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初狩・北の森



     ピギ――――――――――ッ


三匹目のピットラビットを狩った所に、風下の藪から血の匂いに誘われて、乱入し

ブッシュボアが、たった今、眉間に槍の一撃を喰らって、絶命した。

ギルドで説明を受けた魔獣のランクは確かDだったはずだ。

ただ、倒したはいいが、問題は周りの惨状と、倒した獲物の大きさだった。

森の中の開けた場所には、この巨大イノシシもどきが走り回って倒した低木が折り

重なって余計に見通しがよくなっていた。


九鬼「はてさて、どうしたものか・・・・」


九鬼はブッシュボアの額から槍を引き抜くと、その穂先の血を拭った。

槍は思った通り、かなりの業物らしく、硬い頭がい骨を貫いても刃こぼれも無い。

問題はこのデカブツだ。


九鬼「魔石を抜いて、後は足が一本ぐらい、後は捨てるしかないか、でものお」


このまま、この肉の塊を放置すれば、森の奥から様々な魔獣が寄ってくるだろう。

ここで、魔獣の異種格闘技戦が、勃発でもしたら、迷惑極まりない。

実際は、殆んどの冒険者が、獲物を大量に残す事などしないし多少残ったとしても

そんな事は気にしないのだが、ギルドの説明を律儀に守る九鬼に取っては、大問題

だった。

いっそ、燃やしてしまおうかと、考えていた所で、若い冒険者が声を掛けて来た。


冒険者「お~い!爺さん、大丈夫か?」

冒険者「ケガしてない?」

冒険者「物凄い音がしてたんで、見に来たんだ」

 九鬼「ああ、すまんのう、大丈夫じゃ、ありがとう」


彼らも西地区ギルドの冒険者で、男三人、女二人でパーティーを組んでいる。

全員が幼馴染で、まだ成人したばかりの若者らしい。


冒険者「そういやあ、他のメンバーが見当たらないけど、逃げたのかい?」

冒険者「ガイン、失礼だぞ、隠れてるだけかも知れないだろう」

冒険者「お兄ちゃんも失礼だよ」

冒険者「頭が痛い・・・・」


何とも騒々しいパーティーだが、善良な心根が非常に好ましかった。

彼らのランクは九級で、結成からもう直ぐ二年になる、中々のベテランだ。



リット「嘘だろ!じゃあ、爺さんが一人で倒したのかい!」

 九鬼「ああ、ちと、小回りが良くて面倒じゃったが、それだけじゃな」

ガイン「すげえ・・・」

アイナ「おじいさん、もしかして三級とかですか?」

 九鬼「いや、昨日登録したての十級じゃ」

リット「はあ?」

ガイン「そんな馬鹿な・・」

アイナ「もしかして、王国騎士様か何かですか?」

 九鬼「違う、違う、正真正銘、ただの十級の爺じゃ」

リット「ありえねえ・・・・・・・」


彼らのパーティーは、これから薬草採取に行く予定だったらしい。

どうも、町の近くは、取り尽くしたらしく、北の森の奥までやって来たところで

この騒動が聞こえて来たため、怪我人でもいいたらと確認に来たのだ。


  九鬼「騒がせてすまんのう、わしもこんな筈では無かったんじゃ」

 リット「いや、なら、何で倒したんだよ」

  九鬼「仕方なかろう、逃げても逃げても、執拗に襲って来たんじゃ」

  エマ「ははは、仕方ないで狩っちゃうんだ」

ライナー「ブッシュボアってランクDなんだけど・・・」

  九鬼「別にこいつは、空も飛ばんし、火も噴かんかったぞ」

ライナー「いや、基準がおかしいし・・・・」


詳しく聞けば、ランクDの魔獣を狩る目安は七級の冒険者が3~4人は必要らしい。

九級や十級は、基本、採集が主で狩るのも、グレイモールやスチールラットの様な

Gクラスの魔獣というより、害獣みたいな小動物だけらしい。

普段は三ヶ月でお試し期間の十級を、一年で見習い期間の九級を卒業するらしい。

そして八級で新人、七級で一人前、六級でベテラン、五級でギルドの看板冒険者と

呼ばれるらしい。


 九鬼「四級以上はどうなるんじゃ?」

リット「四級で英雄、三級で人外、二級で化け物、一級は人間以外の何か」

 九鬼「・・・・人間扱いぐらいしたらどうじゃ?」

アイナ「だって三級以上なんて、噂さえ聞いた事無いもん」

 エマ「架空の存在だって、みんな言ってるわ」

アイナ「絶対に、おとぎ話の登場人物よ」

 九鬼「なるほど、それはさておいて、おぬしらは何でまだ九級なんじゃ?」


先程の説明だと、もう八級になっても良い筈だ。


 リット「あ~、その、え~と、武器を買う金が無いんだ」

 アイナ「貧乏なのよ・・・・」

  エマ「生まれも、貧民街だし、親には頼れないし・・・」

 ガイン「それに、ここ一年ぐらい、武器の値段が上がり続けていて・・・」

ライナー「貯めたら値上げ、貯めたら値上げ、追い付きゃしねえ」

  九鬼「なら、こいつを運ぶ手伝いをしてみんか?」

 リット「その事なんだけど・・・」


女の子達は二人共魔法使いのスキルを持っていて、重量軽減を掛ければ、そのまま

町まで運べるらしい。

これだけの大物で、尚且つ傷は額の穴1つ、高値が付く事間違いないと、断言した。


リット「多分、金貨一枚以上は確実だと思う、それで図々しいとは思うんだけど、

    運び代として、銀貨十枚で、どうかな・・」


金貨一枚は約100万円相当、銀貨一枚はだいたい、一万円だ。


 九鬼「駄目じゃな」

リット「高かったなら、もう少し・・・」

 九鬼「半分じゃ」

リット「へっ?」

 九鬼「きっちり山分けじゃ、抗議は受け付けんぞ」

リット「でも、俺ら運ぶだけだし・・」

 九鬼「それが何じゃ、運び手が居らなんだら、これはただの廃棄物じゃ」

リット「い、良いのかな?」

 九鬼「いいに決まっておろう、さあ、さっそく頼むぞ」

リット「は、はい」

ガイン「や、やった、これで剣が買える!」


女の子二人で代わるがわる、軽減の魔法を掛けながら男達四人がまるで神輿の様に

獲物を括りつけた丸太の四隅を持って歩いた。


  九鬼「何とも勇壮なもんじゃのう」

 アイナ「すっごい目立ってるわね」

 リット「まあ、こんな大物、めったに見れないからなあ」

 ガイン「みんな見てるぜ、何か気持ちいいな」

ライナー「あのなあガイン、お前が狩った訳じゃ無いだろう」

 ガイン「わかってるよぉ、だけどこんな機会、もう一生、無いかも知れないし」

  エマ「子供だわ」

 アイナ「お子様よねえ」

 ガイン「う、うるせえよ」


まあ、彼らの気持ちも分からなくも無い。

広い街道は王都に近ずくにつれ、通行人も増え、必然的に道の両脇に見物人の人垣

が出来上がる。


「あんな大物、久々じゃないか?」

「凄く状態が良いじゃないか、毛皮に傷が無いぞ」

「魔石もでかそうだな」

「見ろよ、あの牙、俺の腕ぐらいあるぜ」

「あっ、工房の見習い達が走って行くぜ」

「極上素材の入荷だ、多分取り合いだぜ」

「か―――――――っ、金貨は確実だな、羨ましいぜ」

「しかし、あの若い連中だけで、よく狩れたな」

「よっぽど、幸運だったんだろう、でなきゃ、なあ・・・」

「ああ、多分、イノシシ野郎は崖から落ちたんじゃねえか?」

「なるほどね」


周りから見れば、若い少年少女と、老人が一人、難癖付けて取り上げようとする輩

が湧いて来てもおかしくない。

そして、そういう寄生虫は直ぐに湧いて出るのだ。


アラン「よう、リット、運搬ご苦労だったな」

リット「ア、アラン」

アラン「アランさんだろうが、口の利き方も忘れたか!」

リット「俺達に何の用ですか?」

アラン「ああ、俺達が狩ったこのブッシュボアを引き取りに来たのさ」

リット「ふざけるな!」

アラン「何がおかしい、お前ら九級に狩れる訳がないだろう」


こうも真向から、横取りに来るとは思ってもみなかった。

自分たちが狩ったブッシュボアをリット達に運ばせた、そう主張するつもりだ。

良くもまあ、そんな暴論を主張する気になったものだ。

ハッキリ言って呆れ果てた。

目の前で威嚇している様はまるで、チンピラその物だ。

.

 九鬼「また清々しい程のクズじゃのう」

リット「九鬼さん・・・」

 九鬼「ゴミ処理をするんで、一旦、降ろして隠れておれ」

リット「は、はい」


九鬼に言われて、少年たちは、ブッシュボアの後ろに隠れた。

普通ならアランは六級で、他の三人も七級、十級の九鬼が勝てる訳が無いはずだ。

だが、少年達は実際に九鬼が戦っている所を見た訳では無いのだが、多分大丈夫だ

ろうと根拠の無い自信ががあった。

何と言ったらいいのか、持ってる雰囲気が違うのだ。


 九鬼「このデカブツを倒したのは儂じゃ、阿呆が下らん事を意っとらんで道を開

    けい」

アラン「何だと、この爺が、殺されたいのか?」

 九鬼「お前が?儂を?ゴミムシ風情が何の冗談じゃ?」

アラン「お前、死んだぞ!絶対に死んだぞ!死んだも同然だからな!」

 九鬼「何じゃその脅し文句は、頭の中身も残念では、救いようが無いのう」

アラン「・・・・・・コロス・・・・・」

 九鬼「おお、ほら纏めてかかってこんかい、クズども」

アラン「死ねっ―――――――」


アランと呼ばれた男は剣を振り上げたが、一瞬で右の顔を槍の腹で殴られ、意識が

刈り取られた所に左の顔を殴られ、声も上げられずに地に伏した。

この間、恐らく一秒も掛かっていない。


トーテス「なっ」

ガルシア「ひっ」

クリフと「ぐ・・」


残った三人も同じように、槍で殴られ、気絶した。

四人で十秒足らず、恐らく自分の身に何が起こったのか理解できないままだろう。

冒険者の、それも六、七級と言えば、王国騎士や警邏隊に次ぐ武力保持者だ。

それが、一切の抵抗も出来ずに、一人の老人に蹂躙されたのだ。

リット達や周囲の野次馬はその光景を、息をするのも忘れて見ていた。

圧倒的な力の差、それはまるで暴威を振るう黒竜の様だった。

そして、誰かがつぶやいた。



      「・・・武王・・・」


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