⑧最優先して行うべき大枠の政策/GDPの罠
筆者:さて、いよいよ本題でもある優先して行うべき政策について見ていこうと思います。
質問者:しかし、どこに優先してお金をかけて良いのかについては分からないと思うんです。
以前のエッセイでは公共事業、食料自給率の向上、防衛、雇用対策、少子化対策、減税などが挙げられていたと思うのですが、そのうちどこにお金を使えばいいんでしょう?
筆者:まぁ、そうなりますよね。経済学者のケインズの言葉として
『不況対策として財政支出を行う際は、将来的に利益・利便性を生み出すことが見込まれる事業・分野に対して選択的に行うことが望ましい。』とあります
そこで考えられたのが、政府支出乗数という指標です。
これは、1単位の政府支出を追加した時に、国内総生産(GDP)が何単位増えるかを表す数値をいいます。
例えば、1億円政府が支出して1.5億円の経済効果が産まれれば1.5とされます。
政府の消費や投資、政府から民間への所得移転の合計がここで「経済効果」としています。
また、1億円支出して1億円民間が貯金すれば1.0になります。
このように、よほど極端なことを政府がしなければ1を割ることはまずないとも言えます。
質問者:なるほど……ですが、一つの政策だけでは測れませんよね?
筆者:良い質問ですねぇ。そうなんです。実際は閉鎖経済でも無いので海外の影響や、
他の政策との複合的な兼ね合いもあるので一概には言えないのでこれも参考程度と言えます。
また、貯金をしたことで精神的安寧を得ることができそれがプラスに働くと言うこともあり得るので一概に「貯金をして政府支出乗数が1.0」と言うことに意義が無いと断言できません。
しかし、数値的に出ていることは一定以上の説得力があると思うんですよね。
質問者:確かにそうですね。具体的には政府支出乗数が高いものは何だと出ているんですか?
筆者:2014年に出版された『経済政策で人は死ぬか?』[著]デヴィッド・スタックラー 、サンジェイ・バス[翻訳] 橘明美、臼井美子 を参考にさせて頂きます。
この本によりますと、政府支出乗数が高いものとしては福祉や医療、教育に投資をすると良いと言うことのようです。
質問者:どうしてその3つが政府支出乗数が高いのですか? パッと聞いた限りではそんなに効果があるものには思えないのですが……。
筆者:ここで言う“福祉”というのは高齢者への年金では無く主に貧困対策だと思って下さい。
例えば、日々の生活に困っている方が並の人と同じだけ消費ができるようになれば、
その分GDPが上昇すると言うことです。
質問者:なるほど。医療に関しては医療保険などの整備でしょうか?
筆者:日本に関しての医療の弱点で言うならば、
人口辺りの病床の数に関しては世界一となっているんですが、保健所に関しては、平成8年の845か所から減り続け、現在では469か所と4割減少しているみたいなんです。
質問者:保健所ってそんなに重要な役割があるんですか?
筆者:保健所の業務としては健康や病気に関連した指導や相談対応がありますし、
精神保健福祉・心身障害児等についての相談や原爆被害者の援護に関する相談などの精神面や制度に関する相談対応も受け付けています。
狂犬病対策や予防などの動物に関連する業務の中には捨てられた動物たちの保護や処分なども含まれていますし、産業廃棄物・水質汚染の苦情相談など環境に関する苦情受け付けや相談なども請け負っています。
特に健康関連に関しては乳幼児の予防接種や子育て相談教室なども定期的に開催されており、母子関連に関する業務を重点において活動していると言う保健所も多いです。
最近では特にコロナの感染者数が何人かという統計を取ったりしているのも全国の保健所でして、非常に公衆衛生上の色々な役割を担っていると言えます。
質問者:なるほど、必要なインフラの一つなんですね……。
筆者:そうなります。結構幅広い業務を担っているために、
1つの保健所で多くの専門家を雇わなくてはいけないという問題はあります。
コロナ渦で保健所の業務が逼迫したという話があるのですが、これは多くが電話やFAXなどの対応に追われていたという要素も多分にあり、デジタル化が遅れていたという要素もあります。
『経済政策で人は死ぬか?』によりますと、
『ニューディール政策に積極的に取り組んだ州(ルイジアナ州)と、消極的だった州(ジョージア州、カンザス州など)を比較すると、前者ではその後の公衆衛生状態が長期にわたって改善した。 特に伝染性疾患による死亡率、小児死亡率、自殺率などが大幅に改善された。そして最も重要な効果は、公衆衛生・医療への財政支出はその後の景気回復にも大きく寄与したことである。そして景気回復の結果、財政状況も好転した。財政緊縮派がよく口にする「医療・福祉への支出は財政状況を悪化させる」という懸念はあたらなかったのである。』
とあります。やっぱり誰でも共通の資本である体の健康は大事なのでしょう。
質問者:一度減らした保健所を増やすのは大変ですから、
そう言ったところに日本の場合は投資をした方が良いと言うことなんですね。
筆者:そうですね。保健所の負担を減らすための取り組みにお金をかけたほうが良いでしょうね。
最後に教育についてですが、これは少し幅広い話になります。
基本的には日本の教育水準に関しては高い方だとは思いますが、
例えば今の日本の場合で言いますと政府の支出に関して国債をもっと発行することができると言った考え方が広まっていないことがまず挙げられます。
また、日本全体にある戦後の自虐史観についても教育次第で取っ払われることによって、
日本人が海外に出た際にもっと誇りをもって生きていくことができたりするなどのメリットが存在します。
後は社会人からの教育ですね。労働1時間あたりに生み出される付加価値額(労働生産性)が20年前ではアメリカとほぼ同等だったものが今では1.5倍ほどの開きがあります。
それは、G7の中でのGDPに占める人的資本投資額が最下位という実態もあります。
これは断言することは難しいですが、教育訓練を受ける機会が相対的に少ない非正社員が増加していますので、経済全体での人的資本投資額が低迷している可能性があり得ます。
非正規雇用の割合もG7トップですからね。
質問者:なるほど。日本人のマインドとしての改善と生産性の向上に対する投資を行うことが重要になるわけですか。
筆者:以上を踏まえた上でいち早く行うべき政策は、先ほど挙げた中ですと、
雇用対策と減税と言うことになります。
非正規雇用を減らし、生産性を上げること。
それと同時に消費税など貧困者にとって苦しい税金を無くしていくことが大事になります。
ただ、政府支出乗数で見ると貧困者に対する支援に関しては高い効果を示していますが、
減税は公共事業よりもGDPを押し上げないんですよね。
質問者:どうしてですか? すぐに国民全体の生活が良くなると思うのですが……。
筆者:政府支出乗数と言うのはあくまでも“GDP”に目を向けた指標です。
つまり、国民の可処分所得に目を向けたものでは無いんですね。
例えば、バラマキを貯金する分には1.0の最低限の政府支出乗数になるわけですが、
減税した分を貯金すると政府支出乗数はマイナスになります。お金を出さずにむしろ減税分が市中にお金が出回らないわけですからね。
もちろん、遊興費として使う可能性が広がることや、将来に展望が持てることにより、
長期的に支出が増える可能性はありますがあくまでも“基本的な考え方”としてそう言うことがあるのです。
質問者:あ……GDPの積み上げのことを考えて減税をあまりしたがらないんですね。
筆者:恐ろしいことに政府はGDPという下らないのに有名な指標のために国民を貧しくしている可能性はあります。
超短期のGDPで見ればむしろ増税したほうが良いまでありますから……。
仮にGDPが何%伸びようとも一般人の可処分所得が伸びなければ何の意味もありません。
国民生活がどれぐらい良くなったのか? そう言った指標で図る必要が本来ありますね。
GDPが伸びていても富裕層がお金を貯めまくっていたり、起業が内部留保でお金を貯めていたりしてもしょうがないですからね。
僕が過去のエッセイでもGDPについてあまり語らないのもそのためです。
一番国民の生活環境に近い指標と言えるのは中央値の可処分所得と言ったところでしょうか。
それに公共サービスの状態を加えたものが国民生活の指標に近いモノかなと思います。
そうなると可処分所得が20年で年間43万円低下、民営化でインフラすらボロボロ+
値上がり状態の日本は最悪の政治をしていると言えます。
2022年6月5日JNN世論調査『「投資に回す貯蓄ない」34%』によりますと、
『政府は経済政策として投資環境を改革し、個人の金融資産を「貯蓄から投資」にシフトさせる実行計画案をまとめましたが、「投資に回す貯蓄がない」という人が34%であることがこの土日に行ったJNNの世論調査で分かりました。
世論調査で「今後、貯蓄を投資に回そうと考えるか」聞いたところ、
●投資に回そうと思う23%
●投資に回そうと思わない40%
●投資に回す貯蓄がない34%
という結果となりました。
※固定電話による聞き取り、全国18歳以上の男女2528人〔固定1111人,携帯1417人〕
有効回答1207人(47.7%) 〔固定605人,携帯602人〕(54.5%) (42.5%)』
と、この様に34%の国民は貯金に回すお金すらないのが現状なのです。
質問者:なるほど……。GDPが横ばいな上に国民生活はドンドン貧しくなっているわけなんですね……。
筆者:そうなんですよ。
次に僕が考える貧困対策について見ていこうと思います。
実際に消費税減税以外での可処分所得が増える方法について考えていきます。




