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『隣人』

子々孫々

作者: 鈴木

「清々したなどと、今回の件がどれほどの技術的損失であったか、王はまるで分かっていない。これだから魔法というものを理解せず、勘と本能だけで行動する知性のない人間は……」

「あーうるせえうるせえ! 壊れちまったもんは今更どうしようもねえだろうが!」


 既に何時間に及んでいるのだろうか。執務中の王の前へずかずかと許可も得ずにやってきた魔術師が延々と文句を垂れ流し始めてから。

 最初は相手にせず無視をしていた王も、いい加減、我慢の限界とばかりに怒声を上げてバンッと勢いよく机を叩いた。その弾みで机上の書類数枚が床へ落ちたが、気付いていないのか直ぐには拾う気にもなれないのか、王は魔術師をギンッと睨み付けたまま立ち上がることをしない。


「何という下品な物言いだ。大体、その下手人を未だに捕まえられないとは怠惰過ぎはしないか。貴重で稀少な魔道具を破壊した大罪人だぞ。よもや王が謀ったのではあるまいな。共犯であると明らかにされては困るから放置しているのでは」


 やれやれとあからさまに肩を竦め、侮蔑を自国の王へ平然と向ける魔術師は、次いで深い疑念を孕んだ粘着質な眼差しを向けて眉を顰めた。


「んなわけあるか! そもそも壊したのはお前らの元筆頭だろうがっ」

「元ではない。魔術師長は今でも我らの長だ。王はいつまで魔術師長を拘束するつもりなのか。無礼にもほどがあるだろう」

「盗人を捕まえて何が悪い。刑期が終わるまで外に出すかよ」

「未だ冤罪をほざくか。長は魔道具の不当な扱いが我慢ならずに保護をしただけではないか。そう何度も主張している」


 欠片も自分達の思惑が、行動が罪であるとは考えていない、狂気的な確信をもって魔術師は断言する。


「俺に無断で持ち出しといて冤罪もクソもあるか!」

「それがまずおかしい。何故、魔術師の宝である魔道具の扱いに国王ごときの許可がいるのか」

「アホか! いつからてめえらの財産になった!」

「初めからだ。魔道具は漏れなく我ら魔術師の所有物であり、魔術師の管理下に置かれることこそが正当だ」

「っがーーーー!!! 話が通じねえ!!!」






 王の貴重な時間を半日近くも浪費させて、言いたいことだけを言って去って行った現在の魔術師長の殊更に大きな足音が完全に聞こえなくなると、王はぐったりと執務机に突っ伏して暫く身じろぎもしなかった。


「――――お疲れ様でした、王よ」


 魔術師長の退出と入れ違いで今日中に処理すべき書類だけを持って入室していた側近は、頃合いを見計らって、そっと慰めにもならない声を掛けた。

 いつものこと過ぎて、何を言っても慰めにならない為、端からしないのだ。


「……………………おーう……」


 キリキリと痛む胃を押さえつつのったりと上体を起こした王は、力ない声で応えながら深い溜息をついた。

 いつものことだからで全て流せるほど、要領の良い、或いは神経の太い性格でないことが仇となって胃の痛まない日はない。


「あー…………いつまで続くんだかなー……」

「王が退位されるまででしょう」

「うげえ…………息子にあれの相手をさせんのかぁ……」

「恐らく子々孫々まで」

「うおー……怖いこと言うなよ……」

「現実です」

「はぁ……………………」


 己の代でどうにか出来ると自惚れられない王は、もう一度、深く深く嘆きの息をついた。









 王族及び王宮に手を出せない(攻撃できない)ことは魔術師にとって忌々しい誓約(のろい)。祖先の愚行は度し難い。




覚書

王    アデンウィムデ・ヴレダカヒ・ヴェゼダイド

魔術師長 イーヴィカン・ヴァボナニッヘ

王の側近 ガーファマー・ロキヤヘナ

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