第1話「自立」Aパート
[小薗 香緒]
「よし!よっしゃ窓拭き完了〜、宿題やっちゃおーかなぁー」
本日は土曜日。
静かな昼下がりに私は今、家のお掃除をしています。
そして今日も極限までピカピカに磨く事で、見えないほどのガラスに仕上げる事が出来ました!
ハローエブリワン!はい!皆様、御機嫌好うでございますー。
初めまして、私只今青春真っ盛りの高校2年生の女子、つまりはJKでーーす!
そして名前は小薗香緒と申します!
この名前は、私のおじいちゃんが付けてくれました!!
ちなみにこの名前は母の『恵美香』から取った『香』と、祖母の『花緒莉』から取った『緒』で『香緒』らしいです。
…………失礼、冒頭から私の話をしすぎましたね。
何ども言いますが私はどこにでも居るJKなので!ほんとに何でもないただの一般市民なのでぇ!!
そこら辺充分な把握よろしくお願い致します。
[小薗 香緒]
「スゥーっ………………何か嫌な予感がするなぁ」
そうそう!それはそうと今の時期の学生はみんな春休みかと……。
各々で春休みの過し方はあれど。私はと言うと、今はお家のお手伝いとしてお弁当屋のバイトをしています。
と言っても今はただの店番ですが……。
小園家はお弁当屋を営んでおりまして、そして私はこの仕事が天職だと思っているのです!!
私は仕事はみんな自分の好きな事、得意な事、自分の夢を仕事にするべきだと考えています。
って私、簡単に言っちゃってますよね……。
でも良いでしょう!夢を語ったって!
何故なら私は、私達は、未来ある若者ですから。
しかしその天職を見つけられる人は極少数だと言われていますが……。
[小薗 香緒]
「はぁ、暇だなー。課題やる気無ーい!音ゲーやろっ」
私はやっていた課題を途中で投げ出してスマホを開いてゲームを始める。
[小薗 香緒]
「やる気が無いものは無いのでどうにもなりません」
ブーン…………ブーン……!!ブーーーン!!!
現在ピークを過ぎて午後3時、ここ弁当屋『しなもん』では閑古鳥が鳴いており……。
ブーン!!ブーーン!!ブーーーーン!!!!
外ではエンジンを噴き散らかした耳が痛くなるほどのバイクの爆音が鳴り響いております。
[小薗 香緒]
「チッ、うるせーよ、イキリバイク〜。こっちは音ゲーやってんだよ」
ブーーーーーーンガッシャーーーーン!!!!!
店のレジカウンターで春休みの宿題をやりつつ虚無っていると、前方から物凄い勢いで黒い何かが表のガラスを突き破ってきた。
私は何が起こったか分からないまま、反射的にレジカウンターの下に頭を引っ込める。
なになになに?!事故?事故なの!?
恐る恐るカウンターから顔を出すと、そこには大きく割られたガラスの壁と黒いバイク、そして……。
──黒い人。
詳しく説明すると頭にはフルフェイスを被ってライダースーツを着た男らしき人がそこに立っていた。
これは事故じゃない!故意に行われた犯罪だ……!
[ライダースーツの男]
「やっべ、やっちまった。ガラスあったのかよ……」
自らの身の危険と店の危機を察知した私は、使う事は無いだろうと思っていた防犯カラーボールを目の前の男に投げつけようと今、腕を振り上げる。
[ライダースーツの男]
「おっとっとー……ちょと待てお嬢さん。私は決して、怪しい者ではないのですよ」
男はそう言うとフルフェイスを脱いでその素顔を見せた。
[小薗 香緒]
「イ……イケメン…………!?」
今私の前に立っているのは、きちんと手を入れていそうなサラサラの黒髪にグレーの瞳とツリ目の黒縁眼鏡を掛けた美形の男性。
目の前のイケメンに私は警戒心がすっかり緩んでしまい、振り上げていた腕さえも下ろしてしまった。
そうすると男はニヤっと笑い、一歩前に足を運んだ。
[ライダースーツの男]
「初めまして、小園香緒さん。私こう言う者です」
男が丁寧に何かが書いてある一枚の紙を私に差し出してきたのでそれを見るとそこには『私立未来ノ薗学院、営業教師、灰原実郷』と記してあった。
[灰原 実郷]
「あと、こちらフルーツとカジカジ梅になります」
[小薗 香緒]
「え……あ、はい。ありがとうございます」
序にナチュラルに高価そうな物まで頂いてしまった。
中には私の大好物の駄菓子、カジカジ梅もある。
私の好きなやつだけど、何故ピンポイントにカジカジ梅……?
[灰原 実郷]
「……よし、礼儀正しいのはここまでだ。さてと、そろそろ本題に入らせてもらいましょうかね…………はぁ、疲れたぁー!!」
なんと灰原さんは、店内に置いてあったソファに勝手に座ってきた。
[小薗 香緒]
「あ、ちょ。何なん?」
[灰原 実郷]
「ふぅ、説明がめんどくさいな。まあ詳しい事はこの手紙を読めば多分分かると思う、多分。ほら、今から読みたまえ」
リラックスし過ぎだろ…………。
名刺の時とは違ってソファにふんぞり返ったまんま凄く適当に渡された手紙には手書きでこう綴ってあった。
──可愛いかおへ、お母さんと元気にしているか?わしももう長くはない、わしはかおにわしの学院を継いでほしいと思っている。これから色々大変だと思うが期待している。頑張ってくれ、お父さんを頼んだぞ。
[小薗 香緒]
「…………これって……本当に私のおじいちゃんが……?」
[灰原 実郷]
「ああ本物だ、間違い無い。未来ノ薗創設者、小園芳香の遺書が3日前発見された」
[小薗 香緒]
「い、遺書ですか……」
[灰原 実郷]
「そう!私立未来ノ薗学院とは!」
灰原さんは腕を大きく広げて語り出した。
[小薗 香緒]
「えっ、何か始まったんですけど……」
[灰原 実郷]
「……未来ノ薗は全国の各企業も目に掛けているそれはそれは名がある名門校!そこの後継者となれるんだ、光栄だろう?もちろんそれだけの重責は担されるだろうが……だが将来は約束されたも同然!!何にも問題は無い!そして!なんと!未来ノ薗は!だだだ男子校!!イケメン率は脅威の88%!どいつもこいつも女っ気無し!知らんけど。選びほうだ〜い!どうだ?未来ノ薗を継ぐ気になったか?」
よ、よく分からないけど。男で釣ろうとしてるのははっきりと分かる……。
おじいちゃんが学校を経営しているのはもちろん知っていたが、だけどまさかこの私がおじいちゃんに学院長として選ばれたなんてとても信じられない。
私は頭を深く下げて……。
[小薗 香緒]
「お断りします!」
[灰原 実郷]
「ダニィっ!?」
この人はきっと私が継ぐと言うだろうと端から決めつけていたのであろう。
灰原さんは驚いた顔をしてソファから勢い良く立ち上がって私を見る。
[小薗 香緒]
「いや逆になんでOKされると思った?男に釣られるとか思ってやがって。てかそもそも私未成年なんですけど、分かってます?それに……この弁当屋は私の天職なんです!!」
とぅるとぅるとぅるるーんとぅるるるるん♪
[灰原 実郷]
「なんだァ〜?」
このタイミングでお客様が来たようだ、だがこんな緑色と青色が特徴的な某コンビニエンス・ストアのような入店音は鳴らないはずだ、そもそも設定していないし、そんなサービスはうちはしていない。
昔ながらの自営業だし……。
ならこの音はどこから流れている?
うーわ、こんな時にお客さん。
[小薗 香緒]
「いらっしゃいませ〜……」
[毒茸校長先生]
「ピュー♪あらもしかしてここの玄関ちょっとリフォームしたぁ?あーらちょっと素敵じゃなーい♡」
こいつの口笛かよ!上手すぎだろ!
毒茸校長先生は、さっき灰原さんに事故られて?割られたただの壁だった物をアートか何かと勘違いしているようだ、世の中には色んな感性を持っている人がいるんだなぁ……。
ドクキノコ……校長……。
ドックン……ドックン……。
私の心臓が激しく脈打ち、痛い。
[毒茸校長先生]
「あら?こ、小薗さん!貴女そんな格好して、何をしているの?!」
どうやら毒茸校長先生は私の『弁当屋しなもん』と書かれたエプロン姿を見てお怒りになったようだ。
[小薗 香緒]
「い、いやぁこれは誤解でしてね……て、て言うかここ自宅でして……!!えとー……えとー……あーこんな時に良い言い訳が思い付かないの辞めてほしー」
[毒茸校長先生]
「言い訳はいいです。貴女!校則でバイトが禁止されているのにも関わらずここでバイトしていたのね!小薗さん!貴女はもう退学よ!!」
校長先生にビシッと指を指されてそう宣言された。
[灰原 実郷]
「おー、神展開」
灰原さんがちょっと嬉しそうに拍手しだした。
いや!何にも神じゃないし!最悪だし!
[灰原 実郷]
「あ、そうだ……」
ポンっ!
灰原さんは何かを思い付いたように、右手をグー、左手をパーにしてポンっと左手を右手で打った。
[灰原 実郷]
「先生ちょっと良い事思い付いちゃったぞ。お前、未来ノ薗に来いよ」
[小薗 香緒]
「は、だから……学院は継ぎませんって。話聞いてました?」
[灰原 実郷]
「それは別にすぐじゃなくて良い。来いって言うのは、生徒としてだ」
[小薗 香緒]
「は?私……転校させられるの?」
[灰原 実郷]
「そうだ。と、言うか……そんな、させられるなんて言い方して……良いのか?」
[小薗 香緒]
「…………はい?」
灰原さんが私の顔を見てニヤりと笑う。
[灰原 実郷]
「お前は今の今退学を言い渡された。つまりお前は高校を中退したただのJKでも何でもないただのプータローなんだよ」
[小薗 香緒]
「はっ?」
プータローってまさか、ニートの事か?!
[小薗 香緒]
「やだやだやだやだ!」
[灰原 実郷]
「はいはい。言っちゃ悪いが中卒なんて今の時代、ろくな人生にならんと思うがね?」
この男、確実に中卒の人間を馬鹿にしている。
私は我慢していた感情が本気で湧き上がってきた。
[小薗 香緒]
「そんな言い方!なんか幻滅しました……」
私は誰とも顔を合わせたくなくなり、視線を逸らし俯く。
[灰原 実郷]
「悪いな。でもそれが現実っ」
[小薗 香緒]
「…………」
[灰原 実郷]
「……」
[毒茸校長先生]
「……」
私と灰原さん、そしてドクキノコ校長先生の間に沈黙が流れる。
[毒茸校長先生]
「……」
[灰原 実郷]
「……まっ、さすがに急すぎたかもな。そうだな……一晩待とう、明日の朝7時に巌畑駅で待ってる。じゃあな」
[小薗 香緒]
「……」
灰原さんはこちらに一瞥もくれずバイクに跨って後腐れ無く消えていった。
[毒茸校長先生]
「小薗さん、残念だけれど……退学の話は変わらないから」
[小薗 香緒]
「はい……すみませんでした…………」
店に一人取り残されて私は泣きたいのを堪えて、これからの事を静かに考えていた。
[小薗 香緒]
「さぁって、どうしよっかなあ………………」
つづく……。