
だからマルコは商売の取っ掛かりを求めて、一日も休む事無く街中を足が棒になる
まで歩き廻ったのだ。
何よりも自分を守ってくれた兄に、誰から見ても認められる商人になって、兄の目
が正しかったのだと、証明したかった。
そして今日、その地道な努力が大きな大輪の花を咲かそうとしていた。
エディ「凄いじゃないかマルコ、店に問い合わせどんどん来てるぞ」
マルコ「いや、運が良かっただけだから・・・・」
エディ「謙遜するな、その運を掴んだのは、紛れも無くお前の努力の結果だ」
マルコ「そ、そうかな、えへへ」
エディ「それにあの店先での実演販売が凄い宣伝になった、あれは見事だ」
店先で小さな竈を作って炭焼き肉を、その横の平壺には灰を入れた上で炭を焼いて
簡易の暖房とした。
薬草と塩の調味料もそうだが、とにかく炭への関心が凄かった。
秋も本格的になり、冬の陰が見え始めた今日この頃、新たな暖房製品の登場は、
あっと言う間に町中を駆け巡った。
マルコ「あれ、俺が考えたんじゃ無いんだ、ある人に助言を貰って・・だから」
エディ「だから何だ」
マルコ「えっ」
エディ「その助言をもぎ取ったのは、間違い無くお前の功績だ、いいか、誰が好き
好んで信用も好感も無い相手に手助けなどするものか、助言をして良いと
思わせたお前の手柄だ、誇って良い、胸を張って良いんだ」
マルコ「うん、うん」
エディ「もう、お前は押しも押されもしない立派なガレッティ商会の一員だ」
マルコ「ありがとう、兄さん」
エディ「さあ、イーリスさんに報告してこい」
その日から、数日おきに商会へバクラとガライの運送コンビが炭を届けていた。
供給よりも需要が遥かに大きくなりつつある炭は届けた先から、競う様に飛ぶ様に
売れて行った。
エディ「へえ、面白い商売の仕方を考えたね」
荷物を店の裏手に降ろしていると、エディが、輸送組に声をかけて来た。
輸送専門の冒険者グループなど、今まで聞いた事が無かったからだ。
本来、大商会のトップが搬入口になど、降りて来ない。
それ程、興味を引いたのだ。
ガライ「はい、クランの代表が俺達が稼げる仕組みを教えてくれたんです」
エディ「それは、炭を作っている人と同一人物なのかい?」
ガライ「そうです、俺達は師匠と呼んでます」
エディ「・・・・・・・例えば、うちの荷物なんかも頼めるのかい?」
バラク「恐らく大丈夫だと思います」
ガライ「採算次第ですけどね」
エディ「わかった、詳しい話を代表者とさせて欲しい」
後日、九鬼とエディの、つまり、クラン五稜郭と大店ガレッティ商会との業務契約
が決まった。
これをきっかけに、二人は輸送部責任者として、クランの配送だけでなく駆け出し
の冒険者や8級や9級から抜け出せない冒険者を雇用して、商会や工房の依頼も受け
始めた。
これが予想以上に需要があった。
今まで自分達で馬車や人夫、果ては護衛までを用意していた物が、連絡一つで完了
するのだから、それによって得られる時間的余裕は馬鹿にならなかった。
配達する者にしても、毎日それなりの稼ぎが有り生活にゆとりが出来た。
すると当然ながら、あらゆる方面から雇用の打診が舞い込んだ。
ガライ「雇うのは構わない、禁止事項に抵触していなければな」
求職者「条件?」
ガライ「犯罪者、貴族関係者、教会関係者、中央ギルド関係者は駄目だ」
バクラ「もし、虚偽の報告であれば、何もかも失う覚悟をしてくれ」
求職者「何故だ!お前らだって、孤児院の関係者だろ!」
求職者「貴様ら!男爵の不興を買ってもいいのか!」
ガライ「不合格だ、帰れ」
求職者「何だと!」
ガライ「帰れ」
求職者「くそっ」
炭の販売が軌道に乗り出すと、その製法を盗もうとする者や生産者を囲い込もうと
する連中が、孤児院を訪れたが門番のアーヴィンが尽く追い返し、夜中に孤児院に
忍び込む強硬策を取ろうとした連中は、九鬼によって死ぬほど恐ろしい目に会わさ
れて、退散する羽目になった。
全て金の匂いを嗅ぎつけた貴族や教会関係者だった。
その連中が、組易しと思ったのか、ガライとバラクの元に自分の手下を送り込んで
来たのだ。
ガライ「最近、こんな奴ばっかりだな」
バクラ「だからって、止める訳にもいかないだろう」
ガライ「そうなんだよなあ~、十人に一人ぐらいは、本当に雇って欲しい奴が来る
からな」
バクラ「昨日の奴も、ここで金を溜めて剣と防具を買うんだとさ」
ガライ「か~、羨ましいねえ~、夢いっぱいで、俺らなんてなあ~」
バクラ「アホか、俺らが剣を振りまわしたとしても、ウサギ一匹狩れねえよ」
ガライ「そりゃそうだww」
バクラ「それに、知ってるか、近頃、西支部ギルドの冒険者が増え始めたって」
ガライ「ああ、俺も聞いた」
西支部なら、下級の冒険者でも生きて行ける、生活が楽になる、そんな噂が王都中
の冒険者に流れ始め、同時にクラン五稜郭が粗暴で悪辣な上位冒険者を叩き出した
と言う噂(恐らくアラン達クラン黒狼の事)が定着し始めた。
善良な冒険者は西へ、素行の悪い冒険者は東に、そんな流れが出来上がったのだ。
元々、日々の細かな依頼などは、下級の冒険者がこなして来た物だが、それが西に
集中し始めた。
マルコ「くっ、九鬼さん!これは!」
九鬼「まあ、少量じゃが商ってみる気はあるかな?」
マルコ「勿論です!」
九鬼「じゃが、出所は内密にして貰う必要が有る」
マルコ「当然ですね、強欲な連中が集団で湧きますよ」
九鬼「その通りじゃ、話が早くて助かるわい」
マルコ「兄と相談して、東方五国の商人と繋がりが出来た事にします」
九鬼「うむ、それで良かろう、では頼むとしよう」
マルコ「ああ、この俺が紅茶を扱う事が出来るなんて・・・・」
九鬼「次の製品が出来上がったら、また相談に乗って貰うからの」
マルコ「まだ有るんですか?」
九鬼「その内にの」
マルコ「あは、はははは」
王都で序列九番目の商取引規模を誇るガレッティ商会だが、エディの父親がほぼ、
一代で築き上げたため、若い新参者の商会として、古参の商会連中から軽視された
が、此処に来て、炭や調味塩、そして紅茶にと、新な商材で一気に注目を集めた。
その独占的販売に、他の商会は介入一つ出来なかった。
競合しない人気商品は、金の卵を運んで来る。
当然ながら、その金はクランにも流れ、孤児院の財政を潤す事になった。
九鬼「まあ、当初の目論見通りかのぉ」
「いや、現金収入がとんでもない事になっているんですが・・・・・・」
九鬼「あって困る物でもあるまい」
「まあ、そうですが」
九鬼「まだまだ序の口、もうすぐ誰も手出しが出来ん経済圏が出来上がる」
「・・・・・悪い顔してますね」
九鬼「なあに、まだまだこれからじゃぞ、司祭殿」
「本気で怖いんですが ・・・・・・」
安全で活気のある場所に人は集まり、金が廻り始める。
そして人と金が集まる場所には物が集まる。
その物と金を求めて更に人が集まる。
さらに、こういう場合に付き物の、暴力や窃盗、詐欺に関わる犯罪者達がクラン
五稜郭のせいで、軒並み狩り尽くされてしまうと、更にその勢いが増し始めた。
その渦は、もう既に一商会や下級貴族程度では、手も足も出ない代物に変わった。
九鬼「さあて、最初の障害物は、貴族か教会かギルドか、何処かのう」
オーティスの執務室で九鬼は窓の外で遊ぶ子供達を見ながら、そう呟いた。




