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3.サンクの場合

『サンク、第一研究室へ移動だ』

「――あ、はい」


 文官となって一年目のサンクは聞こえた指示に文句を言うこともなく、そちらに足を向ける。気持ちが落ち込んでいる時にこんな仕事をしたくないのだが、この日に限ってはよほどの体調不良でない限り、欠勤を認められないのだ。


 急がなくても、場所はすぐそこだ。十分に間に合うだろう。


「何か私に言いたいことあるの?」

「あえて言えば、ないと言えばないんだが」

「どっちよ」


 聞こえた会話と見えた姿に、子爵家の男性と男爵家の女性であると分かる。サンクは緊張しつつ、その様子を見守った。


「普段から言いたいこと言い合っているし、それはお前も同じだとは思うんだが」

「ええ、あなたからそうしろって言われたしね。大体、小さい頃から一緒で、遠慮も何もしていられないわよ」


 お互い至って普通である。


 言いたいことを言い合え、と言ったら、皆そろって"婚約破棄"を言い出すことが多いせいで、"婚約破棄の日"などという呼ばれ方をしているのだが、この二人にはそういう発言が出てくる雰囲気はない。


 ちなみに、婚約破棄を皆が言い出す原因は、絶対にきっかけとなった国王のせいだろう。


「……遠慮も何もないから、逆に言いにくいこともあってさ」


 そういうと、男性が片膝をついた。


「ちゃんと言ってないと思って。あなたが好きです。俺と結婚して下さい」

「…………」


 女性の手を取って、その甲に唇を落とす。それを無言で見た女性は、ポロッと言った。


「似合わないなぁ」

「人がせっかく勇気出して言ったってのに、なんだそれ!」


 立ち上がって文句を言う男性に、女性は少し笑うと、その両手がスカートの裾をつまみ、男性に対して淑女の礼をした。


「謹んでお受け致します。私もあなたが好きです」

「……なるほど確かに似合わない」

「蹴飛ばして欲しい?」

「いでっ」


 言うや否や女性が蹴っ飛ばし、よけ損ねた男性はまともに足に蹴りを食らっていた。だが、恨めしそうに女性を見たのは、一瞬。すぐ笑って、女性を抱きしめた。


「これからも、よろしくな」

「ええ、もちろん」


 幸せそうに抱き合う二人を見ながら、サンクは心の中で血の涙を流す。


(もう嫌だ。僕はこの仕事向いてないんだ。もう辞める。母ちゃんごめん、無理言って王都まで来たのに)


 つい最近、好きだった侍女にフラれて落ち込んでいるサンクには、この二人の立ち会いは酷だったようだ。


 ちなみに、本当に退職届を出したサンクに、宰相は退職は認めず一ヶ月の休暇を出した。そしてちゃっかり彼女を作って戻ってきたサンクに、一発ゲンコツをお見舞いするのだった。


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