勧誘と模擬戦
「クランを作りたいんじゃが、相談に乗って貰えるかのう」
その言葉と共に、ギルド内が、一気に騒々しくなった。
まだ登録して一週間も経っていない新人が、クランを作ると言う。
普通なら、一笑に付され、正気を疑われるような話だ。
だが、今回ばかりは、話が違う。
老人の登録と言うだけでも前代未聞なのだが、初日に振るわれた武威は別格だ。
そして、あの巨大なブッシュボアと、素行の悪い冒険者の撃退、挙句にたった今、
繰り広げられた、異常で一方的な諍い。
その、武王と言う二つ名が付いた老人がクランの申請をしたのだ。
気にならない人間など居ないだろう。
デライド「簡単に言ってくれるもんだな、やって行けるのか?」
九鬼「何じゃ、心配してくれるのか、存外、優しいのう」
デライド「言ってろ」
九鬼「しかし何か問題でもあるのかのう?誰でも作れると聞いたのじゃが」
デライド「ああ、登録料の小金貨一枚払えば誰でも作れるが、維持するのが大変
なんだ」
基本的にクランは代表者と所属パーティーが一つ有れば許可が降りる。
だが、ここからが王都にクランが溢れ返らない理由だ。
まず、拠点の確保が絶対条件になるが、最低でもクラン全員が、一堂に会する事の
出来る建築物でなくてはならないと、明記されている。
そして、クランの構成員の一人につき銀貨一枚を毎月、ギルドに登録費として納め
なくてはならず、その責務を負うのは、クランの代表者になる。
当然ながら、途中で構成員が増えればその都度、更新して払う訳だが、この時拠点
が手狭になれば、新しい場所を確保しなければならない。
おまけに、代表者の変更も重複も出来ない。
確かにクランの構成員になれば、大きな依頼を独占する事も出来るし、ギルドに対
する影響力も増大する、おまけに自分の身の安全も守れるだろうが、そんな一方的
にクランが有利な制度など、ギルドが簡単に許可などする筈が無いのだ。
九鬼「なるほど、そうやってクランの肥大化を防いでおるのか、考えたのう」
デライド「ああ、何でもかんでも暴力で解決しようとする馬鹿が多過ぎるんでな」
実際、あの九鬼から手酷い制裁を受けたアランも最近は、所属の稼ぎの悪いお荷物
パーティーが運営を圧迫し始めていて、影で若い冒険者達を食い物にして来たが、
中々利益を上げられず、とうとう現金欲しさにブッシュボアの横取りと言う暴挙に
出たのだ。
結局、全て失敗して、逃げるように東のギルドに移籍したが、直ぐに解散するのは
目に見えている。
デライド「利点ばかりに目がくらんで、無計画にクランを設立する奴は多いが、殆
んどが直ぐに金欠になって解散だが、そこは大丈夫なのか?」
九鬼「その辺は十分考えておるよ、心配は無用じゃ」
デライド「なら、いいが」
九鬼「心配性じゃのう」
デライド「うるせえよ、早く登録を済ませるぞ!」
このデライドと言う名のギルドマスターは、やや粗暴で短絡的な面もあるが、非常
に面倒見が良く、誰にでも親切なので、職員や冒険者達からは結構慕われている。
つまり、精神構造が善良に出来ている、ちょっとお馬鹿な男なのだが、実を言えば
九鬼はこの男の事がとても気にいっている。
この王都では地位が高い者ほど、総じて傲慢で冷酷な者ばかりで、デライドの様な
男は珍しいのだ。
それは、九鬼がこの世界に流れ着いてから、いつも感じていた事だ。
九鬼「まず、クラン名は、五稜郭、代表者は儂じゃ」
デライド「珍しい名前だな、で、拠点となる本拠地は?」
九鬼「もちろん教会じゃ、なんせ広いからのう、何人増えても大丈夫じゃ」
デライド「わかった、後は構成員だが、リット達だけか?」
九鬼「いや、あと一つパーティー勧誘しようと思っとる、アイナ、エマ」
アイナ「はい」
エマ「りょ~か~い」
二人は、人垣をかき分けると、ギルドの一番隅を定位置にしている五人組の冒険の
手を無理矢理、引っ張って連れて来ようとしていた。
デライド「なんだ、羽蝶蘭の連中じゃないか」
九鬼「うちは孤児院じゃからのう、粗暴な連中は困るんじゃ、子供達が泣く」
デライド「そりゃそうだが、それだと弱い連中ばかりが集まってくるぞ」
九鬼「端からそのつもりじゃ」
暫くすると、説得されたのか根負けしたのか、五人が渋々といった顔で、やって来
た。
彼女達は女性だけで羽蝶蘭と言うパーティーを組んでいた。
リーダーはマチルダと言う名の長い真っ赤な髪が印象的な女性だ。
マチルダ「あたしらをクランに勧誘して、何を企んでいるのさ」
九鬼「ありゃま、警戒されてしもうたかのぉ」
デライド「まあ、普通はそうだろうが、俺としては加入してくれた方が有難いんだ
がな」
マチルダ「なんでよ!」
デライド「お前らにちょっかい掛ける馬鹿の後始末がめんどくさいんだよ!」
マチルダ「あたしらの責任じゃないわよ!」
デライド「そんな事は分かっているわ!」
マチルダ「むぅ~」
とにかく彼女達にはトラブルが付いて回った。
酒に酔って絡むなど可愛いもので、中には付き纏った挙句に、宿に忍び込んだ馬鹿
が窓や調度品を破壊して高額な修理費を馬鹿の代わりにギルドが請求されたり、金
を積んで妾にしようとした商人が、断られて逆上した挙句に依頼料を踏み倒そうと
して、ギルドが代金の回収に走り回った事もある。
デライド「もう少し不細工になってくれたらなぁ」
マチルダ「ひっどお~い!」
ユナ「謝罪よ!謝罪を要求するわ!」
デライド「おまけに気が強いと来たもんだ・・・はぁ」
九鬼「お前さんも苦労しとるのぉ~、まあ、ええ、企んどるのは確かじゃ」
デライド「お、おい」
九鬼「儂がお前さんたちを勧誘するのは、うちの孤児達の為じゃ」
マチルダ「どういう事?」
九鬼「孤児達の多くは冒険者ぐらいしか、まともな職に就けんからな、その為
にも王国で最強クランを作り上げて、理不尽から守るのが目的じゃ」
ユナ「王国最強のクラン?」
セーナ「女子供ばかり集めて?冗談でしょ」
マチルダ「馬鹿馬鹿しい、最弱クランの間違いでしょ」
九鬼「やはり信じられんか、なら直接見て貰おうかのぉ、訓練場を借りるぞ」
デライド「好きに使ってくれ」
九鬼「何を言っとる、お前さんも来るんじゃ」
デライド「・・・・面倒な予感しかしねえ」
ギルドの裏手には訓練場と称する石壁に囲まれた広い空き地がある。
土がむき出しの地面は、別に整備費が無い訳では無く、この方が倒れた時に怪我を
しにくいからだ。
そこに、ギルド中の人間が集まっていた。
それ程、皆、興味をひかれたのだ。
九鬼「お嬢さん方の中で剣が得意なのは誰じゃな?」
ユナ「それはマチルダじゃない?」
セーナ「そうね、リーダーは剣術スキル持ちだもんね」
九鬼「なら、うちのガインと立ち会ってみてくれんかのう」
ユナ「ねえ、たしかあの子、身体強化のスキルしか持って無かったわよねえ」
マチルダ「構わないけど、この子達じゃ私の相手にはならないわよ」
九鬼「なに、構わんよ」
マチルダ「・・・・・・怪我をしても知らないわよ」
九鬼「本気になって貰わんと、こちらも困るでな」
マチルダ「ふん!」
そして皆が見守る中、二人は木剣を構えて対峙した。
全員が、マチルダが一方的にガインを打ち据える様を想像した。
相手は年も二つ下で、剣術スキルを持たない、身長こそ違わないが細身の少年だ。
勝負にさえならないと思われたが、当の本人は至って冷静で穏やかだ。
九鬼「公平を期すためにも、審判はギルドマスターじゃな」
デライド「何で面倒事は俺ばっかり・・・・」
九鬼「諦めが悪いのう」
デライド「仕方ない・・・・では双方構えて」
ギルドマスターの仕切りで木剣を構えたマチルダだったが、ガインの構えを見て首
を傾げた。
両足を広げて構えるマチルダに対して、ガインは、やや左足を引いた状態で木剣を
正面に、切っ先を目線のやや下に構えた。
剣道で言えば、ただの正眼の構えだ。
だが、それを見たマチルダは怒りに震えた。
彼女にとっては、ただ、力を抜いて突っ立っている様にしか見えないからだ。
マチルダ「・・・・舐めてんじゃ無いわよ」
デライド「落ち着けマチルダ・・・はぁ・・・では・・・始め!」
マチルダ「てえぃぃぃっ!」
ガイン「・・・・ふっ」
・
・
・
カッ――――ン
マチルダ「えっ?」
マチルダが斬りかかろうと、一歩目を踏み出して木剣を振りかぶって時には、既に
ガインはマチルダのすぐ目の前に居た。
そして、一瞬硬直した所を、すれ違いざまに木剣を弾き飛ばされたたのだ。
マチルダ「そんな・・・・馬鹿な・・・・」
何も掴む物が無くなった両手の平を、呆然と見ていた。
その時には、ガインは既にマチルダの後方で再び構えをとっていた。
理解の枠を超えてしまうと、人は動けなくなるのだと、マチルダは初めて知った。
自分が何をされたのかが分からないのだ。
だが、周りで見ていた者達は、距離が有った分、辛うじて何が起こったのか、認識
する事は出来た。
だが、認識出来たからと言って、理解出来るとは限らない。
「なんて速さだ、瞬きする位の時間しか掛って無いぞ」
「いや、速い事は速いんだが・・何か・・こう」
「ああ、何かおかしい」
「・・・・・・・俺ら、何で動き出すのが分からなかったんだ?」
「だって、いきなり動いたから、目で追うだけでいっぱいだった」
「いきなり?・・・いきなり・・・動いた・・」
「そうか!溜が無いんだ!あいつ、溜が無いのに動いたんだよ!」
「でも、どうやって?」
「俺にわかる訳無いだろう」
「新しいスキルの一種じゃ無いのか」
この会話に九鬼は呆れてしまった。
そこまでわかっていながら、結局はスキルだと、簡単に結論づけてしまう。
スキルの弊害も、ここ迄来ると殆んど呪いだ。
そんな外野を他所に、納得できなかったのは、マチルダだ。
木剣を拾うと、再びガインに斬りかかったが、結果は変わらず、そして三度目で、
心が折れた。
ガイン「僕の勝ちでいいですよね」
マチルダ「何で・・どうして勝てないのよ・・・何をしたのよ・・・・」
ガイン「俺達は、三日だけ、九鬼さんの訓練を受けただけだよ」
マチルダ「俺達?」
ガイン「そう、俺達五人、ちなみに剣はリットとライナーの方が強いよ」
マチルダ「そんな・・・・・馬鹿な・・・全員・・・・それも三日・・・」
ガイン「あの人は間違いなく武王だよ、その人が誘ってるんだ」
マチルダ「・・・・・私も強くなれる?」
ガイン「間違いなく、俺の何倍も強くなれると思う、他の四人も同じだよ」
マチルダ「そうね、強くなれるなら・・・クランに所属するわ」
ガイン「ありがとう、新しい仲間を歓迎するよ」
マチルダ「ええ、よろしく頼むわね」
ガイン「あと、言い忘れたけど、訓練は無茶苦茶厳しいから頑張ってね」
マチルダ「言い忘れたら駄目な奴じゃない!」
ガイン「何回も、ゲロ吐いた」
マチルダ「わざと言わなかったわね」
ガイン「てへぺろ」
マチルダ「殴ってやろうかしら・・・・・」
ともあれ、これで羽蝶蘭の加入がきまった。




