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路地裏の惨劇



デライド「・・・・また、とんでもない獲物を持ち込んだな、爺さん」

  九鬼「上物を持ち込むと苦情が来るのか、知らなんだ、治癒師殿に確認しな

     ければ」

デライド「ああ、もう、ただの愚痴だ、勘弁してくれ」

  九鬼「何で、愚痴がでる」

デライド「あれだよ」


そこには、カウンターに群がる各種工房の主たちがいた。


デライド「服飾工房に、装飾工房、家具工房、薬師工房まで来てやがる」

  九鬼「そんなに珍しい物じゃったのか、あのデカブツ」

デライド「ああ、大きさがとんでもねえ、いつもの奴より倍近くでけえ、そして

     傷が少ねえ、眉間に一発って何だよ、おまけにこれ見よがしに持ち込

     みやがって」


これだけ巨大な1枚物の毛皮だと、絨毯以外にもソファーや椅子など、使い道が、

山ほどある。

骨や牙は彫刻や装飾品の材料として、そして今回、薬師工房の連中が目の色を変え

たのが、貴重な薬の材料となる、その内臓だ。

普段なら、先ず真っ先に足を狙い、動きが鈍った所で最も柔らかい腹を狙う。

当然、心臓や肝臓などの内臓が無事な事などほとんどない。

それも、倒すのに苦労するこんな大物になれば、無傷で手に入る事など、どんなに

幸運に恵まれても考えられない。

皆が発狂レベルで群がるのも納得だろう。


  九鬼「何じゃ、ギルドにとっていい事だらけじゃろうに」

デライド「わかってるよ、ただ、査定に時間が掛かる、少し時間をくれ」

  九鬼「今日中に終わるなら、別に構わんよ」

デライド「はあ、幾らになる事やら」


その後、暫らくして査定が終わり、カウンター席で金を受け取った。

合計で金貨1枚と小金貨6枚ほどになった。

感覚で言えば、だいたい、百六十万円程だ。


 九鬼「二つに分けてくれ、半分は彼らの取り分じゃ」

受付嬢「よろしいので?」

 九鬼「当然じゃ、ほれお主らの取り分じゃ、早う、受け取らんか」

リット「ああ、お、おお、す、すげえ・・・」


リット達は小金貨の山を、震える様に受け取った。

彼らの目には、恐らく今から手に入れる予定の剣や弓が映っているのだろう。

剣は大体小金貨1枚と銀貨5枚程度、弓も一式で金貨2枚もあればいい。

つまりこれだけあれば、剣や弓を買ってもまだ余る。

妹と幼馴染の女の子に、髪飾りぐらいは買ってやれる。


リット「九鬼さん、ありがとう、感謝します!」

ガイン「早く、早く買いに行こうぜ、早く!」

 九鬼「待ちきれんのじゃろ、はよ行け」

アイナ「ほんと、ありがとう」

「エマ「九鬼さん、今度、何か作って来ますね」

 九鬼「おお、それは楽しみじゃ」


五人はそう言うと、まるで転がる様にギルドを出て行った。

まるで、急がないと買いそびれてしまうと言わんばかりだ。


  九鬼「初々しいのう、じゃが・・・・」

デライド「何か問題でもあるのか?」

  九鬼「いや、まあ、色々とな、ギルマスは関わらん方がええじゃろう」

デライド「なんだそりゃ、それよりも今日から7級に昇格だ」

  九鬼「まだ、1日しか経っておらんのじゃが」

デライド「あんな大物狩って来る奴が何言ってやがる」


実際、ギルドからすれば、今回の様な、高額な素材を持ち込む冒険者は喉から手が

出るほど欲しい。

ならばそんな存在を10級などにしておいて、受注に制限が掛かるなど、愚の骨頂

以外の何物でも無い。

更に言えば、別の支店からの引き抜きを警戒していた。

こういう話は直ぐに広まる。

恐らく、この西支部以外、特に中央本部などは、既に動き出している事だろう。


  九鬼「ほかの支店は理解できるが、中央本部が何故関わってくるんじゃ?」

デライド「中央の依頼は、全て貴族や教会関係者の護衛だからな」

  九鬼「なるほど、囲い込みか」

デライド「それに、常に最高戦力を保持したいんだよ、護衛だからな」

  九鬼「・・・・迷惑な」

デライド「おまけに、武王の二つ名まで付いたからな、当分は五月蠅いさ」

  九鬼「それじゃ、それ、武王とは何じゃ?」


武王とは、初代国王の懐刀として護衛を務めた、生涯無敗の王国騎士の事らしい。

相手の剣が体をすり抜けただとか、睨まれただけで首が飛んだとか言う伝説が残る

人物らしい。


  九鬼「それは、本当に人か?」

デライド「記録上はな」

  九鬼「まあ、どちらにしろ迷惑な話じゃ、儂はここから動くつもりは無いぞ」

デライド「わかってるよ、司祭様だろ、だがなあ・・・」

  九鬼「・・・・もし、司祭様や孤児たちに何か有れば、ただでは済まさんぞ」

デライド「俺に怒るなよ」

  九鬼「なら、相応の酬いをくれてやっても、文句を言うなよ」

デライド「死なない程度にしてくれると、有難いんだが」

  九鬼「なら事前に、先方に注意しておく事を勧める」

デライド「わかった、ただ、あいつらしつこい上に偉そうに言って来るからなぁ」

  九鬼「かわいそうに、大幅な戦力消失じゃな」

デライド「・・・・早急に警告文を廻そう」

  九鬼「賢明じゃな、それと鍛冶屋街は何処じゃ?」



          ガシャーン


道の脇に積まれた廃棄物の箱ごと、路地の奥に固まっている仲間の足元に、殴られ

たリットが転がった。

ガインとライナーは既に気絶して意識が無い。

服を破かれたアイナとエマが抱き合って震えている。


 アラン「だから、痛い目に会う前に有り金全部寄こせと言っただろう」

トーテス「こちとら、治癒魔法師に掛かったお陰で、懐が寂しくなったからな」

ガルシア「簡単な事じゃないか、金と女を置いて消えれば良いんだからな」

 リット「ふざけるな!」

 クリフト「ふざける?まさか、俺らは大真面目だぜ」

 アラン「俺らは、あの爺に大恥をかかされたんだ、心の傷を癒してもらわない

     とな」

ガルシア「なに、ガキでも女だ、すぐに気持ちよくなるさ」

トーテス「嘘つけ、無理やり悲鳴を上げさせて喜ぶ奴が」

クリフト「最初が、こんな路地だなんて貴重な経験だぜ、うひゃひゃひゃひゃ」

 リット「クズが・・・」

 アイナ「リットおぉ・・・・」

  エマ「おにいちゃん・・・・」


アラン達は、小さいながらも、二十人程のクランを持っていた。

だから、あの野次馬の集団の中にもクランの構成員がいて、すぐに治癒院に担ぎ込

まれた。

治癒魔法を使えば、たとえ切り落とされた足でも金は掛かるが繋ぐ事が出来る。

幸い今回、アラン達は気絶しただけだったため、すぐに回復したのだ。

そして彼らは、愚かにも躊躇なくリット達を襲う決断をして、クランのメンバーを

使い、この状況を作り出した。

リット達は冒険者ギルドから、ずっと跡をつけられていたのだ。

彼らにとって、今まで見下していたリット達の前で、何も出来ずに醜態をさらした

事が我慢ならなかった。

それに、この行き止まりの路地は、彼らだけが知っている下町の狩場の一つだ。

彼らが犯した罪が今まで露見しなかったのは、誰の目からも遠く、全く見向きもさ

れないここの立地のせいだ。


 アラン「ああ、もう、めんどくせえガキだな、いっそ殺すか?」

トーテス「それをやると、この後、女が使えなくなるだろうが」

ガルシア「大丈夫だって、またヨハン司祭に買ってもらえばいいだろう」

クリフト「そうだな、ただ、今回は高く売れないぞ」

ガルシア「わかってる、俺が壊しちまうからな、けけっ」

 アラン「馬鹿言ってないで、とっとと、殺っちまうぞ、めんどくせえ」


だらりと、垂らした剣をひこずる様に、アラン達が近ずくのを見てリットは短剣を

構え直した。

妹と恋人の両方を失う事になる絶望的状況は、リットに死を覚悟させた。

例え剣で斬らても構わない、狙うはアランの首筋、必ず嚙みちぎってやると、睨み

つけたが、その覚悟が実行される事は無かった。


      「「ぎゃあぁぁぁ――――っ」」


路地の入口で見張っていたはずの、クランの構成員が血を撒き散らして、アラン達

の足元に転がって来た。

何が起こったのか分からず、見降ろしたそこには、右手を失ってのたうち回る男が

いるだけだった。

もう一人は右腕を槍で壁に縫い付けられて、動けなくなっている。


  九鬼「殴られただけでは満足できんかったようじゃのう」

 アラン「・・・・じ、爺・・・・」

ガルシア「いつのまに来やがった・・・・」


そこには、ギルドで分かれたはずの、老人が立っていた。


 九鬼「何とか、間に合ったようじゃのぉ」

リット「九鬼さん・・・・」

 九鬼「こいつらの子分らしき小物が、後をつける様にギルドを出たからのう」

リット「くそ、気が付かなかった」

 九鬼「手酷くやられた様じゃが、大丈夫か?」

リット「ええ、でも・・・・・」

 九鬼「男なら、強くならんとのう、守る物も守れん」

リット「・・・・はい」


寄ってたかって、嬲る予定が、一転、窮地に立たされたアラン達は、次の行動を決

めかねていた。

ほんの数時間前、何をされたか正確に認識出来ないまま、気絶させられたのだ。

警戒するのも当然だが、ここで彼らは判断を間違えた。

一人だからやられた、四人で一斉に掛かれば倒せると勘違いをした。


 アラン「勝手に喋るな!クソ爺!」

トーテス「さっきは良くもやってくれたな!このまま済むと思うなよ」

  九鬼「・・・なるほど・・・頭が弱いのか、可哀想にのう」

ガルシア「何だと!きさま、きさま、きさま!」

 アラン「死ね――――っ」


一斉に斬りかかて来た、アラン達四人の間を老人は、ただ流れる水の様にゆらゆら

と通り過ぎると、倒れているリット達の前で立ち止まった。


リット「く、九鬼さん?」

 九鬼「もう、終わっとるよ」


ほんの一拍の間を置いて、アラン達の腕や指が落ちた。


「「「「ぎゃあぁぁぁ――――っ」」」」


ある者は、右手を、ある者は左指を切り飛ばされた。

老人の右手に握られている、細身の剣からは、極僅かに血が滴り落ちた。


リット「く、九鬼さん、け、剣を・・・」

 九鬼「儂は元々槍は不得手でのう、こっちの方が専門じゃ」

リット「ははは、とんでもねえ・・・」

 九鬼「では、帰ろうかのう、一人は儂が担いでやろう」

リット「はい、すいません」


気絶したままのライナーとガインを担ぐと、傷口を抑えて、地面に蹲っている四人

の横を通り過ぎた。


九鬼「二度とつまらん事を考えん事じゃ、次は容赦なく首を落とすぞ」

「「「「ひぃっ」」」」



アラン達の心の中は恐怖で吹きこぼれそうだった。

彼らには、見えなかったのだ、見えないまま斬られたのだ。

恐ろしかった、心底恐ろしかった。

自分たちは四人がかりで、剣さえ合わせて貰えなかったのだ。

これでは、抵抗のしようがないではないか、敵対した途端に殺される事は確実だ。

彼らは生まれて初めて絶対強者と相対し、認識した。


      目の前の存在は死神だ。


そしてこの日、西地区のギルドから一つのクランが移籍した。




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