第三話 剣客、森の番人を圧倒する
第三話 剣客、森の番人を圧倒する
「……風月天朧流…一式〈風斬〉」
風月天朧流とは、陽心が使う剣術の流派であり、その剣術は一子相伝。天川陽心の先祖、天川心右衛門が考案した流派だ。
陽心は、風月天朧流の技を、一部しか会得しておらず、天川家の汚点と言われていた。だが、妖刀を扱える、いや、妖刀に選ばれてしまったことにより、陽心はその妖刀の力を買われ、生前は組織で人斬りの仕事を任されていた。
陽心は、数少ない自分の修得した技の一つ、一式〈風斬〉を繰り出す。〈風斬〉は、鞘から刀を高速で抜き敵を斬る、要するに、抜刀術だ。もちろんただの抜刀術ではない。〈風斬〉は、陽心の会得した技の中で発生速度が最も早い技であり、その技は、まるで風を切り裂くようだと例えられたことで、〈風斬〉と名付けられた。
「なっ…早え!」
(なんだこいつ…パッと見では全然強そうには見えなかったってのに、いったいなんだ…まさか力を隠していたのか?くっ、様子見するつもりだったが、仕方ない、本気でやるか…)
刀が、番人の脇腹を僅かに掠めた。
陽心は確かに〈風斬〉は会得しているが、その完成度は先代よりも大きく劣っており、太刀筋のブレが大きい。そのため、番人には上手く当てることができなかった。しかし、これが陽心ではなく、他の風月天朧流の使い手であれば、番人は胴体から真っ二つにされていたであろう。陽心はそれほどまでに先代よりも劣っている。
「チッ…くたばれ!《フレイムランス》」
(こいつは魔力を持ってないからな…魔法を防ぐ術はない。これでとどめだ!)
番人は魔法を使用した。《フレイムランス》は、炎でできた槍を生成し、それを射出する魔法。通常、魔力がある者は、魔力で体を覆い、壁のような物を作り、魔法攻撃を防ぐ。しかし、魔力を持たない者は、それが出来ないため、魔法を防ぐ方法は、存在しない。だが例外が存在する。それが、風月天朧流だ。
陽心は刀を振り抜き、《フレイムランス》を切り裂いた。
「炎の槍?しかも空中から飛ばしてきたのか?面白い。もっと飛ばせ!すべて斬ってやる!」
「はあ!?魔法を斬っただと!?嘘だろ…剣聖だったら、中級以下の魔法は容易く斬ることができるらしいが……まさかこいつは剣聖ほどの実力が…?」
「何をごちゃごちゃ言ってんだよ!早くやれ!」
「だったらやってやるよ……《フレイムランス》!」
番人は、先ほど使用した《フレイムランス》を、同時に二十本ほど生成し陽心へと射出した。
「…きたか!風月天朧流、三式〈天桜〉」
陽心は、三式〈天桜〉を繰り出した。この技は、相手を滅多斬りにして切り刻む技で、相手の傷をぐちゃぐちゃにして、治療を困難とさせることができる。だが、大半は切り刻まれ、出血多量で死に至るためその効果はあまり発揮されないが。この技の名は、斬った者の血が、天から桜の花が散るように周辺に降り注いだことが由来だ。
陽心は、《フレイムランス》を次々と切り刻んでいき、二十本すべてを斬った。
「マジかよ!二十本も出したのに全部斬ったのか!?」
(くっ、魔法も効かねえし、この距離じゃ弓を構える暇はねえ…もう打つ手が……)
「これでもうおわりか?興醒めだな。殺すか…」
「ま、待ってくれ、頼む!森の出入りは許可するからやめてくれ!」
「命乞いか?そんなことしても俺の気は変わらな……うっ」
(時間切れか…もう少しでこいつを殺せたんだがな…)
「ん…拙者は一体何を?」