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貧乏司祭オーティス

様々なスキルが当たり前に存在する世界で、司祭の職に就いているオーティスには、ある秘密があったのだが、神の悪戯か、悪魔の嫌がらせなのか、オーティスの抱える秘密は、その数と規模が増加の一途を辿っていた。

日を追うごとに、平穏からかけ離れて行くオーティスの運命はこの先、一体どうなってしまうのだろうか。




夫人「すいません、司祭さま、これしか用意が出来なくて・・・・」

  「いえ、構いません、で、スキルはどなたに?」

夫人「その事なんですが・・・・」


私は今、下町にある壊れかけの教会で、一人の老人の埋葬を終えた所だ。

お布施は小銀貨三枚、少し贅沢な食事をすれば無くなってしまう金額だが、貧民街

の住人にとっては馬鹿にならない。


夫人「息子も既に持ってますし、大したスキルでも無いので、処分して頂けると」

  「わかりました、お気になさらずに」

夫人「珍しいスキルでも、と、思ったんですが・・・」


私達、教会関係者の多くが(与奪)と呼ばれるスキルを持っている。

このスキルは神の慈悲と呼ばれる非常に珍しいスキルで、発現すれば、全員、教会

に所属する事が法律で決まっている。

もし違反すれば、例え貴族でも縛り首になる。

それは、このスキルが、有益だが非常に危険で異常なスキルに他ならないからだ。

まず奪とは、死亡から一両日中であれ、そのスキルを回収できる能力で、その数は

持っている星の数によって決まる。

ちなみに俺は星一つだから、回収できるスキルは一つ、ちなみに教皇様は最高位の

星五つで、回収できるスキルも五つだ。

そして与、これは回収したスキルを任意の相手に付与できる能力だが、付与は一人

に付き生涯三つまで、付与しなかったスキルは一週間で消滅してしまう。


だから珍しいスキルや強力なスキル、有益なスキルは、高額で取引される事になる

それに、未だに年に一つ位の間隔で、新しいスキルが確認され続けているのも価格

の高騰に拍車を駆けている。

王族や貴族、裕福な商人などは、それを網を広げて待っているのだ。

が、例え不平等に思えても、明日の食事にも困るような貧困層の人達にしてみれば

一攫千金のチャンスなのだ。

その機会を取り上げる様な真似は過去の聖人でさえも出来なかった。


但し何でもかんでも、回収したり、与えたりできる訳では無い。

与奪のように複数のスキルが結合したユニットスキルは、不可能なのだ。

この制約が有る為に、金や権力に物を言わせて、超人の様な王族や貴族などを作る

事は出来ないが、それでも、有益なスキルは権力者に集まってしまった。


結果この王国では、富める者はより豊かになり、貧しい者はいつ迄も貧しいまま、

人数だけが増え続けている。


イルマ「司祭様、今日は一人だけ?」

   「ああ、そうだよ、でも今日は、お布施を銀貨三枚も頂いた、パンが焼ける」

イルマ「もっと沢山、お布施が貰えればいいのになぁ」

   「私は星一つだから仕方がないね」

イルマ「司祭様の星が増えないのは、何でだろう、こんなにお祈りしてるのに」

   「さあ、どうしてだろうね、それよりイレーネはどうしました?」

イルマ「逃げたよ」

   「はあ、またサボリですか、探してきなさい、イルマ」

イルマ「え~、めんど「食事抜きに」すぐ探してきます!」

   「は~、やれやれ」


イレーネもイルマも教会で養っている孤児だ。

この教会は下町と貧民街の中間にあり、孤児たちの受け入れ先になっているが、別

に教会本部や王国から委託された訳でも無く、この教会に赴任した司祭が代々自費

でやっていた。

当然、何処からも運営資金を貰えない、こんな貧乏教会に長く勤めたい司祭など居

るはずも無く、着任と同時に転任願いを出す者ばかり、今はこの敷地だけは広大な

教会には私と、やや言葉の不自由な老教徒の二人だけだ。

それに対して、孤児の数は八年前に私がこの教会に赴任した時から倍に増えた。

はっきり言って限界が近い。


「太陽神アークの守護と地母神イオの恵みに感謝を」

「「「「「感謝を」」」」」

「では、いただきましょう」


長いテーブルには、三十人近い子供達が鈴なりになって、夕食を食べている。

この孤児院は、男の子は十二歳、女の子はあ十五歳まで保護すると明言してあるが

実際は殆んどの孤児の年齢が酷く曖昧なので此処に来た時に見た目で決めている。

現在、一番年上なのは、恐らく十二歳ぐらいだと思われるイルマとイレーネの二人

一番下は赤ん坊で、今、老教徒に抱えられてミルクを飲んでいる。


  「いつも赤ん坊の世話、任せっきりで申し訳ない、クーリさん」

老人「い・・いい・・きに・・ない」


この老人は、五年ほど前、教会の門前で倒れているのを、私が保護して以来、この

教会の手伝いをして貰っている。

冷たい様だが普通は、例え病に倒れたとしても、成人した者までは教会で保護する

事は有りえ無い。

そんな事をすれば、あっと言う間に教会は人で溢れ返った挙句に全員共倒れになる

だろう事は、子供でも分かるし、伝染病の温床にも成り兼ねない。


助けた当時、彼は全く言葉を喋れなかった。

大陸共通の数字や時間、果ては通貨まで、何一つ知らなかったのだ。

歳は六十は過ぎているだろうが、体格は良く痩せてもいない、そんな男が片言さえ

喋れないなど、異常極まりないし、その行動から異常者とも思えない。

おまけに助けた時は全裸で門の前に倒れていたのだ。


だから、仕方なく保護していたのだが、近頃、やっと片言ながら意志の疎通が出来

る様になって、名前も判った。


  「クーリさん、後で少しお話があります、私の部屋に来てくれませんか?」

老人「・・・はい」


食後の片付けを子供達に任せて、経典の写本に取り掛かる。

月に一冊、完成すれは良い所だが、教会本部に持ち込めば小金貨一枚で買い取って

くれるため、非常に有難い。

例えそれが、平民が稼ぐ月の収入の半分以下だとしても、貴重な現金収入なのだ。


暫くして、老教徒が部屋にやってきた。


  「ああクーリさん、どうぞお入りください」

老人「・・はい」

  「大した用事じゃ無いんですけど、明日一緒に教会本部に行きましょう」

老人「・・たいした・・・・きょうかい・・・・・・・なぜ?」

  「この本を納品するついでに、あなたのスキルを確認しましょう」

老人「・・スキル・・・・かく・・にん?」

  「自分がどんなスキルを持っているのか知らないんでしょ、調べてみましょう」

老人「・・・・・・ああ・・わか・・た」


近頃は喋るのはぎこち無い物の、通常会話の聞き取りには、苦労しなくなっている。

それに、行動を見ていても相当高度な教育を受けていた事がわかる。

まるで王侯貴族並に優雅な所作を偶に見せる事があるし高度な知識を持っていたり

する。

特に医療に関する知識は医者としか思えない。

おかげで近頃子供達が病気になる事が少なくなったが、同時にその正体もこのまま

無視し続ける事が出来なくなった。


翌日、経典を神殿の事務方に納めた後、貰った代金から小銀貨一枚を払ってスキル

の確認が出来る個室を借りる事にした。


司教「いい加減、あんな孤児院など捨てて本部に戻ってくれんかね、オーティス君」

  「替りが来ないから無理です、マグナス司教」

司教「何度も替えの司祭が派遣されてるだろう」

  「司祭?一日で逃げ帰るか、子供に暴力を振るう人間しか来ていませんが」

司教「はあぁ・・・・まあ、取り敢えず、気には留めておいてくれ」

  「分かりました」


別に司教は、私がどうしても必要と言う訳では無く、本部で経典の写本をさせれば

一ヶ月間に3~5冊ぐらいは出来るんでは無いかと思っただけだ。

だから若い司教の反感を買ってまで強要するつもりは無いだろう。

教会が替えの司祭を送るのは、ただの慣例だからだ。


  「お待たせしましたクーリさん、ではさっそく神殿に参りましょう」

老人「・・・はい」

  「今日は、いつもと違って暇らしいですよ、待たされずに済みますよ」

老人「・・ああ・・よか・・た・・・」


神殿には多数の小部屋が用意されており、その壁には大きな黒い石板がはめ込まれ

ていて、神殿の地下にある魔素溜まりに繋がっている。

そして、その石板に触れれば、大量の魔素に押し出されるように、スキルが表面に

浮かび上がってくるのだ。

スキルには持って生まれた物の外にも、後天的に派生する物や、いつの間にか結合

して、ユニットスキルに変化してしまう物もある、だから王国民は例え小銀貨一枚

を払ってでも、時々確認する為にやって来ては混雑するのが常だ。


ヨハン「おや、貧乏人のオーティスじゃないか、こんな所に来る金があったんだ」

   「ヨハンか、君には関係の無い事だ」

ヨハン「つれないなあ、小銀貨は君にとって大金だろ、僕は心配してるんだ」

   「・・・・いい加減にしてくれないかなあ」

ヨハン「おやおや、本当の事だろ、怒ったのかい?貧乏なのは間違いないだろ」

   「・・・・心の貧しい奴だな、哀れな奴だ」

ヨハン「な、な、何だと!貴様!ただじゃ済まないぞ!」

   「神に仕える者の言葉としては非常に不適切だな、司祭ヨハン」

ヨハン「ぐっ、くそがっ!」


その後、彼が絡む事は無く何処かへ行ったので、直ぐに神殿の部屋に入ると、個室

の一つを確保した。

こうすれば、もう彼は我々の居場所を見つけて絡んでくる事は無い。


  「迷惑な知人が申し訳ない、不愉快では無かったですか?」

老人「いや・・だいじょうぶ」

  「なら良かった、では、早速、この石板に触れて下さい」

老人「わかった」


刈れが石板に触れると、いつもの様に魔素が溢れて一瞬だけ輝いた。

そこに表示されたものが、今、彼が持っているスキルの全てなのだが・・・・。


「どういう事です、これは・・・・」


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