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一致団結

「起立、礼、おはようございます」「おはようございます」「着席」

ガタガタと椅子を引き、挨拶をし、席を戻す。

朝の一連の流れを今日も行う。

入学式から三週間が経ち、クラスの顔と名前がぼんやりと把握できるようになり仲良しグループがいくつかに分かれ始めた。

あのときの自己紹介で何を喋ったかは覚えていない。その前の発言についての自問自答を毎夜している。…本当やだ。そんな自問自答を結局学校でもしていると

「今日の朝のホームルームですが、学級委員を決めたいと思います」担任がそう言った。クラスが少しざわついた。

「だれか立候補はいるか?」

担任が教室を見渡しながら、生徒を一通りみながらそう言った。

「…」「…」「…」

一致団結とはこのこと。

誰かは下を向き机とにらめっこに没頭。誰かはあからさまに担任の視線から逃げ窓を見る。誰かは髪の毛を触り指先でくるくると。

「推薦でも構わん」

担任が諦めずそう言った。

「…」「…」「…」

生徒たちがキョロキョロと控え目に周りを伺う。誰かは隣の席の友人を。誰かは遠くにいる友人を。誰かは下を向き机とにらめっこ。

「…チッ…誰でもいいから早くしろ?」

担任が諦めずそう言った。…舌打ち普通にしたけど、この担任。明らかにイライラしている担任だが、だからどうした。この二週間でこの担任の悪態には慣れた。

この担任はよくも悪くもわかりやすい。親身な担任を求める生徒には無理だろうが、僕やクラスメイトは意外と気に入ってる節がある。口も態度も悪く生徒に関心がない上にただただ迷惑そうに教室にいる…何で高校教師してんだ?

「…」

疑問に思ってしまった。疑問に思うと人は対象がここにいるなら見てしまう生き物だ。

「「…」」

ふと見たつもりが、がっつり目が合った。つむじに違和感があると思ったら、お前ずっと見てたな?机の木目を一生懸命目でなぞりながら考えに耽っていた僕のつむじを!

「やるよな?」

いやつむじは別にいいが、担任に目が合いながら言われてしまった。

…教卓の前の席に座った者の末路がこれか。授業中も教師が質問は、じゃあこの問題は、のときにとりあえず指名する席にいる僕。

「いや…」

もちろん否定する。めんどくさいしそういうのをずっと避けて生きてきた。僕は図書委員になるんだ!そう宣言しようと返事をしようとしていると「はいっ!」後ろから声が聞こえた。だから振り向くと、背筋良く手をまっすぐ伸ばし爽やかな笑顔を振り撒きながら、僕を見て真っ白い歯を見せている男がいた。

「どーぞ、真下君」

担任が発言を許可した。

僕は考える。このタイミングで手を挙げる理由とはなにか。一つ、僕が拒否するのを解ったからトドメを刺しにきた。二つ…

「松岡君が学級委員がいいと思います。だから松岡君で、決定でいいんじゃないでしょうか?ね、みんなっ!」

「はい、いいと思います。けってーい!」

一致団結とはこのことかっ!選択肢を少しは悩ませろよ。いや、一つ目にトドメを持ってきた時点で僕もどうかと思うが…。

「それでは総意のようなので、松岡君。こちらへ来て残りの委員を決める進行をお願いします」

「…いや、拒否けn?」「ない!」

僕の意見に被せる形でいわれてしまった。その時の中に担任の声が混じっていたのは気のせいであってほしい。

「よっ委員長」「頼んだぜ」「よろしく」「誰だっけ?」「まつおくーん」「お願いね」

思い思いの声援が飛ぶ中壇上に立つ僕。名前違いもそうだけど、だれだっけはひどくない?そんなクラスメイトを見ながら、推薦してくれた友人を睨むと、欠伸をしながら手を振られた。

すぐに飽きるなら余計なことやるなよ。

「はあ、まじか」

諦めも肝心、がモットーの僕。なし崩し感は否めないが諦めてさっさと終わらそう。そう心に誓い進行をしてみることにしたが。

「じゃあ副委員長を決めます。立候補はいませんか?」

「「…」」

さっきまでの元気はどこへやら。冒頭と同じく机や窓や髪の毛やら…担任の気持ちが今ならすごくわかる。同情と助けを求めて担任を見ると、窓を見ていた。…担任めっ!

「はい」

「え?」

声が聞こえた気がした。見渡してみると一人手を挙げていた。

「はい!」

「えっと…え?」

「副委員長立候補します」

「えっと…木島さんだっけ?いいの?」

「はい、わたしでよければよろしくお願いします」

不覚にも涙が出そうだった。

「じゃあ反対意見のある人は?いないなら決定だけど」

一応全体を見て確認をする。あくまで、一応だ。どうせ興味ないだろうが確認を怠るとあとあとめんどい気がすると考えていると「松岡君、私じゃダメですか?」そう聞かれた。

「ダメじゃないよっ!こんな俺だけどよろしく」そう答えた。

木島さんが驚きながら少し俯きながら、「はい」と言っていた。

「「…」」

なんだろう。立候補を聞いたときぐらいに静かなのに、違うのはクラスメイトが全員僕を見ている。そしてみんなの目が何か言っている気がする。

「…青春」

誰かがボソッとつぶやいた気がした。眠そうにしていた目をしっかり開きながら、口元がニヒルな感じになりながら。

「これからよろしくね」

木島さんが壇上に来て顔を赤らめながらそう言った。

僕の知らない空気が流れている気がする。

…そんなつもりじゃないんだよ?だからみんなそんな目で見ないで。

「…よろしくお願いします」



「じゃあねー」「また明日」「部活めんど」「なんか食って帰ろうぜー」「ばいばーい」

クラスメイトが各々に挨拶をしているのを聞きながら鞄に教科書を詰めていると「じゃあ行こうか、優人君」と馴れ馴れしい声が聞こえた。

「うるさい、ばか、死んじゃえ」

だから素直にストレートに感情を口に出した。

「え、めっちゃ口悪くない?!さすがにビックリだよ?」

「素直にストレートに感情を口に出した」

「おーい、心の声が出てるよ?」

「…馴れ馴れしいし、怨みます、あのときのことは生涯忘れません。三代先まで呪ってやる」

「キャラ崩壊にも限度があると思うぞ」

…くそ。

「くそが」

「だーかーらー」

こいつのせいでめんどくさい立場になり、その上あらぬ誤解を受けてしまった。いやまあ自業自得は否めない部分は否定しないが、発端を作ったやつには怨みのひとつも言いたくもなるのは心情ってもんでしょうが。

「面白半分で委員長に推薦してその後の興味なしはいかがなものかと思いますが?」

「うーん、まあそれに関してはすまん!という気持ちはあるが、あるんだけど…ね」

男のウインク気持ち悪い。

「…ね、じゃないよ。なんだ、気持ち悪い」

「…副委員長決まってよかったね?」

「…」

「副委員長というか…青春?」

「「…」」

「…違う、その話はしていない。その話ではない。そこじゃない、僕が言っているのは委員長推薦の話をしている。話を逸らすんじゃないよ!」

「青春って甘酸っぱいっていうけど、実際のとこ、甘いの?酸っぱいの?ねぇねぇどうなのよ、実際は!」

これでもかというくらい笑顔で嬉しそうに聞いてきやがる。

「君はなんなのよ、なんの恨みがあってこんなことをする?僕何かした?ねぇ教えて、謝るから、教えて。何をしてこうなった!!?」

「落ち着け、テンパりすぎ。そうだな、強いて言うなら…うーん」

…少し我を忘れてしまった。テンパりすぎた。この手の免疫無さすぎてもうわからない。

理由次第で、というのもおかしな話だが何か訳があるなら今後のこいつへの対応を考えt

「ノリ?」

「「…」」

ですよねー。

「理由なんてないよねー、そりゃそうだ!」

「うんうん、ノリって大事!」

「「ははは」」

…殺。

「おまえまじふざけんなよ、おまえのせいでめんd」「副委員長やっほー」

「えっと、真下君や、やっほー。えっと松岡君、委員会行かないと遅れちゃうよ?」

「そうだぞ、委員長!行ってこい、よっ!松岡委員長。こんな抜けてるやつだから大変かもだけど、よろしくね。木島さん」

…真下君マジ殺ったろか。

「木島さん、そうだね。いきます。今向かおうと思っていたんだ。はは」

「うん、いこう、松岡君。あと真下君、松岡君はしっかりもので私の方が迷惑かけちゃうかもだから。心配無用、だよ。うん!」

「「…」」

真下君のきょとーん顔を見れたのは少しざまあみろだが、内容が内容だから、何も言えないのが悔しい。

「…これはこれでアリ、なのか」

ボソッと何かを言っていたが聞かなかったことにする。

「いこうか、木島さん」

「うん、真下君また明日ー」

「はーい、また明日ー。悟もまたなー。張り切っていけや!はっはっは」

「…」

あいつもあいつでキャラが不安定な気がするが。

「…」

「…」

女子と二人で沈黙辛い。

「えーっと教室どこだっけ?」

「え?松岡君も知らないの?」

「え?」

「「…」」

うーん、なるほど。

「とりあえず職員室で確認してくるか」

「うん、ごめんね。てっきり先生の話を聞いてくれてると思ってたから」

廊下を歩きながら話を続ける。

「いや僕も聞いてくれてると思ってたし」

あわよくば知りませんでした、で帰ろうと思ってたし。

「だってあんなことがあったから頭真っ白になっちゃって、あっ、違くて嫌とかそう言うんじゃないんだよ?でも突然だったしビックリしちゃったし、ね」

その時を思い出したのか、照れた表情で早口で話している。

「…ごめんね。あれは驚くよね。立候補してくれたのビックリして変なタイミングで変なこと口走って」

その時を思い出して、やっぱり僕やっちゃったなー、と後悔をしていると「…嬉しかったよ?」そう言われてしまった。

「…」

頬を赤らめながら上目遣いに見られたらドキっとしちゃうよ?

「一瞬なんのことかわかんなかったけど、私は大丈夫だから。安心してね。副委員長として松岡君を頑張って支えるよ!」

うーん、なるほど…がんばろう。

心から、本当に心からそう思った。

「うん、よろしく」

「うん」

「「チッ」」

…ん?



「それではこれから約半年は生徒会役員共及び各学年の代表はこのメンバーでやっていきます。一人ずつ挨拶をお願いします」

前に立って生徒会長を始めとして生徒会役員、三年と二年の学年代表の男女が挨拶をしていく。

「…」

僕目線で横に立っている方々が一言を添えて挨拶をしている。木島さんは目の前に座っている。僕は立っている。

なぜこうなった。

「一年代表の男子からどうぞ」

進行役の書記?副会長?覚えていないが先輩が言う。

改めて思う、なぜこうなった、と。

「一年二組松岡悟です。宜しくお願いします」

当たり障りのない挨拶を済ます。そして考える。なぜこうなったを。

職員室に行き委員会の教室を確認。教室に到着。集合時間が過ぎており遅刻。一年の委員長達の所に合流。謝罪。話し合いの途中だったが再開。内容不明のまま参加。「じゃあ宜しく」と言われたから「わかった」と回答。「で何が?」と確認。「ん?学年代表。あ、決まったら前に集合だから行ってこい」と命令。「はい」素直に従う。そして現在。

「…」

…僕の馬鹿。自分の軽率さを恨んでいると「松岡君少し良いですか?」と名前を呼ばれた。

「なんでしょうか?」

「遅れたことの謝罪と代表としての信念を入れてもう一度、挨拶をしてください」

「はい、遅刻して申し訳ありません。今後はこのようなことの無いように心掛けて参ります。その上で、約半年間誠心誠意を込めて微力ながら皆様の欲に立てるよう努力する所存であります。宜しくお願い申し上げます!」

早口ながらスラスラと口上を述べられたことにビックリしつつ45°のお辞儀で決まった!と内心心踊らせる僕であった。

「「…」」

あったが、姿勢を戻して周りを見たときに皆様の表情で現実に帰り、引かれてる事に気付く。

「が、がんばれ。なんかごめんな」「う、うん。みんなで盛り上げていこう」「キモっ」「逆にすげー」「今年の一年面白いな」「どや顔、無いわ」「気持ち悪」

…泣きそう。

「松岡君、がんばろうね!私もがんばるから」

…木島さん、素直にキラキラした目でこっち見ないで。本当に泣く。

「「…チっ」」「「…あらあら」」

男性陣の舌打ちと女性陣の優しい目。

「…」

…もうやだ。


廊下を歩く

上履き特有の音を出しながら

新しい靴と廊下と教室の匂いの毎日が

始まりは常に初めて

すべて明日に繋がる

今日という一日が終わるまで

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