咎人
◇◇◇◇ バルケロア公爵・執務室 ◇◇◇◇
家宰「処分が終わったと報告が入りました、公爵様」
執務室の巨大な机を苛立ちながら指で叩く壮年の男は、現国王の弟であり、公爵家
当主でもある、エリオット・バルケロア本人だ。
彼は野心家であり、無能な現国王よりも、自分の方が玉座に相応しいと常に思って
おり、それを隠そうともしなかった。
公爵「統制などと言う、訳の分からんスキルなどで、王位を奪いおって」
統制や統治、掌握などは、王族や貴族に良く現れるスキルで、スキルは遺伝する事
が、多いと言われる所以であるが、生まれ育った環境だと言う者と、議論は分かれ
ている。
だが、当の公爵自身は、身体強化と剣術スキルしか持っておらず、それゆえ、有益
で強力なスキルを昔から求め続けている
公爵「まったく、何日かかったと思ってるんだ・・・」
家宰「申し訳ありません、どうも、足元を見られたようでして・・・・」
公爵「今度の警邏隊本部長は、確か、クリスパム男爵とか言ったな」
家宰「はい、スクアロース伯爵の息が掛かっていますが、まあ、小者です」
公爵「腹立たしいが、今、伯爵に寝返られても困るからな、仕方が無い」
家宰「予定の遅れも有りますし、今しばらくの御辛抱かと」
公爵「やはり、どうも受け身なのは性に合わんな」
家宰「御辛抱下さい」
公爵「わかっておるわい!」
三人組の一人、ブラゴは警邏隊の牢屋で死亡が確認された。
原因は窒息死。
罪に耐えかねて自殺したとされたが、勿論、実際は絞殺だ。
貴族が自分の罪を隠すために、実行犯を処分するなど、当たり前過ぎて、表立って
騒ぐ人間も居なくなった。
事実、ブラゴの両親でさえ、見て見ぬふりをした。
公爵「残りの二人だどうなっている?」
家宰「現在、行方を追っていますが・・・」
公爵「逃げられたのか?」
家宰「どうも、そのようで」
公爵「警邏隊も存外、無能のようだな」
家宰「あの警備隊の実働部隊ですから、真面目に捜索など行いません
公爵「どうしてだ?」
家宰「もちろん、金にならないからです」
公爵「・・・・・・・護衛を増やすか」
家宰「正しい選択かと」
公爵は腹心であり家宰でもあるこの男の助言や判断には、重い信頼を置いている。
◇◇◇◇ 警備隊本部・死体安置場 ◇◇◇◇
司教「何だ、この、大罪人と言うスキルは・・・・・」
ブラゴからスキルを取り出そうとした司教は、ブラゴの持っていたユニットスキル
(背信・暴行・殺人)を認識して愕然とした。
その人間が犯した罪が、スキルとして発現した可能性が有るのだ。
回収できないユニットスキルだった為、証拠はないが、ギャレット司教はこの事を
教皇に報告だけ、する事にした。
たとえ、もう一度確認しようにも、今頃、死体は火葬されてしまっているからだ。
教皇「そうですか、わかりました。ですがこの事は絶対に口外しない様に」
司教「も、勿論です、神に誓って口外などしません」
教皇「神にですか、そうですか、ふふふ」
教皇は、感情の無い笑いを残すと、そのまま暫く私室に籠って出て来なかった。
時を同じくして、ヨハンとリックの二人は、冒険者の恰好をして、王国第二の都市
ルデマニアに向け、街道を南下していた。
幾つもの宿場町を経由する乗合馬車の乗客になっていた二人は、今は口も開かずに
馬車の床板ばかりを見ていた。
冒険者「恰好ばかりの、似非冒険者なら、最初から言ってくれ」
ヨハン「つい、当てにしちまうからよ」
冒険者「あんたらも、危険な目には遭いたくないだろう」
乗合馬車は決まった経路を走るが、実は日にちや時間は同行する商隊などによって
変化する。
街道を移動する場合、場所によっては、乗合馬車単独では、危険な道も存在する。
森や岩山が街道の傍にあると、魔獣や盗賊などが出没し易い。
だから何台もの馬車を連ねて、守りを固めるのだ。
今回もそんな一幕だった。
冒険者「魔獣が出たぞ、バイトホッパーの群れだ」
冒険者「カ――――ッ、よりによって、こいつかよ」
冒険者「・・・・めんどくさい」
冒険者「馬にでも飛びかかられては面倒だ、早く倒すぞ」
冒険者「うい~っす」
冒険者「真面目にやれ!て言うのも無理か・・・・はぁ」
襲って来たのは、子犬サイズの二十匹程のイナゴの集団だった。
バイトホッパーの様な弱い魔物は、小さな集団を作り餌を探し、身を守って来た
しかし、植物でも動物でも何でも捕食するスライムやレインボーギャタピラと違
い、肉食のバイトホッパーは大集団になればなるほど、分配する食物が激減して
餓死してしまう。
だから、この程度の集団を作っては、野生動物や家畜を襲うのだが何せ肉は不味
いし、素材は役に立たない。
挙句に弱すぎるため、殆んど害獣扱いで、農家からの討伐依頼さえも無い。
冒険者からは、もし襲われれば、討伐しなければならないが、幾ら倒しても少し
も金にならない、厄介者でしかない。
こうした護衛の仕事でも無ければ、見て見ぬふりをするのだ。
この時、冒険者を、それも調子に乗って、もうすぐ7級だと道中の馬車で自慢し
たヨハンとリックも、討伐に駆り出されたのだ。
当然、剣も振った事も無ければ、魔獣と相対した事の無い二人に討伐出来る筈も
無く、早々に醜態を晒した。
ヨハン「む、無理無理無理!」
リック「ぎゃぁ ―――っ!」
ヨハン「か、咬まれた、助けてくれ――――っ」
お陰様で、冒険者達は、余計な手間を掛ける羽目になったのだ。
そのせいで、ほかの乗客からの視線は、酷く蔑んだものになり、二人はその後、
顔を上げる事さえ出来なかった。
散々、偉そうにしていたのだから、仕方の無い事だが、長時間、同じ空間を共有
しなければならない場合はどちらにとっても、居心地の良い物では無い。
乗客たちは皆、これからもこの状態が続くのかと、うんざりしていたが、数日後
その問題は解決した。
追手「この宿に、若い男の二人組が宿泊している筈だが」
宿屋「あのう、どちら様で?」
追手「ああ、すまんな、王都の近衛騎士隊だ、ほれ、これが認証だ」
宿場町の安宿に、数人の近衛騎士と名乗る一団が現れた。
宿屋の親父は、始めて見る近衛騎士に目を白黒させながらも、二人の部屋を彼ら
に教えた。
宿屋「彼らは、何者なんですか?」
追手「ああ、実は、奴らは重罪人でな、急いでとっ捕まえに来たんだよ」
宿屋「何と、それはそれは、お勤めご苦労様でございます」
追手「うむ、それで少し騒がしくなるが、無視してくれ」
宿屋「わかりました」
そして、2階に上がった騎士達は、暫くすると猿ぐつわを嚙まされ、荒縄で拘束
されたヨハンとリックを肩に担いで降りて来た。
騒がしくなるどころか、椅子が倒れる音位しかしない拘束劇だ。
追手「騒がしくて悪かったな親父、終わったんで二人は連れていく」
宿屋「いえいえ、何も聞こえませんでした」
追手「そうか、それと手間だが、馬車の御者と護衛の冒険者達には、朝にでも
逮捕されたと説明しておいてくれ」
宿屋「お任せ下さい」
追手「悪いな、では我々は失礼させて貰う、急ぐんでな」
宿屋「はい、お気おつけて」
慌ただしく、騎士達が馬に乗って宿場を出て行くのが聞こえた。
宿屋「しかし、随分気さくな近衛騎士だったなぁ」
そう感じた宿屋の主人は、直ぐにその事を頭の中から追い出した。
好奇心は身を亡ぼす、彼はその事をよく知っていた。
だから、担がれたヨハンが、縋るような眼を向けていた事も忘れる事にした。
しかし、その選択は正しく、この日より、二人の足取りは途絶えた。
勿論、近衛騎士が王都を離れて、捕縛に勤しむ事などあり得ない。
彼らは近衛騎士などでは無かったのだ。
追手「お前ら、運が良いな、もう一人の、え~とブラゴだったか、殺されたぞ」
追手「まあ、どうせ、いずれは縛り首だがな」
今、ヨハンとリックは窓も無い、小さな部屋に軟禁されていた。
あの夜、宿で捕まってから、馬車で二日ほど移動したが、外を確認できなかった
ため、ここが何処だか分らなかった。
リック「ブラゴが・・・・死んだ?」
ヨハン「当然だろ、公爵が生かしておくと、思うか?」
リック「うう・・・・・」
確かに俺達は公爵の依頼で、欲に負けて誰にも言えない仕事を請け負っていた。
ブラゴは性欲に、リックは金銭欲に、そして俺は権力欲に囚われた。
公爵はその全てを満たしてくれた。
幼児愛好家のブラゴは気に入った女児を好き勝手に犯した。
リックは貰った金を、違法な賭博につぎ込んでは、散財していた。
俺は公爵の後ろ盾を得て、来期の大司教の地位を確約させた。
俺達は、奴隷の子供を殺し、そのスキルを奪う対価として、各々の望みを手に入
れたのだ。
だが、それも俺達にあのユニットスキルが発現してからおかしくなった。
俺達には逃亡するしか道は無くなったが、ブラゴがその重圧に耐え切れず、自滅
した。
自暴自棄になり、欲望のまま行動して自警団に捕まり、全てが露見した。
慌てて、準備不足のまま、王都を出奔したが、三日も経たずにこうして捕まった
のだ。
ヨハン「な、なあ、公爵様にとりなしてくれないか、絶対に喋らないから、と」
リック「死にたくねえよぉ、死ぬのは嫌だよぉ」
牢番「公爵様に取次は出来ないなあ」
ヨハン「ううぅ・・・・」
リック「おしまいだぁ・・・」
牢番「何を勘違いしているか知らないが、俺らの雇い主は公爵じゃねえよ」
リック「へっ?」
ヨハン「なら、誰なんだ」
牢番「まあ、その内分かるさ」
そう言って男達が去ってから一体、幾日たったのか、もう、判断できなくなった
頃に、二人は牢から引き出されて、そこから階段を幾つも降りた所にある大きな
空間に連れて来られた。
広い石畳の床の中央にポツンと置かれた祭壇らしきもの。
リック「何だよ、ここは・・・・・」
ヨハン「とにかく寒い、凍えちまいそうだ」
リック「・・・・・地獄ってこんな感じかな」
ヨハン「やめろよ・・・・・」
そして、不安に押し潰されそうな二人の前に、男が一人近寄って来た。
そして、おもむろに、被っていたフードをあげて、素顔を晒した。
ヨハン「あ、あなたは・・・・」
愕然とする事しか出来ない二人は、暫しその男を見つめて、動けなかった。




