ある日の
「さて今日はどうしようかね」
軽い口調で独り言のように悟が呟いた。
「…」
だから俺は次の時間の教科書を準備してから残りの休憩時間のうちに昨日の続きの漫画を読んで時間を潰すことにする。
「ごほん、ごほん。さて、今日は、どうしようかねー」
わざとらしく咳払いをして一言一言を区切って明らかに僕に向けて話しかけてきた。
「…」
が、もちろん漫画の続きが気になっている以上無視をする。
「…」「…」
この漫画の良いところは表情に出さないで済む程度の笑いがちょうどよく、疲れた頭を癒してくれる。例えば、こn
「…気持ち悪」
「なんで?!」
「いや、笑うなら笑えよ。口許と目と眉毛、あと頬に鼻、耳とかピクピクしてさ、なにしてんの?むしろ、なんで、はこっちの台詞だよ?」
「顔全体で反応してんじゃん、まじか」
知らなかった。今までずっとこの漫画を読んで休憩時間を過ごしてきていた。それこそ中学の時からずっと。誰も言ってこなかったし、うまくやれてると思っていたのに。どうして誰も言ってくれなかったんだ…いや気持ち悪いから誰も言わなかったか?
「教科書出した時から周りから人が減ったの気付かない?良かれと思って、今日はどうしようといってあげていたのに。無視して読み始めるから、逆に困ったわ」
「もっと早く言ってよ。結構ダメージでかいわ」
「ちなみに、その漫画…打ち切りみたいだよ?」
「まじか!え、うそ、、なんで?え?うそぉ」
「…そんなにか?お前の趣味がわからん。笑いは人それぞれだけど、そこまでのことではないと思うけど」
呆れた表情の悟君。殺意を持って、言霊を信じて、ぶつけてやるわっ!
「いいか、この漫画はな俺のように平々凡々な男にとって、夢や理想を見ること無く、淡々と読み続けられる日常の中に、あぁわかるぅそれそれぇ、といった共感エピソードが端から見るとハテナ全開の、でも俺の心には染み渡る内容盛り沢山で、疲れた頭にすぅ~っと来るんだよ!ふざけんじゃないよ、これをバカにするやつは、さすがに怒るぞ!語ってやろうか、この漫画の良さを!例えば、棚のホコリを拭き取ろうとして雑巾かけたら穴が空いてて手のひらで掃除しちゃったがまぁそんな時もあるさ、気にすんな、考えたら敗けだ。だって勝っても負けてもどっちゃでもいいだろ?勝ち負けがあることはやめて、戦わない、そんな人生を送ろうぜ!俺たちは人生辞め組さっ!」
「…なんかごめんな」
悟がすごく悲しい目をして本気の顔で、本気の声で謝ってきた。
「いや僕こそテンション上がって言ったは良いけど、内容ひどいな」
…なんだこの漫画。僕はなにがよくて読んでいたのだろう。人生辞め組て。
「勝利・友情・努力、読む?」
「いいよねー、ジャ○プって!」
「ははは」「ははは」
悔しいけど、悟がいて良かった。
一人じゃないって、大事だ。そうここには一人じゃない。悟がいる。つまり。
「病んでる人ってああなのか」「見ちゃだめだよ、可哀想」「人生辞め組、やべぇウケる」「まぁあんだけピクピクして読んでるんだもん、納得っちゃあ納得だよ」「委員長があれかぁ」「私だったしばらく来れないわ」「がんばれよ」「大丈夫、松岡君は勝ち組だよ!」「「爆発しろ!」」
励ましは逆な意味で一番効くし…木島さん、それは何か違うと思う。でも孤独じゃないから、みんなに言われても大丈夫だ、だって仲m…ん?
「…お前爆発しろっておかしくないかい?」
その他大勢の声だけと思っていたのに真ん前にいたやつも言ってやがったのに気付くのが遅かった。
「え?いや仲間と思われるの嫌だし、勝ち組って言われてるやつがいたら、そりゃあ…言うでしょっ!」
今でしょ的な手を出すなっ!
「委員長は放課後に職員室へプリントを持ってくるように」
担任がHRが終わり去り際言って出ていった。
配られたプリントを改めて見て考えに耽る。
「進路ねぇ」
高校生になったら将来を考えなければならない。中学の時までは将来の夢、将来何になりたい?サッカー選手!的な妄想で済んでいたのが、現実的に考えを持って将来設計を考えなければならない。
「進路かぁ」
ため息と同時に先への不安が口から出ていたが、仕方ないだろう。一時間前に配られて、今日初めて本気で考えているのだから。
「はい、回収よろしく」
悟が渡してきたプリントを受け取りながら、返事をしようとしたが、中身を見てしまったら、こう言わずにはいられなかった!
「小学生かっ!」
「高校生ですけど?」
真顔の悟がムカつく。しっとるわ。
「いや、中身の話です。いや、お金持ちって」
「だって将来どうなりたいかだろ?そりゃお金持ちになりたい!ベストは働かずして生きていきたいとそう思います、ハイ」
…こいつダメだ。
「まあお前がそれでいいならこれでいいけど。確実に呼び出しで書き直しだと思うよ?」
「そう言われても先のことなんてわかんねぇよ。なすがまま…なるようになら…為さねb」
「わからないなら諦めろよ」
「…くっ」
悲しそうな憤っているような、何とも言えない表情の悟を尻目に改めて考えに耽る。そして口から溢れる「将来かぁ」という言葉を自問自答して考える。
「実際優人は考えてるわけ?人を馬鹿にしといてよ」
「馬鹿にしたつもりはないが」
「いーやしたね!俺を見下したような目で俺を見たね!あー、こいつなに馬鹿なこといってんだろ、ああ恥ずかしい。もうこんなやつと友達とか無いわぁ。縁切ろうかな…どうやったら切れるんだろう。どう思う?」
「…知らんし、なんの話になった?」
あれーみたいな悟はほっといて考える。大学行って就職してサラリーマンして結婚して子供育てて老後過ごして…死ぬ?という簡単な流れは想像できるが、要所要所というか進学だよな、やっぱ。
「大学行って、就職だよな、やっぱ」
「…ふつうぅ」
「ほっとけ、金持ちよかましだわ」
「また人をばかにs」
「もういいから、それ」
「もう一回はしていいだろ。天婦羅、ん?点心?天誅?天国!」
もうほっておこう。
「委員長よろしく」「回収よろ」「よくわからんがこれでいいや」「よろしく」「はい、委員長」
ぞろぞろとプリントを持ってくるクラスメイト達から預かりつつチラチラみると、「国語教師、進学」「出版社に就職、文系国立」「理系大学、物理」「テレビ業界、専門学校」「飲食、専門学校」としっかりしてるものや、「進学?たぶん」「フリーター」「我が道を往く」「お嫁さん」「秋葉原の聖地へ」などふざけてる?やつもいたり、いろいろだった。
「悩むのばからし」
まあ一年目、気にしたら負け。そう思うことにした。
「見たらダメだよ?」
そう言いながらプリントを出した木島さんが恥ずかしそうに言っている。
「みるわけないよ。安心して」
見まくった後だが、これからは見ないから、嘘は言ってないよ?
「お嫁さんってやっぱり、女の子の夢だよね~」
「「…」」
悟くん、言っちゃいかんよ、それは。そうかもだけど、言っちゃいかんよ。
「ばかー」
走り去る木島さん。
「「…」」
悟が呆けた顔で木島さんの後ろ姿を見ている。
「あれ~?」
「あれー、ではない。謝っておけよ?」
「…ばかー」
走り去る悟。逃げたな。
「…将来というか今この瞬間というか、なんか間違えたかな。本当これからが心配」
階段を上がる
一歩一歩一日を
今日という一日が始まり
終わりが来るまで
道を階段を
通学路を