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狂犬



  マナ「重いぃぃぃ!」

  ミナ「も~無~理~!」

  九鬼「やはり、少し捨てはどうじゃ?」

マチルダ「私の最初のCクラス討伐なの!絶対に嫌!」

  ユナ「そんな事いっても、セーナは限界だよ」

 セーナ「ぜぇぜぇぜぇ・・・・・」

  九鬼「やはり、無属性の使い手はもう一人必要じゃな」

  ユナ「今頃気が付いても、手遅れだよぉ」


本当なら魔石と皮だけ剥ぎ取る予定だったが、思いの外大物だったため、マチルダ

がそのまま持ち帰って、自慢したくなったらしい。

まあ、フォレストサーペントの肉は美味で有名らしいのと、このサイズなら大量の

肉が確保できると思い、持ち帰りに反対しなかったのが、間違いだったのだが。

マチルダの説得という一休みを街道の脇でとっていると、ガライとバクラと言う名

の若い二人の男が声をかけてきた。


ガライ「持ち運びに苦労してるなら手を貸そうか?」

バクラ「俺ら二人とも重量軽減の無属性魔法が使えるからな」

 九鬼「有難い申し出じゃが、料金はいか程かな?」

ガライ「いや、金は要らねえ」

 九鬼「ほう、なら目的は?」

バクラ「あんたたちのクランに入れてほしい」

 九鬼「出来たばかりの弱小クランにわざわざ入りたいと?」

ガライ「アラン達を叩きつぶしたの、爺さんだろ」

 九鬼「良く知っておるな」

ガライ「ギルマスが言ってた」

 九鬼「・・・・デライドは口が軽いのが欠点じゃな、しかしそれだけか?」

バクラ「俺たち、ずっとアランに上前はねられてたんだ」

ガライ「用心棒代だって」

バクラ「殴られたことは有っても、守ってもらった事なんか一回もなかった」

 九鬼「まるっきり、やくざじゃのう、ギルドには訴えなかったのか?」

バクラ「別の奴が訴えた事があったけど、証拠がなかった」

ガライ「その後、訴えた奴は消えちまった、たぶん殺されたんだ」


確かに、この場合に証拠は被害者の証言だけになる

カメラもボイスレコーダーも無いのだから、どうしようもないだろう。

結局、狡猾なハイエナが集団で群れを作ってしまったのだから情けない話である。

本来ならば、奴らが力をつける前にギルドが懲罰部隊を編制して武力行使するべき

だったのだが、現状の体制では、夢のまた夢だろう。

デライドに、そんな力はない。

たとえ元は高ランクでも、現役を退けば、衰える一方なのだ。


 バクラ「よそのギルドい移っても、どこの依頼で鉢合わせるかわからない」

 ガライ「だから、爺さんのクランに入れば安全だと思って」

  九鬼「なるほど、じゃが、うちのクランハウスは、孤児院じゃからのぉ」

 ガライ「子供には優しくしますから・・・」

 バクラ「そこをなんとか・・・・・」

  九鬼「しかしのぉ、う~む」

マチルダ「まあ、人畜無害そうではあるけど・・・」

  ユナ「間違っても、男前じゃあ無いわね」

 セーナ「絶対に女の子にはもてないタイプよね」

  マナ「ちびデブ(ガライ)」

  ミナ「ひょろガリ(バクラ)」

 ガライ「むぐ・・・・」

 バクラ「自覚はしてる・・・」

  九鬼「容赦無いのぉ」

  ユナ「ちょっと、気の毒に思えてきた・・」

マチルダ「そうだ、司祭様に聞いてみたら?」

 セーナ「司祭様に会う口実が欲しいだけでしょ」

マチルダ「ち、違うわよ!」

  マナ「バレバレ」

  ミナ「顔まっか」

  九鬼「まあ、司祭様の意見次第じゃな」


取り敢えず、二人の入会は保留にしたまま、ギルドに向ったが、扉をくぐる前に、

新たな面倒ごとが、待ち構えていた。

四十過ぎの、細身の神経質そうな男が十人程の冒険者らしき男達を引き連れて近づ

いて来た。

どう見ても、厄介事にしか見えない。


マルグ「貴方が九鬼十三殿ですね、お初にお目にかかります、中央ギルド副ギルド

    マスターのマルグレイドと、申します」

 九鬼「それはどうも、で、何用かな?」

マルグ「随分、思い上がった態度ですがまあ良いでしょう」

 九鬼「ほほう、つまり気分を害したと?」

マルグ「ええ、ですが私は寛大な男ですから、不問にしてさしあげますよ」

 九鬼「寛大ねえ・・・」

マルグ「貴方には中央ギルドに所属してもらいます」


一方的に要求を突き付けて来たのに、受け入れられると思っているところを見ると、

今まではそれで通用してきたのだろう。

だが、今回は相手が悪い。

見る見る険しくなる九鬼の表情を危惧したのは、マルグレイドではなく、マチルダ

だったが、そのことが、更に火に油を注ぐことになった。


 マルグ「なんと、こんな場末のギルドには、勿体ない女ですね、良いでしょう、

     貴方達は私の専属にします」

マチルダ「へっ?」

 マルグ「妾にしてやると言ってるのですよ、光栄に思いなさい」


この時点で九鬼が切れた。

回春スキルのせいか、最近、十代の頃の様に直ぐに頭に血が昇る事が増えた。


 九鬼「邪魔だ!とっとと、消えろ、青二才」

マルグ「な、なんだと!」

 九鬼「消えろと言ったんだ、この馬鹿!言葉もわからんのか!」

マルグ「きさま・・・」

 九鬼「頭が胴体に乗ってる内に、巣に戻れ、鳥頭!」

マルグ「ゆ、許さん!許さんぞ!」

 九鬼「なら、どうする?剣を抜くのか?」

マルグ「アーヴィン!こいつを殺せ!」


マルグレイドが叫ぶと、一人の男が集団から出てきた。

全身筋肉の塊のような、傷だらけの大男だ。


マチルダ「狂犬アーヴィン・・・・・」

  九鬼「ほう、有名人なのか」

  ユナ「命令されれば、子供でも殺すと言われる頭のおかしい男です」

マチルダ「確かに屑ですが、五級の上位クラスの実力者でもあります」

  九鬼「構わんよ、手加減せずに叩き潰せる口実ができて助かったわい」

  狂犬「・・・爺さん・・・・・強ええな」

  九鬼「ほう、わかるだけの知能はあるようじゃのう」

  狂犬「ああ、体中が逃げ出せとうるさくてかなわねえ」

 マルグ「何を言ってるんだ、貴様ら・・・・」

  狂犬「この殺気の中で平然としてるお前さんは大物だって事さ」

 マルグ「お前、馬鹿にしてるのか?」

  狂犬「いいや、ただこの先、あんたの依頼を受けることは無理だってことさ」

 マルグ「どういう意味だ?」

  狂犬「すぐに分かるさ」


そして、これだけ騒げば当然ギルドにいるデライド達にも伝わってしまう。


デライド「なぜ此処にいるマルグレイド!」

 マルグ「ここは天下の往来、どこに居ようと私の勝手」

チェスカ「スキップの時に話はついているはずよ」

 マルグ「ギルドマスターとでしょ、私は関係ない」

チェスカ「そんな屁理屈が通るとでも?」

 マルグ「平民と交わした約束など、守る価値など無いわ!」

チェスカ「なんですって!」


マルグレイドは、ダモクレス侯爵家の生まれだが、家督は兄が継いだため、三男で

在野に降りた彼には爵位はない。

しかし、彼は侯爵家一族である事を常に前面に押し出しては、無理を通してきたし

侯爵家もそれを利用して来た。

そして今回も同じように約束事を無視して来たのだ。

だがこれでは、話し合いなど意味が無いと言っているのと同じ事だ。


 マルグ「一ヶ月ぶりに、やっと教会から出てきたのだ、話の邪魔をするな!」

デライド「狂犬なんぞ引き出して来て何が話だ!」

 マルグ「高貴な私を侮辱したのだ、制裁を与えるのは当然のこと」

デライド「話にすらなっていない、無茶苦茶だ・・・」

  九鬼「ギルマス、もうええ、面倒じゃ、敵対するなら全員あの世へ送ってやる

     だけじゃ」

デライド「待て待て、殺すのは不味い」

  九鬼「こいつらが死にたがっていつのだ、別に構わんだろう」

デライド「いや、構うから、滅茶苦茶構うから」

 マルグ「何をごちゃごちゃ言っている、アーヴィン!早く片づけろ!」

チェスカ「あなたも引きなさい、アーヴィン!」

  狂犬「へへっ、もう無理だ、我慢できねえ、やっと願いが叶う」


アーヴィンは剣を抜いたまま、ゆっくりと九鬼に向かってきた。

その様子は、戦うための高揚感に満ちてはいたが、どこか、あきらめたような眼も

していた。

彼は、自分よりも鬼の方が強いと感じてはいたが、どうしても自分の力を試したい

という欲求に勝てなかった。

それと同時に、戦って死にたいとも思っていた。

だから自分よりも上位者との命を懸けた戦いをするために、非道な暴力の類さえも

辞さなかった。

たとえ、近衛兵との戦う事態になっても、かまわなかった。

破壊衝動と自虐衝動は相反しながらも、アーヴィンの心の中で燻り続けていた。

だが、当然自分で制御などできる筈も無く、本能のまま行動した結果、ついたのが

狂犬の二つ名だ。

だから、九鬼を目の前にした途端に、戦いたいのに勝てないという、得も言われぬ

幸福感と絶望感に襲れたのだ。


狂犬「さあ、始めようぜ、剣を抜きなよ」

九鬼「別にこのままで構わん」

狂犬「なら、こちらが先手を取らせてもらうぜっ!」


アーヴィンは、持っていた剣を九鬼の頭めがけて振り下ろした瞬間、得も言われぬ

恐怖を感じて、咄嗟に左に逃げた。

剣を投げ出すように体をずらしたが、既に遅かった,。


  狂犬「ギヤァァァッ!」

デライド「一刀かよ・・・・」

チェスカ「見えなかったわ、何が起きたの?」

デライド「一瞬で、剣を抜いてアーヴィンの腕を切り飛ばした後に剣を今、鞘に戻

    してる所だ」

チェスカ「・・・・噓でしょ・・・・相手はあれでも五級なのよ」

デライド「まさか、これほど実力差があるなんて、想像出来なかった」

チェスカ「英雄クラス・・・・・・・」

デライド「いや、もしかすると、それ以上かもしれん」

チェスカ「まさか・・・本物の武王」


一方、マルグレイドは、腕を切り飛ばされて、うずくまるアーヴィンを呆然と眺め

ていた。

彼の頭は、こんな事態に対処できる台本は用意されていなかった。

いつもの様に一方的な要求を相手に無理やり飲ませて自らの手下に加える筈だった

のに、蓋を開けてみれば、物の見事に拒絶された挙句に、馬鹿にされた報復として

懲罰を命じた狂犬は役に立たないまま、排除された。

このままでは、自分の立場どころか、命まで危うくなると思った途端に、全身から

汗が噴き出てきた。


マルグ「お、お前らも行け!アーヴィンの代わりに戦え!」


マルグレイドは残る護衛達に命令するが、五級のアーヴィンが手も足も出なかった

相手に、七級の彼らが立ち向かう筈が無い。

全員が首を振り、その場から後退し始めた。


  九鬼「お前も腕も切り落として欲しいのか?」

 マルグ「ひいっ」

  九鬼「キツネを追い返したら、今度はニワトリだ、なら返さずに殺せば次が来

     なくなるかもしれん」

 マルグ「あっ、あう、たす、たすけ」

  九鬼「ニワトリの言葉など知らんわ」

デライド「そこまでにしてやってくれ」

  九鬼「口出し無用じゃ」

デライド「こいつの実家は侯爵家だ、殺せば、たぶん報復される」

  九鬼「構わん、返り討ちにしてくれよう」

 マルグ「うっ、ひっ・・・・・・・」

  九鬼「うん?なんじゃ、気絶しよったのか、情けない男じゃのう」

マチルダ「ねえ、なんか、臭くない?」

  ユナ「うえぇ、このおっさん漏らしてるわよ」

デライド「はあ、もう良いだろ、おい、お前らこのポンコツを持って帰れ」


引きずられる様に運び出されるマルグレイドとは対照的に、九鬼に腕を切り落とさ

れたアーヴィンは、チェスカの治療を受けていた。


 チェスカ「腕はくっつけるけど、相応の金額をギルドに収めて貰うわよ」

アーヴィン「いや、片腕のままでいい」

 チェスカ「あなたなら、払えない金額では無いでしょ、このままだと剣を振れ無

      いわよ」

アーヴィン「もう気がすんだ、俺は剣を捨てる」

   九鬼「ほう、憑き物が取れたようじゃのう」

 チェスカ「十三さん、憑き物とは何ですか?」

   九鬼「こやつは、誰かに己の愚行を止めて欲しかったんじゃよ」

 チェスカ「まさか、自分で止められなかったのですか?」

   九鬼「ああ、強さだけを追い求めた哀れな男の罪過じゃ、誰もこ奴に道を説か

      なかったんじゃろう」

アーヴィン「道?」

   九鬼「道を知らぬから、道を外れた事に気が付かず、戻る事も出来ずに、お前

      は獣に成り下がったんじゃ、いくら強くとも獣は人には勝てん」


狂犬と呼ばれた男は、今、真摯に九鬼の言葉を聞いていた。



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