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守るは孤児達の未来



あさ、まだ薄暗いうちから、老人はその日の準備を始めた。

ある物を掘り出し、道具を幾つも設置して、食材を切りそろえ、準備を進める。

日が昇り、秋の朝日が教会を僅かに温め始める。


九鬼「なかなか、どうして、それなりの物が出来ておるな」


朝の空気が暖かくなり始めた頃、最初に出て来たのは若い冒険者達だった。


 九鬼「やっと、起きたか、ねぼすけども」

リット「九鬼さんが早すぎるんですよ」

 九鬼「今日は、ええが、明日からは日が昇る前には起きて貰うぞ」

ガイン「うへえぇ」

 九鬼「まったく、とにかく、まずは、これに火を付けておいてくれ」


そこには、かなり大きめの、横に長い竈もどきに、真っ黒い木片が並べてあった。


リット「いや、これって燃えカスですよね、火なんか着きませよ」

 九鬼「良いから、やってみい」

リット「はいはい」


いかし、暫くして、赤くなり始めた燃えカスをみて、みんなが驚愕していた。


リット「何で燃えてるんだよ・・・・」

アイナ「燃えカスよねぇ、これ」

ガイン「ほとんど、煙も出てねえぞ、これ」

 エマ「九鬼さんて、魔法使いだったんですね、知らなかった・・・・・」

 九鬼「魔法では無い、これは炭と言って、誰にでも作れる加工した薪じゃ」

 エマ「・・・・・嘘ぉ」


そして、炭に半分ほど燃え始めた頃、オーティスに連れられた子供達がぞろぞろと

やってきた。

しかし、朝、まだ眠い子供達の反応は薄い。


  「おはようございます、九鬼さん」

九鬼「朝早くに、申し訳ない、司祭どの」

  「構いませんが、子供達がまだ寝ぼけ半分なので、少し待って貰えます?」

九鬼「いや、無理に起こさんでも、すぐに目を覚ます、まあ見てて貰おう」


そう言うと、九鬼は、皿の上で串に刺されたままの、肉や魚に、何やら粉を振りか

けると、そのまま、炭火で炙った。

肉や魚から落ちた油が炭に焼かれて、何とも香ばしい匂いを周りに振りまき始めた

が、それを合図に、みんなの腹の虫が一斉に鳴き始めた。


    「何ですか!この匂いは!」

  九鬼「ふふふ、凄かろう、炭火焼きはうまいぞぉ」

イレーネ「良い匂い~」

 イルマ「お腹すいた~」


子供達は一斉に竈の周りに集まった。

もう、寝坊助なのは、赤ん坊のフェムぐらいだが、その暴力的な匂いを前にしても

ギリギリ、手は出さずに、大人しく待っているのは、オーティスの教育だろう。


九鬼「ほれ、焼けたぞ、喰ってみい、美味いぞ」


九鬼は焼けた先からどんどん配り始めた。

串の肉も魚も、かなり小さく切ってあり、直ぐに焼き上がって、皆の手に渡った。

本来の大きさの半分以下だが、試食なので、この大きさにした。

ちなみに、野菜もあるが、猛烈な不満が出そうなので後回しにしてある。


イレーネ「うめえ~っ!」

 イルマ「美味しい~」

 リット「何だこりゃ、すげえ、美味い」

    「九鬼さん、これは一体・・・・」

  九鬼「凄いじゃろう、秘密はこの炭と粉じゃ」


九鬼は司祭に炭の有用性を説明した。

軽く煙も殆んどでないのに、薪並の火力を得られ、この程度の出来なら、誰にでも

作る事が出来ると、そう言って簡易炭竃を指さした。

そして何より、炭で焼くと、とにかく美味い。

更にこの粉だ。

これは、敷地に生えている色んな香草を乾燥させて、それを粉末にした物に塩を混

ぜただけの物だが、これを使えば肉や魚の臭みを取る事ができる。

ハーブソルトの完成だ。


  「こんな物が作れるなんて・・・・・・」

九鬼「おまけに、塩以外は、全部ただじゃぞ、教会の新しい収入にもってこいじゃろ」

  「ええ、これで、今年の冬は安心です」

九鬼「はあ?まさかこれだけと思っとらんか?」

  「違うのですか?」

九鬼「当然じゃ」


老人は笑うと、竈の端に置いていた鍋を取り出して、中から芋を取り出した


「ただのゴダ芋じゃないですか、これが何か?」


司祭が不思議そうにしているのは、これがゴダ芋と言って、とにかくたくさん取れ

た上に、収穫に一ヶ月ほどしか掛らない、おまけに季節を問わないと言う夢の様な

食材なのだが、とにかく、煮ても焼いても、ひどく不味いのだ。

王国民でこの芋を食べるのは、餓死寸前の人間だけだと、言われている。

だが九鬼は、この味に覚えがあった。

灰汁抜きに失敗したトチの実だ。

そして、蒸かしたゴダ芋にハーブソルトをかけて司祭に差し出した。


  「何て事だ・・・ゴダ芋が・・・美味い・・」

九鬼「竈の灰で煮てやれば、えぐみが消えるんじゃ、ほら畑を見てくれ」


そこには、耕された畑に、ゴダ芋が小さく芽を出している。

自然に生えていたゴダ芋を種にして、畑は今も少しずつ広がっているのだ。

このまま行けば、食料の心配などしなくても大丈夫だ。

好奇心に駆られてたリットが口に入れて、その味に愕然としている様を見れば判る

だろう。


九鬼「畑はまだ広げる余裕があるからの、他の野菜も試してみようと思っとる」

  「ええ、ああ、素晴らしいです九鬼さん!」

九鬼「次はこっちじゃ、皆ついて来て貰おうか」

  「まだあるんですか?」

九鬼「当然じゃ、食卓には彩りが必要じゃ」


そして、一同はぞろぞろと連なって、敷地の奥にある林に向かった。

ここは、もう森と呼ばれてもおかしくない程、木が育っており、その中をレナ大河

から引き込んだ、水路がわりの小川が流ている。


九鬼「どれどれ、おお、捕れておるな、ほれ」


藪の中から、引っ張り出した小さな篭の中には、一匹のペールダックが捉えられて

いた。


  「もしかして、先程の肉は、これですか?」

九鬼「正解じゃ、調理次第で美味いもんじゃろう」

  「ええ、脱帽です」

九鬼「ここは、レナ大河に繋がっておるでな、獲物には困らん」


この小川は生活用水の為に、教会が出来た当時に引き入れた物だが、年を重ねる度

に、水流で少しづつ深くなってしまったため、水鳥であるペールダックにとって、

潜って逃げられるのに、大型の捕食者が入って来れない、まさに絶好の避難場所に

なっているのだ。

おまけに、人間に狩られる事も無い。

だから、やたらと数が多い。

孤児達が少々狩った程度では、全く影響が出ない。


  「取り放題ですね」

九鬼「そしてこれじゃ」

  「まだ有るんですか?」


そう言うと、水面から出ている一本のローブを手に取った。


 九鬼「ちょうどええ、ロッド、この紐を引っ張ってみてくれ」

ロッド「うん、、わかった」


水中から、円柱型の編んだ篭らしき物が上がってきた。


ロッド「何ですか?これ」

 九鬼「うけ篭と言う魚とりの道具じゃ、ほれ、ここを外して中を出して」

ロッド「うわ~魚がいっぱいだ~」

   「こんなに、かんたんに・・・・・・」

 九鬼「探せば、まだまだ有ると思うがな、まあ、今はこれぐらいじゃ」


これだけあれば、少々、孤児が増えても食うに困る事は無い。

もう、食の革命と言ってもいいぐらいだ。


  「助かりました、これで子供達を飢えさせなくて済む」

九鬼「じゃが、司祭どの、事はそう簡単には進まんぞ」

  「どうしてですか?これなら子供達だって」

九鬼「じゃからじゃよ、欲の張った連中が大人しくしとるとは、思えん」

  「・・・確かに・・・・・隠し通すしか無い」

九鬼「恐らく無理じゃな、必ず何処からか嗅ぎつけて来る」

  「子供達が危険に晒される訳にはいきません、何か策が有るのでしょ」


九鬼老人の今までの行動や物言い、そしてその知識と並ぶその思慮深さ。

何か対策が有るはずだと、確信していた。


九鬼「・・・・・司祭にしておくには、惜しいのぉ」

  「で、何が有るんです?」

九鬼「この、孤児院を本拠にして、王都一の冒険者クランを作る」

  「本気ですか?」

九鬼「ああ、一ヶ月で、簡単に手出し出来無いクランを作り上げて見せるわい」


老人がこうもハッキリ断言したのだから、余程自身が有るのだろう。

ならばだ。


  「教会の東側半分を、クランに貸し出します、好きに使って下さい」

九鬼「有難いが、それでは、教会での立場が悪くなるのでは無いか?」

  「銅貨一枚も助けてくれなかった教会など、知った事では有りません」


オーティスは教会との決別を既に決めていた。

今の教会には、かつての清廉さは無い。

淀んだ水が、腐り果てる様に、権力の為、教義は捻じ曲げられた。


いつの間にか、崇高な教えは、権力者に都合のいい教えになった。

いつの間にか、自分を律する教えは、他人を制圧する口実に使われた。

いつの間にか、人を幸せにする教義は、教義を守る為に人を犠牲にした。

いつの間にか、神の声は権力者の都合の良い様に捻じ曲げられて、権力者の欲望や

       自尊心が神の声になった。


もはや、今の教会は、死後、神罰を受ける為の収監施設に他ならない。

愚かな人間が、どれ程、自らの歪んだ信仰を声高に主張しようとも、全知全能の神

に通用する筈が無い。

どれ程、取り繕っても、どれ程、隠そうとしても、自ら積み重ねた罪科は、神の前

にさらけ出される。


他人を害し、騙し、犯し、盗み、虐げた者を、神が見落とす訳が無い。     

教会の敬虔な信徒を自称しながら、心の底では神を信じない彼らを、オーティスは

哀れに思っていた。

神罰とは、現世で受ける事は無く、死して、魂に受ける物だ。



「自分の欲望の為に教義を利用した連中を、神が許す訳が無いだろうに」



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