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動き出した流れ



この日の夕方、地下の魔素だまりから上がって来たオーティスは精魂尽き果てたと

ばかりに、椅子に体を投げ出していた。

そこに、都合よくとばかりに、遠慮していた九鬼が入って来た。


九鬼「どうじゃ、処理のほうは」

  「ええ、これで暫くは溢れないでしょう」

九鬼「それはいいが、司祭殿の体は何とも無いのか、その方が心配じゃ」

  「ええ、今のところは異常に疲れるだけです」

九鬼「大丈夫なのか?無理はせんでくれ、子供達の為にものぉ」

  「ええ、ですがあんなものを、他人の目には触れさせられませんから・・」

九鬼「全く、何であんな事になるかのう」

  「ええ、迷惑なことです」


魔素の見た目は、薄紫色の霧みたいな物だが、何故か一目で分かる程、濃密な質量

を持っており、一ヶ所に集まる性質がある。

本来なら、僅かづつ、空気中に溶けるのだが、ここ数日、魔素だまりの増加する量

が異常に増え、霧散する量を遥かに上回った。

だから、地下空洞を覆い隠す程、溢れる前にオーティスは処理する事を決めた。

魔素を魔道具などで使い切った魔石に移し替えるのだ。


九鬼「そんな事が出来るとは知らなんだ、何とか替りのに別の誰かを」

  「替りなど居ませんよ、多分、誰も出来ないので」

九鬼「はあ?」

  「私しか出来ません、と、言うよりも、やろうとも思わないでしょう」

九鬼「はあああ?」

  「魔素の扱いは、普通、恐怖と苦痛しかもたらしませんから」

九鬼「どう言う事じゃ、訳が分からん」


この魔素の移し替えと言う行為は、自分の体をパイプとして魔石と魔素を繋ぐ作業

で、その際、体の中を高純度の魔素が移動する訳だが、その際に起こる人間の根源

を無理矢理に捻じ曲げられそうになる感覚に、精神が耐えられ無いらしい。

更に、耐えようとすればする程、激痛に襲われる。

普通は、移し替えを止めるか、精神崩壊を起こすかの二者択一らしい。


九鬼「そもそも、何でやろうと思ったのじゃ」

  「いや、ランタンの魔石が切れたもんで、もしかしていけるかと・・・・」

九鬼「それで、出来たと?」

  「そうなんです、何故か疲れるだけで・・・」

九鬼「はあ、司祭殿の体はいったい、どうなっているのやら」

  「原因なんて、私にも分かりませんよ」

九鬼「で、魔素の移し替えが出来るなら、魔素だまりも何とか出来ると?」

  「ええ、後はゴミ捨て場から、空の魔石を拾ってきて・・・」

九鬼「移し替えまくったと・・・・」

  「はい、ただ新たな問題が・・・・・」


そう言ってオーティスは脇に置いてある木箱の蓋を開けた。


九鬼「まあ、そうなるじゃろうな」

  「ええ、一体どう処理した物か・・・・」


箱の中身は、当然、魔素でいっぱいになった大小の魔石が大量に入っていた。

いくら魔石が年中品不足だとしても、簡単に市場に流せる代物では無かった。


九鬼「丁度良かった、捌き先に心当たりが有る、任せて貰って構わん」

  「だ、大丈夫ですか、こんな怪しい物」

九鬼「それも含めて報告がある、心して聞いてくれ」

  「ゴクッ・・・」


九鬼はそれから、一人の五級冒険者を、正門の門番に雇った事、輸送専門の冒険者

組織を外部に作った事、そして中央本部ギルドは、約束も契約も順守する気が無い

事、そしてそのせいで、西支部がクランの傘下に入った事を説明した。


  「分かりましたが最後は何です!何でギルドが傘下に入るんですか!」

九鬼「デライドがギルド本部を見限った結果じゃ」

  「どんな状況ですか、だいたい大丈夫なんですか?そんな事をして」

九鬼「なに、当分は面従腹背で誤魔化す事にしておる」

  「誤魔化すって・・・・」

九鬼「気が付いた時には手遅れにしてやるわい」

  「・・・・お手柔らかに」

九鬼「偶然じゃが、人材も手に入れたし、明日から本格的に動きだす」

  「なら、明日は私も孤児院から動けませんね」

九鬼「ああ、まずは、商品の売り込みからじゃ、忙しくなるわい」


翌日、九鬼達は下町の自由市に居た。

メンバーはリット達五人だ。


リット「師匠、何でこんなに端っこなんですか?」

アイナ「そりゃ、周りから離れているから広々としてるけど・・・・」

 九鬼「理由はな、ここが風上だからじゃ」

ガイン「ええと、風上?」

 エマ「・・・・もしかして、匂い?」

 九鬼「うむ、正解じゃ」


古来、うなぎ屋は煙で食わせる、という言葉が有る。

見知らぬ物を声高に宣伝するよりも、食欲をそそる匂いの方が何倍も効果がある。

それに、一度興味を引いてしまえば、立ち昇る煙と、積まれた炭俵が目印になる。

案の定、昼前から漂い始めたペールダックを焼いた匂いは、広場に居た人々の空腹

感を、強烈に刺激した。


「おい、なんだ、この匂いは?」

「凄く良い匂いだな」

「何の肉を焼いてるんだ」

「こりゃ、腹がへって堪らん、一体何処から・・・」

「おい、あそこじゃないか」


それからは、あっと言う間に九鬼達の周りに人が集まってきた。

串に刺した鶏肉の油が、炭の上で焦げると、その暴力的な香りが、全員の鼻腔を、

これでもか、と刺激する。

だが、見なれ無い食べ物には、やはり誰もが警戒するのか、九鬼達との間に微妙な

空間が出来ていた。


九鬼「どうじゃ、今なら一本、銅貨二枚(約200円)じゃ、食ってみんかね?」

  「お、おう、一本貰おうか」


九鬼に挑戦される様に言われた若い男は、銅貨を二枚出すと、意を決した様に受け

取った焼き鳥を口に入れた。

途端に口の中いっぱいに広がる熱々の肉と油と塩味の濁流が、舌を蹂躙する。


  「う、う、うめええええええええええええええええええっ」

九鬼「ふふふ、そうじゃろう、そうじゃろう」

  「俺にもくれ!」

  「俺もだ!」

  「俺も、もう一本くれ!」


それからは、もう、殆んど奪い合う様に売れ始めた。

用意した焼き鳥は一刻も経たずに全て売り切れ、リットとガインなどは、ひたすら

焼き続けて、精魂尽き果てていた。


九鬼「すまんが、今日はもう、売り切れじゃ」

  「嘘だろ、俺はまだ食ってないのに・・・・」

  「食い足りねえよぉ・・」

  「明日もここで売るんだろ?」

九鬼「そうじゃな、肉が手に入れば、出そうかのぉ」

  「頼むよ、待ってるからよ」

  「明日は絶対に食うぞ」

九鬼「いや、肉が手に入れば出すが・・・・」

  「それなら、毎日来る!」


食いっぱぐれた連中が、やたらと気合を入れて宣言しているが、仕事は大丈夫なの

だろうか、他人事ながら、気になる所だ。


 リット「そういえば師匠、何で鳥を半分しか肉にしなかったんですか?」

 アイナ「そうそう、これなら今日全部売れたんじゃないかな」

 ガイン「俺もそう思った」

  エマ「まだまだ時間があるよ?」

ライナー「・・・・もしかして何か理由があるんですか?」

  九鬼「まあ、明日になれば分かるじゃろう」

 アイナ「あっ、師匠が悪い顔してる」

  九鬼「・・・・失礼な奴じゃな」


興味はあったが、言葉を笑って濁す九鬼に、それ以上聞くのを諦めた。

だが翌日の販売終了後に、その理由は向うからやって来た。

売り切れに、諦めて帰る人達を押しのける様に声をかけてきたのは、黒兎亭という

食堂の主人で、バクスと名のる男だった。


バクス「これはペールダックの肉だろ?」

 九鬼「ほお、一口で良く分かったのう」

バクス「レシピを教えてくれないか、金は払う」

 九鬼「いや、金は要らん」

バクス「頼む!何度焼いても、この味が出ないんだ」

 九鬼「これを使って、この黒い炭と言う物で焼けばこの味が出せる」

バスク「へっ?」

 九鬼「だから、この二つが、味の秘密じゃ」

バスク「つまり、これを使えばこの味が出せると?」

 九鬼「炭が小銀貨三枚(約3000円)、この調味料が銀貨2枚(約二万円)じゃ」

バスク「買う!直ぐに買う!買わせてくれ!」

 九鬼「お、おう、ええと、それで使い方じゃが・・・」


実際、炭は10㎏程度で、普通の値段だが、ハーブソルトは小さな100㎖位の素焼き

の壺入りで、かなり高額になる。

炭自体は、一般家庭でも買える程度だが、ハーブソルトは金持ち連中を対象にして

いる為、かなり高額だ。

まあ、料理屋なら、余裕で回収できるだろう。

だが、九鬼の待ち人は彼では無い。

その人物はバスクが商品を持って離れると直ぐに接触して来た。


「どうも、私、ガレッティ商会のマルコ・ガレッティと言います」


西地区の大手商会の中で、最も下町に近い場所に店舗を構える商会で、規模は王都

の商会の序列九番目、資金力は有るが貴族や王族の後ろ盾が無い、叩き上げの新興

商会だ。

そして、声をかけて来たこのマルコと名乗る男は、商会長の五男で、肩書は父親や

兄達の補佐となっているが、遊び人の放蕩息子と言うあだ名の方が有名だ。

そして九鬼が、わざわざこの場所に屋台を出した理由でもある。


九鬼「儂がここの責任者でクラン五稜郭の統領、九鬼十三じゃ」



この若者が接触して来た事で、九鬼の計画は初めて本格的に動きだす事になった。


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