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作られた世界

作者: 柴いぬ


 私の住む世界は太陽がとても大きく、サラサラ流れる滝を明るい光が照らしキラキラしていた。ずっと夜など一度もやってこない世界だった。


人々は畑を耕し大地の恵みに感謝し、みんなで協力しながら毎日を過ごしていた。




そんな風に私が語れるのは、この世界が作られた世界だったことに気づいたからだ。




 18歳を迎えたあの日、母から貝殻で作られたブレスレットをプレゼントされて嬉しかった私はすぐにそれを身に着けてはしゃいでいた。


いつものように井戸へ水を汲みに行ったその時、ブレスレットがちぎれて井戸へ落ちてしまった。




慌てた私は身を乗り出し、ブレスレットとともに井戸の中へ身体ごと落ちてしまったのだ。




「おいっ!しっかりしろ!」




気がつくと知らない青年が私に声をかけていた。




『ここはどこですか?』




聞くと彼は、私が川で流されているのを必死に助けてくれたのだと話す。




全身がビショビショに濡れて凍えた私を彼が自宅へ招いてくれた。




彼の自宅は私の住む世界とは違い、なんというか、とてもボロかった。




だが彼が作ってくれたスープは今まで食べたことがない最高の一品だった。




母の服だけど、と私に替えの服も用意してくれた。彼に心から感謝をのべて、その家を出た瞬間、私は全身に衝撃が走った。




私の目に映るその世界は暗く、さんさんと輝く太陽のない真っ暗な空だった。




いくつかキラキラと光るものが見えたが、私には恐怖でしかなかった。




足がすくんで前に進めないでいると彼が不思議そうに「すっかり夜になってしまったから驚いたよね、夜道は危ないから明日の朝帰るといいよ」




夜?この光景を夜というのかと無理やり自分を納得させて、彼が話す朝という光景に変わるまで彼の家にいさせてもらうことにした。




あまりに怯える私を心配して、彼はずっと私に話しかけてくれた。


彼はお母さんとお姉さんと3人で暮らしていて、私より2歳年上なのだと話す。




彼の父親は彼が幼い頃に交通事故で亡くなったそうだが、私には交通事故の意味がわからなかった。




私の住む世界には夜がなく、乗り物などないのだから。


信じてはもらえないだろうから、そんな話はしないでおこうと考えていると、彼の方から聞いてきたのだ。


「君はどこから来たの?」




わからない。私の世界がどこなのかわからない。


この世界ではないことだけしかわからない。




井戸に落ちたはずが川に流されていた。




すると彼は、明日流された川を辿って一緒に私の家を探そうと言ってくれた。




彼だけがこの世界で頼れる唯一の存在になった。




それから浅い眠りにつき、朝がやってきた。




 太陽が小さく、とても暑い。


ジリジリと体力を奪っていく。




この世界では車と呼ばれる乗り物がものすごいスピードで駆け抜けていく。


そして人々は何かに動かされているかのように真顔で通り過ぎる。


相手もいないのに何かに話しかけている人も何人か見かけた。




どうしてこんな世界に迷い込んでしまったんだろう。


夢でないことは確かだった。


こんな世界にいても私のお腹はちゃんと食べ物を欲しがるからだ。




彼に連れられて“マクドナルド”と呼ばれる店で初めての食事をした。


衝撃だった。昨日のスープには敵わないが私の世界にはない複雑な味が私を虜にさせた。




「じゃあ君の家を探しに行こうか」




そうだった。一瞬でもこの世界に未練を感じた私は自分に厳しくしなければと、よくわからない使命感にかられていた。




昨日私が流されていたという川まで来て、そこから上流へしばらく歩いた。




時間にしたら3時間は歩いただろうか、手掛かりは一切見当たらない。




そもそも井戸に落ちた話を彼には伝えていなかった。


彼は私が自ら川へ飛び込んだのではないかと疑って私を1人にしなかった。




それから毎日少しづつ上流を辿り、日が暮れる前に彼の家に帰る日々が続いていた。




彼はとても優しく何でも私に教えてくれた。


この世界はみんな忙しい人で溢れていること、あちこちの国で戦争が起こっていること、お金がないと生きていけないことなど、私の住む世界とは全く異なる事に毎回衝撃を受けていた。




彼に出会ってから3ヶ月が過ぎようとしていた頃に私達はお互いをとても大切な存在だと気づき始めていた。




 そんなある日、きっといつものように手掛かりはないだろうと二人で川辺を歩いていると次第に大きなダムと呼ばれる場所へ繋がり、そこにひっそりと建物が連なっていた。




君を見かけた人がいないか聞きにいこうと言って彼は足早に建物へと私の手をひいた。




その建物内では何人かの作業員がいたが誰一人私を見たものはいなかった。


諦めて帰ろうとしたその時、奥から1人明らかに作業員とは違う白衣を着た人物が声をかけてきた。




「君は‥君達は一体どうしてここに?」




一瞬目を丸くして動揺したように感じた。




事情を話すとその男性は私に優しく声をかけた。




「それは大変だったね。ここはダムを管理している建物だが、それ以外に自然を再生させる研究所があるんだ。」


どうやらその男性は研究所で働く博士のようだ。




手掛かりとは無関係だと感じた私達はその場を後にしょうとした。




「帰る方法が一つだけあるかもしれない」




突然その男性が私達を引き止めた。




続けて話す男性の言葉に私は不安を覚える。




「ただしこの先に入れるのは彼女一人だけだ」




何故なんだと考えるよりも、この世界の秘密を知っているんだと確信した私はすぐに男性と約束を交わした。




心配する彼が私を引き止めたが、私は自分の世界に帰る方法を知る為には仕方がないと彼をなだめていた。




彼を残し、男性に促されるまま研究所へと足を踏み入れた私が見た光景はまるで私の育った世界に似て大きな太陽がさんさんと木々を照らし、キラキラと川が流れていた。




 「ここは一度死んでしまった自然を再生させているんだ。私達の研究はかなり進んでいる。君は知らないだろうが、この世界は間もなく終わる」




驚いた。この世界が終わるというのは実感できないが、この世界へ迷い込んだ私を救ってくれた彼を死なせたくはない。




「実は私達の研究によって、この世界が滅びても生命が生存できる世界を作り出す事に成功したのだ。その世界で生きる人間それこそが君なのだよ」




わかったような気がした。


私の生きる世界では夜がなく、植物や木々が生き生きと育ち、人々はみな争い事のない平和な世界を築いていたからだ。




あとどれくらいで彼のいるこの世界が滅んでしまうのか質問してみた。


すると男性は「あと1ヶ月、いやもうそんなにないかもしれない」そう話すのだった。




それならばこの世界のすべての住人を早く新しい世界へ移動させてほしいと伝えたが、男性が哀しい表情でそれは無理だと話すのだ。




なぜならこの世界に住む住人は、世界が滅びるなんて誰も信じないのだと。あちこちで嘘やウワサが飛び交う情報に真実が隠れてしまい、誰も世界の危機なんて心配していない。心配するのは明日の自分自身の事だけ。狭い世界で働く人間関係や明日の小さな楽しみ事だけを考えて生きているのだと。




「だが君にはちゃんと自分の世界に帰ってもらうとしよう」




そう話すと男性は私の落ちた井戸と繋がっていると言う洞窟に入るよう私を誘導した。




「それならば、彼に最後のお別れをさせてほしい」




そう伝えると男性は頷いて私は急いで彼の元へ駆けつけた。




そして彼にすべてを伝えた。


だが彼はそんな私の気持ちとは逆に、私があの男性に騙されているんじゃないかと心配した。




彼と私とは生きる世界が違う。


考え方が違うのは当たり前の事だった。




だけど私はどうしても彼を死なせたくなかった。


この世界で唯一の信頼できる彼に出会えた事は私にとって、とても大きな存在になっていたからだ。




安心して生きられる私の世界でこれからも彼と過ごしたいとまで考えていた。




しかし彼はやはり信じてはくれず、私一人だけ可怪しな事を話しているようだった。




 『もし、もし私の話が本当だと信じてくれたなら


その時はもう一度この研究所に来てほしい』




それだけ伝えて私達はさよならをした。




研究所に戻ると男性が一言私に伝えた。




 「この世界と君の世界は同じ星でつながっている。こちらの世界では君達の事を地底人と呼ぶだろう」




その言葉の意味はよくわからなかったが、男性に感謝を伝え、私は1人洞窟へ向かった。






真っ暗な洞窟は足元が川になっていて、次第に深くなっていった。




そこからどうやって自分の世界に帰ってきたのかはよくわからなかったが、あの男性の言う通り、この世界は作られた世界なのだとわかったのだ。




 それから数日たったある日、今まで経験をした事がない地震がこの世界を揺らした。




私にはそれが彼の住む世界の終わりを意味する事だったとすぐに理解し、そして私は涙を止める事ができなかった。




彼の世界と私の住む世界は違う。


だけど私達は出会った。


その意味を知る為に私は井戸へ向かった。




躊躇うことなく私は井戸へ落ち、もう一度あの研究所へ向かった。




洞窟の奥に明るい光が見えた。




心臓の音が聞こえるぐらい私の鼓動は早く打っていた。


洞窟の先の光景はまるで大きな竜に飲み込まれたかのように建物や森、すべてがなくなっていた。




太陽だけがあの日と変わらずギラギラとこちらを睨んでいた。




自分の無力感に押し潰されそうになりながら彼の名前を叫んだ。


何度も何度も叫んだ。




だがそこには世界が滅びた後の私の声だけが不自然に響くのみだった。




彼と出会えた奇跡を、その意味を知るすべがなくなった私はこの世界を後にしようと洞窟へ向かう。




すると突然川の中から大きな潜水艦が現れたのだ。




中からあの研究所で見かけた人々が続々と洞窟へ向かっていた。




私は彼がいるのではないかと心躍らせた。




 しかしそこに彼はいなかった。




喪失感に苛まれているとあの博士が現れた。




博士は私に優しく話しだした。




「世界が滅亡する前に彼はこの研究所にやってきたよ。君との約束を守る為だと話していた。だが君の世界で暮らすには限られた人間しか生きられないんだよ。なんせ君の世界はこの星の地下深くにある。その世界で暮らすには最低でも1年は訓練が必要だ。もっと早くに彼らが真実を受け止めていればいくつかの命は救えたはずだ。君のように元々地底人として生まれたならば関係のない話だが‥」




そう話して博士は私に彼から預かった手紙を渡した。


そこに書かれていた内容を読んで、ようやく彼と出会えた意味を知ることができた。




 【君の言葉を信じてあげられなくてごめん。


僕等が住むこの世界は長い歴史の中で自ら破滅へ向かうように平然と過ちを冒してきた。わかっていても目を背けてきた。同じ人間が殺し合い、自分さえよければとお互いを助け合う事も忘れていた。君に会えて君の世界で一緒に暮らせたらどんなに楽しいことかと考えたけど、僕等はどこへ行ってもまた同じ過ちを冒すだろう。同じ星で生きていても君と僕等の世界は一つになってはいけない。君の世界が、君の心が汚れないように僕等は自分達の冒した罪を償うことが君の世界を救うのだと僕は信じている。二度と同じ過ちが起こらないように君と僕は出会ったんだね】








それから数年が経ち、私達の世界にも博士が作った研究所ができていた。




そしてその研究所には新たな世界ができていた。 





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