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ノーリンスイサンショウ!!!  作者: 暴走機関車ここな丸
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第1話「自立」Bパート

 閉店作業をし、買い物に出掛けていた母の帰りを独りで待つ。





ガタンっ!





 リビングのドアが大きな音を立てて勢い良く開けられたので、私はびっくりして振り向く。




[小薗 香緒]

 「あ、お母さん……」



[小薗 恵美香(えみか)

 「ねぇ!店の入口(いりぐち)何であんなんになってんの?!!」



[小薗 香緒]

 「あ……そ、その前に話があるの」



[小薗 恵美香]

 「いや何だよ窓割れてるの置いといてまでの話って!」



[小薗 香緒]

 「…………」



[小薗 恵美香]

 「こっ……怖っ!やだー、なにぃ?もう」




 非常に言い(にく)い事であるが、このまま黙っていたら話が進まないのでまずは退学になった事を話す事にした。




[小薗 香緒]

 「ごめんなさい!お母さん私、退学になっちゃいました!!」



[小薗 恵美香]

 「はあぁっ?!ガラスの次は退学ぅ!!?あんた学校で何しでかしたの!?」




 お母さんは目をかっ(ぴら)いてソファから立ち上がった。




[小薗 香緒]

 「待って!まだ続きがあるの!」



[小薗 恵美香]

 「……言ってみな」



 そう言ってお母さんは真剣な表情でソファに座り直してくれた。




[小薗 香緒]

 「あのね、今日お店にね、灰原さんって人が来て。おじいちゃんの遺書渡されて……」



[小薗 恵美香]

 「ちょ、ちょっと待って一気に言い過ぎだし。って、え……じいじの遺書?あいつついにポックり()っちまったのか!!」



[小薗 香緒]

 「お母さんも知らなかったの?」



[小薗 香緒]

 「まあもう12年だったかなー?会ってないし、連絡も随分してないし、あっちからも来てないしな」



[小薗 香緒]

 「そうなんだ……」



[小薗 恵美香]

 「で、それが何だって?」



[小薗 香緒]

 「あ、うん。その遺書にね、おじいちゃんの学院を私に継いでほしいって書いてあって……」



[小薗 恵美香]

 「は?か、か、香緒が?!何で!?」



[小薗 香緒]

 「なんか……灰原って人に、退学にされたんだったら未来ノ薗に生徒として来いって言われて……」



[小薗 恵美香]

 「おいおい何だい、何だいその意味不明な展開は……まるで乙女ゲーだな」



 お母さんはソファに(もた)れ掛かり、()(がしら)を押さえてため息を吐く。



 それを見て私は一層申し訳無くなってしまい。




[小薗 香緒]

 「分かんない分かんない。私にも分かんないよ、私これからどうしたら良いのかな……」




 気持ちはすっかり弱気になり、目から涙が落ちそうになる。




[小薗 恵美香]

 「あんた……泣くんじゃないの!」




 泣き出しそうになっている私を見てお母さんは声を荒らげる。




[小薗 香緒]

 「だ、だってー……」



[小薗 恵美香]

 「まあ、いいわ。で、全部本当の話なの?」



[小薗 香緒]

 「う、うん多分」



[小薗 恵美香]

 「多分ー?灰原って奴もなんか怪しいし、イマイチ(しん)(ぴょう)(せい)無いけどさぁ、あのじじいからそう頼まれたんなら、やってみたら?」



[小薗 香緒]

 「でも、私絶対おじいちゃんの学校潰しちゃうよ!」



[小薗 恵美香]

 「うーん、そんなのやってみなきゃ分かんないんじゃない?」



[小薗 香緒]

 「そ、そうだけど。潰す確率の方が多いでしょ……」



[小薗 恵美香]

 「それに香緒なら、お母さんやれると思うけどなぁ」



[小薗 香緒]

 「え?」




 私は涙を手で拭ってお母さんの方を見る。




[小薗 恵美香]

 「うん。昔っからしっかりしてるし、そもそもお母さん、香緒をそう言う子に育ててきたつもりだからね?」



[小薗 香緒]

 「……そうかな?」



[小薗 香緒]

 「はぁ……高校は、まあ退学になっちゃったし。どの道後に引けないでしょ」



[小薗 香緒]

 「確かに……」



[小薗 恵美香]

 「うん、遠慮してる場合じゃないでしょ。そこでお世話になってきたら良いじゃない」



[小薗 香緒]

 「で、でも私にはしなもんが!」



[小薗 恵美香]

 「あんた、あたしを馬鹿にしてるの?しなもんは私が体が動かなくなるまでやるって決めてんだから。香緒、これは自立に良い機会だと思う。あんたは田舎を出なさい。いい加減、もう大丈夫だと思うからさ…………」



[小薗 香緒]

 「自立……」




 ──私は(じゅく)(こう)の末に




[小薗 香緒]

 「……う、うん!分かった、私頑張ってみる!頑張って学院長になる!」




 私は再度涙を手で(ぬぐ)ってお母さんの気持ちに応えようと声を張り上げた。




[小薗 恵美香]

 「言えたじゃん。そうと決まれば、準備しなきゃね」



[小薗 香緒]

 「うん!マジ急がないと……」



[小薗 恵美香]

 「いつまで待ってもらえてんの?」



[小薗 香緒]

 「明日の7時……」



[小薗 恵美香]

 「明日ぁ?!す、すぐじゃないのよ……」



[小薗 香緒]

 「う、うん、そうだね」



[小薗 恵美香]

 「友達にゆっくりお別れも言えないね」



[小薗 香緒]

 「うん……」




 私は『巌畑』に長い事住んでいて、小中高全部の青春をここで過ごしてきた。



 そんな故郷を離れるのは寂しいし、新しい学校なんて不安だ。



 友達も全て置いて、おじいちゃんの高校がある『騒丘(さわおか)』に一人で……。




[小薗 恵美香]

 「……大丈夫?」




 お母さんが心配そうに私を見つめる。




[小薗 香緒]

 「準備する」




 今日の準備が終わる頃にはもう日付はとっくに変わっていて、私もお母さんも寝不足ながらも、車で待ち合わせ場所の巌畑駅に向かう。




[小薗 香緒]

 「行ってきます!」



 私は駅に着いてすぐ荷物を抱えて車から飛び出した。




[小薗 恵美香]

 「あー!スマホ忘れてる!」



[小薗 香緒]

 「あー危ねぇ命〜!!」




 私はお母さんからスマホを車の窓から受け取り走り出す。




[小薗 恵美香]

 「じゃあ頑張って、向こうで良い男でも捕まえてきなさい!」




 後ろから何か聞こえてきた。




[小薗 香緒]

 「……ハハッ」




 自分でびっくりなぐらい何か乾いた笑いが出た。




[小薗 恵美香]

 「………………和也(かずや)……」




 重たい荷物を(たずさ)えて、駅の中で灰原さんの姿を探す。




[小薗 香緒]

 「あっ」




 改札付近でキャリーケースと一緒に立っている灰原さんらしき人の後ろ姿を見つける。



 絶対あの人だ……!




[小薗 香緒]

 「灰原さん!」




 私が少し遠くから名前を呼ぶと、その人は振り返ってニカッと笑った。




[灰原 実郷]

 「おっ、来たな」



[小薗 香緒]

 「灰原さん、私行きます!連れてって下さい!」




 私は灰原さんの目を見て必死に頼み込む。




[灰原 実郷]

 「来ると思っていた。お前の分の切符買っといたから」




 灰原さんが切符を持った手を私に伸ばしてきたのでそれを受け取る。




[小薗 香緒]

 「あ、ありがとうございます!」



[灰原 実郷]

 「お前が来なきゃ、無駄になる所だったな」



[小薗 香緒]

 「すみません……」




 って何で謝ってんだ?私……。




[灰原 実郷]

 「行くぞ」



[小薗 香緒]

 「は、はい」




 16歳の一人の少女の旅立ちの時。




[小薗 香緒]

 「ほんとに騒丘に来てしまった〜」




 私はポケットに忍ばせていたカジカジ梅を一粒片手で(むさぼ)る。




[小薗 香緒]

 「うーん!この酸味、疲れ吹っ飛ぶわ〜!!」




 食べた後は運動、私はその場で軽くストレッチをした。




[灰原 実郷]

 「おーいゆっくりしてる暇は無いぞ」



[小薗 香緒]

 「へいへーい。で、今からどこに行くんですか?」



[灰原 実郷]

 「もちろん学院だ」



[小薗 香緒]

 「まさか歩きで?!」



[灰原 実郷]

 「バーロー、タクシーだ」



[小薗 香緒]

 「おーさすが!大人は違いますね」




 タクシーで学院に向かう、その途中……。





ぐーーー!





 この『ぐーーー!』はある女芸人の『ぐーーー!』ではない、あっちは『ぐーぐぐーぐぐーこぉー!』である。



 この音は私の腹から来るもの、つまり腹の虫だ。




[小薗 香緒]

 「あっ……」



[灰原 実郷]

 「なんだお前、朝飯食ってきてないのか?」



[小薗 香緒]

 「時間無くて……今のカジカジ梅と水しか……」




 ちなみに私の好きな食べ物は梅と水だ。



 あと海老とトマトのパスタ。




[灰原 実郷]

 「それしか食べてないのか?だからチビなんじゃない?」



[小薗 香緒]

 「…………」



[灰原 実郷]

 「成長期なんだから、ほら食べろ」



 そう言って灰原さんは梅おにぎりを渡してきた。



[小薗 香緒]

 「あ、ありがとうございます」




 意外と優しい所あるんだ?と私は思ってしまった。



 私の新生活、上手くやれるか不安です。

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