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オイタナジー  作者: 安菜
3/8

第二話

戦闘シーンがちょびっと入ります。

天たちの教室は三階。

三階から降りれば、もう天を刺す視線は止んでいた。

二階から下には、天が、莉玖に怪我を負わせたことは、まだ行き届いていないようだ。

それでも天は、莉玖や魅鈴のために浮かべた憫笑を消す事無く階段を下りていく。

怪我を負わせた犯人のことは伝わってはいなかったが、その事件のことは、一応伝わっているようだ。

こそこそと、みわたす限りの生徒達が、教師達が、蒼白の顔、吃驚の顔で言葉を交わしている。


それすらも、天にはどうでもよかった。


一階の廊下を抜け、下駄箱で自分のシューズを履き替える。

今はもう5時間目。許可を取らずに早退したとしても、そう五月蝿く言われることはないだろう。

もっとも、そちらではなく今日の天の行動については五月蝿くなるだろうが。

でも、それは既に考えることの意味を成さない。

天は、ここ――学校や、天の住む町のこと――に居る事をやめるからだ。

此処をでることを、決めたからだ。


スタスタと、教科書も何も持たずに校庭を横切る。

静まり返った其処は、天の旅立ちを心より歓天喜地しているようにも思えた。

いや、天にはそう感じられた。


天は、そんな校庭の静けさに答えるよう、堂々とした歩みで其処を抜ける。

校門を抜けた後のコンクリートの道路でさえも、車一つ走っておらず、耳が痛いくらいに静まり返っていた。


悠然とした足取りで、自分の家への道を行く天。

時せつ頭上を通り過ぎる小鳥達は、脅えるようにか、天の姿に歓喜するようにか、チュンチュンと可愛らしい囀りを辺りに撒き散らしていた。



―――

自分の家へと帰り、靴を脱がずに自室へと急ぐ。

その間も、天の表情は変わらなかった。

可愛らしさの欠片も無い登山用のリュックサックを引っ張り出し、必要最低限度の生活用品を詰めていく。

毎日欠かさず身に着けていた携帯電話をちらりと見たが、持っていこうとは思わなかった。それ以前に、必要になることはないだろうと、そう思った。


最後に、風で少し乱れた髪を、愛用の櫛で何度か梳く。黒い髪が、蛍光灯の光で白く眩しく光った。

少しだけ、目に痛かった。

ちらりと時計に目をやれば、もう既に4時を回っていた。

そんなに長い時間旅をする準備をしていたのだろうかと不思議に思ったが、考えても仕方が無いと、玄関にいって靴を履いた。

これも愛用の靴。

歩きやすく、走りやすく、足に馴染んだもの。

白地に赤いラインの入った運動靴だった。

手早くそれを足に嵌め、トントンとつま先を床に立ててより固定する。

がらりと玄関の扉を開ければ、教室にいた頃の空ではなく、雲が一面を覆う、くすんだ空になっていた。


(雨、降るかな。)


降ったらふったでそれでも良いが、今着ている制服が濡れたら替えが無い。

もう一度戻って服をリュックに入れようか迷ったが、かき集めたお金で後で買えばいいかと思いなおし、

自分の家・・・・いや、家だった建物を後にした。


雲の動きは、酷く遅い。

夜になる前に、一雨降るだろう。

天は、ぼんやり心の中で呟いた。




――――


「おい、」

「・・・・。」


駅に足を踏み入れるその時。

背後で、天に声が掛かった。

人気が少ない。駅の中にも、人はいない。

天は、ふう、と重い溜め息をついて肩越しに背後を見た。

ぎらぎらと、獣のような瞳を持った莉玖と魅鈴。

天の、あの行動のせいか、2人の瞳は、憎しみかなにかに染まっているようだった。いや、混乱かもしれない。何故あんなことをしたのか、天に問いているようにも見えた。

天は、一瞬眉を寄せてくるりと振り返る。

殺気とも取れるその空気が、嫌に心地よく感じた。


「どこにいく。」

「知っているから、来たんじゃないの。」


天を探すなら、天の家や、公園や、天の両親のいる所など、沢山あったはずだ。

まさか、誰も駅にいるなんて考えない。それなのに、何故2人は駅に着たのか。天は、其れをたずねた。別に、聞きたいわけではなかったが。


「体が勝手に動いたんだよ。」

「へえ。友情のセンサーかなんかが働いたの?立派なもんだね。」


莉玖と天の会話。魅鈴は、口を挟める事無く其れをただ眺めていた。

ふん、と、教室をでるときに浮かべたような、憫笑を天は浮かべる。

莉玖は、ひくりと口元を引き攣らせた。


「なんで、あんなことしたんだ。」


そういった莉玖は、目をそっと撫でた。

潰れたように見えた目――右目――は、そう酷い傷でもなかったようだ。

清潔感のある白。包帯の白。何故か、莉玖に似合っているように見えた。


にやり、と口角を吊り上げる。魅鈴が、恐怖か、それとも怒りかで、肩をぴくりと震わせた。

それにも、天は笑う。まるで、脅える様を喜ぶかのように。


「五月蝿いからだよ。」


短い答え。天は、少しだけ視線をさげた。


「それだけか?」

「さあね。」


曖昧な言葉。魅鈴は、ぎり、と歯をかみ締めた。

そして。


ぱしん、


乾いた音。

天の耳元で弾けた手。

じんじんと、左の頬が痛んだ。


魅鈴は、怒りに任せて天の頬を殴った。

殴られた天は、無情の顔になって正面を向く。痛みなんて、感じていないように。

叩いた魅鈴は、自分は何て事をしてしまったんだとでも言うように、まさに絵に描いたような絶望の表情を浮かべていた。


「終わり?」


ぽつり、と天が呟く。

はっと、正気に戻った魅鈴は、次の瞬間、莉玖の方に吹き飛ばされた。

ぐう、とくぐもった魅鈴の声。勢いよく莉玖にぶつかった魅鈴は、転がったまま動かない。

莉玖は、すぐさま起き上がって魅鈴の顔を覗き込んだ。

腹部を、覆うように抱きしめる魅鈴。

弾かれたように天を見れば、天は軽く足を上げていた。

どうやら、蹴ったようだ。


「これは、列記とした正当防衛だよ。魅鈴が先に、手を出した。だから、私は悪くない。」


無表情の顔に、憫笑の絵の具を塗りたくる。

天の顔は、背筋が寒くなるほどに恐ろしかった。

悪魔。その言葉が似合っていた。


「私にも、まだ友情と言う感情が残っていたみたい。

魅鈴の手を止めようと思ったのに、そのまま受けちゃった。やっぱり、あんた達は、私にとって特別だったのかもね。」


つらつらと、何でもないことのように述べる天。

莉玖は、脅えた表情で魅鈴を抱きしめ、天の顔を見つめた。口を見つめた。次の言葉を、望んだ。


「私、嫌になったの。」


ぶお、と強い風が、莉玖と魅鈴、そして天の間を吹きぬける。

梳かした天の髪が、風に靡いてまた戻った。


「莉玖も、魅鈴も、私をおいていくんだもの。嫌になったの。

非力だから、何でもできる魅鈴や莉玖が、羨ましくなった。

魅鈴も、莉玖も、私のものだと思ったのに、私が持たないものをもつから。でも、それだけなら別によかったの。」


ぴくりとも。表情を変えない。

つい、天が恐ろしくなった。

莉玖の胸の奥から、誰かが叫んでいた。警報を鳴らしていた。


――逃げろ、と。


「私をおいて、2人だけで。

仲間はずれなんて、よく言ったもんだよね。ホント。」


は、と、表情を変えずに短く笑う。

莉玖は、たまらず声を張り上げた。


「お、俺は!天のこと、仲間はずれになんかしてない!」

「五月蝿いな。」

「っ!」


莉玖の言葉に間をおかず、地を這うような声でそう吐く天。

びくり、と、莉玖は肩を震わせた。

漸く痛みの引いてきた魅鈴は、唸りながら身体を起こす。

動くと、まだ痛いようで、顔をしかめていた。


「もう、あんた達の言葉なんかいらないよ。

非力な自分も、もう要らない。

ほしいのは、あんた達や、世界の全部を手に入れられるだけの力。

誰も持たない、強い力だけだよ。」


起き上がった魅鈴を一度眺め、今度は2人を見下ろす。

声色は変わらない。

地を這うようなものではないが、それが逆に怖かった。


「狂ってる・・・天、あんた狂ってるよ・・・・っ」


顔を痛みで歪めた魅鈴が、げほん、と咳き込んだ。

口から吐き出したのは、血と唾液と胃液。

顔色が悪いようだったが、天にはあまり関係は無かった。


「それはどうも。」

「褒めてねぇ、から。」

「へえ。」


どうでもいいよ、そんなこと。

髪を掻き上げ、面倒臭そうに溜め息をつく。

一瞬目を閉じだ天の表情は、変わらなかった。

そういう天に、魅鈴は言う。


「ねえ、天。天は何がしたいの?」

「・・・何がしたい?」


魅鈴の問いに、漸く表情を変える。

にんまり。まるで三日月のように、口の端を吊り上げた。


「全部を、私のものにしたい。」

「っ、」


人間のもつ独占欲。それに酷く似ていて、似過ぎていて、逆に違うもののようだった。


ごくり、と、ほぼ同時に唾を飲む莉玖と魅鈴。

今度は、黙っていた莉玖が口を開いた。


「俺達は、あんたを止めるよ。」


くすり、天が、小さな笑みを漏らす。

魅鈴は、莉玖に続けるように言葉を述べた。


「私達も、天に負けないぐらいの、強い力をつけるから。そしたら、絶対天を止めるから。」


まるで、自分に言い聞かせているような、自分への決意のような、誓いのような其れ。

天は、くつくつと笑みを堪えるように少し俯いてから、

2人に吐き捨てるように言った。



「できるもんなら、やってみれば?」



その時、見計らったように電車が着く。

まるで、天が其れを呼んだのかと思うほどに。

もう、天には誰も持つことのない力を持っているのかもしれなかった。

ざわざわと、2人の胸の奥が波打った。


「私を止めたいなら、人間を捨てなよ。」


アドバイス。のように、2人にそう投げかける。


何かを決意した2人の表情を背景に、天は電車の内に消えた。



「絶対に、」

「とめてやるから、」



2人の呟きは、天には届いただろうか。

風と、曇った空が、馬鹿にするように、嫌に優雅に其れを眺めていた。

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