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青空が落ちたあの日  作者: 谷底
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第1話 空の子

創作が好きすぎて遂には絵だけではなくカスみたいな語彙力と文章力で小説を書き始めるという愚行を犯してしまいました。どうか暖かい目で見てやってください。











「──それで、進捗はあったのか?見たところ行き詰まってるようだが…」


「ご覧の通りだよ、ギェディ。やっぱりこういうのは本よりも実際に見て調べるものだ」


読んでいた難しそうな本をぱたんと閉じ、溜息をつく。

机に積まれたおぞましい量のそれがどれだけ苦戦していたかを物語っていた。


「しかし現地はまだ無理だぞ、向こう数ヶ月は立ち入り禁止らしい」


ギェディと呼ばれていたその男は、立ち入り禁止の通知が書かれた報告書を見せる。その顔は少し悩ましい表情を浮かべていた。


「現地じゃないんだ。昨日その近くで生まれて間もない怪物が見つかってね、今は星空艇で保護されてる。国の登録表にもない新しい子さ」


綺麗な空色の髪を結って席を立つ。手には”星空艇行き”と書かれた切符を握っていた。


「ギェディも行こう。それとも、まだ高い所は苦手かい?」


おちょくるようにくすっと笑い、扉を開ける。


「どれだけ前の話をしている。そんなことよりエナ、お前は少し休む事を覚えた方がいい」


心配そうにエナと呼ばれた人間に言う。

彼はきょとんとした顔でギェディの方を向き、へらっと笑った。


「はは、若い内にやりたい事はやらないと。動けなくなってからじゃ遅いじゃないか」


「まだ20になったばかりの人間がそんなこと考えるな。それに、今身体を使い過ぎて壊してしまう方がまずいんじゃないか?」


その言い返しに、彼は「なるほど、確かに一理あるな」と呟いた。


「じゃあ、明日はお休み貰おうかな。ギェディ、皆でどこか出かけようよ」


期待した通りの返事にふっと笑って頷いた。白衣からちらりと出た尻尾が僅かに揺れる。


「ただ、今日は休まないよ?新しい子、早く見たいんだ」


エナはそう言って、急ぎ足で部屋から出ていった。

机には沢山の本が積まれたままだ。


「いや、片付けてからにしろよ…」









『──星に最も近い船、星空艇は──』


星空艇行きのゴンドラ内で流れる音声を聞き流しつつ、新しい怪物についての報告書に目を通す。


「見た限り、解析も全然進んでないようだね…」


紙一面にびっしりと記された文字を読みながら呟く。


昨夜見つかった未知の怪物は、発見後すぐに星空艇の保護施設に運ばれた。発見場所は隕石の落下地点のすぐ近くで、隕石による影響で生まれたか、それとも宇宙から来た新種の生物なのかと仮説が立っている。


「落ちた隕石がかなり小規模のもので助かったが……」


「確か青空の胎の欠片、だったね」


青空の胎。遥か昔から観測が進められていた、この星に最も近い小惑星だ。

特筆すべき情報が無く、所属する小惑星帯から離脱する様子もなければ衝突による破損も確認されていない。

だからこそ、今回の出来事には二人とも眉を顰めた。


二人を乗せたゴンドラが上昇していくにつれ下の街が小さく見えてくる。

目的地である星空艇は、名称だけ見れば海を渡る「船」と捉えられるが、その正体は遥か上空を飛行する、研究施設を乗せた巨大な「艇」だ。

現状最も高い所にあり、そのまま飛んでいってしまえば星にも手が届きそうだと言われた事からこの名がつけられらしい。


「いずれにせよ、早い段階で解明しなければな。新種は今のところ攻撃的な様子はないようだが、いつ我々に牙を剥くか…」


「危険度付けもまだ先だろうし、無害であって欲しいんだけど…っと、着いたね」


少し大きな揺れと共に到着を知らせるアナウンスが流れる。

ゴンドラのドアが開くと、そこにはエナ達と同じ白衣を着た背高な青年がファイルを握って立っていた。


「博士、ギェディさん、お待ちしておりました」


青年は丁寧に挨拶をすると「こちらです」と二人を案内し始める。

ガラス張りの廊下を歩き、目的である怪物のいる保護施設に向かう。


廊下を抜けドアが開くと、そこは研究員が数人と、中央にガラス張りの大きなケースがあった。


「これが…」


ガラスに手を当て、中を覗く。


子犬程の大きさでみすぼらしい紫の布を纏った黒い塊のようなそれは、大きな瞳をぎょろりとこちらへ向け、ゆっくりとエナの元へ這い寄った。


「はじめまして」


ゆっくりと目を合わせ、優しげに声をかける。

こちらの声に反応したのか、ぴくっと動き、目を合わせた。


「目玉に短い筋が幾つかあるな。俺達怪物と特徴が一致する」


ギェディが呟く。

怪物が成長しきってない幼体の時は、瞳に複数の筋が浮かび上がっている。これが無くなると成体に成長しきった証だ。


「初めは黒い液体のような姿でした…僕が持ってきたその布を見ると飛びついて…」


案内してくれていた研究員が語る。


「それでずっとこの状態なのか…。しかし特徴が怪物と一致すると言う事は、地球外生命体という訳ではなさそうだね」


「はい、恐らく隕石による影響で生まれた新種かと。液体だった時の身体の一部を調べているのですが、落下した隕石と同じ成分が見つかったのです」


怪物の生まれ方は主に二種類だ。

怪物同士、もしくは人に近い怪物と人間との子供として生まれるか、それとも大人の怪物の亡骸から生み出される「種」と呼ばれるひとつの目玉と3つの黒いひし形状の物体で構成される幼体が成長もしくは他の物質と融合して生まれるか。

今回は恐らく後者の生まれ方だろうと予想された、が


ただひとつ、不可解なのが……


「種…?」


その怪物の隣には、怪物の幼体である種らしきものが転がっていた。

ただの種なら良いのだが、目玉とひし形のような物体…それら全てに、大きな黒い輪のようなものがついていたのだ。


「新種はもう一人いたのか?」


「分かりません…。ただ、仮にもう一人いたとすると、彼らはどうやら寄生、または共生関係にあるようです。これをご覧下さい」


研究員がそう言うと、タブレットを取り出し画面を見せた。

流れている動画には、先程の二人の新種が映っていた。

黒い方に種らしきものが浮遊して纏わり付いているように見える。


「片方が目を覚ますと、もう片方も活動を開始し、お互いに離れないように動くんです。我々が引き離そうとしても、物凄く力強く留まって…」


「離しきれなかった、と」


「はい…」


ただでさえ謎めいた存在が、ますます謎に満ちていく。


「仮名称は?」


「青空の胎から飛来した隕石より生まれたということで”空の子”と」


その空の子が話し声に再び反応した。種の方も起き上がり、映像の通り、浮遊して空の子に纏わり付く。


「害もない、それにまだ幼体か…よし、取り敢えずケースから出してあげて」


エナが研究員達にそう言った。


「しかし、まだ安全な保証は…」


「閉じ込めて過度なストレスを与え続けるのはまずい、幼体の身体は想像以上に脆いんだ。それに…」


「もし危険なようなら、俺が抑えよう」


ギェディもエナの提案に賛成のようだ。

研究員達も折れてくれたようで、渋々ケースの扉の開閉スイッチを押した。


扉が開くと、ゆっくりと空の子が這い出てくる。

エナがその瞳を覗き込むように前かがみになり、声をかける。


「閉じ込めてしまってごめんね」


幼体故言葉が理解できないのか、空の子は無い首を傾げた。


「…攻撃的では無いようだな。幼体のうちでも実害がないと確証されたのなら、閉じ込めておく必要もないだろう」


焦っていた研究員達がほっと胸をなで下ろした。

エナは空の子を優しく撫でて立ち上がる。


「この子の世話はどこで?」


「まだ公に情報が出ていない以上、外に出す訳にはいかないと思い、この施設で預かろうかと…」


研究員の一人がそう答えた。

その答えに少し悩み──




「この子、一旦俺の家で預かってもいいかな」


と言った。これにはギェディも含めその場の全員が驚きを隠せずにいた。


「博士の申し出を断る者はこの中にはいませんが…いくら何でも未知の存在を身近に置いて過ごすなんて博士が危険です!」


「俺はいいんだよ、慣れっこさ。それにこっちが危害を加えなければ大丈夫。ただの子供なんだ、ほら」


エナが自分の足元を指差すと、そこには彼の白衣の端をぎゅっと握りしめる空の子がいた。それはまるで、自分を見つめる人々に怯えている子供のようだった。


「ったく…エナがそう言うなら俺は賛成しよう。ただ、無理はするなよ」


空の子の頭をぽんと撫で、ギェディがそう言った。

「君ならそう言ってくれると思ったよ」と言わんばかりの嬉しそうな表情で


「そうと決まれば、早速皆にも伝えよう!」


と、まだざわついている周りを置き去りに駆け足で部屋を出た。


「行ってしまった…」


唖然とする研究員達を見て苦笑しながら、ギェディが空の子を抱き上げる。

きょとんとした様子でギェディを見つめた。


「騒がしい相棒ですまないな。まだ状況も理解できていないと思うが…取り敢えず、これから宜しくな」




雲ひとつない青空の中、ひとつの物語が幕を開けた。




第1章 青空が落ちたあの日




挿絵(By みてみん)

ギェディさん、見た目の説明が文章ではとてもしづらいので挿絵でなんとか理解していただけたらと思います。

一番左の人の狼男のような怪物がギェディさんです。少し冷たいけど根は優しくて、相棒であるエナさんの事を心から信頼しています。

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